上 下
24 / 108
エルフェリア内乱編

第24話 議長襲撃

しおりを挟む
「これがエルフの僕!?」

 擬態魔法ディスガイズでエルフへと擬態したレオリアは、自分の姿を何度も確認していた。猫耳は消え、尖ったエルフ耳に。その姿は何とも可愛らしい若年のエルフそのものだ。

「ど、どう? 可愛いかな?」

「似合っているよ。凄く」

「あああぁぁ~幸せぇ」

 恍惚の表情を浮かべたレオリアが体をユラユラと揺らす。それを横目に俺も自分自身の姿を再確認した。

 エルフ耳にリオンの服を模したエルフェリアの服。これで準備はできたな。

「レオリア」

「うん?」

「殺害行為を行う時、部位欠損は狙うな」

「えぇ!? 何で? 戦い方制限されちゃうよぉ~」

「そんな戦い方だとエルフの犯行・・・・・・には見えないからな」

「ちぇ。分かったよぉ」

 フードを目深に被り、俺達は評議会場へと向かった。


◇◇◇

 評議会場裏手で待機していると、議会終了を告げる鐘の音が聞こえる。

「昨日確認した通りだ。議長は裏手より帰宅する。護衛は任せた」

「あひ。ひははひふはは……ごめん。ちょっと興奮して来ちゃって」

 興奮した様子でレオリアが笑いを抑えた。以前の彼女からは考えられない表情。しかし、今はそれも愛しく思える。

「気にするな。先程の件だけ守れば後は好きにしていい」

 レオリアにそう告げると、護衛4人に連れられた議長が現れた。

 護衛の装備はロングソードが2人にスピアが2人。フルヘルムで顔は見えないが、あの装備に議長の護衛という役職。それなりに力はあるか。

「行くぞ」

「うん。行くよっ!」

 俺が擬態魔法ディスガイズで風景に溶け込むのと同時に、2本の剣を構えたレオリアが飛び出した。

 その姿を見て議長が狼狽うろたえる。

「な、なんだお前は……?」

「あはははははは!! 老いぼれ議長! その命貰い受けるぅふふふふ!!」

 レオリアが高く飛び上がり、護衛1人の肩へとそのショートソードを突き立てる。

 鎧の継ぎ目へと突き刺さった剣から、血飛沫ちしぶきが上がる。悲鳴を上げようとした喉元はもう1本の剣で掻き切られた。

「あふふふふふひひぃ。1人ぃ」

 一瞬の出来事。1人が殺害されたというのに、辺りは静寂に包まれた。数秒の後、事態を認識した護衛達がレオリアを取り囲む。

「お前は議長を」

 リーダーらしき護衛が告げると、槍を持った1人が議長の前へと移動する。

「2人がかり? 腕に自信無いのかな?」

「貴様ぁっ!!」

 2人の兵士がレオリアへと攻撃を仕掛ける。統制の取れた動き。剣の兵士が攻撃し、その隙を槍兵が庇う。

 レオリアが両手のショートソードで剣をいなすと、次の瞬間には槍が襲う。

「へぇ! 面白いじゃんっ!!」

 彼女がショートソードを振ると剣士が受け止め、槍兵が攻撃を放つ。

 槍を避けるとすぐにつぎの攻撃がレオリアを襲う。


「このまま押し切るぞ!」
「おぅっ!!」

「あははっ」

 剣の兵士がロングソードで突きを繰り出した瞬間、レオリアがショートソードのつかで剣を下へと弾き、剣先を足で踏み付けた。

「な……っ!?」

「槍兵がいるんだからさぁ。突きなんて目、慣れちゃうよ?」

 兵士が驚いた隙を見逃さず、彼女はフルヘルムの付け根、首元をショートソードで突き刺した。

「あ"ぎ」

 何かを言おうとした護衛は、言葉を発せず動きを止めた。鮮血を顔に浴びたレオリアは舌で口元を拭う。

「押し切れなかったねぇ。はは」

 レオリアが目を見開いて笑みを浮かべる。

「う、あああああぁぁぁ!!!」

 槍兵が叫びながらレオリアへと攻撃する。

「あははははははははは!!!」

 コンビネーションを失った攻撃はあっさりと避けられ、すれ違い様にその首を掻き切られた。

 俺は議長の後ろを取り、その口を押さえ込んだ。

「んむっ!? んんっ!!」

 議長の顔を無理やり戦うレオリア達へと向ける。そして、小声で議長の耳元へと囁く。

「護衛が殺される瞬間。よく目に焼き付けるんだな」

 レオリアが2本の剣を持つ両手を広げ、最後の護衛へと声をかける。

「これで1対1だよ。ほらほらおいで? 君を立派な戦士として殺してあげるからさ」

 レオリアの挑発に最後の護衛が雄叫びを上げる。そして槍を構えてスキル名を叫んだ。


疾風突しっぷうづきっ!!」


 護衛が高速でレオリアへと突撃する。その槍先がレオリアへと突き立てられる刹那——。

「よっ」

 レオリアが軽く振るったショートソードによって、槍は真っ二つに切断された。

「う、嘘だろ……」

「残念! あははははは! でも良いスキルだったよぉ?」

 技を破られた護衛が脚を震わせ立ち尽くす。それを見てレオリアは笑みを消した・・・・・・

「何ビビってんの? でも僕は手を抜かないよ。君がスキルを使ったから僕もそれに答えさせて貰う」

 彼女が両手を交差させしゃがみ込む。そして冷たい声で技名を発した。


連環煌舞れんかんこうぶ


 レオリアの声と共に複数の斬撃が放たれる。護衛の鎧は切断され、その体の至る所から血が吹き出す。数秒の後、その体は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

「正面から放ってあげたよ。君の遺体を見た者は、勇敢に戦ったと思うだろうね」

 彼女は一切の笑みを浮かべず、その剣を鞘へと閉まった。

「ん"ん——っ!?」

 錯乱する議長の顔を掴み、俺のを見つめさせる。

「お、お前達……!? こんなことをしてどうなるか分かっているのか?」

「分かっているさ。お前達老エルフの時代は終わりを告げる」

「な、何を言って……?」

 議長の目を見据え、魔法名を告げる。

精神支配ドミニオン・マインド。お前を襲撃した者は若いエルフ・・・・・。助けに来た者にはそう告げろ」

「わ、若い……エルフ……」

 議長の瞳が怪しく光り、ぼんやりとした表情を浮かべる。

「帰るぞ」

「は~い」

 去り際に後ろを振り返ると、血溜まりとなった石畳みの中央で哀れな老人が座り込んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲

俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。 今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。 「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」 その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。 当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!? 姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。 共に 第8回歴史時代小説参加しました!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

処理中です...