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ハルを待ちわび、カズを数える
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藍川はあまり振り向かない。俺が話しかけると、なあにと俺の方を見てくれる。その仕草が可愛いんだ。本人には言えないけど。
俺、どうしちまったのかな?
あんなに男に告ったことを後悔してたのに。…ううん、あれはプロポーズだったから告るなんて可愛いもんじゃない。黒歴史だと誰にも言えずにいたのに、違う意味で誰にも言えない感情が心の中に宿る。
「あ、そだ。晴彦って名前で呼ぶと怒るからな」
「えっ?」
「藍川だよ。中二の時転校してきて、最初、見た目で女子に可愛がられててさ。女子に囲まれてるのを羨ましがる奴もいたけどさ、あれは軽いいじめだね。それで、だんだん仲良くなった一人の女子がはるちゃんって呼んだんだ。そしたら、泣いてそんなふうに呼ばないでって。まあ、女の子みたいに呼ばれるのは嫌だよな。晴彦くんって呼ばれるのも嫌そうだった。なんか、名前で呼ばれるのが嫌っぽい」
俺がはるちゃんって呼んでたのが嫌だったのか?女の子と間違えてたって知ってて、それが嫌でトラウマになったとか?
いやいや、はるちゃんじゃないかもしれないだろ?と何度も呟いた言葉をまた口の中で繰り返す。
入学してもう直ぐ二週間になる。明日から二泊の日程で一年生全員参加のオリエンテーションだ。まだまだクラスに馴染めない奴もいる。俺は弁当も藍川と食べるし、坂口直樹も寄ってくる。自然と六人ぐらいの集団ができた。
別にどれだけ集団が増えようが構わない。ただ、藍川が一緒なら。俺ってこんなに一途なんだな。
日を追うごとに藍川が俺に向ける笑顔が増えた。人見知りなんだ。やっと俺に慣れたってこと?
時々視線を感じる時がある。席に座ってない藍川が教室の後ろから俺を見る。自分の席に着くのに俺の方を見るのは当然だ。席が前なんだから。でも、じっと動かずに見ている時もある。目があった時にどしたの?って聞くと何でもないと恥ずかしそうにする。
最初は偶然だと思った。けど、何回もそんなことがあった。俺が見ると直ぐに視線を逸らし慌てて席に着くから、視線を感じてもそのままにして藍川が次にどうするかを見ていた。直視してないからはっきりしたことはわからないけど、しばらくすると溜め息をつき席に着く。
何が溜め息に繋がるんだろう?何か嫌なことがあったのか?虐められたとか?でも、ほとんどの時間を一緒に過ごす。それに、藍川が虐められてると言う噂は聞いたことがない。まだ入部届けは出してないから今のところ、放課後も一緒だ。
…もしかして、俺が構い過ぎるのが嫌なのか?あれは俺に対する溜め息なのか?もう放っておいてと思ってるのかな?
悶々としてバスに乗り込む。
バスの座席は出席番号順だから俺は藍川の隣。どうしよう。嫌がられているのだろうか?二時間くらいのバス移動を楽しみにしていたけれど、俺が嫌なら藍川にとっては苦痛の二時間になるのかな?
「あの…」
「ん?」
嫌がられていたらどうしようと悩んで、なるべく話しかけない方がいいのかとあれこれ考えながら黙りを決め込んで半時間。
「あの…相沢くん、僕、何かした?」
「な、何で?」
「だって、さっきからずっと何もしゃべらないで通路睨んでるから」
「そ、そんなことない」
藍川が話しかけてくれた。じゃあ、俺が構い過ぎて嫌ってわけじゃないのか?
良かった。
「昨日、寝られなかったからちょっとぼうっとしてさ。なんか、緊張?ワクワクするじゃん、小学校の時の林間学校みたいでさ」
「ふふっ、そうなんだ。寝る?」
「いや、いい」
嫌がられてないならもっと藍川の事が知りたい。
「中一までどこにいたの?」
「H県のK市。わかる?」
「随分遠いとこから来たんだな」
「うん。ここは、お母さんの実家があるんだ。お父さんとお母さんが離婚したから帰ってきたんだよ」
「そうなのか。悪い、変なこと聞いて」
「ううん。一緒に住んでなかったから、僕、お父さんのことはあまり覚えてないんだ」
俺、どうしちまったのかな?
あんなに男に告ったことを後悔してたのに。…ううん、あれはプロポーズだったから告るなんて可愛いもんじゃない。黒歴史だと誰にも言えずにいたのに、違う意味で誰にも言えない感情が心の中に宿る。
「あ、そだ。晴彦って名前で呼ぶと怒るからな」
「えっ?」
「藍川だよ。中二の時転校してきて、最初、見た目で女子に可愛がられててさ。女子に囲まれてるのを羨ましがる奴もいたけどさ、あれは軽いいじめだね。それで、だんだん仲良くなった一人の女子がはるちゃんって呼んだんだ。そしたら、泣いてそんなふうに呼ばないでって。まあ、女の子みたいに呼ばれるのは嫌だよな。晴彦くんって呼ばれるのも嫌そうだった。なんか、名前で呼ばれるのが嫌っぽい」
俺がはるちゃんって呼んでたのが嫌だったのか?女の子と間違えてたって知ってて、それが嫌でトラウマになったとか?
いやいや、はるちゃんじゃないかもしれないだろ?と何度も呟いた言葉をまた口の中で繰り返す。
入学してもう直ぐ二週間になる。明日から二泊の日程で一年生全員参加のオリエンテーションだ。まだまだクラスに馴染めない奴もいる。俺は弁当も藍川と食べるし、坂口直樹も寄ってくる。自然と六人ぐらいの集団ができた。
別にどれだけ集団が増えようが構わない。ただ、藍川が一緒なら。俺ってこんなに一途なんだな。
日を追うごとに藍川が俺に向ける笑顔が増えた。人見知りなんだ。やっと俺に慣れたってこと?
時々視線を感じる時がある。席に座ってない藍川が教室の後ろから俺を見る。自分の席に着くのに俺の方を見るのは当然だ。席が前なんだから。でも、じっと動かずに見ている時もある。目があった時にどしたの?って聞くと何でもないと恥ずかしそうにする。
最初は偶然だと思った。けど、何回もそんなことがあった。俺が見ると直ぐに視線を逸らし慌てて席に着くから、視線を感じてもそのままにして藍川が次にどうするかを見ていた。直視してないからはっきりしたことはわからないけど、しばらくすると溜め息をつき席に着く。
何が溜め息に繋がるんだろう?何か嫌なことがあったのか?虐められたとか?でも、ほとんどの時間を一緒に過ごす。それに、藍川が虐められてると言う噂は聞いたことがない。まだ入部届けは出してないから今のところ、放課後も一緒だ。
…もしかして、俺が構い過ぎるのが嫌なのか?あれは俺に対する溜め息なのか?もう放っておいてと思ってるのかな?
悶々としてバスに乗り込む。
バスの座席は出席番号順だから俺は藍川の隣。どうしよう。嫌がられているのだろうか?二時間くらいのバス移動を楽しみにしていたけれど、俺が嫌なら藍川にとっては苦痛の二時間になるのかな?
「あの…」
「ん?」
嫌がられていたらどうしようと悩んで、なるべく話しかけない方がいいのかとあれこれ考えながら黙りを決め込んで半時間。
「あの…相沢くん、僕、何かした?」
「な、何で?」
「だって、さっきからずっと何もしゃべらないで通路睨んでるから」
「そ、そんなことない」
藍川が話しかけてくれた。じゃあ、俺が構い過ぎて嫌ってわけじゃないのか?
良かった。
「昨日、寝られなかったからちょっとぼうっとしてさ。なんか、緊張?ワクワクするじゃん、小学校の時の林間学校みたいでさ」
「ふふっ、そうなんだ。寝る?」
「いや、いい」
嫌がられてないならもっと藍川の事が知りたい。
「中一までどこにいたの?」
「H県のK市。わかる?」
「随分遠いとこから来たんだな」
「うん。ここは、お母さんの実家があるんだ。お父さんとお母さんが離婚したから帰ってきたんだよ」
「そうなのか。悪い、変なこと聞いて」
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