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エルフェリア内乱編
第25話 欺瞞 ー召喚士アルダーー
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昨晩から評議会は事件の対応に追われていた。議会の敷地内で議長が襲われるなどと……我が国始まって以来の失態だ。お陰で昨晩から事務所に缶詰めではないか。
議長からの呼び出しを受けて廊下に出ると、評議員のベレニルに話しかけられた。
「聞いておりますかアルダー。今回の首謀者の話」
「若年層のエルフだろう? 考えの足りぬ馬鹿どもが。今まで平和的に国を運営して来た我らの努力をふいにする気か」
「その件で話があります」
ベレニルが、その金色の髪をかき上げ顔を寄せて来た。
「本日の評議会で若年層を取り締まる法案が出されるとの話を耳にしました。可決されれば若者達は隔離されるでしょう」
「何? いつまでだ?」
「分かりません。恐らく、首謀者が見つかるまで」
「フィオナはどうなる? あの娘無しで他国の侵攻を防ぐのか?」
「それは分かっておりますが……フィオナが今回の件と関係無いという証拠でも? 実行犯と繋がっているとの疑いも」
「なんだと? どこの馬鹿がそんなことを」
「ディル議員、他2名が。ゴラド議長も賛同しております」
「議長までとは。ディルの奴はどんな鼻薬を使ったのだ」
「少なくともフィオナの一時隔離は免れないでしょう……私の言いたいことは分かりますね?」
ベレニルが私の目を見つめる。
「妖精の潮流」を引き継ぐタイミングは今しか無いということか。あの魔法を持たせたまま馬鹿どもと同じ空間に置いてはおけぬな……」
『妖精の潮流』は、その召喚数によって大量殺戮を可能にする魔法。それだけで他国との交渉材料となり得る。海竜人共に放ち、奴らの国メリーコーブへの牽制とする予定が狂ってしまう。
今日、取りに行くか。あの子の悲しむ顔を見るのは如何ともし難いが。国の為だ。
◇◇◇
フィオナの家への道を歩いていく。6名もの護衛に取り囲まれて歩くと目立って仕方がない……それだけ重要視されている案件ということか。
自分の顔が強張っていないか、普段の笑顔ができているかを確認する。
護衛を家の外へと待たせ、扉の中へと入る。中では、フィオナが椅子に座って窓の外を見つめていた。
「珍しいじゃないか。何もしていないなんて」
「ちょっと気分が優れなくて。アルダー先生はどうされたのですか?」
フィオナの目を見つめて用件を告げる。しっかりと言い聞かせれば、いつものように渡してくれるはずだ。例え長年研究に費やして得た成果だったとしても。
「昨日の評議会で『妖精の潮流』は私が管理することとなった。すまない」
フィオナは一瞬その瞳を大きく見開いたが、すぐに顔を伏せた。
「そう……ですか……」
「お前の研究期間は分かっているよ。しかし、その力は大きすぎる。国として管理せねばならん。辛い気持ちは分かるが……」
「私のことはどうでもいいです。管理してどうされるつもりですか?」
「危険な魔法だからな。封印して使えないようにするよ」
「私にこの研究をするキッカケを与えたのは先生達、評議会です。封印することと矛盾していませんか?」
「我々も考えが至らなかったのだ。本当にすまない」
「言ったじゃないですか『きっとこの魔法で国を豊かにできる』と。今までもそう言って私から魔法を奪って……私の……私の魔法はどこに使われているのですか!?」
「それは言えない……機密だからだ」
フィオナがその顔を涙で濡らす。
やめろ。そんな顔で私を見るな。
お前の魔法は他国との戦争に使われている。
そんなことを言える訳が無い。仕方がない事なのだ。メリーコーブは毎年のように領地を広げようとする。ヒューメニアや周辺国の猿共はこの森の資源を狙っている。
それを守っているのは私なのだ。私達評議会がお前の魔法を有効利用しているからこそ、お前達は安穏と日々を過ごすことができる。
「答えて下さい先生……私の魔法は……」
「もうお前の魔法では無いよ。我らの魔法だ。そのことは何度も話しただろう?」
「それは、分かっておりますが……」
フィオナが子供のように顔を拭う。その姿を見て、胸の奥に怒りが渦巻くのを感じた。
何故だ。
なぜこの娘に才能があるのだ。私に才能さえあれば……フィオナに魔法の開発を命じることも無かった。この無垢な娘への嫉妬で身を焼かれそうになりながら、それでも笑顔で接することを強いられることも無かった。
だが、しかし………。
「心配することは無いよフィオナ。言えないだけでお前の魔法は人の役に立っている」
私は、笑顔で慰めよう。私には彼女が必要だから。
フィオナが私の眼を見つめる。自分の心を覗き込まれそうになるのを防ぐように、私は顔を逸らした。
「さぁ。妖精の潮流をこちらへ」
フィオナがその手に輝く球体を作り出す。召喚魔法の核。彼女の作り出す召喚魔法はこの核を持つ者にしか扱えない。それを譲り受けるしか我らはこの高度な魔法を扱え無いのだ。
「必ず、役立てて下さいね?」
「まかせておきなさい」
そう答えた瞬間。彼女の顔が悲しみに染まる。
「今日のアルダー先生は、嘘が下手ですね……」
「何?」
私がその言葉の意味を理解する前に彼女が知らない名を口にする。
「デモニカ・ヴェスタスローズ」
すると突然、部屋に眩いほどの赤い光が降り注ぐ。あまりの光に思わず目を閉じてしまう。
再び目を開けると、彼女の姿は部屋から消滅していた。
「な……っ!? 移動魔法だと!? フィオナは使えないはずだ!?」
そして私だけが、部屋へと残された。
議長からの呼び出しを受けて廊下に出ると、評議員のベレニルに話しかけられた。
「聞いておりますかアルダー。今回の首謀者の話」
「若年層のエルフだろう? 考えの足りぬ馬鹿どもが。今まで平和的に国を運営して来た我らの努力をふいにする気か」
「その件で話があります」
ベレニルが、その金色の髪をかき上げ顔を寄せて来た。
「本日の評議会で若年層を取り締まる法案が出されるとの話を耳にしました。可決されれば若者達は隔離されるでしょう」
「何? いつまでだ?」
「分かりません。恐らく、首謀者が見つかるまで」
「フィオナはどうなる? あの娘無しで他国の侵攻を防ぐのか?」
「それは分かっておりますが……フィオナが今回の件と関係無いという証拠でも? 実行犯と繋がっているとの疑いも」
「なんだと? どこの馬鹿がそんなことを」
「ディル議員、他2名が。ゴラド議長も賛同しております」
「議長までとは。ディルの奴はどんな鼻薬を使ったのだ」
「少なくともフィオナの一時隔離は免れないでしょう……私の言いたいことは分かりますね?」
ベレニルが私の目を見つめる。
「妖精の潮流」を引き継ぐタイミングは今しか無いということか。あの魔法を持たせたまま馬鹿どもと同じ空間に置いてはおけぬな……」
『妖精の潮流』は、その召喚数によって大量殺戮を可能にする魔法。それだけで他国との交渉材料となり得る。海竜人共に放ち、奴らの国メリーコーブへの牽制とする予定が狂ってしまう。
今日、取りに行くか。あの子の悲しむ顔を見るのは如何ともし難いが。国の為だ。
◇◇◇
フィオナの家への道を歩いていく。6名もの護衛に取り囲まれて歩くと目立って仕方がない……それだけ重要視されている案件ということか。
自分の顔が強張っていないか、普段の笑顔ができているかを確認する。
護衛を家の外へと待たせ、扉の中へと入る。中では、フィオナが椅子に座って窓の外を見つめていた。
「珍しいじゃないか。何もしていないなんて」
「ちょっと気分が優れなくて。アルダー先生はどうされたのですか?」
フィオナの目を見つめて用件を告げる。しっかりと言い聞かせれば、いつものように渡してくれるはずだ。例え長年研究に費やして得た成果だったとしても。
「昨日の評議会で『妖精の潮流』は私が管理することとなった。すまない」
フィオナは一瞬その瞳を大きく見開いたが、すぐに顔を伏せた。
「そう……ですか……」
「お前の研究期間は分かっているよ。しかし、その力は大きすぎる。国として管理せねばならん。辛い気持ちは分かるが……」
「私のことはどうでもいいです。管理してどうされるつもりですか?」
「危険な魔法だからな。封印して使えないようにするよ」
「私にこの研究をするキッカケを与えたのは先生達、評議会です。封印することと矛盾していませんか?」
「我々も考えが至らなかったのだ。本当にすまない」
「言ったじゃないですか『きっとこの魔法で国を豊かにできる』と。今までもそう言って私から魔法を奪って……私の……私の魔法はどこに使われているのですか!?」
「それは言えない……機密だからだ」
フィオナがその顔を涙で濡らす。
やめろ。そんな顔で私を見るな。
お前の魔法は他国との戦争に使われている。
そんなことを言える訳が無い。仕方がない事なのだ。メリーコーブは毎年のように領地を広げようとする。ヒューメニアや周辺国の猿共はこの森の資源を狙っている。
それを守っているのは私なのだ。私達評議会がお前の魔法を有効利用しているからこそ、お前達は安穏と日々を過ごすことができる。
「答えて下さい先生……私の魔法は……」
「もうお前の魔法では無いよ。我らの魔法だ。そのことは何度も話しただろう?」
「それは、分かっておりますが……」
フィオナが子供のように顔を拭う。その姿を見て、胸の奥に怒りが渦巻くのを感じた。
何故だ。
なぜこの娘に才能があるのだ。私に才能さえあれば……フィオナに魔法の開発を命じることも無かった。この無垢な娘への嫉妬で身を焼かれそうになりながら、それでも笑顔で接することを強いられることも無かった。
だが、しかし………。
「心配することは無いよフィオナ。言えないだけでお前の魔法は人の役に立っている」
私は、笑顔で慰めよう。私には彼女が必要だから。
フィオナが私の眼を見つめる。自分の心を覗き込まれそうになるのを防ぐように、私は顔を逸らした。
「さぁ。妖精の潮流をこちらへ」
フィオナがその手に輝く球体を作り出す。召喚魔法の核。彼女の作り出す召喚魔法はこの核を持つ者にしか扱えない。それを譲り受けるしか我らはこの高度な魔法を扱え無いのだ。
「必ず、役立てて下さいね?」
「まかせておきなさい」
そう答えた瞬間。彼女の顔が悲しみに染まる。
「今日のアルダー先生は、嘘が下手ですね……」
「何?」
私がその言葉の意味を理解する前に彼女が知らない名を口にする。
「デモニカ・ヴェスタスローズ」
すると突然、部屋に眩いほどの赤い光が降り注ぐ。あまりの光に思わず目を閉じてしまう。
再び目を開けると、彼女の姿は部屋から消滅していた。
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そして私だけが、部屋へと残された。
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