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小国同盟編

第36話 残虐なる魔王 ー冒険者クロウー

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「クロウ! 同時にかかるぞ! ビィムは最大出力で魔法を!」

 レイガーが叫びながらデモニカへと走り出す。それに合わせて俺もヤツの元へと飛ぶ。

「無音斬り!!」
武神連斬ぶしんれんざん!!」

 しかし、レイガーの高速斬撃と俺の連続斬りが全て翼で防がれる。

「な……っ!?」

「練度の足りぬ技だ」

 声が聞こえた瞬間、顔面に衝撃が走る。視界が点滅し、頭が混乱する。顔を振るってやっと蹴りを繰り出されたと理解できた。

「油断して良いのか?」

 顔を掴まれ地面へと叩きつけられる。

「がはっ!?」

 何度も何度も叩きつけられ、解放されたと思えば、今度は足で踏み付けられる。なんとか剣で防ごうと仰向けになった時、虫ケラを見るようなデモニカの眼が見えた。

「クロウ!」

 レイガーが大剣で薙ぎ払う。

 しかし。

 巨大な剣はデモニカの翼で軌道を逸らされる。

「貴様は多少マシだが、気迫に欠ける」

 デモニカが腕を振ると、その大剣が叩き折られた。

「クソッ!!」

 レイガーが彼女の顔に拳を叩き込むが、それも片手で受け止められてしまう。

「我はもっとスキルが見たい。がむしゃらな攻撃などやめよ」

 デモニカが手に力を入れた瞬間。レイガーの拳から鈍い音が響いた。

「ぐあああああぁぁぁ!?」

 レイガーが折れた大剣でデモニカの顔を狙うが、デモニカはその頭の角を巧みに使い、攻撃を防いでしまう。

「はぁ……技を使う余裕も無いか。貴様はダメだな」

 デモニカが手をかざすとレイガーの左手が爆発し、その手に握った剣ごと、跡形もなく消し飛んでしまった。

「がぁ、あ……ぁ……」

「レイガーを放しなさい!!」

 ビィムが「火炎爆発エクスプロード」の魔法名を告げ、デモニカの顔に爆風が走る。

「威力が弱い。仲間を気遣ったな」

 煙が消え去った後に見えた彼女の顔は、傷一つ付いていなかった。

「は、離せ……っ!?」

 デモニカの足へと突き刺そうと剣を掴む。

「未熟な貴様は、スキルを見る価値も無い。貴様もダメだ」

 何度も何度も足で踏み付けられる。踏み付けられる度に骨が折れる音がする。両肩の骨から嫌な音がする。

「がっ!? ぐっ……うぅ」

「ほら、逃げてみせよ。このまま四肢を潰されて死にたいか?」

 クソ……う、腕が……。



竜巻螺旋突たつまきらせんとつ!!」

 
 ナルガインの叫びが聞こえ、体にかかっていた負荷が無くなった。


 無理矢理体を起こすと、先ほどの螺旋突をさらに巨大にした一撃がデモニカを吹き飛ばしていた。彼女とナルガインを巻き込んだ螺旋が後方へと飛んでいく。

「大丈夫!?」

 ビィムが俺達に回復魔法キュアをかけてくれた。

「酷い傷……」

「は、早く回復してくれ! あんな奴がグレンボロウに向かったら……」

「失った手は私じゃ戻せない……せめて折られた方の手をなんとかするわ」

「頼む」

「だ、ダメですよレイガー。次元が違う。殺せる相手じゃない……」

「もう報酬は関係無い。お前もグレンボロウで冒険者をやっていたのなら覚悟を決めろ」

「で、でも……」

「……もういい。剣を寄越せ」

 レイガーが折れた右手で俺の剣を奪う。見るに耐えない姿に思わず目を伏せてしまう。

「2人とも喋っちゃダメ! 回復を待ちなさい!」

 手も足も出なかった……なんで、ナルガインは向かっていけるんだよ……。


 震える体を抑えてナルガインへと目を向けた——。


 ——連続で放たれた槍先をデモニカが避け、その鋭い爪でナルガインを鎧ごと引き裂こうと腕を振り下ろす。

 しかし、彼は槍で攻撃の軌道を逸らした。

 デモニカの翼が彼の足を払う。ナルガインは倒れ様に槍を突き出してその顔に傷を付けた。

「ほう。貴様が最も戦闘に秀でているな」

 デモニカの蹴りをナルガインが飛び退いて避ける。

龍神飛翔りゅうじんひしょう!!」

 スキル名を叫ぶと、大地に波紋のようなオーラが発せられる。そのオーラの中心へと槍を突き刺し、槍をしならせて空高くへと舞い上がった。



 空中で槍を構え、ナルガインが急降下する。

 デモニカがその手を空へとかざす。そして、聞いたことの無い魔法名を告げた。

地獄炎フラム・インフェルノ

 その手から青い火柱が上がる。それはナルガインを捉え、彼のその鎧に直撃した。


「あぁ……ナルガインが……」


 鎧が力無く項垂れる。


 燃え盛る鎧が落ちて来る。



 デモニカの目前まで鎧が落ちて来た時。


 鎧の影からが現れた。


 後ろで結んだ長い金髪に全身に付いた無数の傷跡。背丈はあの鎧と全く違う。俺と同じくらいなのに、だけど分かった。

 アレがナルガインの本来の姿・・・・なんだって。

魔法鎧マジック・アーマーか。盾として使うとは」

 魔法鎧……装着者の体格に関係無く自在に動くことができるアイテム。冒険者クロウとしての生活の中で初めて見た代物……そんな物を装備しているなんて。ナルガインは俺と同じSクラスなのに、ここまでレベルが違うのかよ……。


龍神飛翔撃りゅうじんひしょうげき!!」


 急降下した槍がデモニカの体を掠める。地面に突き刺さった槍が大地を砕く。その威力は周囲の地形を変えるほどだった。

 槍を引き抜き様にデモニカへとスキルを放つ。

龍乱撃りゅうらんげき!!」

 目で追えないほどの連続突き。しかし、デモニカはその全てを避け、なおも余裕の表情を見せる。

「ははっ。良いぞ貴様。中々見所がある。しかしなぜだ? なぜ魔法鎧で姿を偽っていた?」

「お前には関係無いだろっ!!」

 デモニカの鋭利な爪がナルガインを狙う。ナルガインが金色の髪を揺らして飛び退いた。

 ナルガインが先ほどとは全く違う流線型の動きで大地を駆ける。揺れる長い髪が、まるで龍が飛び回っているように見えた。

龍撃斬りゅうげきざんっ!!」

 走りながらナルガインが槍を振るうと、真空の刃が作られ、デモニカを襲う。

「真空の刃。明らかに先の者達とは練度が異なる。では、これにはどう対処する?」

 デモニカが再び魔法名を告げ、『地獄炎フラム・インフェルノ』を放った。ナルガインが直線に放たれた青い炎を恐れもせず突っ込む。そして、身体をよじって避けると再びスキル名を叫んだ。


龍線螺旋突りゅうせんらせんとつ!!」


 螺旋状に回転したナルガインが火柱を巻き取るように渦を描く。それは、先ほどの竜巻をも超え、炎の龍のような造形となった。


「うおおおおおおぉぉぉっ!!!」


 炎の龍となった螺旋がデモニカへと向かっていく。


 しかし。


 デモニカは、炎の龍へと腕を突き立て無理矢理ナルガインの突撃を封じた。回転が止み、龍が消えた後には、デモニカとナルガインが対峙していた。
 
「この攻撃は頂けないな。我は既に螺旋突の派生技を受けている。2度目の同系技が通じると思うのならば、貴様の力量はここまでだ」

「うるさい! 何をごちゃごちゃとっ!!」

 ナルガインがデモニカから距離を取ろうとしたその時——。

 ヤツの手がナルガインの胸を貫いた。

「か……はっ……」

「槍を活かす為だろうが、その動きも既に見た」

「ナルガインっ!?」

 デモニカ体を貫通したその手には心臓が掴まれていた。

 心臓を抜かれてもなお、ナルガインは槍でデモニカを狙う。しかし、その力の無い攻撃は、彼女を傷付けることは敵わなかった。

「お前に生き残る道を与えてやろう。そこの3人を見捨て我の元に来い。さすればその命、生かしてやろう」

「ぁ……う……」

「答えよ。今死ぬか。3人の命と引き換えに生き残るか」

「ナルガイン!! そんな誘いに乗ってはいけない!!」

 レイガーが叫ぶ。だが、その声を遮るように周囲が青い炎に包まれる。

「イ……リ、アス……」

「決めろ。時間が無くなるぞ?」

「……お、オレは……ま、だ死ぬ訳には……」


「契約成立だな」


 デモニカが、心臓を握り潰す。それと同時にナルガインの体が青い炎に包まれた。

水激流アクア・ブラスト!!」

 ビィムが上位魔法を放つ。

「無駄だ。我の炎は水如きで消すことはできぬ」

「う、嘘でしょ……」

「貴様達にはこの女の贄として死んで貰う。果敢に挑んだ貴様達に免じて、苦痛無き死を与えてやろう」

 デモニカが言った直後、レイガーが全力で駆け出した。


「レイガー!?」


「デモニカぁぁぁぁっ!!!」


 体が炎に包まれてもなお、デモニカへと迫る。


「死ねぇぇぇぇっ!!」


 絶叫を上げながら剣を振り下ろす。


絶空斬ぜっくうざん!!」



 弧を描いた斬撃がデモニカを襲う——。




 ——しかし、その攻撃が彼女に届くことは無かった。


 彼女は、剣を素手で受け止めていた。その手の傷はジワリと血が滲む程度。それを見たレイガーは、全てを諦めたかのように剣から手を離した。


「最後の一撃だけは・・・良かったが……我はもう決めたのだ。残念だったな」


 デモニカがそう言うと同時に、レイガーは灰となって崩れ去った。


 は、はは……は。勝てない……ダメだ。もう、逃げる気さえ起きない。きっと逃げた所で無駄だ。


「わ、私は死なないわ!!」


「我が宣言した限り、貴様達の死は絶対。諦めよ」


 デモニカが俺達へと向かって手を伸ばす。


 あの手が閉じてしまったら・・・・・・・・きっと周囲の炎は俺達を……。


 「あ、水激流アクア・ブラスト!!」


 ビィムが再び水魔法を放つ。しかし、周囲の炎は消えるどころか、より勢いを増した。


水激流アクア・ブラスト!!、水激流アクア・ブラスト!!、水激流アクア・ブラスト!!、アク——」


「死ね」


 デモニカ・ヴスタズローズは一切の迷いなくその手を握りしめた・・・・・・・・・
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