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ヒューメニア戦争編
第97話 転生せし勇者、レオンハルト
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ヒューメニア国の有力貴族の1人、ブレド・イシュルダムの屋敷を訪ねた。
イシュルダム家は長きに渡り前王フリードリヒに仕えていたが、人身売買の利権をチラつかせるとあっさりと私へ靡いた。
欲深い者は実に分かりやすい。
「レオンハルト殿。貴殿が魔王国の襲撃を事前に防いだという話、聞きましたぞ。さすがですな」
「いえ、私は何も」
「そう謙遜しなくても良いではないですか。聞けば人知れずこの国の危機を救っていたとか」
また懐かしい話を……。この世界に再び生まれ落ちてからというもの、この国は何度も危機に見舞われた。私が王となる国を捨て置けるはずないだろうが。
「魔物の群れやドラゴンに我が国を襲わせる訳にはいきませんから」
「はっはっは。さすが勇者の生まれ変わりを名乗ることはある。我ら貴族は皆貴方に着いて行きますからな」
有力貴族共は私が転生者だということを完全に信じてはいない……戦闘を目にしたことが無いからな。この時代の者どもは軟弱で実に嘆かわしい。
しかし……分かりやすい取り入り方だな。その方が都合が良いが。
「では、これから起こる魔王国との戦争に魔法士を投入頂けますか?」
「は? せ、戦争だと……?」
「我が国は襲撃を受けたのですよ? 攻撃を受けてなお、ヘラヘラと外交を行っていてよろしいのでしょうか?」
「む、むぅ……」
イシュルダム家の魔法士達は魔法に長けている。魔王国との戦争にはぜひとも使いたい。
ここは協力するメリットをチラつかせてやるか。
「何もブレド殿だけにお願いする訳ではありません。他の貴族達も同様。皆に頼むのです。しかし、先んじて話したのは貴方のみ。この戦争に勝利するのです我らの力で」
含みを持たせて言うと、ブレドはニヤリと笑った。
「……なるほど。何がおっしゃりたいのかよく分かりましたぞ。魔法士を提供することを約束しましょう」
「ありがとうございます」
次は他の貴族達の私兵だな。後は……メリーコーブと周辺諸国の回答待ちか。
◇◇◇
自分の屋敷へ帰ると、1人の兵士が私の部屋を訪ねて来た。
「レオンハルト様。メリーコーブから伝達です。兵の5割を提供すると」
「……8割差し出すように伝えろ。他の周辺諸国にもな」
「は、8割……!? 納得する国などありませんよ!? 戦の間に他国へ攻められたら……」
「そんなことは起きない」
「なぜ言い切れるのですか?」
「私達には共通の敵がいる。魔王国を打倒しなければバイス王国やハーピオンのようになるだろう。滅びを自覚した時、人はプライドを捨てる」
「はい……なるほど……」
兵士が混乱した顔をする。
まぁ、当然だろうな。この者達は本当の脅威を知らない。
その脅威が現れた時、人々がどのような行動に出るか経験がないだろう。
「分かったら再び使い魔を出せ。魔王国がヒューメニアに襲撃を仕掛けたことも加えてな」
「襲撃? 襲われたのは国外の強化兵士製造施設では?」
「ヒューメニアの設備であることは変わりない。『ヒューメニアが襲撃された』と言っても過言では無いが?」
「し、承知しました」
兵士が去った後の部屋に静寂が訪れる。
戦争の準備が整うまではあと少し。その間に攻撃されたとしても迎え撃てる準備をせねばな。
……。
先日現れたあの女。
禍々しいまでに変容したあの姿……魔神め。エスタを憑代に復活でもしたのか。またしても私の邪魔をするのか。
いや、魔王を名乗るあの女からは女神エスタの雰囲気も感じた。
……クク。
まぁどちらでも良い。魔神であろうと女神であろうと、私にとっては復讐の対象には違いない。
数百年前、私の計画をあと一歩の所で踏み躙った魔神……。
封印の瞬間を狙うとは。私が世界を総べる王となるはずであったのに……あの時の恨み、忘れはしない。
そして……女神エスタ。
私達人間を下等な他種族と同列に扱い、私の尊厳をズタズタに引き裂いた女。
貴様達に復讐できると思うと胸が躍る。
「武装召喚」
召喚魔法によって我が愛剣が現れる。燃え盛る炎の剣。フレイブランド。
暗い部屋の中を炎で照らす聖剣。それは高貴な輝きを放っていた。
この時代に転生してなお、フレイブランドは私の元を離れなかった。この聖剣のみ唯一信用できる存在。
「魔王は炎の呪文を放った……女神エスタは創造の火を司る神。このフレイブランドがある限り、ヤツの炎は私には届かん。この国は私が……」
……。
今のヒューメニアの民も尊重するに値しないがな。
なぜだ?
私は命をかけて魔神竜封印へと挑んだのだぞ? それが……この国では僅かな言い伝えとしか残っていない。魔神竜との関連も、分けられてしまっている。
実に嘆かわしい。己がなぜ存在できているかの歴史を知らぬとは。
我が力を見せつける。
フレイブランドの力、そして……転生した際に強化された私の技を。
この力で全ての者に理解させる。私が勇者であると。世界の王に相応しい存在だと。
再びあの女を踏み台として。
我が強化兵士部隊も他国と渡り合えるまで仕上がった。
後は魔王国との戦争に勝利し、その功績を持ってアレクセイの王座を奪うのみ。
証明してみせる。
我ら人こそ特別なのだと。
いや、私が特別であると。
今度こそ。
イシュルダム家は長きに渡り前王フリードリヒに仕えていたが、人身売買の利権をチラつかせるとあっさりと私へ靡いた。
欲深い者は実に分かりやすい。
「レオンハルト殿。貴殿が魔王国の襲撃を事前に防いだという話、聞きましたぞ。さすがですな」
「いえ、私は何も」
「そう謙遜しなくても良いではないですか。聞けば人知れずこの国の危機を救っていたとか」
また懐かしい話を……。この世界に再び生まれ落ちてからというもの、この国は何度も危機に見舞われた。私が王となる国を捨て置けるはずないだろうが。
「魔物の群れやドラゴンに我が国を襲わせる訳にはいきませんから」
「はっはっは。さすが勇者の生まれ変わりを名乗ることはある。我ら貴族は皆貴方に着いて行きますからな」
有力貴族共は私が転生者だということを完全に信じてはいない……戦闘を目にしたことが無いからな。この時代の者どもは軟弱で実に嘆かわしい。
しかし……分かりやすい取り入り方だな。その方が都合が良いが。
「では、これから起こる魔王国との戦争に魔法士を投入頂けますか?」
「は? せ、戦争だと……?」
「我が国は襲撃を受けたのですよ? 攻撃を受けてなお、ヘラヘラと外交を行っていてよろしいのでしょうか?」
「む、むぅ……」
イシュルダム家の魔法士達は魔法に長けている。魔王国との戦争にはぜひとも使いたい。
ここは協力するメリットをチラつかせてやるか。
「何もブレド殿だけにお願いする訳ではありません。他の貴族達も同様。皆に頼むのです。しかし、先んじて話したのは貴方のみ。この戦争に勝利するのです我らの力で」
含みを持たせて言うと、ブレドはニヤリと笑った。
「……なるほど。何がおっしゃりたいのかよく分かりましたぞ。魔法士を提供することを約束しましょう」
「ありがとうございます」
次は他の貴族達の私兵だな。後は……メリーコーブと周辺諸国の回答待ちか。
◇◇◇
自分の屋敷へ帰ると、1人の兵士が私の部屋を訪ねて来た。
「レオンハルト様。メリーコーブから伝達です。兵の5割を提供すると」
「……8割差し出すように伝えろ。他の周辺諸国にもな」
「は、8割……!? 納得する国などありませんよ!? 戦の間に他国へ攻められたら……」
「そんなことは起きない」
「なぜ言い切れるのですか?」
「私達には共通の敵がいる。魔王国を打倒しなければバイス王国やハーピオンのようになるだろう。滅びを自覚した時、人はプライドを捨てる」
「はい……なるほど……」
兵士が混乱した顔をする。
まぁ、当然だろうな。この者達は本当の脅威を知らない。
その脅威が現れた時、人々がどのような行動に出るか経験がないだろう。
「分かったら再び使い魔を出せ。魔王国がヒューメニアに襲撃を仕掛けたことも加えてな」
「襲撃? 襲われたのは国外の強化兵士製造施設では?」
「ヒューメニアの設備であることは変わりない。『ヒューメニアが襲撃された』と言っても過言では無いが?」
「し、承知しました」
兵士が去った後の部屋に静寂が訪れる。
戦争の準備が整うまではあと少し。その間に攻撃されたとしても迎え撃てる準備をせねばな。
……。
先日現れたあの女。
禍々しいまでに変容したあの姿……魔神め。エスタを憑代に復活でもしたのか。またしても私の邪魔をするのか。
いや、魔王を名乗るあの女からは女神エスタの雰囲気も感じた。
……クク。
まぁどちらでも良い。魔神であろうと女神であろうと、私にとっては復讐の対象には違いない。
数百年前、私の計画をあと一歩の所で踏み躙った魔神……。
封印の瞬間を狙うとは。私が世界を総べる王となるはずであったのに……あの時の恨み、忘れはしない。
そして……女神エスタ。
私達人間を下等な他種族と同列に扱い、私の尊厳をズタズタに引き裂いた女。
貴様達に復讐できると思うと胸が躍る。
「武装召喚」
召喚魔法によって我が愛剣が現れる。燃え盛る炎の剣。フレイブランド。
暗い部屋の中を炎で照らす聖剣。それは高貴な輝きを放っていた。
この時代に転生してなお、フレイブランドは私の元を離れなかった。この聖剣のみ唯一信用できる存在。
「魔王は炎の呪文を放った……女神エスタは創造の火を司る神。このフレイブランドがある限り、ヤツの炎は私には届かん。この国は私が……」
……。
今のヒューメニアの民も尊重するに値しないがな。
なぜだ?
私は命をかけて魔神竜封印へと挑んだのだぞ? それが……この国では僅かな言い伝えとしか残っていない。魔神竜との関連も、分けられてしまっている。
実に嘆かわしい。己がなぜ存在できているかの歴史を知らぬとは。
我が力を見せつける。
フレイブランドの力、そして……転生した際に強化された私の技を。
この力で全ての者に理解させる。私が勇者であると。世界の王に相応しい存在だと。
再びあの女を踏み台として。
我が強化兵士部隊も他国と渡り合えるまで仕上がった。
後は魔王国との戦争に勝利し、その功績を持ってアレクセイの王座を奪うのみ。
証明してみせる。
我ら人こそ特別なのだと。
いや、私が特別であると。
今度こそ。
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