人口比率が『エルフ80%、人間1%』の世界に、 チート能力もなしで転移した俺が「勇者」と呼ばれるまで

フーラー

文字の大きさ
上 下
8 / 43
第1章 弓士団試験

エルフには「天才」はいない

しおりを挟む
最初のうちこそ周囲にいたエルフたちは、感心しながらチャロの武勇を眺めていた。
「これは、ぜひわが軍に欲しい」
「人間のこの接近戦は、切り札になるな」
「いざと言うときの捨て駒にはうってつけだ」
……と、セドナに聞こえていることも知らずに、好き放題に話をしていた。

だが、5連勝をしたあたりから少しずつチャロを怯えるような目で見始めてきた。
「なあ、ひょっとしてあの子『天才』なんじゃないか……」
「いや、まさか。だって、人間だろ?あれくらい強い奴は、普通にいるって……」
と言った声が聞こえ始めてきた。

……エルフはみな小柄で魔力に優れた美男美女ばかり……と言われており、実際にその通りである。
だが、これは裏を返せば「個体差が少ない」と言う意味でもある。

すなわち「種族間」で見ればエルフは「とがった能力」を持っているように見えるのだが、「エルフ間」で見れば、みな似たり寄ったり、ということだ。
また、老化が遅い・男性が華奢な傾向がある、と言うことは裏を返せば、年齢・性別間の能力差も小さいということでもある。
逆に人間は、性別・年齢による能力差は勿論のこと、同性・同年代でも容姿・体格・知力と言った、ありとあらゆる能力のばらつきが大きく、チャロのような傑出した能力を持つものが現れることも珍しくない。

(天才、か……。チャロは確かにすごいけど、もっとすごい奴なら前の世界にも居たからなあ……)
セドナはエルフの表情を見ながら、そう心の中でつぶやいた。
そもそも「天才」の存在自体、人間の世界では、さほど珍しいものではない。

仮にサッカーにおいて「1000人に1人の逸材」と言われたとしても、10万人も選手を集めれば、それだけで9チームの「天才だけのチーム」を作っておつりが出る。
実際チャロも確かに「天才」ではあるが、その才覚をスポーツに例えるなら「全国大会に出場できるチームのナンバー2」と言ったところであり、唯一無二のもの、というほどではない。

即ち、稀な存在であることに変わりはないが、人間の世界での「天才」は「どの学校にも1人はいる、割とありふれた存在」ともいえる。
だが、エルフには、そのような「天才」が存在しない。
それに加え、実際にエルフの歴史を紐解くと幾度となく人間の「天才」が種族の覇権を脅かしたこともあったようだ。
(あの新兵が怯えていたのも、チャロが「天才」だったらと思って、心配していたんだろうな……)
そのこともあり、エルフたちは「天才」を持つものを過剰におびえ、時には排斥することもある。

……この世界では「天才」は、誉め言葉ではないのだ。

「ふう、まだまだ余裕。次の相手は?」
「……次の相手は、団長よ。……お願いします、団長」
ロナは、少し不安そうな表情で答えた。
「おお、団長のお出ましか!」
「これなら、人間ごとき簡単に仕留められるな」
周囲の歓声の中現れたのは、筋肉質な肉体に大剣を背負った一人の女性だった。

団長はやや粗野ながらも、威厳を込めた口調で話しかけてきた。
「お前、ずいぶん強いらしいな。だが、ここで負けたらエルフ弓士団の沽券にもかかわる。……悪いが、ここで終わらせるぞ?」
そういうと、彼女は大剣を振り下ろした。さすがに刃引きはされているが、頭上に直撃を受ければ絶命は免れない。「人間を殺しても問題ない」と言う意識がその切っ先には見え隠れしている。
「悪いけど、私はイライラしてるんだよ。さっさと来て?」
エルフたちの見下すような口調がチャロの耳にも届いていたのだろう、怒りを抑えるような口調で、チャロも構えた。
そして、チャロは強化魔法を展開し、大きく飛び上がり団長に強烈な飛び蹴りをかます。

ヒュン、とその一撃は団長の喉元をかすめた。
「くっ……流石ね……」
地面に激突しそうになったチャロは受け身を取り、構えた。
次の瞬間、エルフの大剣がチャロの頭上に振り下ろされる。
「うわ!」
チャロは悲鳴を上げながらも、それを紙一重でかわす。

「これは、まずいな……」
その様子を見て、セドナは焦り始めた。
エルフの世界では、おそらく彼女は「ゴリラのような大女」なのだろう。
だが、人間目線で見れば所詮「ボディビルダー志望」程度の体格でしかなく、素質あるものが極限まで鍛えた人間の体格には到底及ばない。
加えて、持って生まれた反射神経は他のエルフと大差はないようだ。
先刻の、絶妙のタイミングで振り下ろした一撃を交わされるのでは、おそらく時間こそかかるだろうが、団長側に勝ち目はない。

(ま、これは人間の『天才』がそれほど、やばいってことだろうな……)
よく物語の中に「ドワーフ」のような屈強なフィジカルを持つ種族が出てくる。
だが、その「ドワーフ」と大差ない筋肉を身にまとった豪傑は、現実世界にもゴロゴロいる。

これは、他種族から見れば、「オオカミを打ち倒せるカエル」がいるようなものだ。
このような「個体差の大きさ」は人間にとっては当たり前だが、他種族にとっては脅威に映るのだろう。

「なかなかやるな、お前……。けど、勝つのは私だ!」
そういうと、団長は強化魔法をさらに高めた。
「まだ、やるっていうんだね?じゃあ、かかってきてよ!」
それを迎え撃とうと、自らも強化魔法を高めるチャロ。
だが、ここで勝てばチャロが「天才」であることが確定してしまうだろう。
そう思ったセドナは、大声で試合の中止を叫ぼうとした。だが……。
「……?」

突如、チャロの脚部から魔力が失われていった。
「な、なんで……」
突然の変化に動揺を隠しきれないチャロ。魔力は凡人並みとはいえ、まだまだ余裕があったのだろう。その様子を見た団長は、少し不服そうな表情を見せながらも、にやりと笑った。
「ふ、ふん……。魔力が切れたようだな……。これで幕だ!」
動揺する隙にチャロの懐にもぐりこみ、足払いと同時に剣をチャロの肩にあて、地面に叩きつける。
ドガ……と言う音とともに、チャロは倒れこんだ。
「はい、試合終了!チャロ、さっさとそこから出て?」
その様子を見るや否や、ロナは大声で叫んだ。

「チャロ!大丈夫か?」
セドナは試合場で倒れこんだチャロに駆け寄った。不満そうな表情を見せていたチャロだったが、それを見て急に苦痛の表情を見せながら、セドナにもたれかかる。
「ううん。ダメ……。お願い、抱っこして……?」
「抱っこ?いや、大丈夫。足にけがはないぞ。それに打ったのは肩だな。脳震盪も起こしていないから、自力で歩けるだろ?」
そういうなり肩を貸そうとするセドナの頭を、チャロはひっぱたいた。
「おい、試合は終わったんだぞ!」
「そういう時、普通は抱きかかえてくれるもんじゃないの?」
「わ、悪かったよ……」
そう言いながらも、チャロはセドナの肩を借り、立ち上がった。

「けど、本当におかしいな……。まだ魔力があったはずなのに、急に使えなくなったんだよね……」
先ほどの試合結果に満足していないのか、チャロはつぶやいた。
「確かに、魔力切れが早すぎるよな……。もしかして、誰かが魔法解除をしてきた……ってことか?」
「だと思う。けど、誰にもバレずにそんなこと出来るエルフが、ここにいる?」
「それは、そうだな……」
人間を相手にするエルフはみな、どちらかと言うと魔法よりも剣技を得意とするものばかりだ。そもそも、相当な実力者でない限り、誰にもバレずに魔法解除を行うことは困難だ。
「ま、負けちまったものは仕方ないよな。けど、そのおかげで命拾いしたのかもな」
「そうなの?」

セドナは周囲の声を聴き、少し安心したように肩をなでおろした。
周囲は先ほどの恐怖するような口調とは裏腹に、
「やはり、人間はエルフには勝てないようですな」
「いかに野蛮な暴力を持とうと、所詮は人間。魔力が長続きしないのだろうな」
「持久戦に持ち込めば、我々エルフに勝てる種族など、いないということが証明されましたな」
「だが、やはり人間の力は捨てがたい。隣国に奪われる前に囲い込まねば」
と、チャロを脅威としていないことが明らかであった。
(魔法解除をした奴が誰かは分からないけど……。ある意味感謝しないとな)

「では、今日は最後の受験者ね。セドナさん」
「はい」
そういうと、セドナは前に出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...