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第6章
仲直りした兄妹が、翌日ベッタベタに愛し合うの、良いよね
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二人が思念の暴走により騒動を起こしてから数週間が経過した。
「はあ……見てるこっちが恥ずかしくなるねえ」
「あの二人、やっぱりラブラブだったんすね……」
兵士たちは先日頭に叩き込まれた二人の凄まじい思念と、その翌日以降、まるで恋人同士のようにいちゃつく二人の様子を見て、アダンがツマリを襲ったという噂は誤解であると確信が取れた。
また、クレイズが捉えた密偵に噂を意図的に歪曲したことを洗いざらい白状させたことによって、アダンとツマリに関する誤った情報についても、すべて払しょくすることが出来た。
これによって、いつものように日常を送る生活になっていた。
「アダン? これ美味しいよね?」
「うん! 僕のお肉少し分けてあげるね、ツマリ……」
「ありがと! 後、ご飯食べたら、またお願いね? たーっぷり吸わせて!」
「勿論だよ。ツマリも、しっかり体力付けてね!」
そう言いながら、頬が当たるほどの距離で隣り合い、仲良く食事を摂る二人。
「はい、じゃあいいよ、ツマリ? 頬からがいい?」
「うん! ありがと、アダン。……んく、んく……ぷはあ、あたしもお腹いっぱい」
ツマリはアダンに頬ずりをしながらえへへ、と笑う姿に、周囲はもう、何も突っ込もうとする気は失われていた。
「じゃあ、行こうか、アダン?」
「うん、そうだねツマリ。すみません、クレイズさん。僕達お昼までちょっと出かけます」
「ん? それは構わんが……二人ともどこに行くんだ?」
幸いこの日は午後まで二人が必要になるほど重要な公務はない。
クレイズの質問に、アダンは少し含みを見せた笑顔を見せる。
「え? それは、ね」
「そ、クレイズ。あんたもうすぐ誕生日でしょ? そのプレゼントの準備よ」
「そうそう。クレイズさんにはお世話になったし。……楽しみにしててね?」
「あ、ああ……」
プレゼントなど久しくもらっていなかったこともあるのだろう、手を恋人つなぎにして部屋を出る二人を見送りながらクレイズは少し困惑したような表情を見せる。
「クレイズ隊長、また残してるじゃないっすか!」
そうこうしていると、セドナがやってきて、皿の上に乗っている魚の塩漬けを指さして文句を言ってきた。
「む……すまん、私は……」
「匂いのきついものが苦手ってのは分かりやすが……。大事な食料を無駄にしちゃいけないんすよ?」
「わ、分かっている……」
珍しく子どもじみた表情を向けつつ、クレイズは目を閉じて魚を口に運ぶ。
その様子を苦笑して眺めながら、セドナは答える。
「にしても、クレイズ隊長。二人もすっかり仲直り出来やしたね」
「ああ。私としても嬉しい限りだ」
ふ~……と息をつき、食事を何とか終えたクレイズはそう答える。
「私の部下たちも大喜びでな。やはりあの二人をみな、気にかけていたようだ」
「へえ。一番気にかけていたのは隊長だと思いやすけどね」
「そうかな。……ところで、ディアンの町への侵攻スケジュールはどうだ?」
思い出したように、クレイズは尋ねる。
実際にここ最近は双子兄妹のことは勿論、周辺の治安維持や法律の制定などやるべきことが山積みだったこともあり、殆ど侵攻の予定は立てることが出来なかったためだ。
セドナは一応ある程度兵力や兵糧の確認を行っていたため、少し試算するような様子を見せた後、答える。
「ええ。あのお二人が復帰されたし、来週には行けると思いやすが……」
そこでセドナは少し不安そうな表情を見せた。
「どうした、何かあったのか?」
「いえ、嫌な予感がしただけっす」
一方こちらは、少し城から離れた見晴らしのいい丘の上。
「はあ……はあ……」
「アダン、大丈夫? もうへばった?」
アダンは魔力を使い果たしたのか、息を切らせていた。一方のツマリはまだ余裕そうに剣を振りまわしていた。
「まだ、大丈夫……。だけど、ちょっと休んでいい?」
「え? ……うん。そうだね、ちょっとやすもっか?」
以前のアダンであったら、倒れるまでツマリと訓練を行っていただろう。
しかし、先日の一件からツマリへの態度が少し変わり、無理をせずにツマリに合わせてもらう機会も増えてきている。
それを感じ取っているのか、ツマリは少し嬉しそうに剣を鞘に納めた。
「……ねえ、アダン?」
「なあに、ツマリ?」
当然の権利とばかりに、近くにあった切り株で休むアダンの膝の上に頭を載せ、顔を横に向けるツマリ。
あまりアダンの顔をグイ、と覗き込むとまたアダンへの想いから『魅了』を発動させてしまうことを避けたということは、アダンにも理解できた。
「あとちょっとで、うまくできそうね?」
「うん。これもツマリが剣の訓練をがんばったからだよ。本当に強くなったね、ツマリは」
「それはアダンも一緒でしょ? あんなに魔法を使えるようになるなんて、驚いちゃった」
お互いを労いながら、ツマリはそっと春風のような温かい思念をアダンに送った。
自身がそれだけ心地よい時間を過ごしている、と言う意味だろう。それに対する返答とばかりにアダンはその春風にざわめく樹木のような思念を返す。
「……フフフ」
「……ハハ」
その思念をやり取りして、お互いは静かに笑いあった。最近はこうやって過ごしてばかりいる。
「こんな風に、ずっと一緒に過ごせたら幸せだよね……」
「うん……。本当は、二人だけで過ごしたいくらいだけど……」
もとより「種族間の格差のない世界」を目指してはいたが、それは結局のところ、大人から吹き込まれた題目である。
今の二人にとっては、実はそんなことよりも二人で一緒に過ごす時間を大切にしたいと感じていた。
だが、かつてともに戦った戦友や、今自分たちについて来ているホース・オブ・ムーンの面々のことを思うと、さすがにすべてを投げ出すわけにはいかないことも二人は理解していた。
(本当に、ツマリは……大人になったな……)
以前よりも重みを感じる膝の感触に、アダンはツマリの頭を撫でながら思う。
(僕のことを思いやってくれるし、剣も身のこなしも、もう僕にはとてもかなわないし……。それに今だって、僕が『魅了』に耐えられないことを知っているから、顔を背けてくれている……。けど……)
精神の未熟さから、自身はまだツマリを異性としてみるかどうかを理解する土俵にすら立っていない。
アダンはそのことでずっと悩んでいた。
そして、アダンは、
「あのさ、ツマリ……。実は僕、セドナさんと話をしてさ……」
決意を込めた口調で、ツマリに話を始めた。
「え? …………うん……」
「それで……」
その話を聴いて、最初は寂しそうだったツマリだったが、やがてアダンの決意を理解できたのだろう、それを受け入れるように頷いた。
「うん……。それがアダンの決めたことなら、良いよ。……けどさ、私はアダンのこと、絶対に忘れないから……」
「ありがとう。……あのさ、ツマリ。この状態なら魅了も効かないよね? だから、これは僕の本心なんだけど……。もう一度はっきり言わせて?」
「……うん……」
ツマリはそう嬉しそうな顔で次の言葉を待った。
「ツマリ、僕はツマリが好きだよ。世界中の誰よりも。これだけは絶対に本当だよ」
その言葉に、ツマリは顔をぐい、とアダンの膝に押し付ける。
「私も。……アダンに恋が出来て……この気持ち、受け止めてもらえて……私は幸せだから……」
兄が自分のことをどう思っているかは分からない。ただ、少なくとも自分を愛してくれていることだけは確実である。そして、自身が兄に対して持つ思慕の念を否定せず受け止めてくれる。
それだけでもツマリには十分だった。
アダンはその言葉に嬉しそうな、一方でどこか寂しそうな表情をしながら、ツマリの頭をもう一度撫でた。
……だが、その数分後。
「……ん?」
遥か北に見える『最下流の砦』から煙が上がっているのを確認した。
「まさか……! ディアンの町が攻めてきたの?」
「え、嘘でしょ? だって北方の地主さんと同盟していたし……戦力は足りないはずじゃない? やけくそで攻め込んできたとか?」
「分からない! とにかく、すぐに帰ろう!」
そう言うと、アダンはツマリの体を起こし、大急ぎで帰途に就いた。
「はあ……見てるこっちが恥ずかしくなるねえ」
「あの二人、やっぱりラブラブだったんすね……」
兵士たちは先日頭に叩き込まれた二人の凄まじい思念と、その翌日以降、まるで恋人同士のようにいちゃつく二人の様子を見て、アダンがツマリを襲ったという噂は誤解であると確信が取れた。
また、クレイズが捉えた密偵に噂を意図的に歪曲したことを洗いざらい白状させたことによって、アダンとツマリに関する誤った情報についても、すべて払しょくすることが出来た。
これによって、いつものように日常を送る生活になっていた。
「アダン? これ美味しいよね?」
「うん! 僕のお肉少し分けてあげるね、ツマリ……」
「ありがと! 後、ご飯食べたら、またお願いね? たーっぷり吸わせて!」
「勿論だよ。ツマリも、しっかり体力付けてね!」
そう言いながら、頬が当たるほどの距離で隣り合い、仲良く食事を摂る二人。
「はい、じゃあいいよ、ツマリ? 頬からがいい?」
「うん! ありがと、アダン。……んく、んく……ぷはあ、あたしもお腹いっぱい」
ツマリはアダンに頬ずりをしながらえへへ、と笑う姿に、周囲はもう、何も突っ込もうとする気は失われていた。
「じゃあ、行こうか、アダン?」
「うん、そうだねツマリ。すみません、クレイズさん。僕達お昼までちょっと出かけます」
「ん? それは構わんが……二人ともどこに行くんだ?」
幸いこの日は午後まで二人が必要になるほど重要な公務はない。
クレイズの質問に、アダンは少し含みを見せた笑顔を見せる。
「え? それは、ね」
「そ、クレイズ。あんたもうすぐ誕生日でしょ? そのプレゼントの準備よ」
「そうそう。クレイズさんにはお世話になったし。……楽しみにしててね?」
「あ、ああ……」
プレゼントなど久しくもらっていなかったこともあるのだろう、手を恋人つなぎにして部屋を出る二人を見送りながらクレイズは少し困惑したような表情を見せる。
「クレイズ隊長、また残してるじゃないっすか!」
そうこうしていると、セドナがやってきて、皿の上に乗っている魚の塩漬けを指さして文句を言ってきた。
「む……すまん、私は……」
「匂いのきついものが苦手ってのは分かりやすが……。大事な食料を無駄にしちゃいけないんすよ?」
「わ、分かっている……」
珍しく子どもじみた表情を向けつつ、クレイズは目を閉じて魚を口に運ぶ。
その様子を苦笑して眺めながら、セドナは答える。
「にしても、クレイズ隊長。二人もすっかり仲直り出来やしたね」
「ああ。私としても嬉しい限りだ」
ふ~……と息をつき、食事を何とか終えたクレイズはそう答える。
「私の部下たちも大喜びでな。やはりあの二人をみな、気にかけていたようだ」
「へえ。一番気にかけていたのは隊長だと思いやすけどね」
「そうかな。……ところで、ディアンの町への侵攻スケジュールはどうだ?」
思い出したように、クレイズは尋ねる。
実際にここ最近は双子兄妹のことは勿論、周辺の治安維持や法律の制定などやるべきことが山積みだったこともあり、殆ど侵攻の予定は立てることが出来なかったためだ。
セドナは一応ある程度兵力や兵糧の確認を行っていたため、少し試算するような様子を見せた後、答える。
「ええ。あのお二人が復帰されたし、来週には行けると思いやすが……」
そこでセドナは少し不安そうな表情を見せた。
「どうした、何かあったのか?」
「いえ、嫌な予感がしただけっす」
一方こちらは、少し城から離れた見晴らしのいい丘の上。
「はあ……はあ……」
「アダン、大丈夫? もうへばった?」
アダンは魔力を使い果たしたのか、息を切らせていた。一方のツマリはまだ余裕そうに剣を振りまわしていた。
「まだ、大丈夫……。だけど、ちょっと休んでいい?」
「え? ……うん。そうだね、ちょっとやすもっか?」
以前のアダンであったら、倒れるまでツマリと訓練を行っていただろう。
しかし、先日の一件からツマリへの態度が少し変わり、無理をせずにツマリに合わせてもらう機会も増えてきている。
それを感じ取っているのか、ツマリは少し嬉しそうに剣を鞘に納めた。
「……ねえ、アダン?」
「なあに、ツマリ?」
当然の権利とばかりに、近くにあった切り株で休むアダンの膝の上に頭を載せ、顔を横に向けるツマリ。
あまりアダンの顔をグイ、と覗き込むとまたアダンへの想いから『魅了』を発動させてしまうことを避けたということは、アダンにも理解できた。
「あとちょっとで、うまくできそうね?」
「うん。これもツマリが剣の訓練をがんばったからだよ。本当に強くなったね、ツマリは」
「それはアダンも一緒でしょ? あんなに魔法を使えるようになるなんて、驚いちゃった」
お互いを労いながら、ツマリはそっと春風のような温かい思念をアダンに送った。
自身がそれだけ心地よい時間を過ごしている、と言う意味だろう。それに対する返答とばかりにアダンはその春風にざわめく樹木のような思念を返す。
「……フフフ」
「……ハハ」
その思念をやり取りして、お互いは静かに笑いあった。最近はこうやって過ごしてばかりいる。
「こんな風に、ずっと一緒に過ごせたら幸せだよね……」
「うん……。本当は、二人だけで過ごしたいくらいだけど……」
もとより「種族間の格差のない世界」を目指してはいたが、それは結局のところ、大人から吹き込まれた題目である。
今の二人にとっては、実はそんなことよりも二人で一緒に過ごす時間を大切にしたいと感じていた。
だが、かつてともに戦った戦友や、今自分たちについて来ているホース・オブ・ムーンの面々のことを思うと、さすがにすべてを投げ出すわけにはいかないことも二人は理解していた。
(本当に、ツマリは……大人になったな……)
以前よりも重みを感じる膝の感触に、アダンはツマリの頭を撫でながら思う。
(僕のことを思いやってくれるし、剣も身のこなしも、もう僕にはとてもかなわないし……。それに今だって、僕が『魅了』に耐えられないことを知っているから、顔を背けてくれている……。けど……)
精神の未熟さから、自身はまだツマリを異性としてみるかどうかを理解する土俵にすら立っていない。
アダンはそのことでずっと悩んでいた。
そして、アダンは、
「あのさ、ツマリ……。実は僕、セドナさんと話をしてさ……」
決意を込めた口調で、ツマリに話を始めた。
「え? …………うん……」
「それで……」
その話を聴いて、最初は寂しそうだったツマリだったが、やがてアダンの決意を理解できたのだろう、それを受け入れるように頷いた。
「うん……。それがアダンの決めたことなら、良いよ。……けどさ、私はアダンのこと、絶対に忘れないから……」
「ありがとう。……あのさ、ツマリ。この状態なら魅了も効かないよね? だから、これは僕の本心なんだけど……。もう一度はっきり言わせて?」
「……うん……」
ツマリはそう嬉しそうな顔で次の言葉を待った。
「ツマリ、僕はツマリが好きだよ。世界中の誰よりも。これだけは絶対に本当だよ」
その言葉に、ツマリは顔をぐい、とアダンの膝に押し付ける。
「私も。……アダンに恋が出来て……この気持ち、受け止めてもらえて……私は幸せだから……」
兄が自分のことをどう思っているかは分からない。ただ、少なくとも自分を愛してくれていることだけは確実である。そして、自身が兄に対して持つ思慕の念を否定せず受け止めてくれる。
それだけでもツマリには十分だった。
アダンはその言葉に嬉しそうな、一方でどこか寂しそうな表情をしながら、ツマリの頭をもう一度撫でた。
……だが、その数分後。
「……ん?」
遥か北に見える『最下流の砦』から煙が上がっているのを確認した。
「まさか……! ディアンの町が攻めてきたの?」
「え、嘘でしょ? だって北方の地主さんと同盟していたし……戦力は足りないはずじゃない? やけくそで攻め込んできたとか?」
「分からない! とにかく、すぐに帰ろう!」
そう言うと、アダンはツマリの体を起こし、大急ぎで帰途に就いた。
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