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第3章 自慢は励ましという名の仮面をかぶって現れる
3-1 そもそもなぜ人は聖女に忠誠を誓っていたのか?
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私の名前はテルソス。
今世でも前世でも外交官を兼ねた参謀を行っている。
私は前世では、ずっと幼馴染のディアナと一緒に過ごしていた。
「テルソスって本当に弱いよね~? もうちょっと力入れてみてよ?」
「ふん! 前のテストで赤点だったあなたには言われたくないですね!」
そんな風に軽口を言いながら切磋琢磨をしていた。
ディアナは剣、私は魔法と学問でそれぞれ非凡な才覚を見せており、周囲からも期待されていた。
「ねえ、頑張ってさ、将来のためにオル……様……のために……働こうね?」
「そうですね。……お互いに、この国を担うために力を尽くしましょう」
私たちは常にオルティーナ様のために力を尽くすために働いていた……のか?
最近まではそう思っていたが、どうやらこのあたりの前世の記憶があいまいだ。何かこのあたりのことを思い出すと、記憶にもやがかかっている。
そして前世では、私たちは聖ジャルダン国の騎士として入団したあと、たちまち頭角を表してすぐに聖女オルティーナのお付きとして戦うこととなった。
「どうですか、私の剣技は!」
「すごいですね、流石はディアナだ! ですよね、フォスター将軍」
「ああ、ウノーのいうとおりだ。私も驚いたぞ。これほどの実力者が加入するとはな」
特にディアナの活躍は目覚ましかった。
そんな風に、たちまち頭角をあらわしたディアナはすぐに私を除く4英傑達とも打ち解け、そして人気者になっていった。
私は魔法主体でしか戦えないので、オルティーナ様と役割が被るためあまり積極的に戦うことはなく、寧ろメンバーの頭脳役としての役割が中心だったのだ。
「ちょっと、さっきのモンスターを倒せたのは私の魔法のおかげじゃない? ねえ、テルソス?」
「そうですね。……あなたの光魔法が命中していたのは、大きかったでしょう」
だが、剣技に優れるディアナを見て、陰でオルティーナ様はことあるごとに嫉妬していた。
それを見てオルティーナ様が嫉妬するのをなだめるのは、大抵私かフォスター将軍だった。
二人は表面上(=ゲームの画面上のことである)は仲良くしていたが、実際にはオルティーナ様は彼女を嫌っていたような気がしてならない。
……という記憶が最近は思い起こされている。
少し前までは『聖女オルティーナが剣技でも非凡な才を見せていた』記憶ばかりが頭に浮かんでいたのだが、どうやら実際は違うのかもしれない。
それでもそうやって、ディアナと一緒に切磋琢磨しながら騎士として働く日々は楽しかった。……だが、それから1年後。
「テルソスへ。最近は元気か? すまないが、戦争は避けられないようだ。……それと、これは遺書でもある。俺はたぶんもうすぐ死ぬ。ラジーナにスパイ活動がバレかけているからだ」
学校では親友だったエイドから、そのような手紙が届いた。
……戦争が始まると知り、私は大慌てで作戦を練り、軍略を考えた。
だが、『どんな戦略差もアイデア一つで覆せる天才軍師』など現実の世界には存在しない。
身もふたもない言い方をすれば、戦争とは政治手腕や国民の教育水準、その他もろもろによって作られた「国力差の答え合わせ」に過ぎないのだ。
ラウルド共和国にいる『冷血の淑女』ラジーナの政治手腕は見事だった。
一方こちらは……正直オルティーナ様は、フォスター将軍との色恋にかまけて政治をおろそかにしていたと、最近になって思い出した。
これにより、彼我のそもそもの国力に差がつきすぎていた聖ジャルダン国は、あっというまに追い込まれた。
「まずいですね……。このままラウルド共和国に攻められたら都市が陥落します……」
「そのためにあの傑物、フォルザ将軍を倒す必要がありますね……」
「ええ……ところで質問していい?」
「はい?」
「……なんで……私に命令しないの?」
それをディアナに言われて、私は論理的に考えた帰結を答えた。
「単純な話です。……あなたはオルティーナ様を守る最後の刃。そしてフォルザ将軍と戦っても勝ち目は薄いでしょう」
「…………」
「あなたの仕事は、万一ここが陥落した場合オルティーナ様を連れて逃げることです。ここは私が……」
「嘘よね?」
そういうなり、ディアナは私の胸倉を掴みあげてきた。
「本当はただ、私を死なせたくないってだけでしょ? 分かってんだって! それでもあなたは参謀なの?」
「いえ、私は単に論理的に……」
「感情をはさまない論理的思考なんて、人間に出来るわけないでしょ? ……あんたがここに一人で残っても、足止めくらいしか出来ないでしょ!」
「…………」
その通りだ。
本心では、大切な幼馴染であるディアナには何が何でも死んでほしくないから、このような論理を導いていた。
それは認める。
……だが、それを抜きにしても彼女を戦わせる利点は薄い。
「私が勝てる確率は……あんたの計算だとどれくらい?」
「……4%もないかと……」
その数字すら、私の希望的観測が入っているのは、ディアナも分かっていたのだろう。
……それでも、この状況で戦況を逆転するなら、単騎で一個師団を相手取れるフォルザ将軍を撃破するしかない。
だが、ディアナは覚悟を決めてうなづいた。
「分かった、それにベットするわね。……あなたは下がってオルティーナ様を……」
「お断りします。私が加われば、確率が2%ほど上昇するので」
「……バカね」
「バカはあなたです。私に死んでほしくないという本音が、透けて見えますよ?」
「……フン。その通りよ」
そうつぶやき、私とディアナはフォルザ将軍に向かった。
フィクションの世界では、確率なんてものは『低ければ低いほど的中する』ものだ。
……だが、そんな奇跡は訪れることなく、私とディアナは彼の刃の前に散った。
そして、話は今世に戻る。
「ディアナ……。やりましたよ、エイドが……戦争を止めてくれました!」
「え……?」
エイドによると、フォルザ将軍を雑兵5名が訓練の場で勝利するという前代未聞の出来事が起きた。
また、これについてラジーナは『これと同じことを聖ジャルダン国は行うことができる』と喧伝したらしい。
これにより、ラウルド共和国では厭戦気分が高まったのだろう、私たちの住む聖ジャルダン国との終戦協定に調印してくれたとのことだ。
……もっとも、ラウルド共和国の憎しみが消えたわけではない。
そのため、いずれ遠くない未来に戦争は再開するだろうが、それでもひと時の平和が訪れたことは分かった。
「そう……良かったわ……」
「なんでも、エイドの話では功労者は未夏様のようです」
「未夏? ああ、あんたがいつも会いに行っている薬師のことよね?」
未夏様とは、以前お会いしておりそれ以降それなりに仲のいい関係を築いている。
……先日も、ディアナの病を一時的に抑える薬を貰っていた。
「病気の具合は……どうだ?」
「ええ。……ごめんなさい、テルソス。あなたにはいつも面倒をかけて……」
「いえ。……ディアナ、あなたと話しているだけでも私は楽しいので」
「……優しいのね。前世の……最後のほうのテルソスとは大違い」
前世で私は、命を落とす直前は多忙のあまり、ディアナに優しく接することが出来なかった。
……そして、今世でのディアナはなぜか病にかかってしまい、ベッドでの療養生活を余儀なくされている。
当然筋肉も落ち、その卓越した剣技は失われてしまった。
……だが、それでも私はディアナと一緒に過ごしたいと思っている。
そんな風に思っていると、突然ドアが開いた。
「ディアナ! 元気にしてた?」
「お、オルティーナ様?」
「元気って……まあ、あまり体調は悪くはないけど……」
オルティーナ様は前世でも今世でも学校で彼女と同級生だった。
その縁もあり、一人の友人としてディアナに会いに来てくれている。
「最近調子はどう?」
「え? そうね……あ、そうだ! この間テルソスに貰った櫛が……」
「そうそう! 実はさ。この間でっかいモンスターが出たの!」
「ええ、モンスターが!?」
ディアナは折ティーなの話を聞いて驚いた表情を見せた。
……彼女が病気になって以降、外で運動が出来なくなったディアナに対して、私はそのような話題を出すのは意図的に避けていた。
ディアナは前世では剣士として名をはせていたのだから猶更だ。
それでもディアナは、彼女のする話題の一つ一つに驚いたり、感心したりといった態度を店いていた。
……だが、私には分かる。
どうやら、彼女は今『驚いたふり』『感心したふり』をしているだけだ。
というより、なぜ今まで私たちはオルティーナ様のこのような言動をいさめていなかったのだろう。そうとすら思えるほどに。
「けどね、私の必殺技が命中してさ! それでなんとかなったのよ!」
「まあ、すごいわね! 流石オルティーナじゃない!」
「えへへ、でしょ?」
そう思いながらも、私は自作のスコーンを用意した。
因みにこのお菓子の製法も、未夏様に教えていただいたものだ。
「どうぞ、オルティーナ様」
「あ、ありがと、テルソス。……そういえばさ、テルソスも最近は仕事ないでしょ? 戦争終わったし」
「いえ、確かに戦争は終わりましたが……」
「あのさ、外交官なんていらないと思うし、別の仕事したら?」
その発言に私はむっときた。
外交官の仕事は、戦争が終わってからも仕事は続く。
また、今後のことを考えるとこちらの軍編成も大幅な修正が必要だ。
話によると、フォルザ将軍を倒した時に彼らは『この手法は聖ジャルダン国のやり方をまねたもの』などと嘯いていたようだ。
……なるほど、戦争が終結するわけだ。そのため私は、エイドから教わった軍政改革のやり方を参考にする必要がある。
そう思いながらも、自慢話を続けるオルティーナをしり目に私は立ち上がった。
「あれ、テルソス、どこ行くの?」
「ええ。……ディアナの薬を貰いに」
「そんなの使用人に行かせればいいじゃん?」
「いえ……久しぶりに未夏様の顔を伺いたくなったので」
「ありがとね、テルソス。行ってらっしゃい」
因みに、前世でも今世でも別にディアナとは恋愛関係に発展したことはない。
それに一抹の寂しさはあるが、病に倒れた彼女に交際を申し込んだら、立場上彼女は了承するしかない。そんな弱みに付け込むような真似は私には出来ない。
だからこそ、まずは彼女の病を治す方法を考えなくては。
今世でも前世でも外交官を兼ねた参謀を行っている。
私は前世では、ずっと幼馴染のディアナと一緒に過ごしていた。
「テルソスって本当に弱いよね~? もうちょっと力入れてみてよ?」
「ふん! 前のテストで赤点だったあなたには言われたくないですね!」
そんな風に軽口を言いながら切磋琢磨をしていた。
ディアナは剣、私は魔法と学問でそれぞれ非凡な才覚を見せており、周囲からも期待されていた。
「ねえ、頑張ってさ、将来のためにオル……様……のために……働こうね?」
「そうですね。……お互いに、この国を担うために力を尽くしましょう」
私たちは常にオルティーナ様のために力を尽くすために働いていた……のか?
最近まではそう思っていたが、どうやらこのあたりの前世の記憶があいまいだ。何かこのあたりのことを思い出すと、記憶にもやがかかっている。
そして前世では、私たちは聖ジャルダン国の騎士として入団したあと、たちまち頭角を表してすぐに聖女オルティーナのお付きとして戦うこととなった。
「どうですか、私の剣技は!」
「すごいですね、流石はディアナだ! ですよね、フォスター将軍」
「ああ、ウノーのいうとおりだ。私も驚いたぞ。これほどの実力者が加入するとはな」
特にディアナの活躍は目覚ましかった。
そんな風に、たちまち頭角をあらわしたディアナはすぐに私を除く4英傑達とも打ち解け、そして人気者になっていった。
私は魔法主体でしか戦えないので、オルティーナ様と役割が被るためあまり積極的に戦うことはなく、寧ろメンバーの頭脳役としての役割が中心だったのだ。
「ちょっと、さっきのモンスターを倒せたのは私の魔法のおかげじゃない? ねえ、テルソス?」
「そうですね。……あなたの光魔法が命中していたのは、大きかったでしょう」
だが、剣技に優れるディアナを見て、陰でオルティーナ様はことあるごとに嫉妬していた。
それを見てオルティーナ様が嫉妬するのをなだめるのは、大抵私かフォスター将軍だった。
二人は表面上(=ゲームの画面上のことである)は仲良くしていたが、実際にはオルティーナ様は彼女を嫌っていたような気がしてならない。
……という記憶が最近は思い起こされている。
少し前までは『聖女オルティーナが剣技でも非凡な才を見せていた』記憶ばかりが頭に浮かんでいたのだが、どうやら実際は違うのかもしれない。
それでもそうやって、ディアナと一緒に切磋琢磨しながら騎士として働く日々は楽しかった。……だが、それから1年後。
「テルソスへ。最近は元気か? すまないが、戦争は避けられないようだ。……それと、これは遺書でもある。俺はたぶんもうすぐ死ぬ。ラジーナにスパイ活動がバレかけているからだ」
学校では親友だったエイドから、そのような手紙が届いた。
……戦争が始まると知り、私は大慌てで作戦を練り、軍略を考えた。
だが、『どんな戦略差もアイデア一つで覆せる天才軍師』など現実の世界には存在しない。
身もふたもない言い方をすれば、戦争とは政治手腕や国民の教育水準、その他もろもろによって作られた「国力差の答え合わせ」に過ぎないのだ。
ラウルド共和国にいる『冷血の淑女』ラジーナの政治手腕は見事だった。
一方こちらは……正直オルティーナ様は、フォスター将軍との色恋にかまけて政治をおろそかにしていたと、最近になって思い出した。
これにより、彼我のそもそもの国力に差がつきすぎていた聖ジャルダン国は、あっというまに追い込まれた。
「まずいですね……。このままラウルド共和国に攻められたら都市が陥落します……」
「そのためにあの傑物、フォルザ将軍を倒す必要がありますね……」
「ええ……ところで質問していい?」
「はい?」
「……なんで……私に命令しないの?」
それをディアナに言われて、私は論理的に考えた帰結を答えた。
「単純な話です。……あなたはオルティーナ様を守る最後の刃。そしてフォルザ将軍と戦っても勝ち目は薄いでしょう」
「…………」
「あなたの仕事は、万一ここが陥落した場合オルティーナ様を連れて逃げることです。ここは私が……」
「嘘よね?」
そういうなり、ディアナは私の胸倉を掴みあげてきた。
「本当はただ、私を死なせたくないってだけでしょ? 分かってんだって! それでもあなたは参謀なの?」
「いえ、私は単に論理的に……」
「感情をはさまない論理的思考なんて、人間に出来るわけないでしょ? ……あんたがここに一人で残っても、足止めくらいしか出来ないでしょ!」
「…………」
その通りだ。
本心では、大切な幼馴染であるディアナには何が何でも死んでほしくないから、このような論理を導いていた。
それは認める。
……だが、それを抜きにしても彼女を戦わせる利点は薄い。
「私が勝てる確率は……あんたの計算だとどれくらい?」
「……4%もないかと……」
その数字すら、私の希望的観測が入っているのは、ディアナも分かっていたのだろう。
……それでも、この状況で戦況を逆転するなら、単騎で一個師団を相手取れるフォルザ将軍を撃破するしかない。
だが、ディアナは覚悟を決めてうなづいた。
「分かった、それにベットするわね。……あなたは下がってオルティーナ様を……」
「お断りします。私が加われば、確率が2%ほど上昇するので」
「……バカね」
「バカはあなたです。私に死んでほしくないという本音が、透けて見えますよ?」
「……フン。その通りよ」
そうつぶやき、私とディアナはフォルザ将軍に向かった。
フィクションの世界では、確率なんてものは『低ければ低いほど的中する』ものだ。
……だが、そんな奇跡は訪れることなく、私とディアナは彼の刃の前に散った。
そして、話は今世に戻る。
「ディアナ……。やりましたよ、エイドが……戦争を止めてくれました!」
「え……?」
エイドによると、フォルザ将軍を雑兵5名が訓練の場で勝利するという前代未聞の出来事が起きた。
また、これについてラジーナは『これと同じことを聖ジャルダン国は行うことができる』と喧伝したらしい。
これにより、ラウルド共和国では厭戦気分が高まったのだろう、私たちの住む聖ジャルダン国との終戦協定に調印してくれたとのことだ。
……もっとも、ラウルド共和国の憎しみが消えたわけではない。
そのため、いずれ遠くない未来に戦争は再開するだろうが、それでもひと時の平和が訪れたことは分かった。
「そう……良かったわ……」
「なんでも、エイドの話では功労者は未夏様のようです」
「未夏? ああ、あんたがいつも会いに行っている薬師のことよね?」
未夏様とは、以前お会いしておりそれ以降それなりに仲のいい関係を築いている。
……先日も、ディアナの病を一時的に抑える薬を貰っていた。
「病気の具合は……どうだ?」
「ええ。……ごめんなさい、テルソス。あなたにはいつも面倒をかけて……」
「いえ。……ディアナ、あなたと話しているだけでも私は楽しいので」
「……優しいのね。前世の……最後のほうのテルソスとは大違い」
前世で私は、命を落とす直前は多忙のあまり、ディアナに優しく接することが出来なかった。
……そして、今世でのディアナはなぜか病にかかってしまい、ベッドでの療養生活を余儀なくされている。
当然筋肉も落ち、その卓越した剣技は失われてしまった。
……だが、それでも私はディアナと一緒に過ごしたいと思っている。
そんな風に思っていると、突然ドアが開いた。
「ディアナ! 元気にしてた?」
「お、オルティーナ様?」
「元気って……まあ、あまり体調は悪くはないけど……」
オルティーナ様は前世でも今世でも学校で彼女と同級生だった。
その縁もあり、一人の友人としてディアナに会いに来てくれている。
「最近調子はどう?」
「え? そうね……あ、そうだ! この間テルソスに貰った櫛が……」
「そうそう! 実はさ。この間でっかいモンスターが出たの!」
「ええ、モンスターが!?」
ディアナは折ティーなの話を聞いて驚いた表情を見せた。
……彼女が病気になって以降、外で運動が出来なくなったディアナに対して、私はそのような話題を出すのは意図的に避けていた。
ディアナは前世では剣士として名をはせていたのだから猶更だ。
それでもディアナは、彼女のする話題の一つ一つに驚いたり、感心したりといった態度を店いていた。
……だが、私には分かる。
どうやら、彼女は今『驚いたふり』『感心したふり』をしているだけだ。
というより、なぜ今まで私たちはオルティーナ様のこのような言動をいさめていなかったのだろう。そうとすら思えるほどに。
「けどね、私の必殺技が命中してさ! それでなんとかなったのよ!」
「まあ、すごいわね! 流石オルティーナじゃない!」
「えへへ、でしょ?」
そう思いながらも、私は自作のスコーンを用意した。
因みにこのお菓子の製法も、未夏様に教えていただいたものだ。
「どうぞ、オルティーナ様」
「あ、ありがと、テルソス。……そういえばさ、テルソスも最近は仕事ないでしょ? 戦争終わったし」
「いえ、確かに戦争は終わりましたが……」
「あのさ、外交官なんていらないと思うし、別の仕事したら?」
その発言に私はむっときた。
外交官の仕事は、戦争が終わってからも仕事は続く。
また、今後のことを考えるとこちらの軍編成も大幅な修正が必要だ。
話によると、フォルザ将軍を倒した時に彼らは『この手法は聖ジャルダン国のやり方をまねたもの』などと嘯いていたようだ。
……なるほど、戦争が終結するわけだ。そのため私は、エイドから教わった軍政改革のやり方を参考にする必要がある。
そう思いながらも、自慢話を続けるオルティーナをしり目に私は立ち上がった。
「あれ、テルソス、どこ行くの?」
「ええ。……ディアナの薬を貰いに」
「そんなの使用人に行かせればいいじゃん?」
「いえ……久しぶりに未夏様の顔を伺いたくなったので」
「ありがとね、テルソス。行ってらっしゃい」
因みに、前世でも今世でも別にディアナとは恋愛関係に発展したことはない。
それに一抹の寂しさはあるが、病に倒れた彼女に交際を申し込んだら、立場上彼女は了承するしかない。そんな弱みに付け込むような真似は私には出来ない。
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