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第4章 ディエラ帝国での救出劇

再会・テイク2

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「……はあ……」
地下牢で、チャロは全身を濡れ布巾で拭き終えた後に、一息ついた。

地下牢には、看守が存在しない。
『天才』であるチャロに『何らかの手段』によってカギを奪われることを恐れた帝国上層部の判断からだ。
地下牢に続く階段を守っていた近衛兵たちは、侵入者の存在以上に『チャロの脱走』を危惧して配置されていた。近づいてきたロナに対して警戒心がさほど強くなかったのも、それが原因である。
食事や差し入れなどは近衛兵を通して行うなど、接触の機会も徹底的に減らされていた。
「退屈だな……」
チャロにとってはプライバシーを守れるというメリットがある反面、看守と話をする機会もなく、退屈な時間が続いていた。
その容姿からお菓子の差し入れを山ほどもらっており、それが唯一の時間をつぶす方法でもあった。
また当然だが、地下牢には魔法を封じる魔法陣が描かれており、チャロ個人の力では脱走することは不可能である。
「……ん?」
そんなチャロがお菓子の食べかすを袋に戻していると、上から足音が聞こえてきた。
「さっきご飯の時間は過ぎたばかりだし……ひょっとして、セドナ?」
そう早合点したチャロは、全身に床に落ちた『すす』や『埃』を擦り付けた。
そして足音は地下に達し、暗がりから人影が現れた。その姿を見て、チャロは、
「セドナ、来てくれたの?怖か……って、なんだ、キミか」
最初は涙目ですがるような目を見せていたが、その姿がリオだと気づき、急に冷めたような目つきに代わる。
そのあからさまな態度に、リオは思わず怒鳴りつける。近衛兵を起こしたらどうなるのかと突っ込みたいが、彼を責めるのは気の毒だろう。
「なんだよ、その掌返しは! 俺じゃ不満だってのかよ!」
「いや、不満じゃないよ?けどさ、助けに来るのがリオなら私もこんな格好……」
「こんな格好?」
だが、リオの後ろからひょっこりと現れた姿を見て、チャロはテイク2と言わんばかりに涙目になった。
「セドナ、来てくれたの? 怖かったよ……。もっと近くで、顔を見せて?」
「え? あ、ああ……」
当然先ほどまでのやり取りを知っているセドナだったが、それを言わずに檻の近くに顔を寄せる。
チャロはリオの両ほほに手を当てながら、語り掛ける。
「……ごめんね、こんな格好で……」
「気にすんなよ。それだけ、チャロが頑張ったって証拠だろ?」
「うん……。ありがと、セドナ」
「食事は……? ちゃんと食べてたか?」
「ううん。いつも食事の時間にもらえるのはちょっとのナッツと水だけだったから……」
「……こんな小さな皿に、ナッツだけか……」
そう言いながら、チャロはこれ見よがしに食事が置かれていた盆を見せる。セドナはそれを見て、同情的な表情をチャロに向けた。
「けどね。セドナがきっと来てくれるって信じてたから……我慢できたよ?」
「そうか……。ここから出たら、好きなものを腹いっぱい食わせてやるからな!」
「うん!」
そう切なそうな表情でセドナを見つめるチャロに対し、リオは先ほどの一見に対する不満があるのだろう、冷ややかな目であたりを見回す。
「……なあチャロ、なんでお前の部屋の埃、お前の足元だけ少ないんだ?ひょっとして、足元の埃を自分の顔に付けてたんじゃねえか?」
「……あん?」
リオの発言にチャロの顔が引きつる。
「それに、そこにある袋って、確かディエラ帝国で有名なクッキーのお店の奴だよな?『食事の時間』の食事は少なくても、差し入れとかはあったんじゃないか?と言うか、袖口に粉が……」
「リオ……。インキュバスって……短命な種族だよね……」
チャロは、にやりと表情を見せてつぶやいた。だが、その眼光は地下牢の暗闇の中でも分かるほど、鋭い輝きを見せていた。
「……や、やっぱ何でもない。それより、早く出ようぜ?」
そう言うと、リオは近衛兵から奪ったカギを使い、チャロを牢から解放した。

「よく頑張ったな、チャロ。……とりあえず、話は後にして、この服に着替えてくれ」
「何これ、軍服? ……あ、これおばさんが作った奴だよね?」
「お、よくわかったな。じゃあ俺たちはちょっと離れるな」
セドナ達はいったん地下牢から離れ、その間にチャロは帝国軍の軍服に身をやつした。

しばらくして、着替えが終わった合図を受けセドナ達は戻ってきた。
「どうかな、セドナ? 似合う?」
「ああ、良いんじゃねえか?」
興味なさそうに答えるリオに、チャロは口をとがらせる。
「キミには質問してないよ。……まあいいか。それで、このまま兵士のふりをして逃げるの?」
セドナは首を振った。
「いや、いくら何でも俺たちが出る頃には脱走がバレるだろうから、難しいな」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「今から12分後くらいに、仲間が裏の通用門に来るからな。……そのタイミングで叫ぶんだ。『侵入者だ!』ってな」
セドナはそう得意そうにチャロにつぶやく。

『セドナ型ロボット』には一般的な時計が内蔵されている。その為、この時代であっても正確な時刻を大規模な器具を使わずに知ることが出来る。この世界の時刻に関する概念(突き詰めればこの星の自転速度、並びに時刻に60進法を使う文化)が元の世界とほぼ同じであったことが、セドナにとっては幸いした。
チャロは、そのセドナの提案に首をかしげる。
「え? そんなことしたら、脱走したことがバレるんじゃない?」
「いや、問題ねえよ。……俺の考えた『闇の告発者作戦(ダーク・インディクター・タクティクスと読む)』には、抜かりはねえ。この夜を支配するのは、俺たちだよ」
リオはきらり、と歯を光らせながら笑みを浮かべた。
いうまでもなく、今回の作戦を立てたのはセドナとロナであり、リオが考えたのは『作戦名』だけだ。
作戦名や店名、グループ名など『何かの名称』を決めることを夢魔は大変好む傾向がある。反面、店の運営やグループの具体的な活動など『地道な作業』はあまり好きではない。
……まあ、それでも『リオの考えた作戦』という言葉に嘘はないので、良しとしよう。

時を同じくして、城の裏門の近く。
基本的に城門は夜間閉まっているが、兵士の通用門として裏門は開いている。
但しその警備は厳重で、城門には二人の兵士が見張りとして立っているほか、城壁の上にも数人の見張りがいる。
仮に強化魔法を展開したチャロやリオであろうとも、強行突破は不可能なのは見ただけでも理解できる。
「えっと……後1回だね……」
その城門の近くで、以前セドナの部隊に配属されていたインキュバスの少年は、緊張した様子で茂みの中に身を潜めていた。
周囲に気づかれないように小さなランプを用いて、セドナから借りた砂時計をひっくり返す。
「次、この砂が全部落ちたら作戦開始だって、セドナさんは言ってたよね……」
少年は、あたりに人の気配がないことを確認しつつ、落ちる砂を眺める。
この時代の文化レベル、ましてや精密作業が得意なドワーフが少ないこの大陸では『懐中時計』のように歯車の機構を使用する物品は大変高価である。転移物である『デジタル時計』などに至っては、それ一つで砦と同じ価値にすらなる。
流石に今回の作戦でセドナ達は時計までは用意できなかったので、少年は砂時計を代わりに使っている。

少年はしばらく待ち、砂がすべて落ちたことを確認した。
「よ、よし……。それじゃあ、行くぞ……。大丈夫、うまく行くよね、きっと……」
そうつぶやきながら、派出な黄色をしたローブを身にまとい、そっと裏門に向けて歩き出した。
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