追放された元勇者の双子兄妹、思春期に差し掛かり夢魔の血に目覚めたことで、互いが異性に見えすぎて辛いです。

フーラー

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第3章

双子に差が付き始めて、お互い劣等感を持つの良いよね

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それから数刻後。
砦の敵兵は見事にセドナ達の立てた旗に引っかかり、こちらを大軍と考えたのであろう兵士たちが押し寄せてきた。

「はあ!」

先陣を真っ先に突っ切るのは体力に優れるツマリ。
やはり勇者と言われただけのことはあり、疾風のように敵陣に飛び込み、次々に敵を切り裂いていく。

「てめえ、まさかこっちに来るとはな! くらえ!」
「くっ!」

とはいえ、さすがに種族の差はあるのだろう、ドワーフ兵相手ではやや分が悪い。

「任せて、ツマリ!」

だが、そこで戦うのはアダン。ツマリほどではないが素早い身のこなしで懐にもぐりこみ、炎の槍を急所に打ち込む。

「ありがと、アダン!」
「僕に合わせて!」

アダンはそう言うと、呪文を唱え大きな火柱を両手から打ち上げる。
それは上空から大きく身を揺るがせ、龍のように敵の部隊を焼き払う。

「今ね!」

その中をツマリが突撃する。
恐らく思念で会話をしているのだろう、何重にも飛び交う炎の龍は丁寧にツマリをよける。その中で仕留め損ねた兵たちをツマリは神速の早わざで切り裂いていく。

「ふう……あちちっ!」

敵の第一陣を片付けたところで、ツマリは腕を抑えながらアダンの傍に戻る。

「え? ご、ごめん、もしかして僕の炎が当たった?」

今まで、この戦い方でアダンはツマリに怪我をさせたことは一度もなかった。それゆえに、この失敗にひどく狼狽した様子を見せた。

「え? ……うん、ごめん、私が思念を受け取れなかったみたい……」

それはツマリも同様である。だが、怪我自体は大したことがないのだろう、平然と笑みを浮かべた。
アダンの回復魔法による応急処置を受けながら、ツマリは提案する。

「……ねえ、ツマリ?」
「なに、アダン?」
「もうすぐ増援が来そうだけど……。こっから先は別々に戦わない?」
「……え、どうして?」
「今日は僕の魔法の調子が悪いみたいだし……。それに、増援の数が多いから、一緒に戦っていたら後ろの仲間たちが襲われちゃうよ」

当然二人は常に一緒でなければ戦えない訳ではないし、そのような戦闘経験も豊富に行ってきた。

「……そうね。じゃあ、反対は任せたわよ!」
ツマリはうなづくと、迫りくる敵の増援に突っ込んでいった。




「はあ!」
「ぐわあ!」

幸い精兵は城と『最下流の砦』に集中しているらしく、ツマリの腕であればそうそう敗北することは無い相手だった。
そのこともあるのだろう、ツマリは先ほどのやり取りについて煩悶していた。

(アダン……どんどん私より頭もよくなってきて……それに、いろんな女にモテるようになってきている……それに比べて、私は……頭も悪いし、初対面の人とうまく話すことも出来ない……双子なんて言ってるけど、落ちこぼれだよ……)

ツマリは敵兵が放ってきた矢を打ち払う。

(それに……精気をアダンから求めてばっかりだし……。私は、アダンに何もしてあげられていない……。さっきは本当にひどかったよね、私……。無理やりアダンから精気を奪いつくして……。けど……)

そう思い一瞬手が止まったところを敵兵の槍が襲う。

「きゃあ!」

それを間一髪躱したところで、左側から強烈な閃光が敵兵をはじいた。

「大丈夫、ツマリ?」
「うん、ごめんね、アダン!」

ツマリは剣を持ち直した。

(さっき、アダンが流してきた思念……。『拒絶』はしてこなかったよね……。いつもと同じ、暖かい気持ちが伝わってきた……。ひょっとして、アダンも私のこと……!)

別の敵兵がツマリの脇を抜けようとしたが、今度は油断をせずにツマリは振り返り、強力な一閃によって敵を斬りつけた。

(って、何考えてるのよ、私は……! けど、アダンから貰うだけじゃ、きっと嫌われていなくなっちゃう……! そんなの、嫌だ! どうすれば……アダンはずっとそばにいてくれるんだろう……)

ギリギリと歯ぎしりをするように、ツマリは目の前の敵を全て片付けた。

(そうだ……。アダンが離れないために……私から、アダンにあげればいいんだよ……。きっと、私ノこと、全部アゲレバ……。もう、ずっと一緒ニ居ラレル……。それに、私も、アダンの心も体も全部、欲しイ……って、なに考えてるのよ、私は?)

自身の心の中から湧き上がってきた声に戦慄するように、ツマリは身を震わせた。

(とにかく、今は戦わないと! 生きて帰らないと、アダンと!)
その思いを打ち消すように、ツマリは剣を振るい続けた。




「な……インキュバスが、我々エルフを上回る魔法を……」
「はあ……はあ……。ごめんなさい……」

ドワーフの一団を魔法によって打ち払いながら、アダンも考えていた。

(ツマリ……。力も強くなっているし、身のこなしも速くなっている……。さっきも、力負けしちゃったし……。それに比べて、僕は……。ツマリに守ってもらってばかりだし、仲間と明るく振舞えないし……僕は双子の落ちこぼれだよね……)

アダンは樹上に飛び乗り、敵兵の索敵を行う。後方に向かおうとする兵士たちを確認し、呪文の詠唱を始める。

(それに……。ツマリ、最近本当に大人っぽくなって、可愛くなったよね……。さっきもツマリに手を掴まれなかったら、抱きしめていたよね……けど、両親と約束したのに……僕はツマリに『与える側』だって……ツマリから何も奪っちゃダメなのに……)

アダンが呪文を唱え終えた瞬間、背後から迫っていた敵兵が、アダンの居る樹の上に一瞬で飛び乗り、首筋めがけてナイフを走らせようとする。

「しまった!」

だが、それより早く、ツマリが投げつけたナイフ……おそらく敵から鹵獲したものだろう……を投げつけ、敵兵は樹上から墜落した。

「しっかりして、アダン!」
「ごめんね、ツマリ!」

アダンはセドナ達が居る後方に向かう敵がいなくなったのを確認し、樹上から降りた。
(けど、さっき流れ込んできた思念……。「好き」「大好き」「嬉しい」ってそんな気持ちが流れ込んできて……。僕も嬉しかったな……。本当は、一晩中抱き合って……ずっと思念の海に溺れていたいくらい……。ツマリが愛してくれるなら、僕は……)

今度はアダンの正面からエルフの一団が剣を手に迫ってきた。
しかし、アダンもツマリほどではないが『勇者』と言われたほどの腕はある。一団を一瞬のうちに切り伏せた。

(ツマリが傍にいてくれるだけでも幸せだったのに……。それ以上は求めちゃだめだよね……! けど僕は、ツマリを……。って、何考えてるんだよ、僕は! このクソ野郎!)

突然頭に浮かび上がってきた一瞬の心象風景に恐ろしいほどの嫌悪感を抱いたアダンは、赤く染まる瞳に炎を映しながら、巨大な火球を生み出す。

(そんなことより、今は砦の兵士たちを呼び寄せないと! セドナさんやクレイズさんにも迷惑がかかっちゃう!)
そして、そんな想いを振り払うように、アダンは火球を敵兵に投げつけた。





「すげえな、あの二人……。本当に二人だけで敵兵を倒してやがる……」
「ああ、俺たちの出番なんてなかったな……」
「何言ってんだい、さぼるんじゃないよ! ……ほら、そっちに敵が来てるよ!」
「え、ほんとだ! ……この、この!」

恐らく戦いの経験がないのだろうインキュバス兵は、手に持ったメイスで敵兵を殴りつける。
彼らの仕事は、後方での敵のうち漏らしの撃破と煙幕によるかく乱、並びに自軍を大軍に見せかけるための大騒ぎをすることである。
因みに聖走隊の中にも武勇に覚えのある兵もわずかだが居たため、その者らは勇者兄妹のすぐ後ろで、万一のラッキーパンチにより二人が倒されないように援護を行っている。

「うへえ……。さすがは勇者兄妹っすねえ……! 前からあのお二人の武勇は知っていやしたが、さすが、クレイズ隊長に勝利しただけのことはありやすね」

一方のセドナは後方で、まだ息のある兵士の応急処置を行っている。

「そうだな。にしてもあんた、なんで敵兵の治療までやってんだ?」

その様子に兵士たちは不思議に思いながら尋ねた。むろんセドナは、敵兵については回復後に砦に戻られないよう、最低限の拘束は行っている。

「そりゃ、あっしらがこの国を落とした後は味方兵になるんすよ? その後、みっちり働いてもらうためっすよ」
「ふーん……。なんか嘘くさいけどねえ……」

兵士は疑いのまなざしでこちらを見ている。
実際、この行動はセドナがかなり無理を言ってクレイズに頼み込んだものだ。
セドナはいわゆる『チート主人公』のような力は持たないが、それでもそこらの近衛兵程度の兵力はある。
そんなセドナが『部隊に余裕があるとき』という条件付きとはいえ、後方支援に回るのは痛手になると判断されたからだ。
また、この世界で『敵味方の区別なく』治療するような発想をするものが居なかったことも、反対を受けた理由である。
兵士はその様子を眺めながら尋ねた。

「けどさ。あんたもそこそこ強いって聞くけどさ。なんか戦ってる時よりイキイキしてないか?」
「ええ。あっしは以前衛生兵だったんす。それに、こうやって誰かに奉仕するのが好きなんすよ」
「へえ。なんか変わってんな。ま、俺も戦うなんてまっぴらだけどな」

そう言うと、その兵士も何か思うところがあったのかセドナの治療を手伝い始めた。

「ありがとうごぜえやす。今日はあのお二人も調子がよさそうですし、治療に専念できそうっすね」
「調子が? あの二人が? ……いや、逆だろ?」

セドナの発言に、意外そうな表情で兵士は答える。

「へ? いや、なんでわかるんすか?」

はあ? と訳が分からないような表情を兵士が見せてきた。

「さっきから、あの二人の思念が伝わってんだけどさ……。よくわかんねえけどすっげー混乱してるぜ? まるで戦いに集中できてねえよ。だから、混乱を振り払うみたいに、あんなに力任せに戦ってんだろ?」
「へえ……。あ、いや、そうっすね?」

その兵士の発言に周囲も頷いているのを見て、セドナは焦るように同意した。
夢魔の『思念』は伝えるつもりで送っても、ごく簡単な掛け声程度のものしか伝えることは出来ない。
特別思念が強い双子兄妹であれば無意識に垂れ流す『思念』も周囲に伝わるが、頭に響く声の大きさと範囲が広がるだけで、その伝えられる情報量自体は変わらない。
その為、周囲には幸か不幸かこの兄妹が『混乱している』くらいのことしか伝わらず、悩みの詳細については理解されていない。

「……まあ、今の状況ならそれでも負けなそうだけどよ……けどよ、いくら何でもこんなに強い思念を感じないって、あんたの方がやばいかもしれないな。少し休んだらどうだ?」
「いえ……。あっしは平気っす。……それはそうと、敵の増援が片付きそうっすね。これが終わったら茂みに陣を張りやしょう」

兵士の質問に、セドナはごまかすように話題をそらした。
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