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メリーコーブの巫女編
第41話 鎧の女戦士、ナルガイン
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——ルノア村。
デモニカの屋敷を訪れると、メイド服を着た獣人の少女が出迎えてくれる。デモニカに仕えたいと申し出たネリという少女だった。
「ヴィダル様。今日はどうなさったのですか?」
「ある程度仕事が片付いてな。ナルガインの様子を見に来た」
ネリは屋敷近くの森を指した。
「ナルガイン様なら森で修練を積むとおっしゃっていました」
「ネリ。僕達が留守の間変わった様子は無かった?」
年頃が近いからか、レオリアとネリは随分と親しい様子だった。獣耳が会話するたびに小刻みに動き、お互いに親愛を感じているのだろうということが一目で分かる。
「特に何も。エルフェリアはどうだった?」
「お祭りみたいなもんだったよぉ。よっぽど嬉しいんだねぇエルフ達は」
レオリアの言う通り、俺達が去る時、エルフェリアは戦勝ムード一色だった。勝利とはそういうものなのだろうな。
「いいなぁ。私も行ってみたいな。エルフェリア」
「近々エルフェリアを中心とした安全な交易経路が作られる。そうなればネリも行けるようになるだろう」
ネリはその顔をパッと輝かせた。その瞳は輝きを放ち、まるで夢見る少女のようだ。
「本当ですか!? 楽しみだなぁ」
「ま、楽しみにしてなよ」
なぜかレオリアが胸を張っていた。
◇◇◇
森の奥へと進むと、木々が薙ぎ倒された広い空間に出た。そこでは1人の女……ナルガインが演武のような動きで槍を振るっていた。
後ろに束ねられた長い金髪が揺れる。彼女が走るたびにその髪が宙を舞う。それはまるで黄金の龍が飛び回っているように見えた。
槍を振るうと大木が切り倒される。すかさず彼女は大木を蹴り上げた。
「龍乱撃!!」
無数の突きが大木に風穴を開ける。彼女が地面へ槍を突き刺す。さらに槍のしなりを使って大木を吹き飛ばす。そのまま彼女は大木を追いかけ技を繰り出した。
「龍線螺旋突!!」
ナルガインが高速回転し螺旋を描く。
ドリルのように描かれた螺旋は、ウネリを上げて突き進み、大木を粉微塵に破壊した。
「龍の名を冠する技は槍系技の中でも奥義級の代物。それを複数使いこなせるとは」
俺達に気付いたナルガインが慌てて腕輪へと触れる。すると、瞬きをする間に彼女は魔法鎧に身を包まれていた。
「お、お前達……確かヴィダルとレオリアとか言ったな。見ていたのか」
「ねぇ、なんで僕達を見た瞬間鎧になっちゃったの?」
レオリアが不思議そうに尋ねる。
「……さっきの姿はあまり見られたくない」
ナルガインは恥ずかしそうに言った。その声は鎧に反響し、低くなっている。
鎧を着たナルガインを良く見てみた。
2メートル近くの体躯。龍のようなフルヘルムに所々あしらわれた鱗のような模様。先ほど見た彼女からは到底サイズの合わない鎧。今の姿を見た誰もがナルガインのことを海竜人の男だと思うだろう。
「なぜ見られたくないんだ?」
「……」
ナルガインが黙る。何かを言い淀んでいるような雰囲気。ここに彼女の枷がありそうだ。
「ねぇ~黙ってないで何か言ってよ!」
痺れを切らしたレオリアが怒り出してしまった。
しかし、ナルガインはそれには答えず、話題を変えた。
「なぁ、オレと一緒にいたクロウ達は復活できないのか?」
「無理だ。彼らは既に灰となった」
「オレのせいで……みんな死んじゃったのか……」
ナルガインが被りを振る。
落ち込んでいるように見えるが、違和感がある。彼女のその口調。そこには何かが足りない気がする。
「君、変な匂いするよ? ふふ」
レオリアが笑いを堪えるように言った。
「人を心配してるようにはとても思えないねぇ。君って実は薄情なんじゃないのぉ?」
「薄情……か」
ナルガインが考え込む。
辺りに沈黙が流れる。
ナルガインはひたすらにウンウンと唸り、独り言を呟き、今までの自分の行いを思い返しているようだった。
しばらく考えた後、彼女は自分の気持ちに納得したのか何度も頷いた。
「……そうだな。オレは今、クロウ達が死んだ悲しみより、自分が生き残った安堵の方が勝っている」
「やっぱり~! 正直なヤツは嫌いじゃないよ!」
レオリアが嬉しそうに言った。
……2人の話でなんとなく見えてきた。彼女の仲間に対する薄情さ、生き残ったことに安堵しているという発言。そこから読み解けることは……ナルガインには何か目的があるということだ。
だからこそ目的以外の要素は彼女にとって重要では無いのか。
そうでなければ異常だ。ルノアから逃げ出そうとする訳でもなく、自分の現状を受け入れ過ぎている。
「ナルガイン。お前には何か目的があるのでは無いか? 魔王の配下になってまで、他人を犠牲にしてまで生き残りたい理由が」
ナルガインがピタリと止まる。
「そんなこと聞いてどうするんだよ?」
「俺達がその目的に協力してやろう」
ナルガインの目的に協力することで、彼女の中の最優先事項を取り払う。まずはそれが必要か。
ナルガインが再び考え込む。
レオリアはそんな彼女を見ると、耳を小刻みに動かし、ニヤリと笑った。
「ヴィダルはね~すごいよ。どんな悪いことでもやってくれるよ」
レオリアの言葉を聞いた彼女は、意を決したように言った。
「……それじゃあ協力してくれ。イリアス……メリーコーブの巫女を攫いたいんだ」
デモニカの屋敷を訪れると、メイド服を着た獣人の少女が出迎えてくれる。デモニカに仕えたいと申し出たネリという少女だった。
「ヴィダル様。今日はどうなさったのですか?」
「ある程度仕事が片付いてな。ナルガインの様子を見に来た」
ネリは屋敷近くの森を指した。
「ナルガイン様なら森で修練を積むとおっしゃっていました」
「ネリ。僕達が留守の間変わった様子は無かった?」
年頃が近いからか、レオリアとネリは随分と親しい様子だった。獣耳が会話するたびに小刻みに動き、お互いに親愛を感じているのだろうということが一目で分かる。
「特に何も。エルフェリアはどうだった?」
「お祭りみたいなもんだったよぉ。よっぽど嬉しいんだねぇエルフ達は」
レオリアの言う通り、俺達が去る時、エルフェリアは戦勝ムード一色だった。勝利とはそういうものなのだろうな。
「いいなぁ。私も行ってみたいな。エルフェリア」
「近々エルフェリアを中心とした安全な交易経路が作られる。そうなればネリも行けるようになるだろう」
ネリはその顔をパッと輝かせた。その瞳は輝きを放ち、まるで夢見る少女のようだ。
「本当ですか!? 楽しみだなぁ」
「ま、楽しみにしてなよ」
なぜかレオリアが胸を張っていた。
◇◇◇
森の奥へと進むと、木々が薙ぎ倒された広い空間に出た。そこでは1人の女……ナルガインが演武のような動きで槍を振るっていた。
後ろに束ねられた長い金髪が揺れる。彼女が走るたびにその髪が宙を舞う。それはまるで黄金の龍が飛び回っているように見えた。
槍を振るうと大木が切り倒される。すかさず彼女は大木を蹴り上げた。
「龍乱撃!!」
無数の突きが大木に風穴を開ける。彼女が地面へ槍を突き刺す。さらに槍のしなりを使って大木を吹き飛ばす。そのまま彼女は大木を追いかけ技を繰り出した。
「龍線螺旋突!!」
ナルガインが高速回転し螺旋を描く。
ドリルのように描かれた螺旋は、ウネリを上げて突き進み、大木を粉微塵に破壊した。
「龍の名を冠する技は槍系技の中でも奥義級の代物。それを複数使いこなせるとは」
俺達に気付いたナルガインが慌てて腕輪へと触れる。すると、瞬きをする間に彼女は魔法鎧に身を包まれていた。
「お、お前達……確かヴィダルとレオリアとか言ったな。見ていたのか」
「ねぇ、なんで僕達を見た瞬間鎧になっちゃったの?」
レオリアが不思議そうに尋ねる。
「……さっきの姿はあまり見られたくない」
ナルガインは恥ずかしそうに言った。その声は鎧に反響し、低くなっている。
鎧を着たナルガインを良く見てみた。
2メートル近くの体躯。龍のようなフルヘルムに所々あしらわれた鱗のような模様。先ほど見た彼女からは到底サイズの合わない鎧。今の姿を見た誰もがナルガインのことを海竜人の男だと思うだろう。
「なぜ見られたくないんだ?」
「……」
ナルガインが黙る。何かを言い淀んでいるような雰囲気。ここに彼女の枷がありそうだ。
「ねぇ~黙ってないで何か言ってよ!」
痺れを切らしたレオリアが怒り出してしまった。
しかし、ナルガインはそれには答えず、話題を変えた。
「なぁ、オレと一緒にいたクロウ達は復活できないのか?」
「無理だ。彼らは既に灰となった」
「オレのせいで……みんな死んじゃったのか……」
ナルガインが被りを振る。
落ち込んでいるように見えるが、違和感がある。彼女のその口調。そこには何かが足りない気がする。
「君、変な匂いするよ? ふふ」
レオリアが笑いを堪えるように言った。
「人を心配してるようにはとても思えないねぇ。君って実は薄情なんじゃないのぉ?」
「薄情……か」
ナルガインが考え込む。
辺りに沈黙が流れる。
ナルガインはひたすらにウンウンと唸り、独り言を呟き、今までの自分の行いを思い返しているようだった。
しばらく考えた後、彼女は自分の気持ちに納得したのか何度も頷いた。
「……そうだな。オレは今、クロウ達が死んだ悲しみより、自分が生き残った安堵の方が勝っている」
「やっぱり~! 正直なヤツは嫌いじゃないよ!」
レオリアが嬉しそうに言った。
……2人の話でなんとなく見えてきた。彼女の仲間に対する薄情さ、生き残ったことに安堵しているという発言。そこから読み解けることは……ナルガインには何か目的があるということだ。
だからこそ目的以外の要素は彼女にとって重要では無いのか。
そうでなければ異常だ。ルノアから逃げ出そうとする訳でもなく、自分の現状を受け入れ過ぎている。
「ナルガイン。お前には何か目的があるのでは無いか? 魔王の配下になってまで、他人を犠牲にしてまで生き残りたい理由が」
ナルガインがピタリと止まる。
「そんなこと聞いてどうするんだよ?」
「俺達がその目的に協力してやろう」
ナルガインの目的に協力することで、彼女の中の最優先事項を取り払う。まずはそれが必要か。
ナルガインが再び考え込む。
レオリアはそんな彼女を見ると、耳を小刻みに動かし、ニヤリと笑った。
「ヴィダルはね~すごいよ。どんな悪いことでもやってくれるよ」
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