上 下
48 / 54
ハルと言えば一、カズと言えば春

04

しおりを挟む
「キス、して良い?」
「どうしたの?いつも聞かないのに」
「ん?ここ外だし、はるちゃんが嫌なら我慢する」
「えぇっ!そんなのズルい」
「どうして?」
「だって…僕だって同じ気持ちだし…我慢しなきゃって」
「はるちゃん可愛い。じゃあ、ちょっとだけ」
「うん」

触れる唇は少しカサカサしていて、リップを買ってあげようかと思う。でも、俺の持ってるのは自分で稼いだ金じゃない。親からもらう小遣いを貯めただけだ。部活ばっかの中学時代、無駄遣いはしなかった。たまにファストフードに行ったり、マンガ本やゲームを買う程度。趣味もない。

俺もバイトしようかな。はるちゃんに言うと怒られた。

「もしかしてさ、僕のため?」
「あ、…うん」
「ダメだよ。かずくんが自分の欲しい物とか、自分の将来のためにバイトしたいなら別だけど、部活もあるし、僕は嫌だ、そんなの」
「ごめん。ごめん、はるちゃん…。怒らないで?ちょっと思っただけ。俺に経済力があったらなって。経済力って言っても、今はバイトが精々だけどさ。高校生だから仕方ないけど…。大学にも行くつもりだし。でも、将来は…って」
「うん、怒ってないよ?気持ちは嬉しい。でも、負担にはなりたくない」
「うん、わかってる」
「一緒に…僕も考えるからさ、一緒に、ね?」
「俺、焦ってるんだ。二人の事、父さんたちに言ったらどうなるんだろう……って」
「言うの?」
「嫌か?」
「……怖い。もう、会うなって言われたら、どうして良いかわからない。離れたくない…」
「俺も…」

膝に乗ったまま肩に頭を付けて抱きつく力を強くする。

「あっ、かずくん!」
「ん?」
「ここ、一番上だよ!」
「おぉ、ホントだ」

周りに高い建物はなく、遠くまで見える。太陽の光を反映して水面が綺麗だ。その光を反射してはるちゃんの瞳もキラキラしてる。

キスをした。さっきの触れるだけのキスではなく、不安を取り去るように舌を絡めた。

手を繋いで二人きりになれた箱から出た。観覧車から降りる時、係りの人のニヤニヤとした視線にサムズアップで答えておいた。

観覧車から降りると、その手は自然と離れてしまった。しかし、次にどこに行くかを決めると再び何の躊躇いもなく重なる。
周りを気にしなくて良いのははるちゃんのお陰だ。顔はもともと可愛くて、アクセサリーがなくっても髪が短くても、菜月さんのユニセックスな服だけで男同士には見えなくなる。

はるちゃんは細い。ガリガリとかじゃないけど、腰や手足がすらりとしなやかで……。

おっと、いけない。

邪な俺の下半身が反応しかけたじゃないか。こんな太陽降り注ぐ親子連れがいっぱいの遊園地では似合わないだろ。

ボートに乗り込み池を進む。ここは観覧車とは違い周りには小さな子どもがいっぱいいる。キャッキャとはしゃぐ声が池に響く。必死になってペダルを漕いでたり、足が疲れたのか飽きたのか父親にボートを任せもっと早くと言ってたり、それぞれアヒルボートを楽しんでる。隣のはるちゃんも始終笑顔でペダルを漕ぐ。

「僕、このボート初めてだ」
「そうなんだ。俺は何回目だろ」
「また来ようね」
「楽しい?」
「うん。他の遊園地もあまり行ったことないけど、かずくんと一緒が嬉しいから」

ここは乗り物などは個別に料金が発生するけど、遊園地の入園料は無料だ。ほぼ電車賃だけのお手軽デート。オマケに地元から離れているから知り合いに出会うことも少ない。ただ、遊園地の乗り物は高校生には楽しくない。のんびりとここで寛ぐのも良いけど、今度はネズミの国にでも行きたいな。それは大学生になってからかな。

アヒルボートを満喫した後、弁当を食べた芝生に戻った。もう一度シートを敷いて二人並んで座る。ボート乗り場にあった自販機で買った缶コーヒーをカコンと開けた。はるちゃんには甘いの、俺は微糖の缶コーヒーで乾杯。

「あの約束、どうする?」
「あの、って?」
「ほら、今日どこに行くかって話の時に」
「あっ、うん」

途端に下を向き手をモジモジさせる。その手に手を重ね包むように握った。しばらく考えて、意を決したように俺の顔を見て頷いた。

「行く」

気持ちは一緒。一方通行じゃない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

眠るライオン起こすことなかれ

鶴機 亀輔
BL
アンチ王道たちが痛い目(?)に合います。 ケンカ両成敗! 平凡風紀副委員長×天然生徒会補佐 前提の天然総受け

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

処理中です...