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第5章
盗賊団を戦わないで従わせるの、良いよね
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それから数時間が経過した。
ミレイユを連れた盗賊団はサーグス領の城壁が目視で確認できるところまで来ており、森の中で最後の休息をとっていた。
「ねえ、ご飯ってこれっぽっちしかないの? もっとない?」
ミレイユは、一応『聖女』ということもあり、それなりに丁重には扱われていた。
だが、彼女の傲慢な態度には盗賊たちも少し呆れ始めていた。
「あん? 俺たちサーグス領の連中に、それを言うのかよ?」
盗賊の一人と思しきドワーフはそう言い放つ。
なお、盗賊団は人間とドワーフで構成されている。これは身体能力に優れる種族と言うこともあるが、それ以上に人間やドワーフが差別されやすく、貧困になりやすいことも理由だろう。
「あのな、サーグス領はここ数年の凶作で、ろくに食うもんがねえんだよ」
「だから、あんたを攫うチャンスを探っていたのよ。……けっこう時間かかったけど、カルギス領の連中には感謝しないとね?」
ミレイユの友人を自称していたサキュバスはそう言いながら、にやりと笑った。
今までのような友人に見せるような表情ではなく、嫌悪と侮蔑の混じった笑顔に、ミレイユは怒りの表情を向ける。
「あんた……友達じゃなかったの? なんで、私を誘拐するのよ?」
「はあ……。何言ってんの? あんたなんか友達だなんて一度も思ったことは無いわよ。いつもいつも偉そうにして、自慢ばっかりするし、そうじゃなかったらカルギス領の悪口ばっかり。……正直、うんざりしてたのよ」
「私は別に、自慢や悪口ばっかり言ってたつもりは……」
「ないからこそ、平気で私たちに嫌なことを言ってたのは知ってるわよ」
ミレイユに反論の隙も与えずに、そう答えるサキュバス。
「グリゴア領の人たちはみんな、あんたのことを嫌ってたの、分からないの?」
「え? そんなことないわよ。だって教会の子どもたちだって……」
「あれはスファーレがあんた用に仕込んだ役者よ? 美男美女ばっかり集めて、『聖女様が解決できるお悩み』を毎回用意していたのよ」
「え?」
「スファーレが居なくなってから、教会に呼ばれなくなったのに疑問を感じなかったの? ……だから、言ってやるわよ。……あんたを好きな人なんて、グリゴア領にいないって」
「…………」
そう言われて、ミレイユは落ち込むように黙りこんだ。
よほど不満がたまっていたのだろう、サキュバスはさらに続けた。
「言っとくけど、私たちサーグス領って貧しいからさ。あんたを『聖女様』として祭り上げるような真似は出来ないわよ。まあ、出来てもしないけど」
「そ。領主様からは、あんたを生涯幽閉するって聞いてたからな。それと……」
「なによ?」
そのドワーフの男はニヤニヤと笑い、隣にいた用心棒と思しき女の方を見て『お前の口から話せ』とばかりに顎を振った。
彼女はいかにも『用心棒』と分かる物静かな印象をしており、練達した剣の腕前を持つことは一目で理解できた。
「『聖女の奇跡』は子孫に遺伝するかどうかも尋ねてきた。それが意味することは分かるな?」
「……な……」
その発言に、ミレイユは真っ青な表情になった。
「もし遺伝するなら、それを取引の材料にも出来る。カルギス領のように『聖女の奇跡』に頼らずに生きていける領地はまだ少ない。つまり……」
「サーグス領がこの大陸を支配するにはもってこいってわけよ。……まったく、グリゴア領の連中もお人よしよね。どうしてそうしなかったのかしらね?」
サキュバスがそう言うと、先ほどの用心棒が再度口を開いた。
「私は以前グリゴア領でも仕事をしていたから知っている。……カルギス領の領主ラルフが、聖女への扱いには相当口を出していたんだ。ラルフとグリゴア領の領主とは親友だからな」
「え、ラルフが……だってあいつ、私を追放したのに……?」
それを聞いて、ミレイユは驚いたような表情を見せた。
「お前がグリゴア領で快適に生活できていたのが、自分の力だけだと思っていたのか? あの男が、お前の人権保障について厳しく監視をしていたから、お前は『すろーらいふ』とやらを送れていたのに気づかなかったのか」
「そんな……。けど私、ラルフの屋敷の人たちに酷いこと言ってたのって……」
「はっきり言う。恩を仇で返す行為だ」
用心棒の発言を聞いて、ミレイユは目に涙を溜めながら崩れ落ちるように膝を折った。
だが、それに対して同情する様子もなく、サキュバスはフン、と鼻で笑いながら答える。
「ま、あんたは落ちるべくして落ちたってことよね。……とにかく、休憩はやめてもういきましょうか?」
「それは勧められない」
だが、後ろから声をかけられ、盗賊たちは驚いたように振り向いた。
「え?」
「あんた……ラルフか……」
用心棒の女はそう、少し驚いたような表情を見せ、腰の剣に手をかけた。
ラルフはその女の姿を見て、不快そうな表情を見せた。恐らく以前も何らかの形で遭遇していたのだろう。
「そこの用心棒、お前とは以前も会ったな。いつぞやは世話になった」
「あんたを殺すようには言われていない。だがミレイユの奪還を望むなら、相手にはなる」
「待て、まずは私の話を聴いてほしい」
そう言うと、ラルフは落ち着いた口調でサキュバス達に話しかけた。
「……お前たちはミレイユをサーグス領主に引き渡すように依頼を受けているのだろう?」
「ええ、そうよ。引き渡したら、あたし達を『市民階級』にしてくれるって約束を受けてるもの」
サーグス領は極めて厳しい階層社会になっており、『奴隷階級』のものに対しては厳しい扱いを受けている。
このサキュバスがミレイユに媚びるのが上手かったのも、サーグス領で『市民階級』を相手にうまく立ち回る必要があったためだろう。
だが、ラルフは神妙な顔で頷いて答える。
「お前たち『奴隷階級』のことは知っている。……だが、サーグス領主がお前たちを『市民階級』にするメリットはあると思うのか?」
「……何が言いたいの?」
「簡単な話だ。仮に誘拐が上手く行ったとしても、サーグス領はグリゴア領との軋轢が強くなるのは考えるまでもない。……そうしたときに、サーグス領はどう出ると思うか、だ」
その質問には用心棒の女が答えた。
「……ミレイユは『自分の意思でここに残りたいと言っている』と答えるだろうな」
「そうだ。……だが、お前たちサーグス領の者たちが誘拐の実行犯である、と言うことはすでにグリゴア領でも知られている。特にミレイユの親友を称していたものは主犯として、確実にな」
「……あ……」
そこでサキュバスが驚いたような表情を見せた。
その程度のことも想定していなかったことにラルフは心の中で驚いたが、それは表情に見せなかった。
「そこの用心棒や、ほかの盗賊たちは、カルギス領に顔が割れていないから、なんとでもなるだろう。だが、お前はグリゴア領でも顔を知られているから、逃れるすべはないだろう」
「……あたしはスケープゴートってこと?」
そうサキュバスは少し驚いたように尋ねると、周囲の盗賊たちは表情を歪めた。
恐らくは、彼女を差し出すことで自分たちだけは助けてもらえる、と密約を結んでいたのだろう、そのことを察したのか、彼女は絶望するような表情になった。
「そして、少なくとも、『聖女様』を奪われたことへの溜飲を下げるため、お前たちの引き渡しは確実に行われると断言できる。当然罪状は……」
「…………」
処刑、と言う言葉を避けてラルフは発言していたが、その結末は想像できたのだろう、彼女は押し黙った。
「け、けど! うちの領主様は『お前たちを売るつもりはない』って言ってたし……」
「では、100歩譲って、それが事実でお前たちが引き渡されなかったとしよう。……お前たちが『市民階級』になったところで、その先はあるのか?」
「先って?」
「ミレイユの『聖女の奇跡』を手にしても、恩恵を受けるのは農民だけだ。大方お前たちは、自分の土地などないのだろう? ……つまり、市民になってもお前たちが貧困から抜けることは出来ない」
「む……」
「……さらにもう一つ」
そしてラルフは、答え、手を上げると、周囲から草むらがガサガサとなった。
ラルフが話をしている間に、こっそりとザントたちが包囲したのである。もちろんこれも交渉のためだが、万一それが決裂したときには実力行使に出れるように一行には伝えている。
そして、サキュバスの隣に立っていた樹に、タン! と一本の矢が飛んできた。
「うお!」
盗賊の男がそれを見て、驚いたように茂みに目をやるが、悪天候のせいもあり、どこから飛んできたのかは分からない様子を見せた。
「私は兵を伏せ、この場を包囲している。……人数は多くないが、全員が弓を持っている。……言いたいことは分かるな?」
「……ええ……。無事には返さない、ってことでしょ?」
「お前たちが抵抗するなら、な。あと……」
「……!」
その刹那、茂みから一つの影が飛び出し、用心棒の剣を弾き飛ばした。
……セドナだ。
「な……誰だ、貴様……」
そう言って、用心棒の女は強烈な掌底をセドナに打ち込む。
だが、
「ぐ……! なんだ、この体は……!」
柔らかい皮膚の下に鋼鉄の柱が隠されている、そんな感覚に見舞われた用心棒は驚いたような表情で、セドナを見つめた。
「あたしの体は……素手の攻撃は通さないよ……」
いつもとは違い、落ち着いた口調でそう答えるセドナ。
それを見たサキュバスは、ますます表情を歪めた。
「手練れならこちらにも居るということだ。……これ以上の抵抗は無意味だと思わないか?」
「……そうね。……けど……ここで諦めたら私たちはまた奴隷に逆戻りだし……」
「なら、我がカルギス領に来ればいい。お前たちにやってもらいたい仕事があるんだ」
そこで、ラルフはようやく表情を緩め、後ろにいた茂みからシリルを呼んだ。
そして、盗賊たちに尋ねた。
「お前たち、プロテインって知っているか?」
ミレイユを連れた盗賊団はサーグス領の城壁が目視で確認できるところまで来ており、森の中で最後の休息をとっていた。
「ねえ、ご飯ってこれっぽっちしかないの? もっとない?」
ミレイユは、一応『聖女』ということもあり、それなりに丁重には扱われていた。
だが、彼女の傲慢な態度には盗賊たちも少し呆れ始めていた。
「あん? 俺たちサーグス領の連中に、それを言うのかよ?」
盗賊の一人と思しきドワーフはそう言い放つ。
なお、盗賊団は人間とドワーフで構成されている。これは身体能力に優れる種族と言うこともあるが、それ以上に人間やドワーフが差別されやすく、貧困になりやすいことも理由だろう。
「あのな、サーグス領はここ数年の凶作で、ろくに食うもんがねえんだよ」
「だから、あんたを攫うチャンスを探っていたのよ。……けっこう時間かかったけど、カルギス領の連中には感謝しないとね?」
ミレイユの友人を自称していたサキュバスはそう言いながら、にやりと笑った。
今までのような友人に見せるような表情ではなく、嫌悪と侮蔑の混じった笑顔に、ミレイユは怒りの表情を向ける。
「あんた……友達じゃなかったの? なんで、私を誘拐するのよ?」
「はあ……。何言ってんの? あんたなんか友達だなんて一度も思ったことは無いわよ。いつもいつも偉そうにして、自慢ばっかりするし、そうじゃなかったらカルギス領の悪口ばっかり。……正直、うんざりしてたのよ」
「私は別に、自慢や悪口ばっかり言ってたつもりは……」
「ないからこそ、平気で私たちに嫌なことを言ってたのは知ってるわよ」
ミレイユに反論の隙も与えずに、そう答えるサキュバス。
「グリゴア領の人たちはみんな、あんたのことを嫌ってたの、分からないの?」
「え? そんなことないわよ。だって教会の子どもたちだって……」
「あれはスファーレがあんた用に仕込んだ役者よ? 美男美女ばっかり集めて、『聖女様が解決できるお悩み』を毎回用意していたのよ」
「え?」
「スファーレが居なくなってから、教会に呼ばれなくなったのに疑問を感じなかったの? ……だから、言ってやるわよ。……あんたを好きな人なんて、グリゴア領にいないって」
「…………」
そう言われて、ミレイユは落ち込むように黙りこんだ。
よほど不満がたまっていたのだろう、サキュバスはさらに続けた。
「言っとくけど、私たちサーグス領って貧しいからさ。あんたを『聖女様』として祭り上げるような真似は出来ないわよ。まあ、出来てもしないけど」
「そ。領主様からは、あんたを生涯幽閉するって聞いてたからな。それと……」
「なによ?」
そのドワーフの男はニヤニヤと笑い、隣にいた用心棒と思しき女の方を見て『お前の口から話せ』とばかりに顎を振った。
彼女はいかにも『用心棒』と分かる物静かな印象をしており、練達した剣の腕前を持つことは一目で理解できた。
「『聖女の奇跡』は子孫に遺伝するかどうかも尋ねてきた。それが意味することは分かるな?」
「……な……」
その発言に、ミレイユは真っ青な表情になった。
「もし遺伝するなら、それを取引の材料にも出来る。カルギス領のように『聖女の奇跡』に頼らずに生きていける領地はまだ少ない。つまり……」
「サーグス領がこの大陸を支配するにはもってこいってわけよ。……まったく、グリゴア領の連中もお人よしよね。どうしてそうしなかったのかしらね?」
サキュバスがそう言うと、先ほどの用心棒が再度口を開いた。
「私は以前グリゴア領でも仕事をしていたから知っている。……カルギス領の領主ラルフが、聖女への扱いには相当口を出していたんだ。ラルフとグリゴア領の領主とは親友だからな」
「え、ラルフが……だってあいつ、私を追放したのに……?」
それを聞いて、ミレイユは驚いたような表情を見せた。
「お前がグリゴア領で快適に生活できていたのが、自分の力だけだと思っていたのか? あの男が、お前の人権保障について厳しく監視をしていたから、お前は『すろーらいふ』とやらを送れていたのに気づかなかったのか」
「そんな……。けど私、ラルフの屋敷の人たちに酷いこと言ってたのって……」
「はっきり言う。恩を仇で返す行為だ」
用心棒の発言を聞いて、ミレイユは目に涙を溜めながら崩れ落ちるように膝を折った。
だが、それに対して同情する様子もなく、サキュバスはフン、と鼻で笑いながら答える。
「ま、あんたは落ちるべくして落ちたってことよね。……とにかく、休憩はやめてもういきましょうか?」
「それは勧められない」
だが、後ろから声をかけられ、盗賊たちは驚いたように振り向いた。
「え?」
「あんた……ラルフか……」
用心棒の女はそう、少し驚いたような表情を見せ、腰の剣に手をかけた。
ラルフはその女の姿を見て、不快そうな表情を見せた。恐らく以前も何らかの形で遭遇していたのだろう。
「そこの用心棒、お前とは以前も会ったな。いつぞやは世話になった」
「あんたを殺すようには言われていない。だがミレイユの奪還を望むなら、相手にはなる」
「待て、まずは私の話を聴いてほしい」
そう言うと、ラルフは落ち着いた口調でサキュバス達に話しかけた。
「……お前たちはミレイユをサーグス領主に引き渡すように依頼を受けているのだろう?」
「ええ、そうよ。引き渡したら、あたし達を『市民階級』にしてくれるって約束を受けてるもの」
サーグス領は極めて厳しい階層社会になっており、『奴隷階級』のものに対しては厳しい扱いを受けている。
このサキュバスがミレイユに媚びるのが上手かったのも、サーグス領で『市民階級』を相手にうまく立ち回る必要があったためだろう。
だが、ラルフは神妙な顔で頷いて答える。
「お前たち『奴隷階級』のことは知っている。……だが、サーグス領主がお前たちを『市民階級』にするメリットはあると思うのか?」
「……何が言いたいの?」
「簡単な話だ。仮に誘拐が上手く行ったとしても、サーグス領はグリゴア領との軋轢が強くなるのは考えるまでもない。……そうしたときに、サーグス領はどう出ると思うか、だ」
その質問には用心棒の女が答えた。
「……ミレイユは『自分の意思でここに残りたいと言っている』と答えるだろうな」
「そうだ。……だが、お前たちサーグス領の者たちが誘拐の実行犯である、と言うことはすでにグリゴア領でも知られている。特にミレイユの親友を称していたものは主犯として、確実にな」
「……あ……」
そこでサキュバスが驚いたような表情を見せた。
その程度のことも想定していなかったことにラルフは心の中で驚いたが、それは表情に見せなかった。
「そこの用心棒や、ほかの盗賊たちは、カルギス領に顔が割れていないから、なんとでもなるだろう。だが、お前はグリゴア領でも顔を知られているから、逃れるすべはないだろう」
「……あたしはスケープゴートってこと?」
そうサキュバスは少し驚いたように尋ねると、周囲の盗賊たちは表情を歪めた。
恐らくは、彼女を差し出すことで自分たちだけは助けてもらえる、と密約を結んでいたのだろう、そのことを察したのか、彼女は絶望するような表情になった。
「そして、少なくとも、『聖女様』を奪われたことへの溜飲を下げるため、お前たちの引き渡しは確実に行われると断言できる。当然罪状は……」
「…………」
処刑、と言う言葉を避けてラルフは発言していたが、その結末は想像できたのだろう、彼女は押し黙った。
「け、けど! うちの領主様は『お前たちを売るつもりはない』って言ってたし……」
「では、100歩譲って、それが事実でお前たちが引き渡されなかったとしよう。……お前たちが『市民階級』になったところで、その先はあるのか?」
「先って?」
「ミレイユの『聖女の奇跡』を手にしても、恩恵を受けるのは農民だけだ。大方お前たちは、自分の土地などないのだろう? ……つまり、市民になってもお前たちが貧困から抜けることは出来ない」
「む……」
「……さらにもう一つ」
そしてラルフは、答え、手を上げると、周囲から草むらがガサガサとなった。
ラルフが話をしている間に、こっそりとザントたちが包囲したのである。もちろんこれも交渉のためだが、万一それが決裂したときには実力行使に出れるように一行には伝えている。
そして、サキュバスの隣に立っていた樹に、タン! と一本の矢が飛んできた。
「うお!」
盗賊の男がそれを見て、驚いたように茂みに目をやるが、悪天候のせいもあり、どこから飛んできたのかは分からない様子を見せた。
「私は兵を伏せ、この場を包囲している。……人数は多くないが、全員が弓を持っている。……言いたいことは分かるな?」
「……ええ……。無事には返さない、ってことでしょ?」
「お前たちが抵抗するなら、な。あと……」
「……!」
その刹那、茂みから一つの影が飛び出し、用心棒の剣を弾き飛ばした。
……セドナだ。
「な……誰だ、貴様……」
そう言って、用心棒の女は強烈な掌底をセドナに打ち込む。
だが、
「ぐ……! なんだ、この体は……!」
柔らかい皮膚の下に鋼鉄の柱が隠されている、そんな感覚に見舞われた用心棒は驚いたような表情で、セドナを見つめた。
「あたしの体は……素手の攻撃は通さないよ……」
いつもとは違い、落ち着いた口調でそう答えるセドナ。
それを見たサキュバスは、ますます表情を歪めた。
「手練れならこちらにも居るということだ。……これ以上の抵抗は無意味だと思わないか?」
「……そうね。……けど……ここで諦めたら私たちはまた奴隷に逆戻りだし……」
「なら、我がカルギス領に来ればいい。お前たちにやってもらいたい仕事があるんだ」
そこで、ラルフはようやく表情を緩め、後ろにいた茂みからシリルを呼んだ。
そして、盗賊たちに尋ねた。
「お前たち、プロテインって知っているか?」
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