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第3章 自慢は励ましという名の仮面をかぶって現れる

3-2 ウノーと未夏の関係性はある意味理想的かもしれない

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「未夏さん、手紙来ているぜ? ラジーナさんからだな」
「ええ、ありがとう」

そういいながら未夏は手紙を受け取った。

「ラジーナさんとはすっかり仲良くなったんだな」
「ええ。完全にペンフレンドよ」


ペンフレンドなんて言葉、久しぶりに使ったなと未夏は思った。
この世界にはいわゆるSNSのような便利なものは存在しない。そのため手書きでの手紙をお互いにやり取りをするのが通例だ。

だが、この手紙によるやりとりは未夏は割と気に入っていた。


「えっと……フフフ、エイドと仲良く過ごしていることが伝わってくるわね」
「お、エイドの奴も元気なんだな?」
「ええ。……それと……やっぱり復讐することは忘れてないみたいね」
「復讐か……」


因みに、未夏はウノーにはラジーナの復讐相手についてはすでに伝えている。
ウノーはその話を聞いて、ラジーナには同情とともに敬意を感じるようにもなっている。


「ラジーナさんの復讐……はやく成就するといいんだけどな……」
「そうね……わたしたちにも出来ることがあるならやりたいわね……」

そういいながらも未夏は薬瓶を手に取ろうとするが、ウノーが制した。

「待ってよ、未夏さん。それくらい俺がやるよ?」
「いいの?」
「ああ。店番している間に店の並びは全部覚えたからな」

そういうと、慣れた手つきで薬瓶を並べる。

「あ、そうそう。最近なんだけどさ。女性客が増えてきたんだよな。だから美肌効果があるような薬を前面に陳列したいけどいいか?」
「え、そうなの? ……お願い」
「分かった」

未夏がラウルド共和国に呼ばれていた時、ウノーに店番を頼んでいた。
彼は薬品の知識はあまりなかったが、それでも持ち前の社交性を持って何とか乗り切っていたようだ。

また、未夏がいない間にも自主的に調合の訓練をやっていたらしく、手際はかなり良くなっている。


「終わったよ、未夏さん」
「ありがと。……ウノー様がうちの店に来てくれて助かるわよ」
「へへ、そういってくれると嬉しいけどな」

そう笑うウノー。

(もとは私はフォスター将軍を推していたけど……こうやってウノー様と二人で薬屋を営むのも悪くないわね……)

二人ではなく厳密には店長がいるから3人なのだが。
もっともあまり店にいない店長のことを考えてもしょうがないというのはあるのだろう。


そんな時に、また薬屋のドアが開いた。


「すみません、楽しそうなところ……」
「あ、いらっしゃい……って、テルソスじゃんか」
「ええ、お久しぶりですね、ウノー」

テルソスだった。
彼は理知的な表情を崩さないまま、未夏の方を見やる。


「久しぶりですね、未夏様。……先日教えていただいたスコーン、評判良かったですよ?」
「え? いやだなあ、テルソス様の飲み込みが早いからですよ~?」


テルソスが実は料理が好きという設定はゲーム本編でも何度も目にしていた。
そのため、未夏は現代で作られていた料理のレシピをいくつか教え、時には一緒に作るようなこともあった。


(やっぱ、テルソス様もイケメンだから……一緒に料理作るの楽しいのよね……)

そう未夏が少し顔を赤らめていると、横からウノーが声をかけた。

「あれ、未夏さんってテルソスと料理とか作ってるんだ?」
「ええ。近くの宿を借りて、二人でたまに作ってるんですよ」

それを聞いたウノーを見て、未夏は一瞬『嫉妬かな?』と思った。
……だが、それは思い上がりだと気づく。

「へ~。いいじゃん! 今度さ! 俺も二人の飯食ってみたいからさ! 招待してくれよ! 友達もたくさん呼ぶからさ!」
(ウノー様も……ちょっとくらい、『未夏さんと二人っきりなんてうらやましい』とか言ってほしいわよね……)


そういうウノーは仕事中は四六時中一緒に未夏と働いているのだが。

彼は、二人っきりという状況でも未夏に手をだすどころかデートに誘ってくることもない。
勿論、彼女を『尊敬する先輩』のように扱っているのは明らかだ。


「ほう……友達、ですか……国で働く市民たちの声を聞く機会にもなる、ということですな……」

そういうテルソスには若干の打算が含まれたようだが、単純に大勢でパーティをするのが楽しいというのもあるのだろう。
それを聞いて、テルソスは少し微笑んだ。


「それはいいですね。……素敵な出会いがあるやもしれませんし」
「だってさ! どうかな、未夏さん!」
「ええ、いいわね」

そういうとウノーもパン、と手をたたいて喜ぶ。

「よし、じゃあ企画するな! それと、もし気になる男がいたら、俺に教えてくれよ! バックアップすっから!」
(……ここで『あなたが気になる』って言ったらどんな反応するのかな……)


未夏はウノーに対して『向こうから告白されたらぜひ付き合いたいが、自分から告白するような感じではない』という感情を持っている。

また、未夏は元の世界での最推しがフォスター将軍であり、彼のグッズをすべて持っているほどだった。それもまた、彼との関係を進展させようとしない理由なのだろう。

そのため、今は未夏とウノーとは「同僚であり、仲のいいお友達」という関係にとどまっている。
もっとも未夏は、今のその居心地のいい関係を好んではいるのだが。

そしてテルソスは、すこし申し訳なさそうに尋ねる。


「それはそうと、未夏様。……今月の分のお薬をいただきたいのですが……」
「あ、うん。もうできているから持って行って?」


そういうと、未夏はディアナのために作った薬を渡した。
……ディアナの病気は、ゲーム本編でも出ていたものだ。作中では治す方法自体は存在するが、現状材料が手に入らない。

そのため、現状渡しているのは痛み止めのような対症療法的な薬である。


「ディアナさん、早く良くなるといいね」
「パーティ、ディアナも誘うからさ。……少しでも楽しんでくれるといいんだけどな」
「ええ。……二人のお心遣いに感謝いたします」

そんな気休めをつぶやく未夏たちに、テルソスは軽く笑って去っていった。




そしてその夜。
未夏は自室で空を見上げながらつぶやく。

「『十六夜の花』さえあれば……」


ゲーム本編ではディアナは病気になることはなかった。
代わりに、同じ病気にかかった、名もなき少女を治療するイベントがあった。

だが、その際にはたまたま街に行商に来ていた冒険家から難しい依頼を受け、その報酬に『十六夜の花』という特殊な花を譲ってもらうことで、治療が行えるという話だった。

ただし、その『十六夜の花』の入手場所は作中では明言されていない。
また、質の悪いことにその花はゲーム中では『汎用アイコンを用いていた』という問題があり、花の特徴を未夏は知らない。


(まったく、今にして思うとこのゲーム、ずいぶん手抜きだったのね……)


そう心の中で毒づいていると、突然声が響いてきた。


『十六夜の花はね? ……この北にある『雪の洞窟』にあるよ?』
「……プログリオ?」


未夏がそう答えると、道化師の少年が姿を見せた。……プログリオだ。

『それさえあれば、ディアナちゃんを助けることは出来ると思うけどね~? 雪の洞窟の最深部にある地底湖の奥に道があるから行ってみなよ?』


ゲーム本編では『雪の洞窟』にある地底湖は、到着した瞬間にイベントが始まり、そのまま強制送還され二度と入れなくなる。そのため地底湖の更に奥にアイテムがあっても、プレーヤーは手を出すことは出来ない。


……なるほど、分からないわけだ。
そう思いながらも未夏は尋ねる。

「なんでそれを私に教えるの?」
『さあてね……。ただ、誤解しないでほしいんだけどさ……』
「なに?」
「ディアナが病気になったのは偶然じゃないよ? ……前世で、彼女に人気を奪われた人……その人の願いで、病気になる世界線になったんだよ」
「人気?」


それを聞いて、未夏はすぐに一人の姿が頭に浮かんだ。

「聖女……それもオルティーナなの?」
「その通り! だから今世の彼女は病弱で、レベルを上げる機会も無かったんだよね!」


ゲーム本編では聖女オルティーナは剣が得意なディアナに対して友好的な態度を見せていたが、実際には嫉妬していたのだろう。

『それに、口うるさいテルソスも遠ざけたいって思っていたみたいだったから、ちょうどよかったみたいだね~?』


そしてテルソスは前世ではいわゆる『世話焼きポジション』とでもいうのだろうか、上品な口調だがかなり口やかましいところがあった。だが、そのおかげでオルティーナは自分のことを理解し、人間的な成長をしていくというのも事実だったのだ。


(オルティーナ……。あなたはどれだけの人の未来をつぶしたのよ……)

……つまり、今世のオルティーナは「厄介なライバルが病気に倒れていることによって増長し、さらに自分に厳しく言ってくれる人も遠ざけてしまっており、人間的に成長できていない」ということが分かった。


「……それを私に伝えるってことは。……どうせあんたのことだから、企んでるんでしょ?」
『もちろん! 理由はまだ教えてあげないけどね?」

そうプログリオは笑う。
こいつはゲーム本編でも、こういう捉えどころのないトリックスターだった。


『……けど、ボクのことを詮索するより先に、ディアナちゃんを助けてあげないとかわいそうだよね?』
「……そうね……。この話、テルソス様にしてみるわ」
『頑張ってね。僕も応援してるから! あはははは!』


そういうとプログリオは姿を消した。
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