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第5章 依頼:トエル帝国で姫君を封じ込めた魔王を始末してほしい
5-4 魔物使いは『魔法無効化』のスクロールを探すようです
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幸いなことにソニック・ドラゴンは俺たちの居た街に移動してくれていた。
その為俺達は、その日の夕方に、リズリーたちの住んでいた村に戻ってくることが出来た。
「おお、勇者ワンド様! それにトーニャ様も! お久しぶりです」
俺達は村に着くなり、村長に歓迎の言葉を受けた。
「え、ワンド様が来たって?」
「うわあ、久しぶり! 元気だった?」
村長が声をかけるのが聞こえたのか、村の住民も俺たちに会いに来てくれた。
以前のようなヒーロー扱いではないが、かつての旧友に再会するような態度で自分たちに接してくれる。
寧ろ、この方が俺は嬉しい。
「ああ。魔王ゼログが宣戦布告をしてから、そっちはどうだ?」
「今のところは特に何か起きているわけではありませんが……。やはり、村人たちの間に緊張は走っています……」
「そうか……。ところで、以前ミノタウロスを倒した時に取り逃したシスクの件なんだけど……」
その発言に、村人たちがピクリ、と殺気だった。
やはり、仮にも元村人だった彼の裏切り行為を許していないものが多いのだろう。
だが、村長は冷静な口調で尋ねる。
「ええ、あれから進展はありましたかのう?」
「……ああ。来てくれ、リズリー、フォーチュラ」
そういって俺は、茂みの向こうにいた二人に声をかけた
二人は、ロープでぐるぐる巻きになったシスクを連れてやってくる。
「リズリーちゃん! 久しぶりね! ……で、えっと、その捕まっている人は……」
「ええ。兄様です……。この通り、私たちの手で捕らえましたわ?」
「え……じゃあ、あなたがシスク……?」
「いや、ちょっとこれは……」
村人たちはそのシスクの姿を見て、言葉を失った。
……シスクは、顔の形も分からないほどにボコボコに殴られていたからだ。
「ああ。……手を抜ける相手じゃなかったからな。……だが、あんたらが受けた苦しみに比べたら、これでも生ぬるいと思うけどな」
「そ、それは……」
俺は本心ではないが、敢えてそう言ってシスクの縄を掴むと、村長の前に彼を蹴り飛ばした。
「ぐは……」
うめくような言葉と共にシスクは倒れる。
「こいつ、リズリーの病気を治すために、特殊な魔道具が欲しかったらしい。それで、あんたらから山賊を働いていたみたいだな」
「え? ……リズリーちゃん、病気だったの?」
「はい……。うつるものではなかったので、皆さんには黙ってましたが……」
リズリーはそう頷く。
厳密にはリズリーがかかっていたものは、病気ではなく『魔王の魂』が体内に封じられたことにより、寿命が削られていくというものだ。
だが、下手に『魔王』という言葉を使うと村人を刺激すると考え、病気と言うことにした。
「そうじゃったか……」
「それでリズリー。病気は治ったのか?」
「ええ。……こういうと怒るかもしれませんが……兄様のおかげで……」
「けどシスクも、それならそう言ってくれれば……」
だが、それは難しかっただろう。
俺は首を振って答える。
「それだけ多額の路銀が※必要だったらしい。実際こいつを捕まえたのは、ここからだいぶ離れた場所だったからな」
(※ゼログに会えたことで、ソニック・ドラゴンを用いることが出来たため、実際の費用はあまりかからなかった。だが、もしもゼログに会えず、キング・クラーケンも倒せなかった場合、陸路を使うことになるため、関所を超えるのに相当な費用が必要になる予定であった)
「そうか……だけどな、俺たちの取られた積み荷の代金はどうなるんだよ?」
それを聞いても、あまり納得できない様子の村人は不満そうに尋ねる。
彼は恐らく、実際に積み荷を奪われたものたちだろう。
当然この話題が出ることは分かっている。
そこで俺は、代わりに大量の手形を見せた。……これはゼログが人間だったころ、俺の名前で振り込んでくれたものだ。
……今まで使わないで良かった。
「あんたたちの積み荷の被害額は……倍額で弁償する」
「倍額で? ……いや、それなら助かるが、どうしてだい?」
「だから、その……シスクのことを許してほしいんだ」
「え?」
その提案に、思わず村人達も驚いた表情を見せた。
「こいつの力は……魔王ゼログを倒すために必要なんだ。だから……この通りだ……」
「私も頭を下げさせてもらう。魔物を使役できる、シスクの力がないと、勝てそうもないから」
そう言って、トーニャも一緒に頭を下げた。
その姿を見て、村人たちは顔を見合わせて話しあう。
そして、
「まあ、俺達は積み荷の代金を貰えれば、それでいいよ」
「それに、シスクもリズリーちゃんのためにやったことでしょ? これだけシスクも痛めつけられてたら、あたしらの気もおさまったよ」
そう村人たちは答えてくれた。
「じゃあ……」
「ああ、シスクのことはもういいよ。……縄を解いてやんな」
「ありがとう!」
俺はそう言って頭をもう一度下げ、シスクの縄を解いて笑みを浮かべた。
「良かったな、シスク!」
「ああ……」
その様子に、リズリーも嬉しそうな表情を見せる。
「本当に……世話が焼ける兄様ですこと。……すみません、私たちの家を今晩使っていいですか?」
「ああ、いつかあんたが帰ってくると思って、部屋はきれいにしてあるよ」
「ありがとうございます」
そう言われて俺達は堂々と村に入った。
そしてリズリーの家でリズリーとトーニャの治療を受けながら、シスクに尋ねる。
「やったね、シスク。作戦は成功だ」
「ああ……」
その様子を見て、俺は安堵した。
ことは数時間前。
シスクは村の少し前にソニック・ドラゴンを止め、俺たちにつぶやいた。
「私の家には、ゼログを倒すために必須となる道具が置いてある。……だが……」
「ああ、あんたはこの村じゃお尋ね者だからな。……まともに行っても、つまみ出されるだろうな」
「そうだ。……だから一芝居打とうと思う」
そう言うとシスクは、その場でどっかりと座り込みフォーチュラの方を見た。
「私を殴ってくれ。全力で」
「え? な、なんで、あたし、シスク様、殴るの?」
「村人の前に無傷でワンドたちと共に姿を現したら、神経を逆なでするようなものだ。最悪、リズリーやワンドの心証まで悪くなり、村に入れなくなる」
それを聞いて、リズリーはその考えを察したかのように答える。
「……つまり、兄様は私たちとの死闘の末、ついに捕らえられた……という体にするということですね?」
「そうだ」
「け、けど、それ、シスク様、痛いじゃん! 普通に、捕らえるの、ダメ?」
相変わらずフォーチュラはシスクが相手になると片言になるな。
だがシスクはそれを笑おうともせずに、真摯に答える。
「ダメだ。……はっきり言って、私はあんた達より強い。それは村人も分かっているはずだ。だから、無傷で捕らえたなんてわかったら、却って怪しまれる」
口ではそう言うが、俺はシスクが強い決意を秘めて、そう言っていることは分かった。
……これは、シスクなりのけじめなのだ。
そもそも、魔道具を取りに帰るだけならば、夜中にこっそり忍び込めばいいだけだ。
だがシスクは正面から堂々と帰ろうとしている。
また、屈強な獣人に殴られることは、本人なりの贖罪でもあるのだろう。
唯一の幸いは、シスクの山賊行為で死亡者は出ていないことだ。
彼なりの良心なのだろう、『ヒートヘッド・ミノタウロス』の前に敗れた『勇者』達も、命に別状がない程度に留めていたため、謝罪が受け入れられる可能性は高い。
この方法なら、シスクは許されることは、俺も想像がついた。
そしてフォーチュラも、そのことを察したのだろう。
「分かった……ごめん、シスク様!」
そう言ってフォーチュラはシスクの顔面に拳を叩きこんだ。
……これが、村を訪れるまでに起きたことだ。
シスクは痛みに顔を引きつらせながらも、棚を指さす。
「そこの棚に……入っている、スクロールを取ってくれ」
「スクロール? ……これか」
「ああ。それは……魔法無効化のスクロールだ……。使うと、その周辺では……魔力を一切使えなくなる……」
なるほど、この手のスクロールは俺も知っている。
手ごわい魔導士であっても、このスクロールを使うとただの非力な人間に成り下がる強力な魔道具だ。
「悪魔系の魔物は……その力の殆どを魔力に頼っている……だから、それが特効なんだ……」
「魔力に? そういえば……」
ゼログが魔王に転生した際に凄まじい魔力を感じたが、逆に言えばそれだけだった。
筋肉が盛り上がるようなことはなく、寧ろ単に本人の持つ能力が全て魔力に変換されたような印象すら受けたくらいだった。
フォーチュラも、それを聞いて答える。
「そう言えば、神父様も言ってた。……悪魔系の魔物にとって、魔力は血液みたいなもの。だから、魔法無効化を使えば動くことも出来なくなるって……だよね、シスク様?」
「ああ。……魔王も悪魔系の種族だ……実際に、魔王を封じる際に……私の両親が戦いにはせ参じたのも……それが理由だ……」
なるほど、このスクロールは両親から譲り受けたものなのだろう。
……考えてみれば、当然だ。
魔王はゼログほどではないにせよ、俺達人間にはまるで歯が立たない相手だ。
それをシスクの両親たちが倒したのであれば、それ相応の道具を用いたに決まっている。
だがトーニャは、それを聞いても少し不安そうな表情を見せた。
「けど……相手はゼログだから……これがあっても勝てるか分からないね……」
「だな。……何となくだが、あいつはこのスクロールだけで動きを封じることは出来ない、そんな気がするな」
シスクたちもそう不安そうにつぶやいた。
……だが、俺は首を振った。
「だけど、ほかにやる方法はないだろ? ……俺は、シスクの作戦に賭けてみたい」
「ワンド……そうだよね……ゼログが相手でも、やってみるしかない、か」
「私はワンド様のことを信じていますから……ご一緒します」
「うん、シスク様、やってみようよ?」
あれ、いつの間にかフォーチュラは、シスクに普通に話せるようになったな。
何となくシスクの性格を理解できたから、緊張が解けたのかもな。
「よし、それじゃあ怪我が治ったら……」
魔王城に行こう。
そう言おうと思った矢先、村長が突然入ってきた。
「すみません、ワンド様……そう言えばお伝え忘れていたことがあったのです」
「なんだ?」
「ワンド様がいらしたら……新生トエル城に来るようにと、国王陛下がおっしゃっておりまして……」
「国王陛下が?」
……まあ、大体呼ばれた理由は想像がつくが。
恐らく陛下は、世界中の村落に同じようなお達しを出していたのだろう。
「分かった。……シスクの怪我が治り次第、俺達は向かうよ」
寄り道になるが、俺はそう答えるしかなった。
その為俺達は、その日の夕方に、リズリーたちの住んでいた村に戻ってくることが出来た。
「おお、勇者ワンド様! それにトーニャ様も! お久しぶりです」
俺達は村に着くなり、村長に歓迎の言葉を受けた。
「え、ワンド様が来たって?」
「うわあ、久しぶり! 元気だった?」
村長が声をかけるのが聞こえたのか、村の住民も俺たちに会いに来てくれた。
以前のようなヒーロー扱いではないが、かつての旧友に再会するような態度で自分たちに接してくれる。
寧ろ、この方が俺は嬉しい。
「ああ。魔王ゼログが宣戦布告をしてから、そっちはどうだ?」
「今のところは特に何か起きているわけではありませんが……。やはり、村人たちの間に緊張は走っています……」
「そうか……。ところで、以前ミノタウロスを倒した時に取り逃したシスクの件なんだけど……」
その発言に、村人たちがピクリ、と殺気だった。
やはり、仮にも元村人だった彼の裏切り行為を許していないものが多いのだろう。
だが、村長は冷静な口調で尋ねる。
「ええ、あれから進展はありましたかのう?」
「……ああ。来てくれ、リズリー、フォーチュラ」
そういって俺は、茂みの向こうにいた二人に声をかけた
二人は、ロープでぐるぐる巻きになったシスクを連れてやってくる。
「リズリーちゃん! 久しぶりね! ……で、えっと、その捕まっている人は……」
「ええ。兄様です……。この通り、私たちの手で捕らえましたわ?」
「え……じゃあ、あなたがシスク……?」
「いや、ちょっとこれは……」
村人たちはそのシスクの姿を見て、言葉を失った。
……シスクは、顔の形も分からないほどにボコボコに殴られていたからだ。
「ああ。……手を抜ける相手じゃなかったからな。……だが、あんたらが受けた苦しみに比べたら、これでも生ぬるいと思うけどな」
「そ、それは……」
俺は本心ではないが、敢えてそう言ってシスクの縄を掴むと、村長の前に彼を蹴り飛ばした。
「ぐは……」
うめくような言葉と共にシスクは倒れる。
「こいつ、リズリーの病気を治すために、特殊な魔道具が欲しかったらしい。それで、あんたらから山賊を働いていたみたいだな」
「え? ……リズリーちゃん、病気だったの?」
「はい……。うつるものではなかったので、皆さんには黙ってましたが……」
リズリーはそう頷く。
厳密にはリズリーがかかっていたものは、病気ではなく『魔王の魂』が体内に封じられたことにより、寿命が削られていくというものだ。
だが、下手に『魔王』という言葉を使うと村人を刺激すると考え、病気と言うことにした。
「そうじゃったか……」
「それでリズリー。病気は治ったのか?」
「ええ。……こういうと怒るかもしれませんが……兄様のおかげで……」
「けどシスクも、それならそう言ってくれれば……」
だが、それは難しかっただろう。
俺は首を振って答える。
「それだけ多額の路銀が※必要だったらしい。実際こいつを捕まえたのは、ここからだいぶ離れた場所だったからな」
(※ゼログに会えたことで、ソニック・ドラゴンを用いることが出来たため、実際の費用はあまりかからなかった。だが、もしもゼログに会えず、キング・クラーケンも倒せなかった場合、陸路を使うことになるため、関所を超えるのに相当な費用が必要になる予定であった)
「そうか……だけどな、俺たちの取られた積み荷の代金はどうなるんだよ?」
それを聞いても、あまり納得できない様子の村人は不満そうに尋ねる。
彼は恐らく、実際に積み荷を奪われたものたちだろう。
当然この話題が出ることは分かっている。
そこで俺は、代わりに大量の手形を見せた。……これはゼログが人間だったころ、俺の名前で振り込んでくれたものだ。
……今まで使わないで良かった。
「あんたたちの積み荷の被害額は……倍額で弁償する」
「倍額で? ……いや、それなら助かるが、どうしてだい?」
「だから、その……シスクのことを許してほしいんだ」
「え?」
その提案に、思わず村人達も驚いた表情を見せた。
「こいつの力は……魔王ゼログを倒すために必要なんだ。だから……この通りだ……」
「私も頭を下げさせてもらう。魔物を使役できる、シスクの力がないと、勝てそうもないから」
そう言って、トーニャも一緒に頭を下げた。
その姿を見て、村人たちは顔を見合わせて話しあう。
そして、
「まあ、俺達は積み荷の代金を貰えれば、それでいいよ」
「それに、シスクもリズリーちゃんのためにやったことでしょ? これだけシスクも痛めつけられてたら、あたしらの気もおさまったよ」
そう村人たちは答えてくれた。
「じゃあ……」
「ああ、シスクのことはもういいよ。……縄を解いてやんな」
「ありがとう!」
俺はそう言って頭をもう一度下げ、シスクの縄を解いて笑みを浮かべた。
「良かったな、シスク!」
「ああ……」
その様子に、リズリーも嬉しそうな表情を見せる。
「本当に……世話が焼ける兄様ですこと。……すみません、私たちの家を今晩使っていいですか?」
「ああ、いつかあんたが帰ってくると思って、部屋はきれいにしてあるよ」
「ありがとうございます」
そう言われて俺達は堂々と村に入った。
そしてリズリーの家でリズリーとトーニャの治療を受けながら、シスクに尋ねる。
「やったね、シスク。作戦は成功だ」
「ああ……」
その様子を見て、俺は安堵した。
ことは数時間前。
シスクは村の少し前にソニック・ドラゴンを止め、俺たちにつぶやいた。
「私の家には、ゼログを倒すために必須となる道具が置いてある。……だが……」
「ああ、あんたはこの村じゃお尋ね者だからな。……まともに行っても、つまみ出されるだろうな」
「そうだ。……だから一芝居打とうと思う」
そう言うとシスクは、その場でどっかりと座り込みフォーチュラの方を見た。
「私を殴ってくれ。全力で」
「え? な、なんで、あたし、シスク様、殴るの?」
「村人の前に無傷でワンドたちと共に姿を現したら、神経を逆なでするようなものだ。最悪、リズリーやワンドの心証まで悪くなり、村に入れなくなる」
それを聞いて、リズリーはその考えを察したかのように答える。
「……つまり、兄様は私たちとの死闘の末、ついに捕らえられた……という体にするということですね?」
「そうだ」
「け、けど、それ、シスク様、痛いじゃん! 普通に、捕らえるの、ダメ?」
相変わらずフォーチュラはシスクが相手になると片言になるな。
だがシスクはそれを笑おうともせずに、真摯に答える。
「ダメだ。……はっきり言って、私はあんた達より強い。それは村人も分かっているはずだ。だから、無傷で捕らえたなんてわかったら、却って怪しまれる」
口ではそう言うが、俺はシスクが強い決意を秘めて、そう言っていることは分かった。
……これは、シスクなりのけじめなのだ。
そもそも、魔道具を取りに帰るだけならば、夜中にこっそり忍び込めばいいだけだ。
だがシスクは正面から堂々と帰ろうとしている。
また、屈強な獣人に殴られることは、本人なりの贖罪でもあるのだろう。
唯一の幸いは、シスクの山賊行為で死亡者は出ていないことだ。
彼なりの良心なのだろう、『ヒートヘッド・ミノタウロス』の前に敗れた『勇者』達も、命に別状がない程度に留めていたため、謝罪が受け入れられる可能性は高い。
この方法なら、シスクは許されることは、俺も想像がついた。
そしてフォーチュラも、そのことを察したのだろう。
「分かった……ごめん、シスク様!」
そう言ってフォーチュラはシスクの顔面に拳を叩きこんだ。
……これが、村を訪れるまでに起きたことだ。
シスクは痛みに顔を引きつらせながらも、棚を指さす。
「そこの棚に……入っている、スクロールを取ってくれ」
「スクロール? ……これか」
「ああ。それは……魔法無効化のスクロールだ……。使うと、その周辺では……魔力を一切使えなくなる……」
なるほど、この手のスクロールは俺も知っている。
手ごわい魔導士であっても、このスクロールを使うとただの非力な人間に成り下がる強力な魔道具だ。
「悪魔系の魔物は……その力の殆どを魔力に頼っている……だから、それが特効なんだ……」
「魔力に? そういえば……」
ゼログが魔王に転生した際に凄まじい魔力を感じたが、逆に言えばそれだけだった。
筋肉が盛り上がるようなことはなく、寧ろ単に本人の持つ能力が全て魔力に変換されたような印象すら受けたくらいだった。
フォーチュラも、それを聞いて答える。
「そう言えば、神父様も言ってた。……悪魔系の魔物にとって、魔力は血液みたいなもの。だから、魔法無効化を使えば動くことも出来なくなるって……だよね、シスク様?」
「ああ。……魔王も悪魔系の種族だ……実際に、魔王を封じる際に……私の両親が戦いにはせ参じたのも……それが理由だ……」
なるほど、このスクロールは両親から譲り受けたものなのだろう。
……考えてみれば、当然だ。
魔王はゼログほどではないにせよ、俺達人間にはまるで歯が立たない相手だ。
それをシスクの両親たちが倒したのであれば、それ相応の道具を用いたに決まっている。
だがトーニャは、それを聞いても少し不安そうな表情を見せた。
「けど……相手はゼログだから……これがあっても勝てるか分からないね……」
「だな。……何となくだが、あいつはこのスクロールだけで動きを封じることは出来ない、そんな気がするな」
シスクたちもそう不安そうにつぶやいた。
……だが、俺は首を振った。
「だけど、ほかにやる方法はないだろ? ……俺は、シスクの作戦に賭けてみたい」
「ワンド……そうだよね……ゼログが相手でも、やってみるしかない、か」
「私はワンド様のことを信じていますから……ご一緒します」
「うん、シスク様、やってみようよ?」
あれ、いつの間にかフォーチュラは、シスクに普通に話せるようになったな。
何となくシスクの性格を理解できたから、緊張が解けたのかもな。
「よし、それじゃあ怪我が治ったら……」
魔王城に行こう。
そう言おうと思った矢先、村長が突然入ってきた。
「すみません、ワンド様……そう言えばお伝え忘れていたことがあったのです」
「なんだ?」
「ワンド様がいらしたら……新生トエル城に来るようにと、国王陛下がおっしゃっておりまして……」
「国王陛下が?」
……まあ、大体呼ばれた理由は想像がつくが。
恐らく陛下は、世界中の村落に同じようなお達しを出していたのだろう。
「分かった。……シスクの怪我が治り次第、俺達は向かうよ」
寄り道になるが、俺はそう答えるしかなった。
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