聖女が追放されたことで豊穣チートを失ったけど、プロテインとヤンデレ美少女のおかげで人生逆転しました

フーラー

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第5章

ロボットと人間の違いがはっきり分かるの、良いよね

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「それにしても……」
「どうした、ザント?」
「新聞の話だと、ミレイユさんが攫われたのは昨夜って話だよな? もう一日近く立ってるけど、追いつけるのか?」
「ああ、多分な」

シリルはそう言いながらも、馬足を少しだけ速めた。
豪雨であることから、ぬかるみに足を取られないように走るだけで精いっぱいの状態である。

「うわ!」
「大丈夫、シリル、スファーレ?」
「え、ええ……」

一瞬足を取られた二人を見て、セドナは心配そうに尋ねてきた。
因みにセドナはロボットであるため、華奢な見かけに反して体重は極めて重い。
そのこともあり、セドナは一人で馬に乗っている。

「本当に走りにくいな、この道は……」
「そうだね。……けど、これなら馬車なんかは猶更進めていないはずだからさ、頑張れば多分追いつけるはずだよ!」

セドナは周囲の表情が暗くなればなるほどポジティブな発言が増える。
そのようにして、戦場では周囲の士気を保つようにしてきたことが伺える。

「ところでさ、やっぱり犯人は……」
「うん。スファーレのお友達……ううん、お友達のふりをしていたサキュバスだったみたい」「そうか……」
「まあ、そんなことだと思いましたわ。あの子、ミレイユのこと本当は嫌いだって明らかでしたもの。それなのにいつも一緒に居たから、怪しいと思いましたわ?」
「……なあ、スファーレ?」
「なんですの?」
「やっぱりさ、ミレイユ様って……嫌われてるんだな」
「ええ。あの女、やることなすことが癪に障るから、誰も好きな人はいなかったと思いますわ。今回の誘拐だって本当は良い薬だって思うくらいですもの」
「…………」

実際問題として、自身のライフラインに直結する『聖女様』が誘拐されたにしては、周囲の反応が緩慢すぎた。
いくら、やる気ある若者が自領であるカルギス領に流れていたとしても、その鈍重さは不自然なほどであった。
だが、そのスファーレの発言を聞いて、ミレイユがグリゴア領でも嫌われていたことも大きな原因にあると知り、ラルフは押し黙った。

「私は……判断を誤ってばかりだな」
「え?」
「元々はミレイユを守るために、グリゴア領に亡命できるよう手続きしたのだが……。結局、誘拐されるようなことになってしまった……」
「…………」
「それに、スファーレ。お前にも辛い思いをさせてしまった。……もしお前をずっと手元に置いておけば、あのような義父母とは……」
「良いんですのよ、お父様?」

スファーレは自戒するラルフに対して、にこりと笑いかけた。

「確かに、お父様と一緒に居た時の方が楽しかったのは事実ですわ。……けど、そのおかげで私は貴族として今の地位を得られたし、それにシリルも……」
「……そうですよ。正直、あのまま一緒に過ごしていたとしたら、きっとスファーレと婚約することは無かったんですから」

豪雨の中で足を取られる馬を何とかなだめながら、そうシリルも答えた。
もし仮にスファーレを養子に出さなかった場合、自領のしかも使用人であるシリルと結婚するメリット自体が『カルギス領の民に』存在しない。
加えて、惚れ薬を手に入れることも出来なかったこともあり、シリルは寧ろスファーレが他領の貴族と結婚する道を模索していたことは想像ができる。

「だが、お前が婚約したのは……」
「ええ、分かってます。……確かに、この婚約が自分の意思ではありませんでした。それに、今のスファーレへの想いは半ば『洗脳』だということも。……けど、仮に惚れ薬の効果が切れても、私の選択は間違っていなかったと、そう思いたいです」
「……ありがとう、シリル、スファーレ」
「それに、そうやってミレイユのことを思いやって、取らなくても良い責任を取ろうとするようなラルフ様だから、みんなついて行くんすよ?」

ドワーフも横からにやりと笑って答えたのを聴き、ラルフはようやく表情が明るくなった。

「そうか……ありがとうな」
「……あれ、ちょっとゴメン。あそこの山の向こうだけどさ、ひょっとして……」

横からセドナが話に入り込み、遠くに見える山を指さした。
「む……」

豪雨でまともに前も見れない中、一番視力の良いラルフはかろうじてそこに炊煙が上がっているのを補足できた。

「……ひょっとして、あれは……」
「うん。多分スファーレを攫った盗賊団だと思う。何とか追いついたみたいだね」

セドナはそう言うが、彼我の距離は恐らく馬を飛ばして数時間はかかるだろう。
だが、逆に向こう側からこちらの様子は見えていないことは想定できる。むろん火を起こすなどの行動を取らなければだが。

「炊煙の数を考えると、相手は多分20人くらいだと思う。思ったより数が多いね」
「20人か……」

その発言に、ラルフは少し考え込むような表情を見せた。

「セドナ。勝てると思うか、この人数で?」
「うーん……。向こうが単なる盗賊団なら何とかなると思う。ただ……無傷ってわけにはいかないね。何人かは死ぬと思う」
「何人か……具体的には?」
「あたしを含めて4人くらいかな」

だが、その発言を聞いてザントは声を上げた。

「なんでセドナが犠牲になるって決まってんだよ!」
「犠牲って……。あたしは『奉仕』するためのロボットだよ? みんなを助けるために犠牲になんのは当たり前じゃん」
「ダメだろ、そんなの! だったら俺が……」
「まて、二人とも。……とにかく、真っ向からの勝負はまずいな。……さて……」

そうこう話していると、ぐ~……と、インキュバスがお腹を鳴らす音が聞こえた。

「……なんだ、今の音は?」
「シリルの腹の虫がなったようですね」

インキュバスはこともなげにそう答える。

「おい、俺じゃねえよ! お前の腹の音だろ?」
「ふん。証拠などあるのかね? 自分の恥を人に押し付けるべきではないと思うのだが?」
「はあ?」

いつものようにくだらないことで言い合いをするのを見て、ラルフは少し呆れたようにしながらも苦笑して間に入った。

「やめないか、二人とも。……まあ、向こうも大休止中のようだし、こちらも馬が疲弊している。一度我々もここで休息を取るとしよう」
「軽食ならあたしが用意してるから、みんなで食べよ、ね?」
「……そうだな。悪かったよ、セドナ」
「どうやら私としたことが、少し取り乱してしまったな。すまない」

ラルフとセドナが二人の間に入り、そう言うとシリルたちは頷き、馬を降りた。


「…………」
ザントは昼食代わりのサンドイッチを口にしながら、屋敷を発つときに支給された腰の剣を見て、身震いした。
「剣で誰かと戦うなんて……初めてだな……」

ザント達の住む世界では、すでに戦争が終結して長い年月が経過している。
その為、ザントにとって殺し合いのような戦いは今まで経験がなかった。

「ここに居るみんなも、誰かが帰ってこれないのかな……」

元々あまり人と関わることが好きでなかったザントではあったが、屋敷に来てから少しずつ他者との関りも出来るようになってきていた。
以前までは、自身の居場所はどこにもないと感じており、だからこそ常に自身を気にかけてくれるものがいる、ハーレム的な生活にあこがれていた節がある。
だが、今はそのような感情を持つことはない。

「どうしたの、ザント? やっぱり緊張しているの?」

そうこうしていると、後ろからセドナがぽん、と肩を叩いてきた。

「あ、セドナさん」
「ザントは今まで戦争って経験ないんだよね。……怖いなら、ここで待ってる?」
「セドナさんは怖くないの?」

その発言に、セドナは少し苦笑するような表情を浮かべた。

「あたしは元々衛生兵として作られたロボットだからさ。『怖い』って感情はないんだ。だから、ザントの今の感情は『知る』ことは出来ても『理解』することは出来ないんだ。ごめんね?」
「あ、いや、そんな……」

ザントは申し訳なさそうにするセドナを見て、少し慌てるように手を振る。
セドナは、今度は自身の胸を叩いて、にっこりと笑って見せた。

「けど、大丈夫。あたしがザント達のこと、この身に変えても守るから!」
「セドナさん……。だったら、俺がセドナさんを守るよ」
「……それはダメ」

今度はセドナは真顔で答えた。

「どうして?」
「あたしは人間に『奉仕』するためのロボットなんだよ。『ザントを守る見返りにザントに守ってもらう』なんて、それは『取引』でしょ? あたしは人に『奉仕される』ことや、『取引すること』は嫌いなんだ」
「へえ……。そう言うものなの?」
「うん。あたし達『セドナ』は、取引したり、他人から奉仕を求めたりする『スパイロボット』じゃないから。あんなろくでもない連中と一緒にしないでよ?」

珍しく、セドナは不快感をあらわにして答えてきた。
セドナは『他人』への奉仕を目的に作られたロボットだが、裏を返せば『人』ではないロボットに対しては奉仕の対象には含まれない。
寧ろ敵のロボット兵を破壊することも目的にされているので、同型以外のロボットには強い不快感を示すようになっている。
特に『奉仕』とは真逆の行動を取るスパイロボットには明らかな敵対感情が見られていた。

「そうか、セドナさんは……やっぱり、俺たち『人』とは違う価値観なんだね」
「うん。……だからザント。お願いだからあたしに守らせて? 一人でも犠牲者を減らしたいからさ」
「……分かったよ……」

自身が『守ってもらう』ことが本人が一番望むというのは、ザントにとってもどこかもどかしい気持ちを感じていた。
同時に、今目の前で話をしているセドナが殺された姿(この世界の住民はロボットの内部構造を知らないため、我々のイメージより凄惨な場面を想像してしまっている)を想像して、うん、と少し覚悟を決めたように頷いた。


「じゃあさ、セドナさん。もしもこれが最後になるとしたら、一言だけ言わせてほしいんだ」
「なあに?」
そしてザントは少し息を吸って、答える。



「俺は、セドナさん。あなたが好きなんです。……愛しています」



そう意を決したようにザントはそうセドナに伝えた。
それを聞いたセドナは少しの間考えるようにした後に、少し悲しそうな表情で笑う。

「ありがと。あたしはさ。ザントのことが好きだよ。すっごく大好き」
「…………」

その言葉に含みがあることに気づいたのだろう、ザントは何も言わずに言葉の続きを待つ。

「けどさ。あたしの『好き』はロボットとしての『好き』。ザントのいう『好き』みたいに特別な誰かに対するものじゃないんだ。……ううん、すべての人に対して、ザントのいう『好き』と同じ気持ちを持ってるっていえばわかるかな?」
「……うん、何となくは……」
「だからさ。ザントのことを愛してるけど、ザントの望むこと……例えば恋人として交際することは出来ないんだ。あたしは、すべての『人』のための『セドナ』だから」

そう言いながらも、セドナは申し訳なさそうな表情をしたのに対してザントは、首を振った。

「俺はさ。獣人だからあまりセドナさんのことは分からないけど……。けど、セドナさんが誰かと付き合いたい、誰かの恋人になりたいって、そう思っていないことは分かってたよ」
「うん……。ごめんね、ザント。あたしが『そういうこと』のために作られたロボットだったらよかったよね?」

当然、セドナの居た世界には『恋人として』特定の相手と専属的に奉仕するロボットも存在する。だが、ザントはもう一度首を振った。

「ううん、そうしたらきっと、俺と出会う前にシリルか誰かと付き合ってたでしょ? それに、セドナさんがそう言うロボットじゃなかったことにも感謝してるんだ」
「感謝?」
「ああ。俺がみんなと仲良くなれるように、挨拶の仕方から、身だしなみの整え方まで、いろいろ教えてくれて、そのおかげで俺も人の知り合いがいっぱいできたから。……だから、そのお礼は言っておきたかったんだ。ありがとう、セドナさん」
「フフフ、どういたしまして、ザント」

そう言うとセドナは一歩近づいてザントを抱きしめ、そして、

「……ん……」

その唇にキスをした。
そして数秒後、その唇を離してにっこり笑った。

「セ、セドナさん?」
「ザントの恋人にはなれないけどさ。獣人もキスが求愛行動になるって聞いたから。……もう一回する?」
「……うん……」

そう言うと、再びセドナの唇にキスをした。
人間のそれと変わらない、暖かくて柔らかい唇の感触にザントは少しの間意識が薄れるのを感じた。

「今は時間がないけど、帰ったら『この先』もしてあげよっか?」

『この先』が意味することは、当然ザントにも分かっていた。
セドナは専用のロボットほどの技量はないが『キスの先の行為』を行うこと自体は可能であり、事実その手の申し出をされたら誰であろうと断ることは無い。
その為元の世界では『セドナ』目当てで入隊する兵士もいたほどである。

とはいえこの世界では、元々性欲の薄いエルフや、精気を持たないロボットに関心を持たない夢魔、そしてまじめな性格のシリルやラルフも同様にセドナの体を求めることはなかった。
その為、実際にセドナが『相手』をしていたのは、使用人のドワーフをはじめ、僅かな人数にとどまっていた。

「……そうだな。生き残ったら、頼むよ」
「うん、わかった。じゃあ希望する日にちと時間を帰ったら教えて? それと質問があったら前日の夕方までだったら受け付けるから教えてね?」

そう、まるでレストランの予約でもするように尋ねてくるセドナに、ザントは少し苦笑した。

「……ハハハ、やっぱりセドナさんはロボットなんだな。……分かったよ。けど、その前に二人が生き残ることが大事だよね? だから……」
「うん、ザントのことは守るけど、あたしも壊れないようにするね? あたしだって、壊れたいわけじゃないからさ」

そう言うと、セドナはもう一度ザントのことをぎゅっと抱きしめた。




「……フフフ」
「どうしたの、お兄様?」

その様子を物陰で見ていたシリルは、隣にいたスファーレに尋ねられ、ほほえみながら答えた。

「ザントの奴、セドナのことがよっぽど好きなんだなって思ってな」
「うーん。……機械に恋するなんて、私には分かりませんわ?」
「……まあな。けど、セドナの断り方も上手だったな。……いつかザントも素敵な恋人ができると良いんだけどな」
「フフフ。お兄様って、ザントのことをいつも心配してますわね?」
「まあ、あいつも大事な仲間だからな」
「けど、私が一番大事ですよね、お兄様?」
「ハハハ、まあな」

と言いながら、当然のように抱き着いてくるスファーレの頭を軽く撫でていると、ラルフがやってきた。

「シリル、ちょっといいか?」
「どうしました、ラルフ様?」
「やはり、盗賊団を相手に我々が真っ向から戦うのが無理があるだろう」
「そうですね。……私は騎士とは名ばかりの、ただの使用人ですから」
「そこで、だ。やはり話し合いで解決をしようと思うのだが、作戦を立ててみた。……ちょっと聞いてくれるか?」
「ええ」

そういうとラルフは一同を集めて作戦について説明を行った。
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