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第5章
相手を元気づけるために大事なカミングアウトする展開、良いよね
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それから数日が経過した。
「アダンがツマリを襲おうとした」と言う話はあっという間に城内に広まった。
これにより、アダンに対しての評判は地に落ちていた。
しかしアダンにとって幸いだったのは、ツマリの部屋の窓側から一部始終を目撃していたセドナが居たことだろう。
クレイズとセドナ、そして元帝国兵の面々はその噂が確実に嘘であると確信できた。
彼らはツマリとともにその事実を否定しようとした。
だが、その説明もむなしく『ツマリは、アダンに無理やり言わされている』と誤解される形になり、噂の広まりを鎮めることは出来なかった。
「セドナ、ツマリの様子は……」
「……だめっす……」
その噂によって完全に心が折れてしまったツマリは、部屋に閉じこもり出てこなくなった。
近づこうとしても凄まじい力の思念によって拒絶されてしまい、誰もその部屋には行くことが出来なかった。
「そうか……。もう今日で7日になるが……何か食べていないのか?」
「いえ……。もう部屋の前に物を置くことも出来やせんし……」
セドナはそう答えた。
幸いツマリの部屋は城内でも大きな部屋であり、水道や調味料が置かれたキッチンもある。その為、水と塩だけは自室内で確保できているのは不幸中の幸いだろう。
「おお、やはりそうか! 我が愛しのツマリが臥せっているというのは本当だったのだな?」
突然城内に響いたその声を聴き、クレイズははあ、とため息を漏らした。
「ギラル卿ですか……。頼みますから、ツマリにはちょっかいを出さないでください」
「そう連れないことを言わないでくれないか? ツマリに見舞いの花を持ってきたのだぞ?」
「ああ、そうですか……全く、女の子のことになると仕事は早いんですね」
そう言いながら見せつけた花束を興味なさそうに見つめるクレイズ。
「それにしても、不自然とは思いませんか?」
クレイズは、その数日間の噂の広まり方に違和感を覚えていた。そのことをギラル卿に尋ねる。
「不自然、とは?」
ギラル卿は思わずつぶやく。
「ええ。アダンが帰ってきたときにもそうでしたが、いくらなんでも噂が広まるのが早すぎます。それに、噂を撤回しようとしても、ツマリ本人が説明したにも関わらず、異常なほどうまくいかない。何か人為的な悪意を感じます」
ギラル卿はなるほど、と頷いた。
「ふむ……。確かに言われてみればそうだな。普段この城の噂の広まり方は種族の違いもあり、大きくはない。それなのにツマリの件は一日で城内の皆の知ることになった」
そのギラル卿の発言を聴き、クレイズはニヤリ、と笑った。
「そうですよね? 恐らくですが、誰かが人為的に情報を操作している、と言うことは考えられませんか?」
ギラル卿もその発言に対して「ふむ」とうなづいた。
「私の頭脳が導いた仮説だが……。噂を流したのは、ホース・オブ・ムーンに恨みを持つものではないか? 彼らが領地にある鉱山を奪還しようとするために内部分裂を図った、と考えれば納得も行くだろう」
クレイズはそれを聞き、やや大げさな様子でギラル卿をほめちぎった。
「そうか……! それですよ! 流石、ギラル卿ですね! 鉱山の奪還を狙ったもの、と言うのは盲点でした……!」
普段冷静なクレイズに手放しでほめられたのが嬉しかったのか、ギラル卿はハハハ、と少し照れる様子を見せた。
「元四天王殿にそう言われるとは、私の考えもたまには役に立つものだな。だが、問題は誰がその情報を流したかというところか……そなたたちは、思い当たるところはないか?」
「いえ……。セドナは、あるか?」
「考えられるとしたらダリアークの姐御っすかねえ……。ただ、多分違う気がすんですよね。あの人は、我々を寧ろ『潰さないように』動いてる節がありやすから」
「確かに、それも不自然とは思うが……。それは今回、関係ないだろう。少なくとも実行犯でないのは確実だ」
そこまで聴いて、セドナは少し疑問を持つように尋ねる。
「確かに、そうっすよねえ……。けどひょっとしたら、動機はもっとシンプルなんじゃないっすか?」
「ほう?」
「例えばツマリさんが好きな人か、アダンさんが嫌いなお偉いさんが、誰かに金を渡して噂を広めた、とか……」
「フ……ハハハハハ! それは凄い! 大した無駄遣いだな!」
その発言に、クレイズは勿論周囲に居た元帝国兵たちも大げさに笑う。つられて、ギラル卿も笑い居だした。
「え? そ、そんなに笑うことっすか?」
「ハハハ、いくら何でも、そこまでするものはいないのではないか?」
「ですよね。いくらギラル卿でも、我が国の密偵にそんな指示を出したりはしませんよね?」
「ああ、私だって、そのような指示は出してはおらんよ」
「……そうか」
その発言を待っていた、とばかりにクレイズはいつもの冷静な表情に戻り、
元帝国兵と共に、サッとギラル卿を取り囲んだ。
「……な、なんだ、急にお前たちは……」
「先ほど『ツマリの件は一日で城内の皆の知ることになった』って言いましたよね? なんで他国に居たあなたがそのことを知ってるんですか?」
「ぐ……それは城の兵士に聴いたのだ……」
必死で言い訳をしようとするが、クレイズは無視して続ける。
「それに、あなたは『そのような指示を出したりはしない』と言いましたね? ……ということは、やはりこの国に密偵を放っていた、という自白になる。……誰が密偵か、白状していただけませんかね? それと、しっかりとこの借りの分は返していただきますよ?」
ギラリ、と睨みつけるクレイズ達に、思わずギラル卿は泣きそうな顔で答えた。
「む……わ、分かった。だから、勘弁してくれ……」
その夜。
ツマリはまた、一人で部屋の中でうずくまっていた。
(私は……もうアダンと一緒に、いない方が良いよね……)
アダンの評判をさらに失墜させたことで、ツマリはますます自己嫌悪に陥っていた。
また、自己嫌悪の理由はそれだけじゃない。先日の夜の自身の態度についても同様だった。
(無理やり、アダンから精気を奪って……それでも足りないって見苦しく貪って、かみついて、傷つけて、挙句の果てに吐き出して……。最低だよ、私は……)
さらに、それだけのことをしても、心の中からアダンを求める飢餓感がまた表れていることが何よりも自身の心を苦しめていた。
(もう、ダメ……。私はアダンが好き……アダンを全部欲しい……この気持ちが、また湧き上がってくる……! アダンのこと、何もかも奪ってる私に、そんなこと思う資格なんてないのに! もう、アダンに合わせる顔なんてないのに……!)
だが、先日の強引なエナジードレインの件もあり、その狂気にも近い感情を精神力で抑え込んでいた。
(なんで、私はサキュバスなの……? どうして、アダンと私は兄妹なの? そうじゃなかったら……よかったのかな……)
そう思いながら、ツマリは膝を抱えながら涙をこぼしていた。
……それから、何時間もそうしていただろうか。
(また、誰か来た……)
またいつものようにコツコツと足音が自身の部屋に向かって響くのが聞こえてきた。
自身を励ましに来たか、叱咤に来たのか、いずれにせよツマリには顔を見る気などはなかった。
(帰れ!)
そう強い思念を送るが、足音は近づき続ける。
(ほっといて!)
ツマリはそう、さらに強い思念を送るが、足音は乱れる気配すらない。
(どうして……?)
自身の思念の強さと大きさは誰にも負けないほどだと自負しているし、今まではこの方法で多くの訪問者を追い返してきた。
それにもかかわらず、全く効果がない。……となると、そんな人物は一人しか思い浮かばなかった。
「……セドナね?」
ツマリがそう訊ねると、ドアの向こうから予想通りの声が返ってきた。
「ええ。……ツマリさん、その……」
セドナの声だ。だが、ツマリはそれを聞こうともせずに、
「帰ってよ! もうあたしは誰にも会いたくないんだから!」
そう叫び、
「いえ、今日はお話を聴かせていただくまでは帰りやせん」
「嫌よ! 帰ってったら帰って!」
さらに最高威力の思念を飛ばす。至近距離ならショックで気絶してもおかしくないほどだ。
「はあ……はあ……」
思念を何度も飛ばしすぎたためか、息を切らすツマリ。
だが、セドナは平然と答えた。
「……あっしに思念は聴きやせんよ。あっしには『心が無い』んすから」
「え……?」
その発言にツマリは一瞬アダンのことを忘れ、絶句した。
過去に『心が無い』と言うことを自称する相手は吐いて捨てるほど見てきた。
だがそれは単に比喩表現であり、その誰もが思念を叩きつけると悶絶し、剣で切り裂くと悲鳴を上げていた。
……だが、思い起こすと、セドナは今まで剣で斬られて悲鳴を上げたことも、疲労を訴えたこともない。
それどころか、食事を誰かとする場面もほとんど見ておらず、寝ているところも見たことがない。
そして何より、先日のやり取りを『窓側から』見つめていたというが、人間の視力であんな闇夜に、自身たちが見える訳がない。
そのことに気づいたツマリは、半ば恐怖にも似た表情で、セドナに尋ねる。
「あんた……何者なの?」
「ええ。今日はそれをお伝えするつもりでも来やした」
そう言うとアダンは少し間をおいて、答えた。
「あっしの正体は『転移物』なんす」
「転移物……だって、あんたは人間じゃあ……」
「いえ、あっしはロボット……いや、ゴーレムの一種です。正式名称は『衛生兵ロボット・セドナ2型』なんす」
「ゴーレム……? うそ、でしょ……?」
だが、今までの言動から考えてセドナが人間でないことは理解できた。
思わずツマリはドアの前までににじりより、のぞき穴からセドナの様子を見た。
「すいやせん……中々いう機会がなくって……。実は、クレイズ隊長にも先日お伝えしたんす」
そう言うとセドナはのぞき穴越しに自身の瞳を見せた。
「間近で見たらわかりやすよね? ……あっしの瞳は、レンズ……いえ、遠眼鏡になってるんす」
ういーん、ういーん、とその瞳の中が動くのが分かった。
「アダンがツマリを襲おうとした」と言う話はあっという間に城内に広まった。
これにより、アダンに対しての評判は地に落ちていた。
しかしアダンにとって幸いだったのは、ツマリの部屋の窓側から一部始終を目撃していたセドナが居たことだろう。
クレイズとセドナ、そして元帝国兵の面々はその噂が確実に嘘であると確信できた。
彼らはツマリとともにその事実を否定しようとした。
だが、その説明もむなしく『ツマリは、アダンに無理やり言わされている』と誤解される形になり、噂の広まりを鎮めることは出来なかった。
「セドナ、ツマリの様子は……」
「……だめっす……」
その噂によって完全に心が折れてしまったツマリは、部屋に閉じこもり出てこなくなった。
近づこうとしても凄まじい力の思念によって拒絶されてしまい、誰もその部屋には行くことが出来なかった。
「そうか……。もう今日で7日になるが……何か食べていないのか?」
「いえ……。もう部屋の前に物を置くことも出来やせんし……」
セドナはそう答えた。
幸いツマリの部屋は城内でも大きな部屋であり、水道や調味料が置かれたキッチンもある。その為、水と塩だけは自室内で確保できているのは不幸中の幸いだろう。
「おお、やはりそうか! 我が愛しのツマリが臥せっているというのは本当だったのだな?」
突然城内に響いたその声を聴き、クレイズははあ、とため息を漏らした。
「ギラル卿ですか……。頼みますから、ツマリにはちょっかいを出さないでください」
「そう連れないことを言わないでくれないか? ツマリに見舞いの花を持ってきたのだぞ?」
「ああ、そうですか……全く、女の子のことになると仕事は早いんですね」
そう言いながら見せつけた花束を興味なさそうに見つめるクレイズ。
「それにしても、不自然とは思いませんか?」
クレイズは、その数日間の噂の広まり方に違和感を覚えていた。そのことをギラル卿に尋ねる。
「不自然、とは?」
ギラル卿は思わずつぶやく。
「ええ。アダンが帰ってきたときにもそうでしたが、いくらなんでも噂が広まるのが早すぎます。それに、噂を撤回しようとしても、ツマリ本人が説明したにも関わらず、異常なほどうまくいかない。何か人為的な悪意を感じます」
ギラル卿はなるほど、と頷いた。
「ふむ……。確かに言われてみればそうだな。普段この城の噂の広まり方は種族の違いもあり、大きくはない。それなのにツマリの件は一日で城内の皆の知ることになった」
そのギラル卿の発言を聴き、クレイズはニヤリ、と笑った。
「そうですよね? 恐らくですが、誰かが人為的に情報を操作している、と言うことは考えられませんか?」
ギラル卿もその発言に対して「ふむ」とうなづいた。
「私の頭脳が導いた仮説だが……。噂を流したのは、ホース・オブ・ムーンに恨みを持つものではないか? 彼らが領地にある鉱山を奪還しようとするために内部分裂を図った、と考えれば納得も行くだろう」
クレイズはそれを聞き、やや大げさな様子でギラル卿をほめちぎった。
「そうか……! それですよ! 流石、ギラル卿ですね! 鉱山の奪還を狙ったもの、と言うのは盲点でした……!」
普段冷静なクレイズに手放しでほめられたのが嬉しかったのか、ギラル卿はハハハ、と少し照れる様子を見せた。
「元四天王殿にそう言われるとは、私の考えもたまには役に立つものだな。だが、問題は誰がその情報を流したかというところか……そなたたちは、思い当たるところはないか?」
「いえ……。セドナは、あるか?」
「考えられるとしたらダリアークの姐御っすかねえ……。ただ、多分違う気がすんですよね。あの人は、我々を寧ろ『潰さないように』動いてる節がありやすから」
「確かに、それも不自然とは思うが……。それは今回、関係ないだろう。少なくとも実行犯でないのは確実だ」
そこまで聴いて、セドナは少し疑問を持つように尋ねる。
「確かに、そうっすよねえ……。けどひょっとしたら、動機はもっとシンプルなんじゃないっすか?」
「ほう?」
「例えばツマリさんが好きな人か、アダンさんが嫌いなお偉いさんが、誰かに金を渡して噂を広めた、とか……」
「フ……ハハハハハ! それは凄い! 大した無駄遣いだな!」
その発言に、クレイズは勿論周囲に居た元帝国兵たちも大げさに笑う。つられて、ギラル卿も笑い居だした。
「え? そ、そんなに笑うことっすか?」
「ハハハ、いくら何でも、そこまでするものはいないのではないか?」
「ですよね。いくらギラル卿でも、我が国の密偵にそんな指示を出したりはしませんよね?」
「ああ、私だって、そのような指示は出してはおらんよ」
「……そうか」
その発言を待っていた、とばかりにクレイズはいつもの冷静な表情に戻り、
元帝国兵と共に、サッとギラル卿を取り囲んだ。
「……な、なんだ、急にお前たちは……」
「先ほど『ツマリの件は一日で城内の皆の知ることになった』って言いましたよね? なんで他国に居たあなたがそのことを知ってるんですか?」
「ぐ……それは城の兵士に聴いたのだ……」
必死で言い訳をしようとするが、クレイズは無視して続ける。
「それに、あなたは『そのような指示を出したりはしない』と言いましたね? ……ということは、やはりこの国に密偵を放っていた、という自白になる。……誰が密偵か、白状していただけませんかね? それと、しっかりとこの借りの分は返していただきますよ?」
ギラリ、と睨みつけるクレイズ達に、思わずギラル卿は泣きそうな顔で答えた。
「む……わ、分かった。だから、勘弁してくれ……」
その夜。
ツマリはまた、一人で部屋の中でうずくまっていた。
(私は……もうアダンと一緒に、いない方が良いよね……)
アダンの評判をさらに失墜させたことで、ツマリはますます自己嫌悪に陥っていた。
また、自己嫌悪の理由はそれだけじゃない。先日の夜の自身の態度についても同様だった。
(無理やり、アダンから精気を奪って……それでも足りないって見苦しく貪って、かみついて、傷つけて、挙句の果てに吐き出して……。最低だよ、私は……)
さらに、それだけのことをしても、心の中からアダンを求める飢餓感がまた表れていることが何よりも自身の心を苦しめていた。
(もう、ダメ……。私はアダンが好き……アダンを全部欲しい……この気持ちが、また湧き上がってくる……! アダンのこと、何もかも奪ってる私に、そんなこと思う資格なんてないのに! もう、アダンに合わせる顔なんてないのに……!)
だが、先日の強引なエナジードレインの件もあり、その狂気にも近い感情を精神力で抑え込んでいた。
(なんで、私はサキュバスなの……? どうして、アダンと私は兄妹なの? そうじゃなかったら……よかったのかな……)
そう思いながら、ツマリは膝を抱えながら涙をこぼしていた。
……それから、何時間もそうしていただろうか。
(また、誰か来た……)
またいつものようにコツコツと足音が自身の部屋に向かって響くのが聞こえてきた。
自身を励ましに来たか、叱咤に来たのか、いずれにせよツマリには顔を見る気などはなかった。
(帰れ!)
そう強い思念を送るが、足音は近づき続ける。
(ほっといて!)
ツマリはそう、さらに強い思念を送るが、足音は乱れる気配すらない。
(どうして……?)
自身の思念の強さと大きさは誰にも負けないほどだと自負しているし、今まではこの方法で多くの訪問者を追い返してきた。
それにもかかわらず、全く効果がない。……となると、そんな人物は一人しか思い浮かばなかった。
「……セドナね?」
ツマリがそう訊ねると、ドアの向こうから予想通りの声が返ってきた。
「ええ。……ツマリさん、その……」
セドナの声だ。だが、ツマリはそれを聞こうともせずに、
「帰ってよ! もうあたしは誰にも会いたくないんだから!」
そう叫び、
「いえ、今日はお話を聴かせていただくまでは帰りやせん」
「嫌よ! 帰ってったら帰って!」
さらに最高威力の思念を飛ばす。至近距離ならショックで気絶してもおかしくないほどだ。
「はあ……はあ……」
思念を何度も飛ばしすぎたためか、息を切らすツマリ。
だが、セドナは平然と答えた。
「……あっしに思念は聴きやせんよ。あっしには『心が無い』んすから」
「え……?」
その発言にツマリは一瞬アダンのことを忘れ、絶句した。
過去に『心が無い』と言うことを自称する相手は吐いて捨てるほど見てきた。
だがそれは単に比喩表現であり、その誰もが思念を叩きつけると悶絶し、剣で切り裂くと悲鳴を上げていた。
……だが、思い起こすと、セドナは今まで剣で斬られて悲鳴を上げたことも、疲労を訴えたこともない。
それどころか、食事を誰かとする場面もほとんど見ておらず、寝ているところも見たことがない。
そして何より、先日のやり取りを『窓側から』見つめていたというが、人間の視力であんな闇夜に、自身たちが見える訳がない。
そのことに気づいたツマリは、半ば恐怖にも似た表情で、セドナに尋ねる。
「あんた……何者なの?」
「ええ。今日はそれをお伝えするつもりでも来やした」
そう言うとアダンは少し間をおいて、答えた。
「あっしの正体は『転移物』なんす」
「転移物……だって、あんたは人間じゃあ……」
「いえ、あっしはロボット……いや、ゴーレムの一種です。正式名称は『衛生兵ロボット・セドナ2型』なんす」
「ゴーレム……? うそ、でしょ……?」
だが、今までの言動から考えてセドナが人間でないことは理解できた。
思わずツマリはドアの前までににじりより、のぞき穴からセドナの様子を見た。
「すいやせん……中々いう機会がなくって……。実は、クレイズ隊長にも先日お伝えしたんす」
そう言うとセドナはのぞき穴越しに自身の瞳を見せた。
「間近で見たらわかりやすよね? ……あっしの瞳は、レンズ……いえ、遠眼鏡になってるんす」
ういーん、ういーん、とその瞳の中が動くのが分かった。
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