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ヒューメニア戦争編

第90話 蠢く勇者 ーメリーコーブ司祭ジグルドー

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 ——海竜人の国、メリーコーブ。


「司祭ジグルド様。ヒューメニアの使者がやって来ました!!」

「分かっておる。いかほどの兵力を率いて来た?」

「それが……人間の部隊だけでは無いのです。獣人、ハーピー、フォンリル族にわ、我が同士まで部隊に加わっております」

「なんだと!? ヤツらの軍は人間しかおらぬはずだ!」

「そ、そのはずですが……」

 クソ。ヤツらめ、完全に舐め腐りおって。何が「交渉をしたい」だ。完全に力で脅す気では無いか!

 しかし、させぬ。やらせはせぬ。我らにはまだ秘宝・・がある。一突きで月をも砕くと言われる神殺しの槍『ヴェドグラ』が。我が海竜人種の勇者グランダルが残した伝説の武器。

 それさえあれば……勝つことはできぬとも、消して負けん。

 側に控える屈強な戦士……ベリウスがその槍を携えていた。

「ヴェドグラは? 使いこなせるようになったのか?」

「はっ。完全に我が物となりました」

「頼むぞ戦士ベリウス。お前の弟ガイウスは失態を犯した挙句殺された。残されたお前は必ずやこのメリーコーブの未来を導くのだ」

「分かっております」

 巫女が消え、未だ新たな巫女も生まれぬ我らにはなんとしても生き残るしか道は無い。


「ヒューメニアに取り込まれる訳にはいかぬ。なんとしても……」
 

◇◇◇

 ヒューメニアの代表と言うレオンハルトという男を会談の間へと通し、向かいへと腰をかける。レオンハルトの後には護衛と思われる獣人の兵士が着いていた。

「戦士同席の会談とは、暖かいお出迎えありがとうございます」

「軍を率いて来た貴国には言われたくはない。ヒューメニアのやり方はこのようなものであったのか?」

「現国王アレクセイ様はお若いですから。今までの我が国と同じとは思わないで頂きたい」


「……古代ヒューメニアは全ての国を・・・・・統一していた・・・・・・と聞く。過去の栄光を求めるつもりか?」

「ふふ。ヒューメニアこそこの世に生まれた原初の国。そして我ら人間こそが原初の種族。他種族を支配する権利・・を有すると考えております」

「……その発言は我らを愚弄するものだが、意味が分かって言っているのか?」

「はい」

 レオンハルトが突然、醜悪な笑みを浮かべる。

「我らに従え下等なトカゲ共。巫女を無くした貴様達にもはや存在価値など無い」

「き、貴様……!? なぜ巫女のことを……!?」

「隠しているつもりだったのか? 血気盛んな貴様達が領土侵犯をピタリと止めた。何も無いと考える方が愚かだろう」

「くっ……!」

 ベリウスが声を潜ませ耳打ちして来る。

「司祭様。如何致しましょう?」

「この男を、捕えよ。大臣クラスの役職ならば人質として機能するだろう。この場を乗り切ることが先決だ」

「はっ」

 クソ。これで戦争に発展するかもしれぬ。なんとか周辺国に援軍を取り付けねば……。

「答えは決まったのか?」

 レオンハルトが声を発した瞬間、ベリウスがヴェドグラを構えスキルを放った。

水神激流突すいじんげきりゅうとつ!」

 技と共に聖槍ヴェドグラから水の刃が放たれる。その巨大な刃がレオンハルトの護衛を捉えた瞬間——。

 レオンハルトが小さな声で呟いた。

武装召喚ヴォイドウェポン

 ヤツの手に燃え盛る剣・・・・・が握られる。

「神殺しの槍ヴェドグラか懐かしい・・・・……」

「貴様……何を言って」

 レオンハルトが剣を振るうと、放たれていた水の刃が一瞬にして蒸発した。

「なんだと!?」

「この程度の使い手ではグランダル・・・・・が泣くだろうな」

 レオンハルトがテーブルを蹴り飛ばし、こちらへと飛び込んで来る。

「司祭様!!」

 ベリウスがレオンハルトの放った一閃を受け止める。しかし、斬撃の名残は消える事なく、ベリウスの体に深い傷を付けた。

「ぐうううっ……そ、その剣は……」

「ふふ。貴殿の物と同じ。『神殺しの剣』フレイブランド。しかし、1つだけ違うのは……」

 レオンハルトがベリウスを叩き伏せ、他の戦士達へと技を放つ。

獄炎舞斬ごくえんぶざん

「伏せて下さい!!」

 ベリウスの叫びに咄嗟に身を屈める。頭上をかすめた炎の刃が戦士達を焼き尽くし、周囲に苦しみもがく声が響き渡った。

「な、なんだこの技は!? こんな物見たことが無いぞ!?」

「ふふふ。当たり前だ小僧・・を誰だと思っている」

 笑を浮かべたレオンハルトが私の顔を掴む。

「ぐっ……!?」

「長い付き合いになるだろうから教えておいてやる。私は魔神竜を封印した『勇者の1人』。レオンハルト・ベリル・アドラー。貴様達とは生まれた時代も、知識も、その全てが違う」

「ば、バカな……人間がそのように長く生きることなどできるはずがない」

「それは貴様には関係ない」

 レオンハルトが笑みを消し、狂気を帯びた瞳を向ける。

 戯言だと思いたい。しかし、完全に使いこなされた神殺しの武器に、見たことのない技……それがレオンハルトの言うことが真実だと告げていた。

「さぁ選べ。従うか。根絶やしか。新たな世界への選別を受け入れろ」


 わ、我々はなんとしても生き残らねば……。
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