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第2章 「剣と魔法の世界」に中世の軍隊編成はそぐわない

2-8 これはギャグじゃなくてまじめに考えた結果です

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そして、戦いの日は訪れた。


「みんな、準備はいい?」

未夏は5人の雑兵……いや、ヒーローたちに尋ねると、彼らは叫んだ。
因みに「5対1」で戦うことは向こうも了承している。当然「20人がかりでも構わない」とは言われていたが、そんなに数を揃えてもあまり意味はない。

「戦争を始めようとする奴は、私たち『ラウルドレンジャー』がゆるせない!」
「そうだ! 俺たちが成敗する!」


(うん、問題は……まあ、ないわね)

未夏はそう思いながらも、彼らを試合会場に連れて行った。


(確か、分岐ポイントはここ……負けたら、バッドエンドルートに行くルートね……)


ゲーム本編では、エイドがフォルザ将軍と1対1で戦い、敗北した場合戦争が始まるルートだ。

だが、そもそもフォルザ将軍はパーティメンバー4対1でようやく勝利できる程の実力者だ。

それをエイドにすらまったく勝てない『モブキャラ』が相手になるのだから、1人増えたところで真っ向勝負をすれば絶望的だ。


「はっはっは! 逃げずによく来た! ……だが、その格好はなんだ?」

フォルザ将軍は、豪放に笑いながら未夏が用意した兵士たちを指さした。
彼らは答える。


「フォルザ将軍! あなたのたくらみは今ここで打ち砕く!」
「そうだ! 見ていなさい!」


……未夏陣営の雑兵たちは、いわゆる『特撮ヒーロー』の格好をしていた。
これは未夏が進言して急遽作らせたものだ。無論、この格好をさせた理由はいくつかある。


それを見て、いわゆる『戦争賛成派』の意見としては、

「うわ……痛すぎだろ、あの格好……『ラウルドレンジャー』って……」
「ちょっとあれはないわよね……」
「いやでも、俺実はああいうの好きかもな……」
「だよな、ああやってポーズするのとか、いいかも……」

と賛否はぱっきりわれていた。
全体的に若い男性には受けは良いようだ。

一方、フォルザ将軍は少し考えた後、にやりと笑った。


「ふん……。そういうことか……だが、貴様らの考えなどお見通しだぞ?」
「なにをいう! お前たち、戦争を始めるような理想は絶対に認めないぞ「」


そういいながら、フォルザ将軍に対してリーダーの赤い服を来た兵士は叫ぶ。
余談だが、今回『あえてお約束を外そう』と、レッドとグリーンとブラックは女性、ピンクとイエローを男性、そしてブルーは欠番にしている。


(戦隊ものって赤ばかり取りざたされるけど……『青がいない戦隊はほぼいないこと』はあまり話題に上がらないわね……)

そんなどうでもいいことを考えていると、ラジーナが試合場の中央に現れた。


「それでは、試合を始めます……開始!」

そういって、彼女は手を振り上げた。
因みに、彼女は戦争反対派だが、ジャッジは公正に行うように伝えている。


「ふん……! さあ、かかってくるがいい!」

そういいながら、フォルザ将軍は戦斧を振り上げるが、こちらの出方を伺うように慎重な様子を見せている。


(よし、第一段階は成功ね……)

そう、心の中で未夏はほくそ笑んだ。


彼は戦斧を地面にたたきつけて衝撃波を出す全体攻撃を得意としている。
それを先手必勝とばかりに、初手でいきなりぶっぱなされたら勝負はついていた。

……そこで、彼らに『戦隊ヒーロー』の格好をさせたのだ。


(ゲーム本編で知っていたけど、フォルザ将軍は頭がいい……。だからこそ、裏の裏をかけたようね……)


素顔がマスクでおおわれている格好を見て、聡明なフォルザ将軍は思ったはずだ。


「あの奇抜な格好は、こちらを欺くフェイク。本当は、マスクで正体を隠すためのものであり、彼らは本当は近衛兵が化けているはずだ。もしそうなら、隙の大きい全体攻撃は得策じゃない」

と。
今回の目的はフォルザ将軍を倒すことでなく「個人の戦闘力で勝敗を決する時代は終わった」ことを示すことだ。当然、そんな替え玉作戦はしていない。

だが、……そうやって『万が一』を考えさせ慎重な態度を取らせることが、こちらの目的だとは気づいていないようだ。

そして2つ目の作戦はこれだ。


「いくぞ、みんな!」
「ああ!」

そういうと、5人の兵士たちはある球状の薬瓶を取り出し、それを地面に投げつける。

「なんだ……ぐわああああ!」
「うわああ!」
「きゃああああああ!」


きいいいいいいいんん……と、凄まじい音量の高周波が会場内に響く。


「く、これは……マンドレークか……!」


その大音響に思わずフォルザ将軍もふらつく。


「いまだ! みんな、いくぞ!」

そうレッドは指示をしてフォルザ将軍の近くに駆け寄る。


(よし、うまい!)


未夏は作戦通りに動いているのを見て、そう心の中でつぶやく。


未夏が用意したのは、調合によって大音響を出すマンドレークの根を使用したものだ。
本来致命傷を与えるような声だが、有害な声色の部分は別の調合薬によって回避している。


(そう、フォルザ将軍と普通に『会話が出来る』ってことは……鼓膜の強さは、私たちと大差がないってことだものね……)


因みに、未夏が用意したヒーローたちは強力な耳栓をしているので、その大音響の影響を受けていない。


(木を隠すなら、森の中。……コミュ力不足はヒーローコスチュームに隠すのよ……)


当然彼ら兵士たちは現在、ろくに耳が聞こえていない。
実際、フォルザ将軍も注意していれば、試合開始前に彼らとの『会話がかみ合っていなかったこと』ことに気づいたはずだ。


だからこそ、それをカモフラージュするためにヒーローの格好をさせて『ヒーローっぽいこと』をしゃべらせていたのだ。


「く……だが、この程度で……なめるなああ!」


そういいながら、フォルザ将軍はブンブンと斧を頭上で振り回す。
現実の斧の速さとは違う、まるで扇風機のような速度で周囲に風が巻き起こる。

自身の聴覚が回復するまで、それでやり過ごすつもりだろう。
……だが、それをやられたらこちらの負けだ。


「いまだ! とどめをくらえ!」

そういうと、今度はグリーンが別の球を投げつけた。
それはフォルザ将軍の頭上で爆発し、


「な、またこれを……ぐはあ! なんだこれは!」


たちまち、彼は膝をついた。


(勝ったわね……)


その瞬間、未夏は勝利を確信した。
フォルザ将軍は一切の状態異常を受け付けないが、戦闘中に「傷薬」を使って体力を回復する描写があった。

だが、それはつまり「薬の効果」は状態異常の範疇ではないということだ。



……では、状態異常を起こす道具の成分が「薬」だったら?


そう思ってエイドに実践したところ、見事に的中した。
「気付け薬」として使用されることもあるアンモニア系の薬品の匂いを更に調合により強めてかがせてみたところ、


「ぐはあ!」

とエイドは悶絶してダウンしたのだ。
……聴覚と同様、嗅覚も彼らは一般人と大差ないことも功を奏した。

因みにエイドは、ここ数日の薬物によるダメージが蓄積していたこともあり、現在ラジーナの屋敷で療養している。


「さあ、とどめだ!」

そういうと兵士たちはヒーローマスクと耳栓を外し、悶絶するフォルザ将軍の大腿部にナイフをかざす。

この動脈を斬れば、たちまち絶命することはフォルザ将軍にも分かる。
さらにフォルザ将軍は、彼ら兵士の身なりを見て、苦しみながらもどこか納得したような表情を見せた。

「……ぐ、はあ……そういう……こと……だったか……」



そう、兵士たちは『ガスマスク』をしていたのだ。
ヒーローマスクをしていた最後の理由は、この『毒ガス攻撃』の正体を相手に掴ませないためだった。


「ワシの……負けだ……」
「勝負あり! 勝者は、未夏たちです!」


そうラジーナは叫んだ。



「嘘だろ、フォルザ将軍があんな恥ずかしい負け方をするなんて……」
「まったくよ……こんなの、人に言えないわよね……」


兵士たちが首筋ではなく大腿部にナイフを当てたのは、ほかにも理由がある。
これは「遠目に見たら、股間にナイフを向けられた」ように見えるということだ。

つまり彼ら視点では「かっこ悪い負け方」をしたように見えていることもあり、バツの悪そうな表情をする。

そんな中、ラジーナは彼らにいう。


「分かりました? ……私たちは『剣で戦うこと』にとらわれていましたけど……こんな風に道具を駆使して戦えば、将軍といえども敵ではないということです……」
「ふはははは……。まさか、こんな手で挑まれるとは思いませんでしたぞ? ……卑怯、というのは誉め言葉になるので辞めておきますがね!」


体調を回復させたフォルザ将軍は、そう豪放に笑って答えた。なるほど、こういうところは武人の良いところが出ている。……まあ、彼も本心では戦争には慎重派なのだろうが。


「しかし、それはたまたまで……」
「この薬品を用意したのは、聖ジャルダン国の未夏ですわ? ……彼ら一兵士に至るまで、こんな戦術を取ってきたらどうしますの?」
「う……」


戦闘の際に「必ず5人一組になって、回避不能な状態異常攻撃を連発して来る敵」しか出てこないゲームなんて、絶対にやりたくない。

そう思った未夏の戦術は、彼ら兵士にとっても同様に感じたのだろう。


「……敵国がこれだけのことが出来る以上、大事な切り札であるフォルザ将軍たちを今戦地に出すわけにはいきません。……彼らは、国内の治安維持という大切な仕事をするために、まだまだ必要なのですから」
「そ、そうですが……」

そういうとラジーナは、一番強硬に反対している兵士の手を掴み、続ける。


「それは、あなたたちも同様です。……今あなたたちを失っては、ラウルド共和国を支える屋台骨がなくなります。どうか、命を大事にするために今は耐えてください」

その一言に、兵士は思わずうなづく。


「……はい……分かりました……」

基本的に人間は、自身の名誉と尊厳を守ってくれる相手に対してはいうことを聴くものだ。
その一言で、彼ら反対派の兵士達もひとまず納得したような表情を見せた。




そして、その夜。


「よかった……何とか戦争は避けられたようだな……」


ここ数日間の実験の中でボロボロになっていたエイドは、ようやく眼を覚ました。
そして使用人から話を聴き、納得したようにうなづいた。


「ラジーナ様、ずっとエイド様を心配されていましたよ? 今夜、お会いしてみたらどうですか? ……『許可』は出ているそうなので」
「ああ……そうだな……」


許可とは、要するに「今夜セックスしましょう」という意味だ。まあ、権力勾配を考えると、実質的に許可ではなく命令に近いのだが。


(俺の『夜伽』は……。ラジーナ様にとって楽しいことなのだろうか……それならいいのだが……)

エイドはここ最近、未夏の仲介もあって彼女と話し合う時間が増えたことで、前世の記憶に起因する彼女に対する悪感情もかなり薄らいでいた。
そのためここ数日は惚れ薬の力には頼っていない。


(だめだな……。彼女との時間を楽しみにしてる自分がいる……俺は奉仕をする側なんだ……)


そう思いながらもエイドは立ち上がり、彼女に「奉仕」するべく部屋を後にした。
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