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ヒューメニア戦争編

第101話 迷子達へ介錯を

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 俺達の元に前線のゴーレム兵が壊滅的ダメージを受けたとの情報が入った。炎と爆風が巻き上がったと聞いた時、確信した。


 レオンハルトが戦場に立ったのだと。


 デモニカ達と共に駆け付けた頃には、辺り一面は焼け野原となり、フェンリル族達は屈強な獣人達に惨殺されていた。

「あの獣人達ってヴィダルの言ってた……」

「人身売買の行き着く先。あの半狂乱の戦士達は、恐らくレオリアの村の者達だ」

「……っ!?」

 駆け出そうとするレオリアを手で制す。

「止めないで!!」

「この損害状況、前線にはレオンハルトがいるはずだ。単独で動くな」

「で、でも……僕は、僕は……!?」

 レオリアが兵士達を見つめる瞳は、悲しみの色を写していた。

 ……。

 無理もない。獣人達にとって仲間はかけがえのない存在。それが、こんな目に遭わされているのだからな。

 あの体格……子供としてさらい、何年もかけ魔素を流し続けたとしか考えられない。

「この借りはレオンハルトへ返す。だから、今は俺の言葉を聞け」

「……」

 レオリアが手の震えを抑えながら双剣から手を離す。そんな彼女を見て、デモニカが声をかける。

「レオリアよ。あの者達はもう助からぬ。助けようなどとは思うな」

「……分かってます。デモニカ様」

「我がレオンハルトを引きり出す。ヴィダルとレオリアは兵を連れてあの者達へ対処せよ」

 そう言うと、デモニカが右手に青い炎を纏わせる。


渦巻く地獄火タービナス・インフェルノ


 彼女が炎を放つと、巨大な炎の竜巻が巻き起こり、敵兵達を飲み込むように襲いかかる——。


 が。


「フレイブランド!!」


 男の声と共に、デモニカの炎が収縮していく。炎の竜巻は聖剣・・に吸い込まれ、完全に消え去った。


「前線に出て来たかデモニカぁ!!」


 聖剣を構えたレオンハルトが真っ直ぐにデモニカへと突撃する。


「行け。レオンハルトは我が」


「行くぞレオリア」
「うん!」

 戦いを繰り広げる勇者と魔王を背に、俺達は獣人達の元へと向かった。



◇◇◇

 敵兵を倒しながら戦場を駆け抜け、魔法士には精神支配をかける。支配した魔法士は魔力尽きるまで魔法攻撃をさせ、ヒューメニアの統制を乱していく。

 そして、視界の先に獣人達が映った。魔神竜の魔素で無理やり戦士とされた強化兵士。錯乱したように魔王軍を攻撃する者達が。

「レオリア。あの強化兵士達の身体能力は未知数だ。遠距離から止めをさせ」

 レオリアは何かを思うようにその目を閉じる。

「僕の仲間達。せめて苦しまずに殺してあげるよ」

 仲間達に告げるように呟くと、彼女はその瞳を開いた。


 決意に満ちた瞳を。


 レオリアが双剣を抜き、大地を駆け抜ける。


 しかし、強化兵士を目前にした所でヒューメニア兵数人が彼女の前な立ち塞がった。


「敵だ! 取り囲むぞ! 隊列を——」

「邪魔をするなぁあああああ!!」


 レオリアが回転しながら飛び上がり、兵士の体を縦に真っ二つにする。大量の血飛沫を浴びながら、レオリアが着地した。

「な!? 隊長——」

「うるさい」

 驚愕の表情を浮かべる兵士に向かい、レオリアが双剣を突き上げる。顎から脳天を貫かれた兵士は体を痙攣けいれんさせながら血を撒き散らした。

 普段の彼女からは考えられない無の表情。それをたずさえながら残る兵士達へと告げる。

「魔王軍レオリア・リベルタスの名において、立ち塞がる者は最大限の苦しみを与えて殺す。その覚悟がある者だけ向かって来い!!」

 怒りをあらわにする彼女にたじろぐ兵士達。


精神拘束メンタル・バインド


 その生まれた隙を突いて兵士達に無数の光の鎖・・・を繋ぐ。

「ぐああああぁぁぁ……」
「あ、頭が……!?」

 瞳から伸びた鎖が兵士達へと命令を下していく。


「我が側近の介錯かいしゃくに水を差すことは俺が許さん」


 眩いまでに鎖が輝き、兵士達が苦しみにのたうち回った。

「仲間が待っている。行ってやれ」

「うん」


 レオリアが双剣を構え、ゆっくりと歩いて行く。そして、うめき声を上げながら戦う強化兵士達の元へ辿り着いた。


「みんな……ごめんね」


 彼女の双剣が交差される。その内に秘めた悲しみに呼応するように、双剣クラウソラスは光を放った。


連環煌舞れんかんこうぶ


 彼女は静かにスキル名を呟く。

 その双剣から無数の斬撃が放たれる。彼女の技量が、斬撃が、クラウソラスの力によって光の刃へと変換される。その光が戦場一帯を眩く照らす。


「……ガッ」


 戦場を光の刃が駆け抜け、刃に触れた者の首を一瞬にして斬り飛ばした。

 獣人達が力無く倒れ込んでいく。

 しかし、大地へと転がった獣人達の顔には一切の苦悶の表情は無かった。


「みんな……みんな、どうか……」


 レオリアが双剣へ額を当てる。その姿は、仲間達が苦しむことなく逝けたことを願っているように見えた。
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