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別れても好きな人
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◇◇◇◇◇
「安村、俺と組んでよ」
体育の授業で、二人一組になる時、直輝が声をかけてきた。
あの別れを告げられた日から五日が過ぎていた。
学校での僕は変わらない。けれど、アパートに居ると途端に心が震える。その違いは僕を泣き虫にした。特に土曜の夜は辛かった。あんなに近くにいた直輝がもういない。次の土曜は何を作ろうかと考えるのは楽しかった。材料の準備をしていなかったことに胸をなでおろした。幸せの象徴のような二人分の食材が冷蔵庫にあったら、それがなくなるまで冷蔵庫を見るたび泣きたくなっただろう。そうでなくても、ふとした時に涙が落ちる。次の日、泣きはらした目を見た母親にびっくりされたけど、どうしたのとは聞かれなかった。
『終わりにしない?』たったそれだけで終わる二人の関係。いずれこうなることは、わかっていたのに…。その日が一日でも後回しになるようにと願っても、確実に訪れることは付き合ったその日からわかっていたことではないか。
直輝が噂の彼女と付き合いだしたと聞いたのは、翌日の昼休み。今まででも、学校での直輝が誰と一緒にいても僕は口出ししなかった。……できなかった。女子と楽しそうにしゃべっていても、誰に告白されていても。
スマホを見るのが辛い。毎日何度となくメッセージを送り合い、電話をした。メッセージは授業の間の少しの休み時間に届くこともあった。平日の夜はそれだけが楽しみだった。
五日では立ち直れない。今まで学校では、殆ど話しかけたことなんてないのに。どんな顔をすれば良いのかわからない。からかわれている訳ではないみたい。直輝の顔は真剣だった。
「財前は?」
入学直後からずっと一緒にいる財前義弘は直輝と中学が同じで、クラスの女子の人気を直輝と二分していた。
「ヨシはあそこ」
指差す方を見ると、もう誰かとペアを組んで柔軟を始めていた。
「良いだろ?」
「…うん。でも、僕、下手だよ?それに身長差もあるし…」
「そんなの、気にしない」
別に授業で誰と組もうが大したことじゃない。ここで、嫌だと言えるほど僕の心は強くない。どうして今更振った僕に声をかけるかはわからないけど、クラスメイトとしては自然な会話だった。
「安村、昼、一緒に食べよ?」
僕の前の席の人に、椅子を貸してねと言いながら笑顔で座る。
「えっ?」
驚いて固まる僕にも笑顔で言葉を続ける。
「良いよね?もう座ったから」
これもクラスメイトとしては自然な会話?今更席を立つのも変だ。ここは自分の席で、立ち上がっても行くところはない。食堂には行ったことなかった。一人で中庭や校庭に逃げることもできない。
「今日もパンなんだ」
「う、うん」
僕の昼食がいつもコンビニで買ったものであるのは、知られている。目の前には大きな弁当箱がドドンっと置いてある。これは直輝が作ったものだ。毎朝自分で作るのだと聞いている。付き合っている間はその中身を見たことはなかった。けれど、皮肉にも別れてからその豪華さを知る。
「凄いね、これ…」
自分で作ったんだ…。
と言いそうになって慌てて口を手で抑えた。今まで学校で話したことないのに、そんなこと知ってたらおかしい。
「安村、俺と組んでよ」
体育の授業で、二人一組になる時、直輝が声をかけてきた。
あの別れを告げられた日から五日が過ぎていた。
学校での僕は変わらない。けれど、アパートに居ると途端に心が震える。その違いは僕を泣き虫にした。特に土曜の夜は辛かった。あんなに近くにいた直輝がもういない。次の土曜は何を作ろうかと考えるのは楽しかった。材料の準備をしていなかったことに胸をなでおろした。幸せの象徴のような二人分の食材が冷蔵庫にあったら、それがなくなるまで冷蔵庫を見るたび泣きたくなっただろう。そうでなくても、ふとした時に涙が落ちる。次の日、泣きはらした目を見た母親にびっくりされたけど、どうしたのとは聞かれなかった。
『終わりにしない?』たったそれだけで終わる二人の関係。いずれこうなることは、わかっていたのに…。その日が一日でも後回しになるようにと願っても、確実に訪れることは付き合ったその日からわかっていたことではないか。
直輝が噂の彼女と付き合いだしたと聞いたのは、翌日の昼休み。今まででも、学校での直輝が誰と一緒にいても僕は口出ししなかった。……できなかった。女子と楽しそうにしゃべっていても、誰に告白されていても。
スマホを見るのが辛い。毎日何度となくメッセージを送り合い、電話をした。メッセージは授業の間の少しの休み時間に届くこともあった。平日の夜はそれだけが楽しみだった。
五日では立ち直れない。今まで学校では、殆ど話しかけたことなんてないのに。どんな顔をすれば良いのかわからない。からかわれている訳ではないみたい。直輝の顔は真剣だった。
「財前は?」
入学直後からずっと一緒にいる財前義弘は直輝と中学が同じで、クラスの女子の人気を直輝と二分していた。
「ヨシはあそこ」
指差す方を見ると、もう誰かとペアを組んで柔軟を始めていた。
「良いだろ?」
「…うん。でも、僕、下手だよ?それに身長差もあるし…」
「そんなの、気にしない」
別に授業で誰と組もうが大したことじゃない。ここで、嫌だと言えるほど僕の心は強くない。どうして今更振った僕に声をかけるかはわからないけど、クラスメイトとしては自然な会話だった。
「安村、昼、一緒に食べよ?」
僕の前の席の人に、椅子を貸してねと言いながら笑顔で座る。
「えっ?」
驚いて固まる僕にも笑顔で言葉を続ける。
「良いよね?もう座ったから」
これもクラスメイトとしては自然な会話?今更席を立つのも変だ。ここは自分の席で、立ち上がっても行くところはない。食堂には行ったことなかった。一人で中庭や校庭に逃げることもできない。
「今日もパンなんだ」
「う、うん」
僕の昼食がいつもコンビニで買ったものであるのは、知られている。目の前には大きな弁当箱がドドンっと置いてある。これは直輝が作ったものだ。毎朝自分で作るのだと聞いている。付き合っている間はその中身を見たことはなかった。けれど、皮肉にも別れてからその豪華さを知る。
「凄いね、これ…」
自分で作ったんだ…。
と言いそうになって慌てて口を手で抑えた。今まで学校で話したことないのに、そんなこと知ってたらおかしい。
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