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第4章 依頼:最近遺跡に出没する謎の人影を調査してほしい
4-4 トーニャはなぜか聖女になっていました
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それから俺たちは、砂漠の街を出て北にある港町に向かった。
「……ねえワンド?」
「なに、トーニャ?」
「今朝キミが作ってくれたサンドイッチさ、美味しかった。ありがとう、いつも……」
「それなら嬉しいよ。また作るからな」
「うん、楽しみにしてる」
その道中、俺とトーニャは二人見つめ合いながら歩いていた。
……トーニャが俺と手を握りながら、一緒に街道を歩いてくれる。
しかも、トーニャが俺を見て笑顔を見せてくれるようになった。
俺は頭がぼうっとするような感覚に見舞われる。
リズリーが少しむっとした様子で尋ねる。
「ねえ、ワンド様?」
「うん?」
「なんか怪我が治ってから……トーニャとワンド様、距離が近すぎませんか?」
「アハハ。……そうかもな。けど……トーニャのこと、好きだからさ」
「明日も知れない身でしょ、私たち。だから素直になろうと思ったんだよ」
「ふうん……」
ああ、そうか。
リズリーは、本当はトーニャを俺に取られて悔しいのかな。
そう考えていると、フォーチュラが横からぴょん、と入り込んできた。
「二人ばっかり話していてずるい! あたしも混ぜてよ!」
「あ、ちょっと!」
フォーチュラはわざわざ俺とトーニャの間に入って、俺達二人と手をつないだ。
彼女の小さく暖かい手を握って、まるで妹が出来たみたいだな、と俺は苦笑した。
「……えへへ、こうやってると神父様と歩いた時を思い出すよ」
「神父様と?」
「うん! こうやって神父様の手を握ってさ、こう走ってったんだ!」
「そうなんだな……。って、ちょっと急ぎすぎだ!」
フォーチュラは俺たちの手を握りながら、急に駆け出した。
やはり獣人だ、トーニャはともかく、俺もついて行くのは厳しい。
「だって、やっと砂漠を抜けたんだもん! 気持ちよくってさ!」
確かに、いつの間にか街道にはぽつぽつと草原が見え始めている。
リズリーはやはり、草原を思いっきり走るのが好きなのだろう。
「だからって、ちょっと……ほら、リズリーも困ってるって!」
「そ、そうですよ、フォーチュラちゃん……私はあまり走るのは速くないので……」
「あ、ごめん!」
そう言うと、申し訳なさそうに止まった。
「ところでさ、フォーチュラ。神父様の仇も討っただろ? それなのについて来てくれるのか?」
「うん。教会に戻っても、もう誰もいないし……。それにさ! ワンド様やトーニャお姉ちゃんと一緒に居るのって楽しいから!」
「フォーチュラ……」
「あ、もちろんリズリーさんもね! ……早く兄さんの……シスクさんに会えると良いね?」
「……そうですね……。兄様は一体どこにいるのでしょう……」
そうリズリーは少し悩むような口調で話した。
「そうだ、そろそろお昼にしませんか? ワンド様、食べたいものはありますか?」
「いや、もう後1時間くらいで港町に就くみたいだからさ、お昼はそこで食べないか?」
それを聞くと、トーニャは目を輝かせた。
「わあ! じゃあさ、お魚食べたい! あたしさ、お魚大好きだから!」
「いいな、それ! リズリーはお魚平気か?」
「え? ……ええ……」
どうも最近リズリーの元気がないな。
……ひょっとして、寿命が迫っているのか?
リズリーによると『魔王の魂』は解放すると寿命が5年縮まるほか、ただ所持しているだけでも寿命が徐々に削られていくと話を聴いている。
……では、今の残り寿命はどれくらいなのか。
それは敢えて、俺たちは聞かなかった。リズリーが自分から話したくなさそうだったためだ。
ただ、俺が弱いせいでリズリーの寿命を5年も奪ってしまった。
それだけはゆるぎない事実だ。
「なあ、リズリー? ……今日のお昼さ、奢らせてくれないか?」
「え?」
「この間の戦いの功労賞はリズリーだからさ。それに看病のお礼もしてなかったから」
「それは私のせいみたいなものですから、当然ですよ……けど……それほどいうなら、お言葉に甘えて、いいですか?」
トーニャも、少し不服そうながら頷いた。
「……ったく、しょうがないな。ワンド、私もお金出すよ」
「じゃああたしも出す! リズリーさんにお礼したいしさ!」
「いいのか? ありがとうな、トーニャ、フォーチュラ」
そう言うと、リズリーの表情も少しだけ明るくなってくれた。
せめて俺に出来ることは、奪った5年分の寿命の分だけリズリーを楽しませることだろう。
「おお、ワンド様だ!」
「ワンド様!? その恰好は確かに……!」
「では隣にいるのは、聖女トーニャ様!」
「間違いないわ! ワンド様と、仲睦まじそうに……ああ、素敵……!」
港町に着くと、いつものように俺は熱烈な歓待を受けた。
だが、今日の歓待の仕方はいつもよりもさらに激しい。
「へ~。トーニャお姉ちゃん、なんか『聖女』って言われているね」
「せ、聖女か……。なんか、恥ずかしいな……」
珍しくリズリーが照れて顔を赤くしている。
その表情は、やはり可愛いなと俺は思いながら街の近くにある酒場に入った。
「へい、らっしゃ……! わ、ワンド様! ……先日はありがとうございました!」
酒場に入るなり、俺は店主に涙を流しながら感謝された。
「先日……? 一体何の話だ?」
「ええ! この北に昔からいた四天王の一人『キング・クラーケン』を退治してくださったじゃないですか!」
「……そうだったんだな……」
それを聞いたリズリーは驚いたような表情を見せた。
無理もない、キング・クラーケンは数十年にわたってこの海峡に陣取り、幾多の船を沈めてきた怪物だ。
魔王の『四天王』の一人として名を連ねていたその名は、海に出たことが一度でもあるものなら、知らないものはいない。
……『偽勇者』の奴、そんな化け物を倒したのか。
「と、とりあえずさ。エールとジュース、それから……」
「サーモンが好きなので、頂いていいですか?」
「ああ、分かった」
リズリーはサーモンが好きだったのか。
今度昼食に作ってあげようかな。
「すまない、サーモンの燻製を一つくれるかな」
見たところこの店は先払いシステムだったようなので代金を支払おうとしたが、店主はそれを見て首を振った。
「いえいえ! 私はあの化け物に命を助けられた身! ですので代金などとても……」
「いや、気にしないでくれ。店主だって生活があるだろ?」
そもそも、その功績は全部『偽勇者』のものだ。
そう思い、俺は店主の手に銅貨を乗せた。
「あ、ありがとうございます! ならせめて、最高に腕によりをかけて作りますね!」
「ああ、ありがとう」
そう言って店主は料理を始めた。
「な、なんかすごいですね、ワンド様……」
「ああ。しばらく変装して街を歩こうかな……なんで『本物』の俺が、とも思うけど……」
「……フフ、聖女か……」
「あの、トーニャお姉ちゃん?」
「え? あ、ああ。ごめんね、確かにそうだよね。恋人の私も変装しないとなあ……」
よほど聖女と呼ばれたのが嬉しかったのだろう。
トーニャは明らかに機嫌がよさそうだった。
店主は料理をしながら俺の方に尋ねてきた。
「ところで、ワンド様? ワンド様は『転地の遺跡』に参られたのではなかったんですか?」
「え? ……ああ、ちょっと用があって戻ってきたんだ」
流石にこの状況で、俺は偽ワンドじゃないということは出来ない。
……というか、いつものことだが正直ややこしい。なんで本物の俺が『偽勇者』の立場にならなきゃいけないんだ。
「そうだったんですね。あと、シスク様……でしたっけ? はここに居ないんで?」
「シスク! ……ああ、あいつには先に言ってもらった」
「そうだったんですね……。はい、お待ち!」
俺の言動が多少不自然に感じたのだろうが、店主は特に気に止めないようだった。
元々豪快な性格なことに加え、この手の偽勇者にありがちな『勇者の名を騙った無銭飲食』をする意思が俺たちにないのを感じたためだろう。
リズリーも先ほどの発言に気づいたのだろう、フォーチュラと席を交代し、フォークを手渡した。
「フォーチュラちゃん。先に食べてて良いですよ?」
「え、良いの? わーい、いただきまーす!」
俺達は出された食事は一度後にすることにして、小声で話し合った。
「おい、聞いたか?」
「ええ。……お兄様が……転地の遺跡に向かったんですね……」
「うん。それと砂漠での話を統合すると……」
やっぱり俺の考えは正しかった。
「ああ。……『偽勇者』の正体はゼログってことになるな」
「まあ、あんな怪物を次々に倒せる奴なんて、ほかに思いつかないけどね……」
「そうだな……」
そこで俺は気が付いた。
俺はそう言えば、トーニャのことが好きでたまらないと、ゼログに相談したことがあった。
ゼログはそんな俺の気持ちを汲んで『ワンドとトーニャは恋人同士だった』と喧伝していたのだろう。
……正直言うと、ありがたかったような、そうじゃなかったような、複雑だが。
というより、俺はちやほやされるのは好きじゃない。
ゼログが俺のためにやってくれているのであろう『ワンドとして各地で大活躍』は迷惑以外の何物でもないのだが。
「あいつ、サキュバスとのハーレム生活を蹴ってまで、冒険を始めてたんだね……」
「そうみたいだな。……けど、なんでゼログは俺の名と自分の名を使い分けて旅をしていたんだ?」
「それは……分からない。それより、今はシスクのことだね」
「ええ。……転地の遺跡は……船に乗って2週間ほどの場所にあります」
「そうか……。よかったな、リズリー。旅ももうすぐ終わりそうで」
「え?」
そこでリズリーは驚いたような表情を見せた。
俺はリズリーには嫌われている。一緒に居るのはフォーチュラが心配だからだろう。
だから、リズリーも目的を達成したら村に帰るのだろうと思っていた。
リズリーもパーティを抜けることになったら、多分フォーチュラもリズリーについて行くはずだ。
「心配しないでくれ。ゼログに会えたら、リズリーの持つ『魔王の魂』の件もなんとかしてみるからさ、村で楽しみに待っててくれないか?」
「そ、そう、ですね……」
そうリズリーは、ぽつりとつぶやいた。
……リズリーはゼログのことを知らないから、やっぱり不安なのか?
だが、あいつの凄さがわかったら、きっと納得して村で安心して待ってくれるだろう。
結局ゼログにまた頼ってしまうことになるのは残念だが、リズリーのためなら、今回ばかりはしょうがない。
「ねえ、ワンド様~? はやくみんなで食べようよ~?」
「え? あ、悪いなフォーチュラ。じゃあ食べようか?」
そう思って、俺はサーモンを食べ始めた。
「……ねえワンド?」
「なに、トーニャ?」
「今朝キミが作ってくれたサンドイッチさ、美味しかった。ありがとう、いつも……」
「それなら嬉しいよ。また作るからな」
「うん、楽しみにしてる」
その道中、俺とトーニャは二人見つめ合いながら歩いていた。
……トーニャが俺と手を握りながら、一緒に街道を歩いてくれる。
しかも、トーニャが俺を見て笑顔を見せてくれるようになった。
俺は頭がぼうっとするような感覚に見舞われる。
リズリーが少しむっとした様子で尋ねる。
「ねえ、ワンド様?」
「うん?」
「なんか怪我が治ってから……トーニャとワンド様、距離が近すぎませんか?」
「アハハ。……そうかもな。けど……トーニャのこと、好きだからさ」
「明日も知れない身でしょ、私たち。だから素直になろうと思ったんだよ」
「ふうん……」
ああ、そうか。
リズリーは、本当はトーニャを俺に取られて悔しいのかな。
そう考えていると、フォーチュラが横からぴょん、と入り込んできた。
「二人ばっかり話していてずるい! あたしも混ぜてよ!」
「あ、ちょっと!」
フォーチュラはわざわざ俺とトーニャの間に入って、俺達二人と手をつないだ。
彼女の小さく暖かい手を握って、まるで妹が出来たみたいだな、と俺は苦笑した。
「……えへへ、こうやってると神父様と歩いた時を思い出すよ」
「神父様と?」
「うん! こうやって神父様の手を握ってさ、こう走ってったんだ!」
「そうなんだな……。って、ちょっと急ぎすぎだ!」
フォーチュラは俺たちの手を握りながら、急に駆け出した。
やはり獣人だ、トーニャはともかく、俺もついて行くのは厳しい。
「だって、やっと砂漠を抜けたんだもん! 気持ちよくってさ!」
確かに、いつの間にか街道にはぽつぽつと草原が見え始めている。
リズリーはやはり、草原を思いっきり走るのが好きなのだろう。
「だからって、ちょっと……ほら、リズリーも困ってるって!」
「そ、そうですよ、フォーチュラちゃん……私はあまり走るのは速くないので……」
「あ、ごめん!」
そう言うと、申し訳なさそうに止まった。
「ところでさ、フォーチュラ。神父様の仇も討っただろ? それなのについて来てくれるのか?」
「うん。教会に戻っても、もう誰もいないし……。それにさ! ワンド様やトーニャお姉ちゃんと一緒に居るのって楽しいから!」
「フォーチュラ……」
「あ、もちろんリズリーさんもね! ……早く兄さんの……シスクさんに会えると良いね?」
「……そうですね……。兄様は一体どこにいるのでしょう……」
そうリズリーは少し悩むような口調で話した。
「そうだ、そろそろお昼にしませんか? ワンド様、食べたいものはありますか?」
「いや、もう後1時間くらいで港町に就くみたいだからさ、お昼はそこで食べないか?」
それを聞くと、トーニャは目を輝かせた。
「わあ! じゃあさ、お魚食べたい! あたしさ、お魚大好きだから!」
「いいな、それ! リズリーはお魚平気か?」
「え? ……ええ……」
どうも最近リズリーの元気がないな。
……ひょっとして、寿命が迫っているのか?
リズリーによると『魔王の魂』は解放すると寿命が5年縮まるほか、ただ所持しているだけでも寿命が徐々に削られていくと話を聴いている。
……では、今の残り寿命はどれくらいなのか。
それは敢えて、俺たちは聞かなかった。リズリーが自分から話したくなさそうだったためだ。
ただ、俺が弱いせいでリズリーの寿命を5年も奪ってしまった。
それだけはゆるぎない事実だ。
「なあ、リズリー? ……今日のお昼さ、奢らせてくれないか?」
「え?」
「この間の戦いの功労賞はリズリーだからさ。それに看病のお礼もしてなかったから」
「それは私のせいみたいなものですから、当然ですよ……けど……それほどいうなら、お言葉に甘えて、いいですか?」
トーニャも、少し不服そうながら頷いた。
「……ったく、しょうがないな。ワンド、私もお金出すよ」
「じゃああたしも出す! リズリーさんにお礼したいしさ!」
「いいのか? ありがとうな、トーニャ、フォーチュラ」
そう言うと、リズリーの表情も少しだけ明るくなってくれた。
せめて俺に出来ることは、奪った5年分の寿命の分だけリズリーを楽しませることだろう。
「おお、ワンド様だ!」
「ワンド様!? その恰好は確かに……!」
「では隣にいるのは、聖女トーニャ様!」
「間違いないわ! ワンド様と、仲睦まじそうに……ああ、素敵……!」
港町に着くと、いつものように俺は熱烈な歓待を受けた。
だが、今日の歓待の仕方はいつもよりもさらに激しい。
「へ~。トーニャお姉ちゃん、なんか『聖女』って言われているね」
「せ、聖女か……。なんか、恥ずかしいな……」
珍しくリズリーが照れて顔を赤くしている。
その表情は、やはり可愛いなと俺は思いながら街の近くにある酒場に入った。
「へい、らっしゃ……! わ、ワンド様! ……先日はありがとうございました!」
酒場に入るなり、俺は店主に涙を流しながら感謝された。
「先日……? 一体何の話だ?」
「ええ! この北に昔からいた四天王の一人『キング・クラーケン』を退治してくださったじゃないですか!」
「……そうだったんだな……」
それを聞いたリズリーは驚いたような表情を見せた。
無理もない、キング・クラーケンは数十年にわたってこの海峡に陣取り、幾多の船を沈めてきた怪物だ。
魔王の『四天王』の一人として名を連ねていたその名は、海に出たことが一度でもあるものなら、知らないものはいない。
……『偽勇者』の奴、そんな化け物を倒したのか。
「と、とりあえずさ。エールとジュース、それから……」
「サーモンが好きなので、頂いていいですか?」
「ああ、分かった」
リズリーはサーモンが好きだったのか。
今度昼食に作ってあげようかな。
「すまない、サーモンの燻製を一つくれるかな」
見たところこの店は先払いシステムだったようなので代金を支払おうとしたが、店主はそれを見て首を振った。
「いえいえ! 私はあの化け物に命を助けられた身! ですので代金などとても……」
「いや、気にしないでくれ。店主だって生活があるだろ?」
そもそも、その功績は全部『偽勇者』のものだ。
そう思い、俺は店主の手に銅貨を乗せた。
「あ、ありがとうございます! ならせめて、最高に腕によりをかけて作りますね!」
「ああ、ありがとう」
そう言って店主は料理を始めた。
「な、なんかすごいですね、ワンド様……」
「ああ。しばらく変装して街を歩こうかな……なんで『本物』の俺が、とも思うけど……」
「……フフ、聖女か……」
「あの、トーニャお姉ちゃん?」
「え? あ、ああ。ごめんね、確かにそうだよね。恋人の私も変装しないとなあ……」
よほど聖女と呼ばれたのが嬉しかったのだろう。
トーニャは明らかに機嫌がよさそうだった。
店主は料理をしながら俺の方に尋ねてきた。
「ところで、ワンド様? ワンド様は『転地の遺跡』に参られたのではなかったんですか?」
「え? ……ああ、ちょっと用があって戻ってきたんだ」
流石にこの状況で、俺は偽ワンドじゃないということは出来ない。
……というか、いつものことだが正直ややこしい。なんで本物の俺が『偽勇者』の立場にならなきゃいけないんだ。
「そうだったんですね。あと、シスク様……でしたっけ? はここに居ないんで?」
「シスク! ……ああ、あいつには先に言ってもらった」
「そうだったんですね……。はい、お待ち!」
俺の言動が多少不自然に感じたのだろうが、店主は特に気に止めないようだった。
元々豪快な性格なことに加え、この手の偽勇者にありがちな『勇者の名を騙った無銭飲食』をする意思が俺たちにないのを感じたためだろう。
リズリーも先ほどの発言に気づいたのだろう、フォーチュラと席を交代し、フォークを手渡した。
「フォーチュラちゃん。先に食べてて良いですよ?」
「え、良いの? わーい、いただきまーす!」
俺達は出された食事は一度後にすることにして、小声で話し合った。
「おい、聞いたか?」
「ええ。……お兄様が……転地の遺跡に向かったんですね……」
「うん。それと砂漠での話を統合すると……」
やっぱり俺の考えは正しかった。
「ああ。……『偽勇者』の正体はゼログってことになるな」
「まあ、あんな怪物を次々に倒せる奴なんて、ほかに思いつかないけどね……」
「そうだな……」
そこで俺は気が付いた。
俺はそう言えば、トーニャのことが好きでたまらないと、ゼログに相談したことがあった。
ゼログはそんな俺の気持ちを汲んで『ワンドとトーニャは恋人同士だった』と喧伝していたのだろう。
……正直言うと、ありがたかったような、そうじゃなかったような、複雑だが。
というより、俺はちやほやされるのは好きじゃない。
ゼログが俺のためにやってくれているのであろう『ワンドとして各地で大活躍』は迷惑以外の何物でもないのだが。
「あいつ、サキュバスとのハーレム生活を蹴ってまで、冒険を始めてたんだね……」
「そうみたいだな。……けど、なんでゼログは俺の名と自分の名を使い分けて旅をしていたんだ?」
「それは……分からない。それより、今はシスクのことだね」
「ええ。……転地の遺跡は……船に乗って2週間ほどの場所にあります」
「そうか……。よかったな、リズリー。旅ももうすぐ終わりそうで」
「え?」
そこでリズリーは驚いたような表情を見せた。
俺はリズリーには嫌われている。一緒に居るのはフォーチュラが心配だからだろう。
だから、リズリーも目的を達成したら村に帰るのだろうと思っていた。
リズリーもパーティを抜けることになったら、多分フォーチュラもリズリーについて行くはずだ。
「心配しないでくれ。ゼログに会えたら、リズリーの持つ『魔王の魂』の件もなんとかしてみるからさ、村で楽しみに待っててくれないか?」
「そ、そう、ですね……」
そうリズリーは、ぽつりとつぶやいた。
……リズリーはゼログのことを知らないから、やっぱり不安なのか?
だが、あいつの凄さがわかったら、きっと納得して村で安心して待ってくれるだろう。
結局ゼログにまた頼ってしまうことになるのは残念だが、リズリーのためなら、今回ばかりはしょうがない。
「ねえ、ワンド様~? はやくみんなで食べようよ~?」
「え? あ、悪いなフォーチュラ。じゃあ食べようか?」
そう思って、俺はサーモンを食べ始めた。
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