可愛くなった妹に追いつくための、お兄ちゃんのイケメン化計画

フーラー

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「親友」と思っていた、は嘘じゃない

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そして翌日。

「おはよう、ミツキ」
「あ、おはよ……って、何そのかっこ」

先日マヒロと一緒に買った服を着ているスバルを見て、ミツキは思わず顔を赤くして口ごもった。

「ああ、どうかな? ……似合うだろ?」
「う、うん……かっこいい……」

その姿に見ほれるような姿を見て、ミツキは思わずつぶやいた。
ようやく認めてもらえたことに気を良くしたのか、スバルは嬉しそうに笑った。

「けどなんで、そんな恰好? 今日どっか行くの?」
「ああ、マヒロに最近世話になったからさ。そのお礼に、今日飯を奢る約束してたんだよ?」
「……はあ?」

だが、その発言にミツキは怒りの表情を見せる。

「マヒロって、知ってるよ。あの職場の同僚でしょ?」
「そう言えば以前あったことあったよな。そうだよ。もう少ししたらうちに来ると思う」

一度だけ、スバルはマヒロ達同僚と一緒にスバルの家で宅飲みを行ったことがある。
その時くらいから、ミツキの態度がよそよそしくなったことをスバルは覚えていた。
それを聞き、意を決したようにミツキは口を開く。

「あのさ、お兄ちゃん! ……前から言おうと思ってたんだけどさ……」
「な、なんだよ……」


「私は小さい時から、お兄ちゃんのことが好きなの。誰にも渡したくないくらい!」


「はあ?」

ここ最近自分が嫌われていたと思っていたスバルは、驚いた表情を向けた。

「だって、あたしのために学校辞めて働いて、家のことも全部やってくれて、学校で嫌なことがあったら話聞いてくれてきたじゃん?」
「それは、当たり前のことだろ?」
「ほら、そうやって当たり前だって言うじゃん! どれだけ私のために頑張ってくれるのさ、お兄ちゃんは!」

ミツキは兄に抱き着いて叫ぶように続ける。

「しかも、最近はオシャレになって、ますますイケメンになってるでしょ!? お兄ちゃんのこと、好きにならない方がおかしいでしょ!」
「じゃあどうして、最近試合に呼んでくれなかったんだよ?」
「当たり前でしょ!? お兄ちゃんのこと狙ってる子が部員にどれだけいるか分かってるの? 毎回毎回聞かれてたんだよ、『お兄さん、彼女いるの?』『紹介して?』って。ここ最近、ずっと断ってたんだから!」
「え……」
「最近は、ずっとそいつらの相手してたんだよ!」

そう言えばここ最近、ずっとミツキはスマホで誰かと連絡を取っていたことを想いだした。
ミツキが不愛想だったのも、その対応に追われていたからなのだろう、とスバルは少し驚いたように頷いた。

「けどさ、お兄ちゃんのこと狙ってくる奴なんで、絶対に近づけたくない! 今日はずっと私と一緒に居て!」
「おいおい……今日はマヒロと一緒に飯食いに行くだけだぜ?」
「だから嫌なの!」


そしてミツキは続ける。

「なんであの『女』がお兄ちゃんを狙ってるって分からないのよ!」
「はあ? 狙ってるって……」

そこで、ドアのチャイムがピンポンとなった。
慌てるようにスバルは、玄関に走り、ドアを開けた。


「おはよ、スバル! なんか外にも声が聞こえてたけどどうしたんだよ?」
「ああ、ちょっとな……。つうかさ、なんか今日はずいぶん……」
「ずいぶん、なんだよ?」
「かわいいな、『摩妃沪』」

普段の作業着や普段着とは異なるスカート姿、そしてやや古風なリボンを付けたマヒロを見て、スバルは少し顔を赤らめた。

「へへへ、だろ? 『あたし』もこういう格好するのは久しぶりだからな。お前もこういう服装嫌いじゃないだろ?」
「ああ、すっげーいいじゃん!」

そう言っていると、奥からミツキも現れた。
その表情にはあからさまなまでに怒りがにじみ出ている。

「やあ、ミツキ……だよな。久しぶり。兄貴を困らせてるんだってな、あんた」
「……マヒロさんでしたよね? ……最近お兄ちゃんに付きまとってるそうですけど……」
「なんだよ、付きまとってるわけじゃねえよ。あたしはあんたとスバルの関係が悪くなっていたって聞いたから、相談に乗ってあげてただけだけど?」
「……なら、もうお兄ちゃんに関わらないでください。お兄ちゃんのことは大好きですし、私だけのものなんですから!」
「はあ、何言ってんだよ。妹だからって、兄貴の交友関係にまで口出しする権利はねえだろ?」
「そうですけど……。マヒロさん、お兄ちゃんのこと狙ってますよね?」
「はあ? べ、別に狙ってはねえよ! ……まあ……スバルがあたしのことが好きだったら付き合ってやってもいいかな~……とは思うけどさ」

そう言いながら、真優はスバルの手を取り、自身の肩に手を回させながら、上目づかいで答えた。

「お兄ちゃん! その女、最初から相談するふりしてお兄ちゃんを狙ってただけだよ!」
「はあ?」
「どうせ、アドバイスにかこつけて連絡先を教えたり、写真を送ったり、洋服買いに行ったりデートの口実を作ったりされてたんでしょ?」
「……ち、ちげーよ……」

図星を付かれたのだろう、否定しながらもマヒロの顔がゆがむのをミツキは見逃さなかった。

「やっぱり! お兄ちゃん、その女は絶対にお兄ちゃんを幸せにしないから離れてよ!」
「何言ってんだよ? それよりスバル、騙されんな。お前の妹はお前のことをATM兼料理ロボットとしか見てないだろ? ……お前がいないと不便だからああ言ってるだけだって!」
「ンなわけないでしょ! お兄ちゃんが傍にいてくれるなら、私が高校やめて養っても良い!」
「だったらあたしだって、スバルを主夫にしたってかまわねえよ!」
「……お、おい……」


言うまでもないが、妹が高校を中退することをスバルは望んでいない。
さらに、ようやっと勝ち取った正社員の椅子を蹴ってまで主夫になるのは猶更望んでいない。
激しくギャアギャアと騒ぐ二人を見ながら、スバルはおずおずと答えた。


「あの……二人ともさ」
「なに?」
「なんだよ?」
「盛り上がってるところ悪いんだけど……。というか、今日話そうと思ったんだけどさ……」

そう言いながら、スバルは答える。


「実は俺、この間彼女出来たんだ……」


その発言を聞いて、

「なななななな……なに、嘘でしょ?」
「嘘だろ、おい、スバル! お前いつ、どこで彼女なんか作ったんだよ!」
「ああ。だからこの間マッチングアプリで知り合ったんだよ」
「マッチングアプリ……しまった、盲点……!」
「くそ、職場にあたし以外の女がいないから油断した……!」

二人はその発言を聞いて歯噛みするような表情を見せた。

「……これも親友のマヒロに色々アドバイス貰ったおかげもあったからさ。今日はそのお礼も兼ねてたんだけどな……」
「……へえ……」

スバルはマヒロのことを本当の意味で『親友』と思っていたことに気づいたのか、マヒロは表情を歪ませた。
そして、マヒロとミツキは同時に作り笑いを浮かべながら尋ねる。

「それなら仕方ねえな。……でさ、どんな感じの子なんだ? 『親友』のあたしに見せろよ」
「そ、そうそう! 私にも見せてよ!」
「え? ……ほら、こんな子だけど」

そう言って見せたスマホには、優しそうな表情の女性が写っていた。
それを見ながら、二人はにんまりと邪悪な笑みを浮かべた。

「ふーん、よさそうな子じゃん……。そうだ、今度さ、その女と一緒に遊ぶのはどう?」
「うん、良いと思う! お兄ちゃん、紹介してよ、その女!」
「え? ……そうだな、今度うちに呼ぶよ」
「ああ、そりゃ『楽しみ』だな! ……そうだ、スバル! ちょっとあたしはミツキと話があるから先に駅で待っててくれないか?」
「ああ、分かった。早く来いよ?」

そう言うと、スバルは家を出て駅に向かって歩いて行った。



スバルの気配が無くなった後、マヒロとミツキは顔を見合わせた。
「おい、ミツキ……ここは一時休戦しような」
「そうね……。けど、あんたのこと認めたわけじゃないから。お兄ちゃんは絶対にあたしと一緒に暮らすの。死ぬまでずっとね」
「ケッ。言ってろ、バーカ」
「うっさい、バーカ」

そう言うと二人は連絡先を交換し、憎きライバルを蹴落とすべく拳を突き合せた。
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