神亡き世界の異世界征服

三丈夕六

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小国同盟編

第33話 ヴィダルとフィオナ

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——エルフの国、エルフェリア。


 フィオナに『精神拘束メンタル・バインド』の調整をすると呼び出され、俺は彼女の執務室を訪れた。

 彼女に案内されて部屋の中央に置かれた椅子へと座る。その椅子は、まるで医者が患者を治療するときに使われるようなものだった。

 フィオナが俺の頬に両手を当てる。

「貴方の精神支配魔法について研究しました。その弱点は、瞳を合わせなければならないことと、相手の精神力によっては無効化されることの2つ。私の『精神拘束』では多少緩和させてあげましょう」

 フィオナの黒い眼球と赤い瞳が俺を覗き込む。以前拡張して貰った時もそうだが、瞳から力を送るこの行為はなんとも言えない恥ずかしさがある。

 彼女の端正な顔立ち。以前はもっと喜怒哀楽が移り変わっていたのだが、今では人形のように冷たい表情をしている。それを意識した途端、胸に痛みが走った。

「どうしました?」

「いや、助かるよ。複数人との戦闘ではレオリアに頼らざるを得ないからな」

「そういえば、レオリアはどうしたのです?」

「彼女にはグレンボロウの有力貴族の屋敷を調べさせている。今はあの国で潜伏中だ」

 フィオナの眉がピクリと動く。

「では、今日は貴方1人だと?」

「あぁ。俺も準備が整い次第グレンボロウへ戻るがな」

 フィオナの眼が光を帯びていく。それに合わせて俺の瞳に力が流れ込む。

「あの娘は部下という以外どういう関係なのですか?」

「好意をいだかれている」

「ふぅん……ズルい言い方。デモニカ様のことは? どう思っているの?」

「主人だ」

「そうではなくて、貴方個人としてはどう思っているの?」

 フィオナが魔法の調整作業をしながら問いかけて来る。その顔からはどういう意図があるのか今一分かり辛い。

「敬愛はあるが?」

「そう」

「なぜそんな事を聞く?」

「なぜでしょうね」

 彼女の口角が少しだけ緩んだ気がする。しかし、それは視界が暗転したことで確かめることができなかった。

「これで終了です。強引に調整したので目が見えなくなっておりますが、すぐ回復しますので。少し休んで下さい」

 椅子が倒され、背中に重力を感じた。

「精神拘束の発動条件を緩めました。相手の瞳を見ずとも、対象を貴方が認識さえしていれば発動できます。ただし、精神力次第では破られるので過信しないように」

 彼女の声が近くなる。吐息を感じるほどの距離で、彼女は声を潜めた。

「ここからは重要な話です。このまま話しても?」

「かまわない」

「同盟軍名義でグレンボロウより宣戦布告がありました。10日以内に降伏しなければ我らの森に火を放つと」

 火……か。ヤツら森での先頭は不利になると見てエルフェリア軍を草原に引きり出す気か。ハッタリだろうが森の民エルフとしては乗らざるを得ないだろうな

「早かったな。平野部での戦闘ということは数で押す気か」

 ここまでは大方予想通り。戦場となる場所もある程度察しはつく。バーナンド草原。あの場所なら部隊を広域に展開できる。

「魔王軍に引き渡した傀儡達はどうします?」

「デモニカ様が討伐し作ったダロスレヴォルフの傀儡……それらと共に仕掛け・・・として用意する。君は自軍の被害を抑えること、敵を殲滅せんめつすることの2つに注力してくれ」

「矛盾した内容ですね」

「君ならその矛盾を押し通す力があるだろう? エルフェリア最高の召喚士であり、魔王軍『魔将』フィオナ・イクリプスなら」

「……いいでしょう。ちょうど妖精の潮流フェアリー・タイドの実験も行いたいと思っていた所です」

「下準備は俺に任せてくれ」

「相手戦力の予想はありますか?」

「この短期間での同盟結成。そして平野部での戦闘。同盟を組んだのはノームの国『テレストラ』、フェンリル族の国『ルナハイム』だろう。厄介なのはノームの使うゴーレム兵だな。最前線の盾として使われるはずだ」

「やはり、貴方は知識豊富ですね」

「まぁ、一応そういうことになるか」

 グレンボロウ、ルナハイム、テレストラは散々クエストで駆けずり回ったことがあるからな。

「魔王軍との同盟についてエルフ達の反応はどうだ?」

「ヴィダルとレオリアが所属しているという話も交えて話しましたから、その活躍を知っている者達は賛同しております」

「他の者は?」

「やはり懐疑的ですね。実力を知らぬ訳ですから、当然ではありますが」

 となると、デモニカの力を見せつける必要がある。フィオナの護衛、広範囲攻撃、傀儡……この辺りの動きは必須だな。

「フィオナの妖精の潮流フェアリー・タイドの情報もリークするつもりだ。君を狙った別動隊も結成されると考えられる」

「まぁ怖い。私に役割を与えておきながら試練を与えるなんて」

 怖いと言いながら、その口調には一切の怯えを感じない。きっと彼女自信、自分の力に絶対の自信があるのだろう。

「君の護衛には最も優秀な・・・・・人材を付ける」

「何をしたいのか、おおよその察しはついています」

「すまないな。君に危険が及ぶような真似をして」

「なぜ謝るのですか?」

「……君が必要な存在だからだ」

俺達にとって・・・・・・。ですよね」

「ああ」

 フィオナが黙る。

「まだ、目は見えませんか?」

「ぼんやりと光を感じる。もうすぐ見えるようになると思う」


 そう答えた時、ほんの一瞬だけ唇に柔らかな感触を感じた。


 椅子が起こされ、視界が戻る。フィオナの顔を見たが、俺の両目を確認する様子は事務的で、やはり彼女が何を考えているのか分からない。


「私が囮になることも今後必要なこと……そう捉えます。貴方は意味の無いことをしない人ですから」


 彼女は、その目を少し細めた。
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