上 下
6 / 33
第1章 「常に他者を第一に考えられる人類」を作った魔王、ヒルディス

1-5 キスで力がみなぎる展開は定番ですが……

しおりを挟む
それから数か月が経過した。


「今年はサツマイモが豊作になりそうですね」
「ああ。これも二コラさんが手伝ってくれたおかげだよ。まさか、あの雑草を灰に変えて肥料にするなんて、思わなかったよ」
「そうそう。おかげで助かったよ、ありがとうね、二コラさん」


俺は農場でなんとか仕事を行えている。
幸いと言うべきか、この国よりも俺の出身国の方が農業の技術はわずかに進んでいた。
その為、新しい農法や肥料の使い方を伝えると、彼らはとても喜んでくれた。


(けど……驚いたな。こんなに早く新しい収穫方法を取り入れてくれるなんて……)

そう俺は思っていた。
実際に、新しいことに対して保守的な人は多く、正直なところ俺の提案は受け入れてもらえるとは思っていなかった。


だが、予想に反して彼らは俺の提案をあっさりと受け入れてくれた。
いつもよりもサツマイモが大きく育っているのを見るにつれて、胸に付けている彼らのプレートの値が大きくなっているのを見て、俺は自分が役に立てていることを喜んだ。

「けど、皆さんは……俺を見ても何とも思わないんですか?」
「なんともって……どういうことだ?」
「だって俺は……人間ですし、魔力も皆さんより無いですし……」
「え? それがどうかしたのか?」
「いえ……」


そして驚いたことは、この世界では魔力の大きさが、差別の原因になっていないことだ。

俺の出身国では、持って生まれた魔力で人生の大半が決まった。
努力によって魔力を挙げられない以上、魔力の「使い方」を学んで強くなることは可能だが、それでも生まれ持った魔力が高いものには到底かなわない。

その為、生まれ持った魔力が少ない人間はそれだけで差別を受ける。
もし俺の出身国で魔力の少ない奴が、同じ農法を提案しても、聞き入れてもらえなかったのは確実だっただろう。

農民たちは俺に尋ねてきた。

「二コラさんは、俺たちの国にずっと住んでくれるんですか?」
「もしそうなら嬉しいねえ。イルミナちゃんと結婚するのかい?」
「いや、それは……」

幸いなことに、皆俺がイルミナとの結婚をした後に永住することを望んでくれた。
正直なところ、イルミナほど魅力的な人と結婚することが出来れば、どれほど幸せだろう。

彼女はいつも俺のために心を割いてくれ、そして尽くしてくれていた。
「美味しそうだな」と思ったものはその日の夕食に出てきたし、「暇だな」と思った時には一緒にカードゲームで遊んでくれた。


……だが、正直俺はイルミナに何もしてあげられていないのを少し気にし始めていた。
このまま結婚となったら、俺だけ幸せで、イルミナはつまらない人生になるのではとも思うほどに。


……彼女の狙いは、俺が持っている魔力だけかもしれない。
結婚して魔力を奪いつくしたら、態度を豹変させてくるかもしれない。
だが、ここに永住できるのであれば、ここで魔力を失っても差別されることはなさそうだ。

ならばいっそ、一種の恩返しとして魔力を差し出し、結婚後に捨てられても惜しくはないかもしれない……そうも思っていた。


そう考えていると、イルミナがお弁当を持ってやってきてくれた。

「フフフ、みんなありがとう。そう言ってくれると私も嬉しいわ?」


イルミナが持ってきてくれたのは、干したひき肉を削って作ったサンドイッチだ。
俺が以前好物だと言ったことをイルミナは覚えていてくれたのだろう。


俺だけでなく、ほかの農民の分も作ってくれているようだった。


「ありがとう、うん、これ美味しいね!」
「ああ、さすがイルミナちゃんだな」


俺達はそれを食べながら楽しく談笑をしていた。


そしてしばらくして、イルミナが提案してきた。

「ねえ、二コラ? いつも畑仕事ばかりだと疲れると思うし、今日は私とデートしない?」
「え?」

水やりも今日はすでに終わっており、今日はあまりやる農作業が無い。
そのことを察しただろう、周囲もニコニコと笑って頷いてきた。


「そうだね、今日はもう暇だし、行ってきなよ、二コラさん」
「そうそう。……そうだ、町はずれの※道場でも行ってきたらどうだ?」
「ああ、良いね! たまには魔法を使って戦わないと、魔力の勘も鈍るしさ!」

(※この世界では、主に魔法を主体にして戦うということもあり、格闘技の類はあまり盛んに行われていない。その為道場と言うと『魔法を使って戦う人たちが切磋琢磨する場所』という意味合いである)

「道場、か……」

俺が周囲と比べて大した魔力を持っていないことは、皆分かっているはずだ。
だが、彼らの性格を考えると俺を笑いものにするということもないだろう。


それに俺も魔力自体は低いが、魔法の力を使って戦うのは好きだ。
イルミナと花畑に行ったりお茶を飲んだりするのもいいが、たまにはそういうのも楽しそうだ。


「そうだな、行ってみようか、イルミナ?」
「うん! 楽しんでくれるといいな!」

イルミナはそう言うと、楽しそうに俺の手を握ってくれた。




「おや、久しぶりじゃないですか、イルミナ先生」
「うん、みんな頑張っているんだね」


道場に行くと、師範と思しき先生がイルミナに恭しく頭を下げてきた。
師範と呼ばれた女性はかなり若い。恐らくは20歳前後だろう。
なるほど、内包した魔力はイルミナほどではないが、門下生たちよりは大きい。


「イルミナはここで教えていたのか?」
「うん、私は先代の師範だったんだ。今は後輩に譲ったけどね」

彼女の魔力を考えると、師範だったことは特に違和感を感じない。
だが、こんなに早い段階で引退するのはなぜだろうとは少し疑問に思った。


「そちらに居るのが、以前話に聴いている二コラさんだね?」
「はい、よろしくお願いします。魔力は低いですが、遠慮しないでください!」
「ハハハ、凄いやる気だね。……それじゃあ、君が相手をしてくれるかな?」


師範はそう言うと、一人の若い少年に指示をした。
別に俺を馬鹿にしているわけではないのだろう、実際彼の魔力は俺よりはだいぶ大きい。
……けど、なめられたものだとは思った。

「分かりました! 二コラさんですね? よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく。……よし、来い!」


俺がそう叫ぶと、その少年は魔法を展開しはじめた。

(なるほど、風系を得意とするわけか……)


この世界は地水火風の4種類の魔法を展開して戦うのが基本であり、大抵は1つの属性を得意分野として用いる。

……だが、大抵の場合はキャンプで使えることもある火属性や水属性、そして移動に使いやすい風属性ばかり使われ、地属性は不人気だ。


だが、当然俺が選んだのは地属性だ。


「はあ!」

その少年は風魔法を使って竜巻をいくつも作り出す。
びゅおおおお……と、凄まじい風が吹き荒れながら俺に向かってきた。


「二コラさん! どう破りますか?」
「なるほどな……」

やはり、と俺は思った。
少年が取った方法は、魔力の多寡を利用したごり押し戦法だ。
真っ向から戦えば勝ち目はない。


「それなら、こうだ!」

そこで俺は、強く震脚した。
俺の得意とする地属性の魔法であり、地面を通して衝撃波を放つ技だ。

「うわ!」

それを喰らった少年は思わず態勢を崩す。
俺の魔力程度ではこの程度の隙を作るのがせいぜいだ。……だが、これで少年は竜巻の制御を一瞬失う。

だが少年は竜巻の制御を諦め、俺に狙いを定めてきた。
空気を圧縮して俺に打ち込むのだろう、その作戦は読んでいる。

「く……けど、この距離なら狙い打てる……!」
「甘い!」

だが俺は、少年が呼び出した竜巻の外周を回るようにする。
そして暴風によって勢いをつけ、少年の胸元に飛び込んだ。

「速……!」

そして岩のナイフを少年ののど元に突きつける。


「ふう……。これで俺の勝ちだな」
「す、すごい……。まさか、こんなやり方をするなんて……降参します……」

少年は素直に負けを認めてくれたようだった。



「凄いね、二コラ! 相手の魔法を利用して飛び込むなんて!」

俺の様子を見て、イルミナは思わずそう声を出した。


「ああ。俺の国では、戦ってばかりいたし、傭兵としても殺し合いばかりしていたからな。弱い魔力のものでも戦える方法が沢山編み出されたんだ」
「そうだったの……二コラも苦労してきたのね」


悲しそうな顔をするイルミナに、俺は少し気まずくなりフォローをした。


「アハハ、そんな顔しないでくれ。俺たちにとっては普通のことだから。……それじゃあ、次の相手は誰だ?」
「はい、俺が行きます!」

そう言って手を挙げたのは、やはり若い青年だ。
見た目から判断するに師範代だろう。魔力は俺とは比べ物にならない。

「二コラさんって強いんですね! 俺も遠慮なく行きますよ!」


彼はそう言うと、魔力を込めだした。
今度は火属性の相手だ。

「勝てそう、二コラ?」
「正直厳しいな。……にしても、この国の人たちは凄い魔力なんだな。俺もあんな魔力が欲しいものだよ」

俺はそう苦笑した。
するとイルミナは俺に近づいて、

「フフフ、頑張ってね?」

そして頬に軽いキスをしてきた。


「……ありがとな、イルミナ」


急に全身に火が付いたよな、そんな力がみなぎるのを感じた。
魔力がいつも以上に発揮できると思えるほどに。


これなら師範代とも戦えるかもしれない。
……キス一つでここまで気力が充実するなんて思わなかった。やっぱり、俺にとってイルミナは大切な存在なのだろう。

「よし、いくぞ!」

そう思い、俺は師範代の魔法に備えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?

藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。 結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの? もう、みんな、うるさい! 私は私。好きに生きさせてよね。 この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。 彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。 私の人生に彩りをくれる、その人。 その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。 ⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。 ⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

ヤクザのせいで結婚できない!

山吹
恋愛
【毎週月・木更新】 「俺ァ、あと三か月の命らしい。だから志麻――お前ェ、三か月以内に嫁に行け」 雲竜志麻は極道・雲竜組の組長を祖父に持つ女子高生。 家柄のせいで彼氏も友達もろくにいない人生を送っていた。 ある日、祖父・雲竜銀蔵が倒れる。 「死ぬ前に花嫁姿が見たい」という祖父の願いをかなえるため、見合いをすることになった志麻だが 「ヤクザの家の娘」との見合い相手は、一癖も二癖もある相手ばかりで…… はたして雲竜志麻は、三か月以内に運命に相手に巡り合えるのか!?

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

おじさんが異世界転移してしまった。

月見ひろっさん
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

処理中です...