神亡き世界の異世界征服

三丈夕六

文字の大きさ
上 下
103 / 109
ヒューメニア戦争編

第103話 進撃の魔王軍

しおりを挟む
 ——ヒューメニア近郊。エリュシア草原東部。

 ナルガイン、イリアス、ザビーネは兵士達を率い攻撃を仕掛けていた。

竜巻螺旋突たつまきらせんとつ!!」

 巻き起こる螺旋がヒューメニア兵達を絡め取り、一瞬にして肉塊へと変える。

 暴風の如く巻き起こる螺旋が敵陣に風穴を開ける。

「兵士達はナル姉様へ続くのじゃ!」

 イリアスの声と共に無数の兵士達が突撃する。それに合わせ、彼女は攻撃上昇呪文「爪昇煌クロウ・アセンド」、さらに防御向上呪文「鱗聖盾スケイル・シルド」を周囲の兵士達へと発動した。

「なんだ!? なぜ魔王軍の部隊に攻撃が通らない!」

 ヒューメニア兵士達が魔王軍の攻勢に恐れを抱く。

「す、すごいですぅ……私は後で見ててい、いいですよねイリアス様?」

「なーにを言っておるのじゃ! 広範囲攻撃こそお主の見せ場じゃろ! 元のザビーネ・・・・・・に戻るのじゃ!」

 イリアスがそれ・・を口にした途端、ザビーネの体がビクリと震える。

 そして、ゆっくりと顔を上げた彼女は邪悪な笑みを浮かべた。

「クカカ……なんだよ。アタシに暴れさせていいのかぁ?」

「それがお主の役割じゃからの。ナル姉様は中央を突破した。お主は敵側面から挟撃をかけるのじゃ」

「役割ぃ? 知らねぇな」

わらわに従えザビーネ」

 突然。ザビーネが苦しみの声を上げる。

「ぐ、あ……頭が……」

「お主に拒否権は無い。早くいかぬか」

 ザビーネの苦しみの声が止む。その痛みに彼女は改めて実感した。「魔王の血族の者には逆らえない」と。

「……ちっ」


 ザビーネが翼を広げ舞い上がる。


 疾風のように戦場を突き抜けた彼女は、着地と同時に背負った大剣を引き抜いた。

「仕方ねぇ! せめてアタシを気持ち良くさせろよ雑魚どもが!」

 鈍く光る大剣を薙ぎ払いながら、彼女はスキルを放った。

絶空斬ぜっくうざん!!」

 瞬間。空間が歪む。その空間に飲み込まれた者達は、未だ己の体に何が起こったのかを理解していなかった。

「ハーピー兵がいるぞ!」

「ああ! 分かっ——」

 1人の兵士が叫ぶ。しかし、彼の声に反応する声は途中でかき消えてしまう。

 彼が振り返った先の兵士達は、時を止めたようにピタリと動きを止めていた。

「おいどうした!? 敵が目の前に……」

 彼が言いかけた時、無数の仲間達が死んでいく。身体は真横に切断され、ゆっくりと上半身がずり落ちていく。

「う、うあああああああ!?」

 逃げ出そとした彼の前に、ザビーネが立ち塞がる。

「クカカカ。どうだぁ? テメェだけ生き残った気分はよぉ?」

「ひつ……!? た、助け……」

「んな訳ねぇだろ」

 ザビーネがフワリと舞い上がり、兵士の両肩を強靭な鉤爪かぎづめで掴む。

「い"っ!?」

「いい声で鳴いてくれよなぁ! せっかく残してやったんだからよぉ!!」

 ザビーネが高速回転し、兵士の上半身を捩じ切っていく。

「あ、あ"ああ"ああああ"あああああっ!?」
「カカカカカカカカカカカカカカカっ!!」

 回転して空へと舞い上がるザビーネが血の雨を降らせる。

 陣形の中にポカリと開いた空間。

 そこに降り注ぐ血の雨。

 それは、ヒューメニア兵達の心を折るには十分過ぎる光景だった。


◇◇◇

 最前線のその先。敵陣の中央ではナルガインがヒューメニアの傘下へと入った者達……海竜人の国、メリーコーブ兵士達を蹂躙していた。

螺旋突風撃らせんとっぷうげき!!」

 ナルガインが投げた槍が幾人もの海竜人を貫いていく。その終着点、大地へと突き刺さった槍が膨大な砂塵を巻き上げる。その突風がさらに多くの兵士達を死へと引きり込んだ。

「死ねぇナルガイン!」
「貰ったああああ!!」

 ナルガインへと挟撃をかける2人の兵士。武器を手放してなお、漆黒の鎧は堂々たるオーラを放っていた。

「オレも有名になったもんだな」

 突き出された2本の槍が、彼女の両手に弾かれ虚しく空を切る。

「なんだと!?」
「素手でっ!?」

 驚愕の表情を浮かべた兵士達は、顔面を掴まれ大地へと叩きつけられた。

「がぁああっ!」
「お……お……」

 その威力は凄まじく、轟音と共に一撃で2人の命は奪われた。

 漆黒のフルヘルムが赤い光を放つ。その威圧感が兵士達へ攻撃を躊躇ためらわせた。

 そんな中、1人の戦士が彼女へと向かっていく。


「その鎧! その赤い光! 遂に見つけたぞナルガイン!!」


 巨大な水の刃がナルガインへ向かう。


「……そのサイズ。通常のスキルでは無いな」


 ナルガインが敵兵士の槍を蹴り上げ技《スキル》を放つ。

龍撃斬りゅうげきざん!」

 放たれた真空の刃が水の刃へと直撃し、対消滅する。

水神激流突すいじんげきりゅうとつ!」

 海竜人戦士が放った突きを、ナルガインが受け止める。強烈な威力を持つ一撃は周囲の大地へ深い亀裂を刻み込んだ。

「お前……何者だ?」

「メリコーブのベリウス。貴様に殺されたガイウスは俺の弟……仇を討たせてもらう!!」

 ベリウスが放つ槍をナルガインが紙一重で交わす。直撃こそしなかったものの、彼女の頑強がんきょうな鎧を傷付けるほどの一撃だった。

「ずっと探していた。ガイウスをほうむった螺旋の技を持つ者を! そしてそれが貴様だナルガイン!」

「復讐か」

 ナルガインがスキルを放つ。手にした槍を中心に螺旋を描く。命を絡めとる一撃を。

「ヴェドグラ!!」

 ベリウスが聖槍ヴェドグラを大地へと突き刺すと、突如大地から水が噴き上がる。その水圧がナルガインの螺旋を打ち消した。

「何?」

「貰ったああああ!」

 ベリウスがナルガインの胴体へと向け、槍を突き上げる。

水神衝天突すいじんしょうてんとつ!!」

 聖槍ヴェドグラがナルガインの鎧を深々と突き刺す。

「まだだ!! ヴェドグラの力はこんなものでは無い!」

 ベリウスの叫びに呼応するようにナルガインの鎧に激流が流し込まれる。

「死ねえええええ!!」

 ナルガインの鎧の継ぎ目から水が溢れ出す。異様なまでに膨れ上がった漆黒の鎧はやがて破裂するように粉々に砕け散った・・・・・・・・

「はぁ……はぁ……やったぞ……これで……」

 しかし、ベリウスの予想を裏切るように水飛沫みずしぶきの中から本来のナルガインが現れる。

 彼女は、後ろに束ねた長い金髪をひるがえし、大地へと着地した。

「この特異な能力……ヴィダルの言っていた聖槍ヴェドグラか」

「……っ!? やはり、一筋縄でいかないか……だが! 次は仕留めてみせる!!」

 ベリウスが槍を構える。

 それを迎え討つようにナルガインは槍を構えた。

「今の一撃で分かった。お前はオレに勝つことはできない」

「ほざけぇ!! 水神激流突すいじんげきりゅうとつ!!」

 ベリウスが叫び技を放つ。聖槍が発生させた水の刃をまとい、大地を抉りながらナルガインへと突撃する。

龍線螺旋突りゅうせんらせんとつ!!」

 ナルガインの放つ螺旋が、龍の姿となり水の刃へと向かっていく。

「それが貴様の限界だと知っているぞ!! ヴェドグラぁ!!」

 ベリウスが叫ぶと聖槍が輝きを放ち、さらに巨大となった激流がナルガインの龍を飲み込んでいく。

「今度こそ終わりだ!」


 その激流が龍を食い尽くそうとした刹那。


 ナルガインが叫んだ。


「イリアス!!」


 ベリウスにとって、それは一見意味の無い言葉に聞こえた。

 しかし、その視線の先に少女を見る。海竜人の少女を。メリコーブから消えた巫女の姿を。

「な、なんだと……? 巫女が……」

爪昇煌クロウ・アセンド

 攻撃向上魔法と共に少女の身体が光を帯びる。

 そして。

 そして……。

 その手にはが握られていた。ナルガインが投擲とうてきした本来の彼女の槍が。

「ナル姉様!!」

 イリアスがナルガインの槍を放つ。身体強化された少女が放った槍は空中で加速し、真っ直ぐ激流に飲み込まれんとする龍へ向かう。

 ナルガインが槍を掴み、スキル名を叫んだ。


双龍螺旋突そうりゅうらせんとつ!!」


 直後、飲み込まれそうな龍の中から新たな龍が現れた。

「な、なんだと!? そんな技は……」

 2頭の龍が螺旋の軌跡を描く、自らを飲み込もうとした激流を食らいながら。


 ベリウスの手からヴェドグラが弾き飛ばされる。


「ぐああああああああああああ!?」


 その皮膚は引きちぎられ、肉体はバラバラに吹き飛ばされる。

 そして……頭部の一部が大地へと落ちた。

 だが、もう助からぬと悟ってなお、ベリウスの視界は生きていた。何故か意識は残っていた。

 彼の胸の内に残るのは弟の仇を取れなかった悔しさ。


 しかし。


 その視線の先には無邪気に笑う巫女がいた。

 メリコーブでは道具として一生を終えるはずの巫女が。

 その巫女がナルガインを姉と慕っている。


 ……。


 消えゆく意識の中、ベリウスは……。


 弟の仇、ナルガイン・ウェイブスを理解することだけはできた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...