上 下
80 / 108
ハーピオンの略奪者編

第80話 野望の跡 ーヴィダルー

しおりを挟む
「こ、このアンデッド強すぎる……っ!?」

 ハーピー兵が剣を振るうが、不死の兵は攻撃を物ともせず、ハーピー兵へ剣を突き刺していく。

「ギャアアアアァァァ!」

 移動魔法により現れた大量の骸骨兵がいこつへいにハーピー達が蹂躙されていく。

「妾の身体強化魔法をかけた軍勢じゃぞ? 鳥女如きが勝てる訳なかろう」

 イリアスが呆れたように肩をすくめた。

「死ねぇ!!」

 突然飛びかかって来た兵士達。そんな敵を見てもなおイリアスは不敵に笑った。

「素早さ向上翼流速ウィング・ストリーム

 彼女が魔法を使用すると、その側近達3人がハーピー達へと向かっていく。

「ザンブルは地上の者を斬り伏せろ。ダルクは空の鳥女を撃ち落とせ。ラスハは……」

「貰ったあああぁぁぁ!」

 言いかけた所で背後から新手が現れる。イリアスは一切振り返ることなく指示を出した。

「後ろの女を切り裂くのじゃ」

 影から現れた大斧がハーピー兵の上半身を飛ばす。

「あう"!?」

 周囲のハーピー達が同時に叫び声を上げる。イリアスの側近達が連携しながら敵を討っていく。そして、ものの数秒で周囲にいた敵兵へ対処した。


「イリアス様。全て対処致しました」

 大斧を担いだ人間の女……ラスハが片膝をつく。イリアスはそれを見て満足そうに笑みを浮かべた。

「うむ。皆良くやったのじゃ。次は殲滅戦せんめつせんじゃぞ。骸骨兵アンデッド兵を率いハーピー共を殺すのじゃ。逃げようとする者から優先的にな」

「「「はっ」」」

 返事と同時に3人の兵士が散っていく。


 イリアスの仕上がりは完璧だな。側近との連携も良い。これからは単独作戦も任せられるな。


 ……俺達も行くか。


キュオリス・・・・・。アクアブレス発射!」


「キュオオオオオオオォォォン!!」


 ディープドラゴンが、その透明な被膜を広げ飛び上がる。

 空中で体を翻したドラゴンが大地へと向かい水流を吐く。

「皆伏せろぉ!! がぁっ!?」

 他の者へと呼び掛けていたハーピー兵の首が飛び、大地へと転がる。

 糸の様に細くなったアクアブレスは、直線にある物全てを切断した。

「やっぱり威力すっごいね! でもヴィダル? なんでキュオリス? キュオちゃんじゃないの~?」

「フィオナが付けてくれた。レオリアの付けた名前だと戦場では呼び辛いだろうからと」

「む~!! なにあの女ぁ!!」

 地団駄を踏むレオリアをなだめながら耳打ちをする。

「そう怒るな。戦場で最も信頼を置いているのはレオリアだ」

「本当?」

「当たり前だろう? 俺にその双剣とレオリアの実力、見せてくれ」

「うっふふふふふふふヴィダルがそう言うなら僕がんばっちゃうからねぇ~」

「な、なんかクネクネしとるのぉレオリア……」

「イリアスも見てなよぉ~僕の活躍をさ!」

 口調とは裏腹にレオリアの瞳孔が獣のように鋭くなる。

「あっはははははははははははは!! ハーピー共!! 覚悟しろ!!」

 興奮を抑え切れない様子でレオリアが走り出す。

 闘技場の観客席を猫のように走り抜け、空中のハーピー兵めがけて飛び上がる。

空舞斬くうぶざん!」

 縦に高速回転したレオリアが斬撃を放つ。そこに双剣クラウソラスのアビリティが加わり、斬撃は光の刃となって空を飛ぶハーピーを切り裂いた。

「ギャァアッ!?」

「あっはははは次つぎぃ!!」

 落下するハーピーを踏み付けレオリアがさらに高く舞い上がり、別種のハーピーの上空を獲る。

「コイツ!? 翼も無いくせに!?」

 狙われたハーピー兵がその槍先でレオリアを狙う。

「無駄だって!」

 レオリアが双剣ソラスを振るうと、その槍は木端微塵に切り裂かれる。

 空中でマントを翻しながらレオリアがスキルを放つ。

円環煌武えんかんこうぶ!」

 円を描いた連続斬撃がハーピーを微塵切りにする。光を帯びたその斬撃は、勢いを止めず、地上にいる兵士達をも切り裂いた。

「な、なんだよ……お前達……なんで、そんな、力が……」

 動揺した様子のザビーネへと語りかける。

「我らは魔王に愛されし血族。今のハーピオンに我らを倒す術は無い。降伏しろ」

「降伏だとぉ……? ふざけんじゃねぇ!! アタシはなぁ死ぬ気で女王になったんだ!! これからは奪う側として生きるんだよっ!!!」

「……私欲の強い女だ。魔王軍知将の名において宣言してやろう。ザビーネ。貴様は王の器では無い・・・・・・・

「黙れええええぇぇぇ!!」

 激昂げっこうしたザビーネが聖大剣グラムを肩に構える。大剣は、ザビーネのに呼応するかのように眩い光を放った。

 ……最大威力のスキルで俺達を葬るつもりか。

「レオリア。格の違いを見せてやれ」

「あはっ。了解!」

 レオリアが双剣クラウとソラスの背を合わせる。

 2つの双剣が溶け合い、一つの大剣へと姿を変える。


「オラオラ鳥女ぁ! お前のその顔歪ませてやるよぉ!!」


 レオリアがザビーネと全く同じ構え・・・・・・をとる。


「テメェ!! なんで大剣技の構えをとってやがる!!」

「僕はねぇ。ふふ。大剣使いギルガメスから散々技を食らったんだよ。大剣技なんてとっくに会得してるっての」

「ふざけやがって……っ!?」


 ザビーネがグラムの力を解放する。大剣が凄まじいオーラを放つ。


「死ねえええええぇぇぇ!!」


 そして、2人の剣士は同時に技名を叫んだ。


 同じスキル名を。


「「絶空斬ぜっくうざん!!!」」


 双方から同時に斬撃が放たれる。


 聖大剣グラムは空間を歪ませ、聖剣クラウソラスは巨大な光の刃を放ち——


 ——2つの斬撃が激突する。


「貰ったああああああぁぁぁ!!」


 グラムの斬撃が光の刃を飲み込んだと思われた瞬間。


 光の刃がその輝きを増し、グラムの斬撃を打ち砕いた。


「な……ん……」


 さらに輝きを増した光の刃がザビーネへと直撃する。


「ぐああああああァァァ!!?」


 胸に大きな傷を刻み込まれたザビーネは、そのまま力無く崩れ去った。


「ふふ。絶対的な自信を持つ技での敗北……プライドズタズタでしょ?」


 レオリアが双剣を納刀する。


 女王を倒された闘技場にはハーピー達の叫び声だけがこだましていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...