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story1「私たちは、地球に引きこもっている」
「働かざる者、食うべからず」という“脅迫”
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群青に曇った水没ファッションモールのエントランス。
服の群れが水をさまよう一方、重いマネキンたちは世界の生前から何ら変わらぬ姿勢でただずんでいる。
シャチ子は、古風なパフスリーブのワンピースをまとった乙女に、ヤツメは、今風なオフショルダーのセーターを着た少女に、それぞれぼんやりと寄りかかって話していた。
〈ねえシャチ子、これってさぁーあ? あのタワマンの中から“エネミーの偉い奴”みたいなのが、役に立たない味方を始末してぇ、んんで、その後で、味方を痛めつけた女も消そうとした……ってことだよねぇ〉
あるいは、生き残っている『オトコ』の存在を知ったヤツメを消そうとした、という線も考えられる。
〈うん……。あ、でも、役に立たないってだけで、味方を殺すかな?〉
ヤツメはウーンと顔を上げて、何かを漠然と考える様子。
ツンと高い鼻や、つややかな髪の銀色を、海の底の碧があえかに照らして、異様に綺麗だった。
〈アレ、味方っていうか、兵器なんじゃね? 理性とか全然持ってなかったしぃ。なんか人間の男から、ただ性欲だけを抽出したってカンジ〉
〈やっぱり、男の人、生き残ってたんだ……〉
シャチ子の、線の太い蒼古な顔が、重い恐怖に歪む。
この水没世界は、“引きこもり少女しか生き残っていない”という事実があるからこそ、ディストピアたり得ることができた。
海鮮娘たちは、ある種の硬直した平和の中に居たはずなのである。ちょうど、今二人の寄りかかっているマネキンと同じように。
しかし今になって、その心地よい麻痺が解かれうる要素が現れてきたのである。
〈もう、急すぎてワケわかんねーって感じ。ねえシャチ子、何が起きてんの? あんた何か知ってんでしょ? さっきもさ、証拠撮影しようとしてたんでしょ? ごめぇん、誤解して〉
急すぎてワケわかんねー……にしては、やたらヤツメは落ち着き払っているな、とシャチ子は思った。
自分など、血や骨を見ただけでこの場から逃げ出したというのに。
この冷静さは一体……。
ともあれ、ある程度の落ち着きを取り戻したシャチ子は、自分のしようとしていたことをゆっくりと語りだした。
〈一部の海鮮娘がね、あのタワーマンションに住んでる旧人類の女の人と、よく密会してるの。怪しい動きしてる海鮮娘たちがいるってウワサで聞いたから、その子たちの動向を探ってみたのよ。そしたら、みんながみんな、あそこのマンションに出入りしてるのね〉
ヤツメがふんぞり返ると、背後のマネキンがぐらりと揺れる。
〈やっばー! 海鮮娘の中から裏切者が出てんのか! てか旧人類の女ってことは、要するにヒキじゃない女ってことっしょ? 生き残りが居んの?〉
〈うん。体のどこにも海鮮要素がなかったし、結構、日に灼けてもいたから、間違いない。私たちとは違う、旧人類の女の人だと思う〉
要するにこの二人は、引きこもりではない女性に対し、ある種の差別めいた思想を持っているのだろう。
果たして、それは健全な思考回路といえるのか。
それは、かつての“パリピ”とか“陽キャ”といわれる者たちが、引きこもりを軽蔑するような発言をしていた感情と、何が違うのだろう?
私が世界を滅ぼしたことで、大方の予想通り、引きこもり少女たちはこうした世界を築き上げた。
だが物事というのは、完璧であればあるほど、穢れが少なければ少ないほど、そこに入ってくる亀裂の存在感が増大する。
彼女たち海鮮娘が、その繊細さゆえの排他性によって、自滅に至るような事態にならないことを、私は神として切に祈りたい(これってフラグ?)。
シャチ子の暗鬱な証言は続く。
〈何日か前だけど、スマホに協力してもらって、マンションの中で何が起こってるのか、ズームして見てみたのよ〉
〈ん、何見た?〉
ヤツメが横へ身を乗り出して訊くと、シャチ子は重い一拍を置いた後で、吐き捨てるように答えだした。
〈海鮮娘が手渡した札束を、旧人類の人が金庫に仕舞ってた。ほら、旧人類は潜水能力ないから、海鮮娘にお金を集めさせてるんじゃないかな?〉
〈その旧人類の女──ああ、とりあえず『ミスX』って呼ぼっか──海鮮娘をパシりにして、金を集めてんのかぁ。何のために? こんな世界じゃ、金持ち=幸せ……とはいかんよ?〉
ヤツメはいきなり立ち上がると、シャチ子の寄りかかるマネキンからワンピースを奪い、セーラー服の上からそれを着てみせた。
〈ほぅら、こんな高そうな服だって、タダで自分のものにできちゃう世界だしぃ〉
とはいえ、この海鮮ディストピアにも、通貨とか店といった概念は存在する。
先のイルカがそうめんを買ったスーパーマーケット『たんぽ』も、当然ながら紙幣・硬貨を対価として物品を提供する店である。
ただし、旧人類の文明における『働いて稼ぎ、物を買う』という常識は、いわゆるRPG的な『海に沈んだ街で金品を見つけ、物を買う』というシステムに取って代わられた。
そんな世界で、旧人類の女とやらが金庫に札束を貯めている目的とは?
それはそうと、このヤツメ、ギャルの容姿で古風なワンピースを着ると、どこか西洋的な風情になって意外と似合うな……
などと感心しつつ、シャチ子は自分なりの解釈を説き始めた。
〈あの旧人類の、その、ミスX、お金がすべてだった旧人類の男女社会を復活させたいんだと思う。今の日本には、引きこもり少女が七十万人よ? そこに、生き残った何十人か何百人かの男の人が加われば……あるいは〉
正しくは、『最も多く見積もって七十万人』である。
日本人の男女を合わせた『引きこもり人口』が一四六万人だったわけだから、その半分となれば、単純計算で約七十万であるため。
余談ながら、日本以外の国のことは……正直言って、私にも分からない。
引きこもりという概念は日本固有のものということにされていた──実際、西洋には『hikikomori』という“新語”が存在した──けれど、さて、国外にも生き残った者が居るのか、どうか。
〈ちょっ、男女の営みぃ~とか、働くことっ! とかが美徳って言われる糞セカイに戻すとか、ざけんじゃねぇぞ。せっかく、魚やプランクトン食って生きられる『いきものフレンドリー』の世界になったってのにぃ〉
シャチ子の隣に座りなおしたヤツメは、人間だってアニマルなんだよー、と付け加えた。
確かに、
“めしを食べなければ死ぬから、そのために働いて、めしを食べなければならぬ”
by『人間失格』
そうした人間界固有の常識は、かの太宰が述べたとおり“難解で晦渋”であるといえる。
今の海鮮娘たちのように、適当な魚や海藻を食して生きるほうが、単純に考えれば、生物学的には自然といえるだろう。
世界が壊滅し、生きる・食べるということの理が変わった今、人は“難解で晦渋で、そうして脅迫めいた響きを感じさせる”宿命から解放されたはずなのである。
実際それによるメリットは数多く、生きるために金銭が必須ではなくなったことで、通貨の価値は下降。
千円だったものは十円に、一万円払わなければ買えなかったものが百円へと、物価の下落が起こっている。
電気・ガスを扱うインフラが消滅したことで、地球温暖化もまた終息へと向かった。
良いことづくめといえる、この新世界をどうにかして守りたい……
シャチ子の口調は、よりヤツメに寄り添うようなものへと変わる。
〈ヤツメもそう思うでしょ? だから私、証拠を撮って、海鮮娘たちに見せて協力してもらって、戦おうって思ったの。旧人類がクーデターを企ててるのは確かなんだから〉
ヤツメは柄にもなく、とても深々とうなずいていた。
〈なるほど。そのミスXが金庫に貯めた金は、そのクーデターのための資本金ってことか? でも、札束が効力を発揮しない世界で、どうやって……〉
〈今の世界に満足してない海鮮娘、結構居るらしいの。一時的に引きこもってるけど、いつかは社会に出て明るく暮らしたいって、そう思ってた女の子たちも多いはずだから〉
それまで淡々としていたシャチ子の声に、一抹の自信のなさがよぎった。
そういう生き方に憧れることにも一理はあると感じたからだろう。
〈そういうふうに考えるのは別にイイけどさ、だからって、うちらのユートピアを壊されたんじゃ、たまったもんじゃないって〉
叫ぶように気嚢を震わせるヤツメ。彼女にとって、このディストピアはユートピアなのである。
そしてそれはシャチ子も同様。
〈協力してくれる?〉
彼女が意味深な横目をヤツメへ向けると、ヤツメはとぼけるように宙に目をやった。
〈どぉしよっかなー、ちょっと条件とか出して……も……? ……ってシャチ子、危ない!〉
なんの前触れもない、突然の閃光。そして爆発音。
瞬時に、シャチ子はモールの階段へ移動していた。
自分を抱きかかえたヤツメによって、そちらへ避難させられたのである。
〈ぎょっ! ぎょららららららっ! こりゃ魚雷! ぎょっ、らっ、いぃーっ! こんなコトまでしてくんのかよ!? さすがは戦争大好き旧人類さん!〉
ヤツメからの超音波が、これまでにない混乱を聞かせていた。
階段から恐る恐る、つい今しがたまで座っていた場所へ目をやると、もうマネキンたちがバラバラに砕け散っている。
さらに、二度、三度の追撃によって、そこにあった無数の衣類はおろか、強化ガラスのショーウィンドウまでもが粉々に砕け散る。
〈ぎゃーぁあぁぁ! シャチ子! 上層階までBダッシュすっよ!? 水没してない場所じゃ魚雷は撃てねぇ!〉
〈や、ヤツメ〉
当然、例のごとく、こうしたことに慣れていないシャチ子は、ただヤツメの腕で硬直するしかない。
爆発音を伴奏に聞こえてくるのは、
〈ボスを撃ってくるとか、あんたらイイ度胸してる~! 我々の邪魔をする者がどういう目に遭うか思い知れぇ!〉
女の甲高い超音波。
ボス、ことミスXに仕える、裏切り者の海鮮娘に違いない。
撃ってくる……ということは、やはりヤツメは何らかの攻撃手段を所持しているのだろう。
ヤツメは構わずにただ強く、強く、シャチ子を抱きしめていた。
〈安心しなシャチ子! あんたみたいなイイ子、旧人類なんかにゃ殺させないから!〉
服の群れが水をさまよう一方、重いマネキンたちは世界の生前から何ら変わらぬ姿勢でただずんでいる。
シャチ子は、古風なパフスリーブのワンピースをまとった乙女に、ヤツメは、今風なオフショルダーのセーターを着た少女に、それぞれぼんやりと寄りかかって話していた。
〈ねえシャチ子、これってさぁーあ? あのタワマンの中から“エネミーの偉い奴”みたいなのが、役に立たない味方を始末してぇ、んんで、その後で、味方を痛めつけた女も消そうとした……ってことだよねぇ〉
あるいは、生き残っている『オトコ』の存在を知ったヤツメを消そうとした、という線も考えられる。
〈うん……。あ、でも、役に立たないってだけで、味方を殺すかな?〉
ヤツメはウーンと顔を上げて、何かを漠然と考える様子。
ツンと高い鼻や、つややかな髪の銀色を、海の底の碧があえかに照らして、異様に綺麗だった。
〈アレ、味方っていうか、兵器なんじゃね? 理性とか全然持ってなかったしぃ。なんか人間の男から、ただ性欲だけを抽出したってカンジ〉
〈やっぱり、男の人、生き残ってたんだ……〉
シャチ子の、線の太い蒼古な顔が、重い恐怖に歪む。
この水没世界は、“引きこもり少女しか生き残っていない”という事実があるからこそ、ディストピアたり得ることができた。
海鮮娘たちは、ある種の硬直した平和の中に居たはずなのである。ちょうど、今二人の寄りかかっているマネキンと同じように。
しかし今になって、その心地よい麻痺が解かれうる要素が現れてきたのである。
〈もう、急すぎてワケわかんねーって感じ。ねえシャチ子、何が起きてんの? あんた何か知ってんでしょ? さっきもさ、証拠撮影しようとしてたんでしょ? ごめぇん、誤解して〉
急すぎてワケわかんねー……にしては、やたらヤツメは落ち着き払っているな、とシャチ子は思った。
自分など、血や骨を見ただけでこの場から逃げ出したというのに。
この冷静さは一体……。
ともあれ、ある程度の落ち着きを取り戻したシャチ子は、自分のしようとしていたことをゆっくりと語りだした。
〈一部の海鮮娘がね、あのタワーマンションに住んでる旧人類の女の人と、よく密会してるの。怪しい動きしてる海鮮娘たちがいるってウワサで聞いたから、その子たちの動向を探ってみたのよ。そしたら、みんながみんな、あそこのマンションに出入りしてるのね〉
ヤツメがふんぞり返ると、背後のマネキンがぐらりと揺れる。
〈やっばー! 海鮮娘の中から裏切者が出てんのか! てか旧人類の女ってことは、要するにヒキじゃない女ってことっしょ? 生き残りが居んの?〉
〈うん。体のどこにも海鮮要素がなかったし、結構、日に灼けてもいたから、間違いない。私たちとは違う、旧人類の女の人だと思う〉
要するにこの二人は、引きこもりではない女性に対し、ある種の差別めいた思想を持っているのだろう。
果たして、それは健全な思考回路といえるのか。
それは、かつての“パリピ”とか“陽キャ”といわれる者たちが、引きこもりを軽蔑するような発言をしていた感情と、何が違うのだろう?
私が世界を滅ぼしたことで、大方の予想通り、引きこもり少女たちはこうした世界を築き上げた。
だが物事というのは、完璧であればあるほど、穢れが少なければ少ないほど、そこに入ってくる亀裂の存在感が増大する。
彼女たち海鮮娘が、その繊細さゆえの排他性によって、自滅に至るような事態にならないことを、私は神として切に祈りたい(これってフラグ?)。
シャチ子の暗鬱な証言は続く。
〈何日か前だけど、スマホに協力してもらって、マンションの中で何が起こってるのか、ズームして見てみたのよ〉
〈ん、何見た?〉
ヤツメが横へ身を乗り出して訊くと、シャチ子は重い一拍を置いた後で、吐き捨てるように答えだした。
〈海鮮娘が手渡した札束を、旧人類の人が金庫に仕舞ってた。ほら、旧人類は潜水能力ないから、海鮮娘にお金を集めさせてるんじゃないかな?〉
〈その旧人類の女──ああ、とりあえず『ミスX』って呼ぼっか──海鮮娘をパシりにして、金を集めてんのかぁ。何のために? こんな世界じゃ、金持ち=幸せ……とはいかんよ?〉
ヤツメはいきなり立ち上がると、シャチ子の寄りかかるマネキンからワンピースを奪い、セーラー服の上からそれを着てみせた。
〈ほぅら、こんな高そうな服だって、タダで自分のものにできちゃう世界だしぃ〉
とはいえ、この海鮮ディストピアにも、通貨とか店といった概念は存在する。
先のイルカがそうめんを買ったスーパーマーケット『たんぽ』も、当然ながら紙幣・硬貨を対価として物品を提供する店である。
ただし、旧人類の文明における『働いて稼ぎ、物を買う』という常識は、いわゆるRPG的な『海に沈んだ街で金品を見つけ、物を買う』というシステムに取って代わられた。
そんな世界で、旧人類の女とやらが金庫に札束を貯めている目的とは?
それはそうと、このヤツメ、ギャルの容姿で古風なワンピースを着ると、どこか西洋的な風情になって意外と似合うな……
などと感心しつつ、シャチ子は自分なりの解釈を説き始めた。
〈あの旧人類の、その、ミスX、お金がすべてだった旧人類の男女社会を復活させたいんだと思う。今の日本には、引きこもり少女が七十万人よ? そこに、生き残った何十人か何百人かの男の人が加われば……あるいは〉
正しくは、『最も多く見積もって七十万人』である。
日本人の男女を合わせた『引きこもり人口』が一四六万人だったわけだから、その半分となれば、単純計算で約七十万であるため。
余談ながら、日本以外の国のことは……正直言って、私にも分からない。
引きこもりという概念は日本固有のものということにされていた──実際、西洋には『hikikomori』という“新語”が存在した──けれど、さて、国外にも生き残った者が居るのか、どうか。
〈ちょっ、男女の営みぃ~とか、働くことっ! とかが美徳って言われる糞セカイに戻すとか、ざけんじゃねぇぞ。せっかく、魚やプランクトン食って生きられる『いきものフレンドリー』の世界になったってのにぃ〉
シャチ子の隣に座りなおしたヤツメは、人間だってアニマルなんだよー、と付け加えた。
確かに、
“めしを食べなければ死ぬから、そのために働いて、めしを食べなければならぬ”
by『人間失格』
そうした人間界固有の常識は、かの太宰が述べたとおり“難解で晦渋”であるといえる。
今の海鮮娘たちのように、適当な魚や海藻を食して生きるほうが、単純に考えれば、生物学的には自然といえるだろう。
世界が壊滅し、生きる・食べるということの理が変わった今、人は“難解で晦渋で、そうして脅迫めいた響きを感じさせる”宿命から解放されたはずなのである。
実際それによるメリットは数多く、生きるために金銭が必須ではなくなったことで、通貨の価値は下降。
千円だったものは十円に、一万円払わなければ買えなかったものが百円へと、物価の下落が起こっている。
電気・ガスを扱うインフラが消滅したことで、地球温暖化もまた終息へと向かった。
良いことづくめといえる、この新世界をどうにかして守りたい……
シャチ子の口調は、よりヤツメに寄り添うようなものへと変わる。
〈ヤツメもそう思うでしょ? だから私、証拠を撮って、海鮮娘たちに見せて協力してもらって、戦おうって思ったの。旧人類がクーデターを企ててるのは確かなんだから〉
ヤツメは柄にもなく、とても深々とうなずいていた。
〈なるほど。そのミスXが金庫に貯めた金は、そのクーデターのための資本金ってことか? でも、札束が効力を発揮しない世界で、どうやって……〉
〈今の世界に満足してない海鮮娘、結構居るらしいの。一時的に引きこもってるけど、いつかは社会に出て明るく暮らしたいって、そう思ってた女の子たちも多いはずだから〉
それまで淡々としていたシャチ子の声に、一抹の自信のなさがよぎった。
そういう生き方に憧れることにも一理はあると感じたからだろう。
〈そういうふうに考えるのは別にイイけどさ、だからって、うちらのユートピアを壊されたんじゃ、たまったもんじゃないって〉
叫ぶように気嚢を震わせるヤツメ。彼女にとって、このディストピアはユートピアなのである。
そしてそれはシャチ子も同様。
〈協力してくれる?〉
彼女が意味深な横目をヤツメへ向けると、ヤツメはとぼけるように宙に目をやった。
〈どぉしよっかなー、ちょっと条件とか出して……も……? ……ってシャチ子、危ない!〉
なんの前触れもない、突然の閃光。そして爆発音。
瞬時に、シャチ子はモールの階段へ移動していた。
自分を抱きかかえたヤツメによって、そちらへ避難させられたのである。
〈ぎょっ! ぎょららららららっ! こりゃ魚雷! ぎょっ、らっ、いぃーっ! こんなコトまでしてくんのかよ!? さすがは戦争大好き旧人類さん!〉
ヤツメからの超音波が、これまでにない混乱を聞かせていた。
階段から恐る恐る、つい今しがたまで座っていた場所へ目をやると、もうマネキンたちがバラバラに砕け散っている。
さらに、二度、三度の追撃によって、そこにあった無数の衣類はおろか、強化ガラスのショーウィンドウまでもが粉々に砕け散る。
〈ぎゃーぁあぁぁ! シャチ子! 上層階までBダッシュすっよ!? 水没してない場所じゃ魚雷は撃てねぇ!〉
〈や、ヤツメ〉
当然、例のごとく、こうしたことに慣れていないシャチ子は、ただヤツメの腕で硬直するしかない。
爆発音を伴奏に聞こえてくるのは、
〈ボスを撃ってくるとか、あんたらイイ度胸してる~! 我々の邪魔をする者がどういう目に遭うか思い知れぇ!〉
女の甲高い超音波。
ボス、ことミスXに仕える、裏切り者の海鮮娘に違いない。
撃ってくる……ということは、やはりヤツメは何らかの攻撃手段を所持しているのだろう。
ヤツメは構わずにただ強く、強く、シャチ子を抱きしめていた。
〈安心しなシャチ子! あんたみたいなイイ子、旧人類なんかにゃ殺させないから!〉
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