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ヒューメニア戦争編
第92話 人体改造 ーヴィダルー
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魔神竜復活の時にヒューメニアへと赴いた時……あの夜の姿へと擬態魔法をかける。ヴィダルとしての姿を分かるようにしつつ、両眼だけは通常の人と同じに。
今回は情報収集目的の単独潜入。冒険者としてヒューメニアへと入国し、酒場へ入る。1時間ほど時間を潰していると、「知り合い」が酒場へとやって来た。ヒューメニア兵の格好をしたその男に声をかけると、その男は声を上げた。
「お前……!? ヴィダルか!? 久しぶりじゃねぇか!」
その男……ヒューメニア兵のブラットは、少年のような笑みを浮かべた。
◇◇◇
「それでよぉ……ライラのヤツ。ナイヤ遺跡でなんかやらかしたみたいで指名手配されてんだよ」
魔神竜を復活させた時に利用した兵士ライラ。その友人であるブラットはずっとその行方を探していたようだった。
「以前ライラを見たぞ」
「ホントか!? アイツ……無事なのか?」
一瞬大声を出したブラットは、周囲を気にするように声を潜ませた。
「ギルドで見ただけだがな。冒険者にでも転身したのかと思った」
「そっか……場所は聞かないでおくぜ。この国へ帰って来た所で処刑だろうからな。生きてると分かっただけで良かったよ」
ブラットが安心したようにため息を吐く。
実際、ライラはナイヤ遺跡に関する記憶を消してエルフェリアで匿っている。自分の受ける好待遇に戸惑ってはいるが。
「ところで……驚いたぞ。久々にヒューメニアに来てみれば王が変わっていたからさ」
「あぁ……レオンハルト様のことか」
「レオンハルト? 新たな王はアレクセイ王だと聞いたが」
「アレクセイ様はまだ幼い。今はレオンハルト様が実権を握ってるよ」
ブラットが苦々しい顔をする。
……やはり王位は奪取されたものだったか。まぁ、魔神竜を利用した俺のせいでもあるが。
「今ヒューメニアは軍備増強中だ。最近では周辺国との合同演習も増えやがった」
「それは……対魔王国の?」
「あぁ。連中は何考えてるか分かんねぇしな。ハーピオンが属国になったと聞いて余計に国内は勢いを増してるよ」
「幼いアレクセイ王では他国をまとめられないだろうな」
「そう。だからみんなレオンハルト様に縋ってんだよ。でも俺はなんか胡散臭くてなぁ」
「なぜそう思う?」
「変な部隊を動員したんだよ」
「部隊? 何が変なんだ?」
ブラットが周囲を確認し、さらに声を潜ませる。
「種族混合部隊だ。とんでもなく腕は立つがどこの誰かも分からねえヤツらばかりでな。命なんて預けられねぇよ」
他種族混合部隊……やはり俺の考えは間違っていないようだな。
「マリア王女はどうなった?」
「マリア」と聞いて、ブラットが苦々しい顔で酒を煽る。
「塔に軟禁されてるよ……まぁ、極秘でハーピオンと同盟を結ぼうなんてしてたと聞いたら、な……」
ヒューメニアは下々の者に魔神竜の話を伏せているのか?
「姫様のことだ。俺達の為だと思うんだが……貴族のヤツらからしたらついて行けねぇとなったんだろうよ。国王様まで追いやられるなんて……俺は何の為に今まで……」
ブラットが涙ぐむ。それだけマリアと元国王は慕われていたということか。
「種族混合部隊というのは普段どこにいるんだ?」
「分からない。演習の時にはいつも北の森から列を成してやって来ることぐらいしか……」
北の森。それだけ分かれば十分か。
「……俺はそろそろ行くよ」
「当てはあるのか? 良けりゃ俺ん家でも……」
「いや、やることがある。やめておこう」
「やること? こんな夜更けになんだよ?」
「秘密を探りに行くのさ」
不思議そうな顔をするブラットを残し、酒場を後にした。
◇◇◇
警備兵へ精神支配魔法かけ、他種族部隊の情報を得る。
場所はヒューメニアの北にあるタルモイフの森。
聞き出した通り森の中を進むと、一際警備が厳重な屋敷がそびえ立っていた。
擬態魔法で風景へと溶け込み、敷地内へと侵入する。
この警備の数に国外にある屋敷……ただの貴族領では無いな。
茂みに紛れ警備兵の動きを観察していると、貴族らしき男が歩いているのが目についた。
こんな夜更けに貴族? 家主のようにも思えない。来客にしても違和感がある。後をつけてみるか。
庭の奥へ奥へと進んでいく男の後を追う。やがて屋敷の裏手へと回り込んだ頃、突然男が目の前から消えた。
消えた? どこへ行った?
周囲を見渡すと、屋敷の壁の1箇所だけ揺らぎのような物を感じた。
これは……擬態魔法で入り口を隠蔽しているのか。
壁の中へと手を伸ばすと、予想通り中に入ることができた。
暗い階段を進んで行くと、やがて牢獄のような一帯が現れる。
「あ、あ……」
ハーピーに獣人、海竜人にフェンリル族まで……囚われた者達は皆呻き声をあげ地面を見つめていた。
近くの牢を覗き込む。そこに閉じ込められていたハーピーはどこか虚な目をしており、見ているだけで気持ちの悪さが込み上げた。
この反応……何かの中毒のようだ。
牢屋を見て回っていると、奥から話声が聞こえて来た。
「魔神竜の魔素は? あとどれくらいある?」
「ナイヤ遺跡崩壊前には規定量の回収を終えていましたから全く問題ございません。いくらでも兵を増やすことができますよ」
「そうか。レオンハルト様から軍備増強を命ぜられているからな。魔素の貯蓄には気を付けるのだぞ」
「分かっております。ところで、人員の方は大丈夫なので?」
「そちらも問題無い。獣人共の村の音沙汰が無くなった時には肝を冷やしたがな。新たなルートは開拓済みだ」
獣人の……ルノア村のことだろうな。ということは、ここが人身売買の行き着く先……ということか。
奥の部屋へと近付き、中を覗き込む。そこには大量の屍と瓶詰めの黒い霧。魔神竜の魔素が置かれていた。
「よし、では次の物を連れて来い」
数人の兵士に連れられ、海竜人の男が連れて来る。
「い、嫌だ!? やめろよ!」
先ほど見かけた貴族が指示をすると、部下の1人がビンを開けた。
「暴れるな! ほら」
海竜人の男が無理矢理魔素を飲まされる。
「あ……あ……あが、ううぅぅぅぅ!?」
すると、突然男の体が屈強な戦士の体付きとなる。しかし、その瞳は不自然に見開かれ、やがて先ほどのハーピーのようにぼんやりとした
瞳へと変化した。
「お、これは当たりだな。連れて行け」
海竜人の男がそのままどこかへと連れてかれる。
「それにしてもよろしいので? レオンハルト様の指示ばかりを聞いても。万一あの方が失脚した場合ご主人様まで一緒に……」
兵士の1人が険しい顔をする。しかし、貴族の男は意に介さないようにニヤリと笑った。
「それはないな」
「なぜですか?」
「あの方は古代の4勇者の1人。王族の親類を語ってはいるが、我らとは全く別種の次元にいらっしゃる。こうして実権を握られた後は失脚などすることはない」
「こ、古代の4勇者って……何百年も前の話ですよね? なんでそんな時代の人が……」
「それは分からん。だが、あの方が戦う所を見れば自ずと理解できるだろう。その意味がな」
レオンハルトが古代の勇者だと?
……いや、デモニカも復活した存在だ。何らかの原因でその時代の者が存在していてもおかしくはない。
その勇者が他種族を攫い、魔素を用いて軍備を強化している……か。
デモニカは4勇者と因縁があるようだった。
……。
伝えなければいけないな。
だが、まずはここを破壊しなければ——。
「現出魔法」
突然背後から擬態の解除魔法が放たれ、俺の姿が露になる。
「武装召喚」
男の声と共に恐ろしいまでの殺気と熱を感じた。
咄嗟に飛び退くと、目の前を炎を纏った剣が通り過ぎる。
「初撃を避けるとは。遊び甲斐のある侵入者だな」
若い貴族の男が笑みを浮かべる。
その右手には聖剣フレイブランド。
貴族であるにも関わらず歴戦の戦士の風格。
姿を見て一目で分かった。
目の前にいるこの男が……レオンハルト。
「私と出会うとは運が無かった……なぁ!!」
レオンハルトが一切の迷い無く間合いを詰め、袈裟斬りに技を放った。
「獄炎斬!」
「……俺の知らない技か」
威力の分からぬ一撃。さらにフレイブランドのアビリティは纏った炎での追撃……この近距離で回避すれば、死ぬな。
「だが、まだだ!」
男の懐へと飛び込み、溝落ちに拳を叩き込む。
「甘い」
放った技を解除し、レオンハルトが俺の拳を受け止める。
「精神支配」
間髪入れずヤツの瞳へ精神支配魔法を放つと、レオンハルトが距離を取った。
「姑息な技を。しかし、私には効かんぞ」
「その割に勇者殿は警戒しているようだな」
「私は慎重なんだよ」
その全身から放たれる威圧感に押し潰されそうな感覚を覚える。
「生きて帰れると思うなよ」
レオンハルトは再び灼熱の剣を構えた。
今回は情報収集目的の単独潜入。冒険者としてヒューメニアへと入国し、酒場へ入る。1時間ほど時間を潰していると、「知り合い」が酒場へとやって来た。ヒューメニア兵の格好をしたその男に声をかけると、その男は声を上げた。
「お前……!? ヴィダルか!? 久しぶりじゃねぇか!」
その男……ヒューメニア兵のブラットは、少年のような笑みを浮かべた。
◇◇◇
「それでよぉ……ライラのヤツ。ナイヤ遺跡でなんかやらかしたみたいで指名手配されてんだよ」
魔神竜を復活させた時に利用した兵士ライラ。その友人であるブラットはずっとその行方を探していたようだった。
「以前ライラを見たぞ」
「ホントか!? アイツ……無事なのか?」
一瞬大声を出したブラットは、周囲を気にするように声を潜ませた。
「ギルドで見ただけだがな。冒険者にでも転身したのかと思った」
「そっか……場所は聞かないでおくぜ。この国へ帰って来た所で処刑だろうからな。生きてると分かっただけで良かったよ」
ブラットが安心したようにため息を吐く。
実際、ライラはナイヤ遺跡に関する記憶を消してエルフェリアで匿っている。自分の受ける好待遇に戸惑ってはいるが。
「ところで……驚いたぞ。久々にヒューメニアに来てみれば王が変わっていたからさ」
「あぁ……レオンハルト様のことか」
「レオンハルト? 新たな王はアレクセイ王だと聞いたが」
「アレクセイ様はまだ幼い。今はレオンハルト様が実権を握ってるよ」
ブラットが苦々しい顔をする。
……やはり王位は奪取されたものだったか。まぁ、魔神竜を利用した俺のせいでもあるが。
「今ヒューメニアは軍備増強中だ。最近では周辺国との合同演習も増えやがった」
「それは……対魔王国の?」
「あぁ。連中は何考えてるか分かんねぇしな。ハーピオンが属国になったと聞いて余計に国内は勢いを増してるよ」
「幼いアレクセイ王では他国をまとめられないだろうな」
「そう。だからみんなレオンハルト様に縋ってんだよ。でも俺はなんか胡散臭くてなぁ」
「なぜそう思う?」
「変な部隊を動員したんだよ」
「部隊? 何が変なんだ?」
ブラットが周囲を確認し、さらに声を潜ませる。
「種族混合部隊だ。とんでもなく腕は立つがどこの誰かも分からねえヤツらばかりでな。命なんて預けられねぇよ」
他種族混合部隊……やはり俺の考えは間違っていないようだな。
「マリア王女はどうなった?」
「マリア」と聞いて、ブラットが苦々しい顔で酒を煽る。
「塔に軟禁されてるよ……まぁ、極秘でハーピオンと同盟を結ぼうなんてしてたと聞いたら、な……」
ヒューメニアは下々の者に魔神竜の話を伏せているのか?
「姫様のことだ。俺達の為だと思うんだが……貴族のヤツらからしたらついて行けねぇとなったんだろうよ。国王様まで追いやられるなんて……俺は何の為に今まで……」
ブラットが涙ぐむ。それだけマリアと元国王は慕われていたということか。
「種族混合部隊というのは普段どこにいるんだ?」
「分からない。演習の時にはいつも北の森から列を成してやって来ることぐらいしか……」
北の森。それだけ分かれば十分か。
「……俺はそろそろ行くよ」
「当てはあるのか? 良けりゃ俺ん家でも……」
「いや、やることがある。やめておこう」
「やること? こんな夜更けになんだよ?」
「秘密を探りに行くのさ」
不思議そうな顔をするブラットを残し、酒場を後にした。
◇◇◇
警備兵へ精神支配魔法かけ、他種族部隊の情報を得る。
場所はヒューメニアの北にあるタルモイフの森。
聞き出した通り森の中を進むと、一際警備が厳重な屋敷がそびえ立っていた。
擬態魔法で風景へと溶け込み、敷地内へと侵入する。
この警備の数に国外にある屋敷……ただの貴族領では無いな。
茂みに紛れ警備兵の動きを観察していると、貴族らしき男が歩いているのが目についた。
こんな夜更けに貴族? 家主のようにも思えない。来客にしても違和感がある。後をつけてみるか。
庭の奥へ奥へと進んでいく男の後を追う。やがて屋敷の裏手へと回り込んだ頃、突然男が目の前から消えた。
消えた? どこへ行った?
周囲を見渡すと、屋敷の壁の1箇所だけ揺らぎのような物を感じた。
これは……擬態魔法で入り口を隠蔽しているのか。
壁の中へと手を伸ばすと、予想通り中に入ることができた。
暗い階段を進んで行くと、やがて牢獄のような一帯が現れる。
「あ、あ……」
ハーピーに獣人、海竜人にフェンリル族まで……囚われた者達は皆呻き声をあげ地面を見つめていた。
近くの牢を覗き込む。そこに閉じ込められていたハーピーはどこか虚な目をしており、見ているだけで気持ちの悪さが込み上げた。
この反応……何かの中毒のようだ。
牢屋を見て回っていると、奥から話声が聞こえて来た。
「魔神竜の魔素は? あとどれくらいある?」
「ナイヤ遺跡崩壊前には規定量の回収を終えていましたから全く問題ございません。いくらでも兵を増やすことができますよ」
「そうか。レオンハルト様から軍備増強を命ぜられているからな。魔素の貯蓄には気を付けるのだぞ」
「分かっております。ところで、人員の方は大丈夫なので?」
「そちらも問題無い。獣人共の村の音沙汰が無くなった時には肝を冷やしたがな。新たなルートは開拓済みだ」
獣人の……ルノア村のことだろうな。ということは、ここが人身売買の行き着く先……ということか。
奥の部屋へと近付き、中を覗き込む。そこには大量の屍と瓶詰めの黒い霧。魔神竜の魔素が置かれていた。
「よし、では次の物を連れて来い」
数人の兵士に連れられ、海竜人の男が連れて来る。
「い、嫌だ!? やめろよ!」
先ほど見かけた貴族が指示をすると、部下の1人がビンを開けた。
「暴れるな! ほら」
海竜人の男が無理矢理魔素を飲まされる。
「あ……あ……あが、ううぅぅぅぅ!?」
すると、突然男の体が屈強な戦士の体付きとなる。しかし、その瞳は不自然に見開かれ、やがて先ほどのハーピーのようにぼんやりとした
瞳へと変化した。
「お、これは当たりだな。連れて行け」
海竜人の男がそのままどこかへと連れてかれる。
「それにしてもよろしいので? レオンハルト様の指示ばかりを聞いても。万一あの方が失脚した場合ご主人様まで一緒に……」
兵士の1人が険しい顔をする。しかし、貴族の男は意に介さないようにニヤリと笑った。
「それはないな」
「なぜですか?」
「あの方は古代の4勇者の1人。王族の親類を語ってはいるが、我らとは全く別種の次元にいらっしゃる。こうして実権を握られた後は失脚などすることはない」
「こ、古代の4勇者って……何百年も前の話ですよね? なんでそんな時代の人が……」
「それは分からん。だが、あの方が戦う所を見れば自ずと理解できるだろう。その意味がな」
レオンハルトが古代の勇者だと?
……いや、デモニカも復活した存在だ。何らかの原因でその時代の者が存在していてもおかしくはない。
その勇者が他種族を攫い、魔素を用いて軍備を強化している……か。
デモニカは4勇者と因縁があるようだった。
……。
伝えなければいけないな。
だが、まずはここを破壊しなければ——。
「現出魔法」
突然背後から擬態の解除魔法が放たれ、俺の姿が露になる。
「武装召喚」
男の声と共に恐ろしいまでの殺気と熱を感じた。
咄嗟に飛び退くと、目の前を炎を纏った剣が通り過ぎる。
「初撃を避けるとは。遊び甲斐のある侵入者だな」
若い貴族の男が笑みを浮かべる。
その右手には聖剣フレイブランド。
貴族であるにも関わらず歴戦の戦士の風格。
姿を見て一目で分かった。
目の前にいるこの男が……レオンハルト。
「私と出会うとは運が無かった……なぁ!!」
レオンハルトが一切の迷い無く間合いを詰め、袈裟斬りに技を放った。
「獄炎斬!」
「……俺の知らない技か」
威力の分からぬ一撃。さらにフレイブランドのアビリティは纏った炎での追撃……この近距離で回避すれば、死ぬな。
「だが、まだだ!」
男の懐へと飛び込み、溝落ちに拳を叩き込む。
「甘い」
放った技を解除し、レオンハルトが俺の拳を受け止める。
「精神支配」
間髪入れずヤツの瞳へ精神支配魔法を放つと、レオンハルトが距離を取った。
「姑息な技を。しかし、私には効かんぞ」
「その割に勇者殿は警戒しているようだな」
「私は慎重なんだよ」
その全身から放たれる威圧感に押し潰されそうな感覚を覚える。
「生きて帰れると思うなよ」
レオンハルトは再び灼熱の剣を構えた。
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