追放された元勇者の双子兄妹、思春期に差し掛かり夢魔の血に目覚めたことで、互いが異性に見えすぎて辛いです。

フーラー

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第3章

双子が同時に同じことを相手に思う瞬間、良いよね

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それから数週間が経過した。
クレイズ一行がエルフの兵士たちを僅か数十名で古城を落としたという話は近隣の村落にも伝わっていた。
もとよりこのあたりは帝国、その前はエルフたちの国によって重税が課されていた場所である。
その為『エルフたちに頼らない、自分たち少数民族のための国を作る』というスローガンを掲げたアダンやツマリの理念に共感した村民が続々とやってきていた。



古城にある謁見室で、クレイズは村長と交渉を行っていた。

「……と言うわけで、私の土地をあなたに寄進させていただきます」
「であれば、ありがたく。税率はこれくらいでよろしいですか?」
「おお、それであれば我々の生活も楽になります!それと……うちの若者で土地を相続できないものが居まして……そのものらが『反乱軍に入りたい』と言っているのですが……」
「なるほど……。いかがでしょう、アダン様、ツマリ様」

クレイズは粗末な玉座に腰かけたアダンとツマリに尋ねる。

「勿論大歓迎です!ぜひ来てください」
「一緒に私たちの国を作りましょうね!」

その発言に村長はおお、と笑みを浮かべた。

「それはありがたい! それでは早速、村民にお触れを出していきます!」

村長と思しき人狼が出ていくと、ふう……とクレイズはため息をついた。

「やはり、こういう交渉事は苦手だな……」
「すいやせんね。あっしは奉仕すんのは好きなんすけど、支配するのはどうも性に合わねえんで……」

セドナはそう言いながら、書類を次々に片付けていた。

「それにしても、セドナのアイデアに助けられたよ。さすがは『影の王』と言われるだけのことはあるな」

クレイズはセドナのアイデアに感心しながら答えた。
例え古城を奪ったとしても、領地がなければ反乱の足掛かりにすることは不可能だ。
かといって、他の村々を侵略して「今日からこの土地は我々が接収する」と言ったところで村民が言うことを聞くとは限らない。そもそも帝国はその方法で村民の怒りを買って協力を得られなかったことも先の敗戦に繋がっている。

そこでセドナが出したアイデアは「逆に村民に領地を寄進してもらう」という方法であった。
自分から土地を奪いに行くのではなく「反乱軍の直轄地の税制は〇%」と言う形で伝達し、所有権をこちらに譲渡させるように促す形にする。
このようにすれば村落は『自身の土地を反乱軍に守ってもらうこと』『低い税制で暮らし向きが明るくなること』と言うメリットがあるため、積極的に土地を譲渡してくれる、と言う形である。

このような領地確保の手段やけが人のより生存率の高い治療方法など、様々なアイデアを次々に出していくセドナは、帝国の側近に居た頃は『影の王』と周囲は話していた。
ダリアークがセドナをそのように呼ぶのも、それが背景にある。
しかし、セドナは謙遜するようにつぶやいた。

「いえ、アイデアを出すだけならだれでも出来やす。寧ろそれをきちんと実行できるクレイズ隊長たちの方が凄いっすよ」
「本当にそう思うよ。ボク達だけじゃ、あんな風に交渉できないから」

アダンも玉座に座ったまま、そう答えた。

因みに『玉座』と言うが、この城は元々要塞に近い性質で作られていたこともあり、豪奢な作りの椅子などなかった。その為、食卓にあった客人用の二人掛けのソファをそのまま使用している。

「まあ、向こうに協力の意思があったからこそだな。背後に君たちの武力があるから、交渉はうまく行くんだよ」

それを聞き、同じく玉座に座っていたツマリも気を良くした。

「でしょ、でしょ? あたしとお兄ちゃんが居るからみんな話聞いてくれるんだから!ね?」

そう言うと、ツマリはアダンの手に自身の手を乗せようとしたが、アダンはそれをさりげなくかわす。

「う、うん、そうだね……」
(…………)

その様子を見ながらクレイズは、少し不安げな表情を見せる。

「そう言えばクレイズさんたちはボクらについて来てくれてますけど……決着の話は……」
「それは気にしなくていい。我々は元々流浪の身だ。君達の戦いに一区切りがつくまでは協力しても問題ないからな。それに……」
「それに?」
「……いや、何でもない」

少し歯切れが悪そうにクレイズはつぶやいた。

(おそらく、今の二人と戦っても納得いく決着にはならないだろうからな……)

先日のエルフの部隊長との戦いで二人の足並みが揃わなかったことをクレイズはいまだに疑問に思っていた。

(なぜ、兄妹の息が合わなかった?アダンとツマリの距離が以前より遠くなっていることと関係がありそうだが……)

ここ数週間の間に、アダンとツマリの関係性は少しずつ変化していた。
最初に玉座に座った時には常に手を重ねあっていたのだが、最近はアダンの側がツマリを避けるようなそぶりが多く見えている。
また、互いに見つめあう時間が減った代わりに、一方が一方をじっと見つめるような時間が増えてきている。さらに言えば『見つめる時間』自体は以前より増えており、暇があればツマリはアダンを、アダンはツマリを観察しているようにも見て取れた。
だが、その一種の不協和音のような関係性を指摘すると却ってこじれると考えたクレイズは、敢えてそれは口にしなかった。

「みなさ~ん!そろそろお昼にしましょう?」

ちょうどそのタイミングで、階下から声が聞こえてきた。

「お、皆さん。とりあえずあっしは書類の整理をしておくんで、皆さんは先にご飯食べてくだせえ」
「ふむ……。そうだな、とりあえず食事にするか」

クレイズ達はそう言いながら、食堂へと降りていった。




「いっただっきまーす!」

ツマリの元気な声とともに、セドナ達は食事を始めた。
この世界における栄養事情は現代日本とは比べ物にならないほど低い。
穀物の単位面積当たりの収量が現代とは比べ物にならないほど低い上、品種改良もろくに進んでいないことから当然でもあるのだが。
そのこともあり、食事は全員に決まった量が供される。

「アダン、私のスープも飲まないか?」
「え、良いんですか?」
「ああ。私はニンニクがあまり好きじゃなくてね。そうしてくれると私も助かるよ」
「ありがとうございます!じゃあ遠慮なくいただきますね」

アダンはここ最近食べ盛りになっているのか、食欲が以前よりも増進されている。
そのこともあり、クレイズは頻繁にアダンに自身の副菜を与えている。最も、匂いが強い食べ物を嫌うクレイズが、食べたくないものを押し付けているという側面もあるのだが。

「お兄ちゃん、あたしの分のパンもあげるね?」
「いいの? ありがとう、ツマリ」
「けど、その代わりご飯食べたら、またお願いね?」
「え? う、うん。大丈夫だよ」

一方のツマリは、以前にも増して食が細くなっており、炭水化物は食べられなくなってきている。その為、もっぱらアダンとクレイズからのエナジードレインによってカロリーを補うようになってきている。

「ところでさ、クレイズさん」
「ん?」

近くの川で取れた魚のソテーを食べながら、アダンは尋ねた。

「ボク達の軍っていまだに『反乱軍』って名前で、なんか気になるじゃないですか」
「そうか?私はあまり気にならないが……」

だが、ツマリも音を立ててスープをすすりながら答える。言うまでもないが、この世界でもこのような食事作法はマナー違反だ。

「ぷは~。けどそれ、あたしも思った!だってあたしたちは『反乱』を起こしているつもりじゃないもの!まあ、エルフ共に復讐したいって気持ちもあるけどさ!けど一番は『少数部族でも普通に暮らせる国』を作ることでしょ?」

なるほど、とクレイズはうなづいた。

「ああ。では『革命軍』と名乗れば良いということか?」
「だから、そう言うことじゃないわよ!もっとこう、かっこいい名前とか付けた方が、分かりやすいし周りも言いやすくない?」
「ふむ……」

そこまで言われて、クレイズは少し考え込んだ。
実際に、帝国が滅びて大陸がエルフによる統一国家になった現在でも、頻繁に『反乱軍』『革命軍』を自称する団体が各地で蜂起していると話を聴いている。
もっとも、その実態は終戦によりくいっぱぐれた傭兵崩れの兵士やごろつきまがいの連中であり、放棄しては鎮圧されることの繰り返しだそうだが。
このような集団と同一視されることは、仮にも元々は騎士であったクレイズにとってもプライドが許さなかったという側面はあった。

「確かにそうだな。では名前を考えてみるか」
「うん!クレイズさんはどんなのが良いと思う?」

アダンの質問に対して、しばらく考えてからクレイズは答えた。

「そうだな……『勇者連合軍』と言うのはどうだ?」
「却下!いくら何でもひねりがなさすぎるでしょ!まじめに考えてよね!」

ツマリがプリプリと怒るが、クレイズは心外そうにつぶやく。

「まじめに考えたつもりだったのだが……。どうも私はそう言うネーミングセンスがなくてな……アダンはどうだ?」
「そうですね……『赤き鮮血花』と言う名前はどうですか?」
「ダメよ!そんな物騒な名前出したら、誰も仲間になってくれないわよ!」
「む……じゃあ、ツマリはどんなのが良いのさ!」

その発言に、よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに胸を張るツマリ。

「あたしはね『お月様引っ張り隊』って名前が良いと思うの!」
「え……何それ……」

信じられない、と言う表情をするアダンにツマリは胸を張って答える。

「夜のように暗くなったこの世界を照らすには、お月様が必要じゃない? だから、そのお月様をあたしたちが引っ張ってくるって言う意味よ!」

「うーむ……」

それを聞いて、クレイズとアダンは頭を抱えた。

「確かに由来は良いのだが……。ちょっと名前がのんきすぎない?」
「私も同感だ。『我こそはお月様引っ張り隊騎兵隊長、アダン!』など名乗るのはさすがに気恥ずかしいのだが……」
「なによ!じゃあどんなのが良いのよ!」
「うーん……」

食事を摂りながら、三人はああでもない、こうでもないと会話を続けていると、隣から一人の人狼がぽつり、とつぶやいた。
因みに彼女はアダン達が先日訪れた村の住民であり、先日反乱軍に加わったものだ。

「なら『ホース・オブ・ムーン』っていうのはどうかしら?」
「え?」
「ツマリさんの言う『お月様を引っ張るもの』を『馬』に例えてみたのよ。私たちにぴったりの名前じゃない?」

それを聞いて、煮詰まっていたのであろうアダン達は顔をパッと明るくした。

「へえ……ボクは良いと思うよ?」
「あたしも!『ホース・オブ・ムーン』!いい名前じゃない!」
「では決まりだな。今後我々はそのように名乗ることにしよう」

歴史と言うのは常に一握りの天才によって動かされるものではないし、大多数の民衆によって動くとも限らない。
実際に過去の歴史を紐解くと、一個人が何の気なしに考えたアイデアが歴史に名を刻むことも珍しくない。
そのことを歴史書の中で学んだことを思い出しながら、クレイズはそう答えた。



それから数分後。

「ふう……よく食べたな」
「ごちそうさま」

アダンとクレイズが食事を終えたのを見計らい、ツマリはアダンの腕にしがみついた。

「じゃあ、アダン。いくわよ?」
「う、うん……」

そう言うと、ツマリはアダンの頬に口をつけ、エナジードレインを開始した。最近では手首から吸うのでは足りないのか、最初から頬に口をつけるようになっている。

「ん、美味し……」

ごくん、ごくん、とのどを鳴らすように精気を吸い取るツマリ。

「あ、あの……ツマリ……」
「黙ッテ……モット、欲シイ……」

そう言いながら、ツマリは精気を吸い続ける。
以前のように軽くついばむようなキスではなく、両手でがっしりとアダンの顔を抑え込む。アダンは全身の力が全て奪われるような感覚とともに、ふらりと貧血のようなめまいが訪れる。
ツマリはその様子を気にも留めず、赤く染まる瞳でツマリの横顔を見つめる。

(ダメ……モット一度に吸イタイ……頬カラジャダメ……唇カラ……)

その様子を見たクレイズは見かねたようにツマリを引きはがす。

「おい、ツマリ。まだ仕事は沢山あるんだから、その辺にしておくんだ」

それを聞いて、ツマリはハッとしたようにわれに返った。
よく見ると、アダンはハアハアと息をしている。相当量の精気を吸い続けていたのだろう。これでは昼食分のカロリーを全て吐き出してしまった可能性もある。

(今……私、何考えてたの? まだお昼なのに……あの、憑りつかれるような感覚が来るなんて……アダンは兄妹なのに……けど、なんなの、この気持ち……)

ドキドキとしながらも、ゆっくりと深呼吸を行い、気持ちを整える。

「まだ足りないなら、私の精気を分けよう。……ただし、腕からだぞ?」

そう言うとクレイズは腕をまくり、ツマリに差し出した。

「……そうね、クレイズでも良いわ」
「『でも』とは失礼だな。……まあ良い」

仕方なさそうにツマリはクレイズの手首に唇をつけた。




(今……最後の思念、なんだったんだろう……)

ツマリの思念は以前よりさらに強くなっており、触れているだけで燃え上がる炎のような感情が自分に流れ込んでくるのをアダンは感じていた。

(頬……じゃなくて、唇からって思ってた……? いや、そんなわけないよね……僕らは双子の兄妹なんだから……)

夢魔の世界においても『唇にキスする』と言うのは単なる親愛の情ではなく、異性としての愛情表現であることを意味している。
先ほどのアダンの激しい動悸は、一瞬でもそのような感情を感じ取ったことにも由来する。

(けど……一瞬だけど、それも良いかなって思うなんて……)

そう思いながらも、クレイズが吸精されている様子を見ている。

(それに、なんだろう、ツマリが僕以外の人から精気をもらうの、嫌な感じだ……。クレイズさんだからギリギリ我慢できるけど……もしほかの人があんなことしてたら……)

そう思った時に自身の中に確かに生まれた殺気にアダンは恐ろしくなった。

(何考えてるんだ、僕は……。けど、ツマリ……)



しばらくして、満腹になったのか、ツマリはクレイズの腕を解放した。

「ふう、クレイズの精気も、まあ不味くはないわね」
「人からもらっておいて、その言い草は良くないだろう……?」

そう言うとクレイズは立ち上がり、近くの手水鉢で念入りに手を洗い始めた。
その様子を見て、ツマリはクレイズの尻に蹴りを入れた。

「ぐお!なにをするんだ!」
「そんな、汚いものみたいに扱わなくていいでしょ?クレイズのバカ!」
「いや、そもそもツマリ、君も精気を吸うなら口くらい拭いてくれ。食べかすが付いて汚いだろう?アダンも、言ってやったらどうだ?」

アダンがいつも頬をツマリの食べかすだらけにしており、それをこっそりふき取っているのを見かねていたクレイズは、そう答える。
アダンはその言葉にはっとしたように、ツマリに注意する。

「そ、そうだね……。あのさ、ツマリ。気を付けてね?」
「え?うん……」

そう言うと、ツマリはしゅん、と少しだけ落ち込む様子を見せた。
そしてアダンとツマリは、

((お願い、もう少しだけ兄妹として……一緒に居させて……))

同時にそう思いながら、互いにそう気取られないように背を向けあい、食器を片付けはじめた。
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