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第2章 弓士団としての初仕事

レストランが空いている謎

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翌日。
「副隊長。この荷物は全部馬車に積んで良いんですかい?」
「ああ、頼むよ。ただ、重量の割り当ては必要だな。だから、先頭の馬車に重いものを載せてくれ」
「この装飾品とかはどうするの?あたしもこういうの買いたいなあ……」
「ああ、それは女王様への献上品だからな。ロナ隊長が乗る最後尾の馬車に入れておいてくれ」
隊長のロナが領主に謁見と荷物の輸出入に関する手続きを行っている最中、先に依頼されていた荷物の積み上げをセドナ達は行っていた。
積み上げる荷物は当然食料品が中心となる。
「ふう、それにしても馬車4台分って思ったより多いんだね……。セドナ、大丈夫?」
「ああ、元の世界でも力仕事はよくやっていたからな。それに、たまには体を動かさないとさび付いちまう。チャロも、しっかり水分補給しろよ?」
セドナは自分の水筒を差し出すと、チャロはそれをごくごくと飲み干した。
「あ、ごめん。全部飲んじゃった……」
「別にいいよ。ただ、まだ荷物は沢山あるし、無理はするなよな?」
「うん……」
セドナがチャロの頭をなでると、チャロは少し嬉しそうな表情をした。
「それにしても、この水筒ってすごいね。いつまでたっても冷たいままなんて、どんな魔法がかかってるの?」
「魔法じゃなくって、断熱機能がきちんとしてるだけだけどな」
因みにセドナの持つ水筒は、数少ない元の世界から持ってこれた物品だ。そこに飯盒のようなコップもついている。
幸い、エルフのよく用いる軍用水筒と形状が似ているので、持ち歩いていてもさほど目立たない。
「あ、宝飾品の搬送も終わったな。にしても……。そろそろ、声かけるか……」
「うん。……リオ!いい加減に仕事してよ!」
「!!!」
チャロは珍しく大声で怒鳴った。
……リオは、荷運びもせずにじっと宿の前でうずくまっていたからだ。
「悪い……。今、ちょっとそんな気分じゃねえんだ……」
「どんな気分でもやらなきゃいけないのが仕事だよね?」
「そうだろうけど……。傷ついた心は、立ち上がると崩れ落ちちまいそうでさ……」
自分に酔った発言をするリオに呆れた、チャロは耳を引っ張ろうと近づいた。その雰囲気を察知してか、セドナはとりなすように両手を広げて間に入った。
「じゃ、じゃあさ!馬車の中でたっぷりと話聞いてやるからさ!せめて、軽いものでも運んでくれよ、な?」
「え、良いのか、副隊長?」
それを聞いて、ようやくリオは顔を上げ、立ち上がった。
「全く、キミは甘いんだから……。こんなバカ、置いていけばいいのに……」
チャロは少し不満そうにむくれながらも、そばにある荷物を持ち上げた。
ちなみに、チャロの単純な腕力は一般的な人間の成人男性と同程度である。
エルフにとってはそれが恐ろしく見えるようで、通行人たちはまるで恐ろしいものを見るような目で眺めてきている。
「それじゃ、このナッツの入った袋を運んでくれ」
「分かった、任せてくれ! ……う……」
セドナが指示した袋はチャロの箱の半分程度の大きさしかなく、夢魔でも持ち上げられる重量である。だが、リオは持ち上げようとした瞬間に固まってしまった。
「おい、まさか……」
「だ、大丈夫。動かすことは出来るから……」
ズズズ……と袋を押し出すように動くリオ。だが、この方法では麻袋が破れてしまう。
その様子を見かねたチャロは、リオから荷物をひったくるように持ち上げた。
「全く、キミは本当に情けないな!ほら、貸して!」
「わ、悪い……」
「というかさ。ここは私たちだけでなんとかなるから、ロナ隊長の手伝いでもしてきたら?好きなんでしょ、隊長のこと?」
「い、いや……。実はロナ隊長から、書類の出来について怒られたばっかりでさ。それで……」
「今日は顔を合わせられないってわけか……。全く、キミって奴は……」
悪態を尽きながらも、チャロは黙々とリオの分まで荷物を運んでくれる。なんだかんだで仲のいいコンビである。
「ま、まあ種族には向き不向きってのがあるからさ!リオは先に出国の手続きをしてきてくれよ、な!」
「出国の?」
「助かるよ。俺たちが行くと、エルフは嫌な顔するからさ。それに、夢魔って足速いだろ?ロナ隊長もそろそろ戻ってくるし、きっと手続きが終わってたら驚くと思うな」
「ああ!足の速さなら自信があるからな!じゃ、早速行ってくるな!」
そう言うと、リオは城門に向けてすっ飛んでいった。全く、現金なものだ。
「セドナって、本当にこういうの上手いよね?」
「そうか?」
「暗い顔してたスラム街のみんなも、今じゃ凄い仕事頑張ってるし」
「だってさ、出来る人が一番出来る仕事を出来るようになるのが一番良いじゃんか。……よし、これで荷物は全部積み込んだな」
セドナは汗一つかかずに荷物を馬車に積み込んだ。

「それで、いったいなんで今日はあんなに落ち込んでたんだ?」
それから数時間後。
ロナ隊長とリオが戻ってきた後、セドナ達は帰りの馬車に乗り込んだ。
行きと違い荷物が多くなったため、セドナの乗る馬車にはチャロ・リオの2名しか乗り込んでいない。
先頭はセドナ達が担当し、一番重要な宝飾品を受け持つロナがしんがりの馬車に乗り込んでいる。本来セドナは、隊の中で一番腕の立つチャロを彼女と同乗させたかったが、両者の猛反発にあったため、現在の配置となった。
「ああ、昨日チャロに生意気言われたから、ナンパしたんだよ。それでさ……」
「あ、分かった!相手にされなかったんでしょ?リオって顔は良いけど頭悪そうだもんね!」
チャロはクスクスと笑いながらリオの肩をポン、とたたいた。
「ち、ちげーよ!ナンパ自体は上手く行ったんだよ!それで、この国で有名なレストランにエスコートしたんだ」
「へえ、凄いじゃん!場所はどこなんだ?」
「この国で有名な『ザントマン・ガレット』ってとこなんだよ」
「ああ、あのガレットを出すお店だろ? ……あれ、でも確か昨日は……」
「そう、定休日だったんだよ。それで近くにある喫茶店でハムサンドを頼んだんだ。彼女はガレットを頼んでたな」
(……ん?)
そこまで聴いて、セドナは違和感を感じた。
(飢饉が原因で、うちの国は食料不足だって聞いたけど……。この国はどこの飲食店もやっているのか?飢饉で困っているのはうちの国だけなのか?それとも……)
「で、聞いてる、セドナ?」
「あ、ああ、悪い。それで、どうしたんだ?」
リオの声に疑問をかき消されたセドナは、とりあえず後でそのことを考えることにした。
「ああ、最初はその子のことをほめてるだけで良かったんだけど、話すことがなくなってきてさ……」
「話すことなんて、いくらでも思いつくでしょ?」
「けどさ!『これを言っていいのかな?』とか『これを言ってもつまらないかな?』って思うと、いろいろ話せなくなってさ……」
「そう言う雑談力って結局、人間関係の積み重ねだからな。リオはあまり人付き合いが多くないんじゃないか?」
「ま、まあ、否定はしないけどよ……」
「あと、最近のニュースとか流行とか、幅広い知識もちゃんと身に着けておかないと。モテテクやデートの知識だけ頭にため込んでも、すぐに話題はなくなるよ?」
セドナの質問とチャロの発言に、リオは口ごもった。
夢魔はあまり同性との付き合いを好まない。そのため、普段の人間関係で異性が少ない場ではそもそもコミュニケーションをあまりとらない。その悪影響がデートの場で表面化したのだろう。
「む……。けど、そこまではまだ何とかなってたんだよ。その後演劇場に行こうって話をして、行ったんだよ……。けど、出るときには彼女呆れちゃって……『もっと異性のこと、勉強しなさいよ』ってお説教されたんだよなあ……」
そう愚痴りながら、ゴロン、と横になった。
「それで、続きは? その人にどんなことしたの?」
そう言いながら、チャロは当たり前のようにセドナの右足に頭をのせ、横になった。
「別に……。ただ、彼女はあまりその演劇に詳しくなさそうだったからさ。だから『こういう俳優が今凄いんだよ』とか『女優の演技はこれが大事なんだよ』ってことを色々教えてあげたんだよ」
「はあ……。それ、一番嫌われる行動だよ。理由は、説明しなくても分かるよね?」
「まあな……。上から目線で色々言われるのは誰だっていやだもんなあ……」
ロナに先ほど書類の出来の悪さを説教されたことで気が付いたのだろう。リオは不貞腐れたように寝返りを打つ。
チャロはセドナの右手をぐい、と引き寄せながらリオに訊ねた。
「正直思うんだけどさ。リオの考え方って、私を拾ってくれたエルフと一緒なんだよね」
「どういうことだ?」

「ご飯と甘い言葉で信頼を買えると思ってる」

「…………」
リオは何も言えずに、セドナの方に顔をそむけた。
「信頼や愛情を得るのって、凄い難しいんだよ。自分以外の人からも信頼を得られる人じゃないと、好きになってもらえないよ?」
チャロは、セドナの顔を見上げながら、諭すような口調で言う。
「信頼、か……。じゃあ、俺はどうすればいいんだ?」
「まずは、私たちから信頼をもらえるように頑張れば良いんじゃない?」
「けど、お前から信頼を得てもモテないしなあ……」
「はい、出た! 自分にメリットのある人にだけ優しくするやつ! そう言うところから直さないといけないんじゃない?」
「……分かった。少しずつやってみるよ」
「分かればよろしい」
チャロはフン、と鼻を鳴らしながら笑う様子を見て、セドナはクスリ、と笑みを浮かべた。
「にしても、お前ら本当に仲いいな。なんか、きょうだいみたいで見てて面白いよ」
「はあ? 何言ってんだよ! こんなバカな奴、姉貴みたいなんて思ったことねえよ!」
「私もだよ! こいつみたいな弟が居たら、私だったら勘当ものだって!」
「そういうとこ。リオの方が年上なのに、チャロが『姉』、リオが『弟』ってお互いに思ったんだろ?そういうとこが、仲が良いってんだよ」
「……む……」
チャロは図星を付かれたように、少し口ごもった。
「ま、とにかくさ、リオ。自分の分からないところに気づいたろ?それに、こうやってチャロや俺たちとコミュニケーションをとっていれば、少しずつスキルも身についてくるよ?」
「そうか?」
「ああ、保証する。現に、昨日のお前より今日のお前の方が、モテスキルは上がってるよ。これは間違いないから」
「そ、そうだな……。この調子でいけば、か……」
その発言に、リオは顔を明るくした。
「だから、今のお前に出来ることを一つずつやっていこうな。 まずは、この輸送の仕事をきちんと終わらせよう、な?」
「ハハハ、そうだな、セドナ。なんか、お前と話してるとなんでもできそうな気がしてきたよ。お前みたいなのが『勇者』って言うのかもな」
「なんだよ、それ? 俺、別にチートスキルなんかもってねえぞ?」
「そういうんじゃ……な……くて……さ……」
だが、最後まで言い切る前にリオは眠りに落ちていった。
「おいおい、どうしたんだよ。まだ休憩時間には早いぜ。な、チャロ……?」
「…………」
チャロも眠りに落ちていた。
その直後、ガタン、と大きく馬車が揺れ、そして動かなくなった。
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