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第3章 依頼:リザードマンにさらわれた家族を助けてください
3-8 見たことない少女に怪物退治の依頼を受けました
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翌日。
「おはよう、ワンド?」
「ああ、おはよう」
俺は昨日のこともあり、ほとんど※寝ることが出来なかった。
(※本人はそう思っていますが、実際にはトーニャに盛られた媚薬の興奮作用の方が眠れなかった理由としては大きいです)
そこで、宿のキッチンを借りてパーティの分の朝食を一足先に作っていた(この店は、食事を自分たちで賄うタイプの宿である)。
トーニャは起きるなり、俺の隣に座ってきた。
トーニャの長い髪が俺の顔にふわり、とかかり俺はドキリとした。
「……一応さ。キミと私は付き合ってるわけでしょ? だから傍にいてあげる」
「あ、ああ……」
トーニャがそう言いながら目を伏せる姿に俺はドキリ、としてお玉を持つ手が震えた。
彼女のその可愛い仕草は、彼女が「仕方なく」やってくれているものだというのは分かる。だが、それでも俺は嬉しかった。
今すぐ彼女を抱きしめたいが、それはトーニャも嫌がるだろうからやめておいた。
「……なあ、トーニャ」
「なに?」
「ありがとな。……傍にいてくれて」
「ううん……私は……リズリーのためだから……」
やっぱりそうなのか。
そう話していると、上の階からリズリーとフォーチュラも来た。
「おはようござ……って、ななな、なにくっついてるんですか! トーニャ!」
「うわあ! 今日は二人とも早いんだね! なになに、二人とももしかして……」
そこでフォーチュラの言葉を待つまでもなく、俺はつぶやいた。
「ああ。俺は……トーニャと付き合うことにしたよ」
その発言を聞いて、リズリーは驚いた表情を見せた。
「な、ど、どうして、ですか? だって今まで……」
「それは……」
それを口にしようとして、俺は一瞬悩んだ。
トーニャは『俺に言い寄られて迷惑しているリズリーの代わりに自分が付き合うことにした』と言っていたが、それは絶対本人には伝えるなと口止めされている。
だが、トーニャは横からフォローするように口を開く。
「ワンドにしつこく言い寄られてさ。それでまあ、試しってことで付き合うことにしたんだよ」
それでいい。
その言い方なら真実を告げなくていいし、トーニャが悪者にならないで済む。
何より「仕方なく付き合っている」という今の状況との矛盾も小さいからだ。
「ふうん……そうですか……」
リズリーはそう言いながらトーニャのことを見つめた。
……彼女を睨んでいるように見えるが、多分気のせいだ。
きっと「俺のことを引き取ってくれてありがとう」という感謝のまなざしなのだろう。
「まあ、そういうことだからさ。……とりあえずご飯にしようか?」
今日の朝食は、乾物の出汁を用いた簡単なお粥だ。
「やったあ! 早く食べよ、みんな!」
「え、ええ……そうですね。ワンド様、ありがとうございます」
そう言ってパーティは食卓についた。
まったく、こういう時にはフォーチュラの明るさに救われる。
「トーニャ、その……」
「……くっついてちゃダメ?」
トーニャは街を歩くときもべったりと俺の腕に抱き着いてくる。
……正直、恥ずかしいというのもあるが、トーニャの柔らかい肌が触れていると頭がぼうっとしてしまうような感覚に襲われる。
ずっとこのまま歩いていたいような気持ちにもなるが、俺はトーニャにつぶやく。
「別に、付き合ってるって言っても、形だけだろ? なら……」
「しょうがないでしょ。リズリーに君との関係を見せつけ……じゃない、見せておいた方がいいと思う。その方がリズリーも安心するから」
なるほど、言われてみればその通りだ。
リズリーにとっては「俺とトーニャが付き合っている」とはっきり示しておいた方が、彼女のためには良い。
そう考えていると、リズリーが尋ねてくる。
「あ、あの……ワンド様?」
「なんだ?」
「その……トーニャに何か……言われてませんか?」
「え? 別に何も? な、トーニャ。その……」
一瞬俺が何かトーニャについて語るのをためらったが、トーニャは隣で頷いていたので、答える。
「ああ、トーニャのことがずっと好きだったんだよ、俺は」
「……そう……ですか……」
リズリーはそう静かに答えた。
フォーチュラは俺たちの関係をほほえましそうに見ながら屈託なく笑う。
「やっぱりさ、ワンド様とトーニャお姉ちゃんってお似合いだよね! ……そうだ、おそろいの指輪でも買ったら?」
一方のリズリーはどこか能天気に、そう露店の方に足を向けた。
「なんかさ、この街って、魔法の力がかかってるアクセサリーも多いんだってさ!」
「へえ。じゃあちょっと見ていこうか?」
「うん。良いのがあると良いけど」
本当は、ファイブスの店の方が品揃えが良いような気がした。
だが、なぜかトーニャは、ファイブスに会うのを異常なほど嫌がったため、近くの露店で済ませることにした。
「……凄いな、この街は宝石が名産なんだな」
恐らく近くに鉱山があるのだろう、どのアクセサリーもとてもきれいに見えた。
トーニャに付けたらどれも似合うだろうな、と思いながら俺は商品を探していた。
「ワンド。……これなんかどう?」
そう言ったトーニャは、ペアのペンダントを指さした。
値段はかなり高価だが、以前ヴァンパイアを倒した時にもらった報奨金を全て払えば、2つとも買えないことは無い(当然だが、その報奨金は4人で割っている)。
「どうしてこれが良いんだ?」
「前、ワンドは瘴気にあてられて、ひどい目に遭ったでしょ? ……これ、魔族の瘴気を防ぐ力があるんだって」
確かにあの時はひどかった。
今後、リズリーの仇である『カース・デーモン』に出会うかもしれないから、今のうちに備えておくべきだな。
「ああ、これにしよう。……よし、じゃあこれを2つ分……」
だが、そこで俺が財布を出した時、トーニャは自分の財布も出した。
「ワンドの分は私が出す。私の分をワンドが出して?」
「……いいのか? かなり高いぞ、これ?」
「それが恋人ってものでしょ? ワンド一人だけに負担はさせないよ」
そういうトーニャの目はリズリーを向き、どこか笑っているように見えた。
なるほど、リズリーに「心配するな」と合図を送ってるんだな。
俺とトーニャは互いに相手のペンダントを買って、
「ほら、トーニャ」
「はい、ワンド」
そう交換した。
……本心は分からないけど、トーニャから貰ったプレゼントだ。一生大事にしようと俺は決めた。
「……むう……」
「どうした、リズリー?」
リズリーはなぜか朝から不機嫌だった。
俺は少し心配して尋ねるが、リズリーはフン、と顔をそむけてしまった。
「ワンド様、おかしいです。どうして急にトーニャと付き合うんですか?」
「え? トーニャとは元々付き合いが長いからさ……」
「そう。だから付き合ってあげたんだよ。……このペンダント似合うでしょ、リズリー?」
「知りませんよ!」
そういうとリズリーは一層むくれた様子で、ぷい、と顔をそむけた。
それからしばらく街を歩くと、
「あの……ワンド様……ですよね?」
そう言ってかわいらしい少女が声をかけてきた
「ん? ああ、そうだけど……」
「一緒に居るのはリズリー様?」
「ええ、そうですけど……何か用ですか?」
すると少女は泣きそうな顔で答えた。
「お願いします! 私の……母を助けてください!」
……これはただ事じゃない。
そう思った俺は、少し驚きながらも尋ねる。
「母を? ……一体、どうしたんだ?」
「それが……母が、リザードマンの群れにさらわれてしまったんです!」
「なんだって!?」
このあたりの砂漠にはリザードマンがよく出没する。
彼らが人を攫うという話はあまり聞かないが、そのような個体もいるのだろう、俺は少女を心配させないように、落ち着いた声色で訊ねる。
「今朝、街を出ていったら……急にリザードマンが集団で私たちを取り囲んで……私だけ、お母さんが逃がしてくれたんです……」
「その、母親はどこにさらわれたか分かるか?」
「は、はい……この街の北西には、古い闘技場があるんです。……きっとそこにさらわれていったと思います……」
「……そうか……」
それを聞いて、俺はリズリーたちの方を向いた。
全員、先ほどまでの表情とは違い、決意を込めた目をしている。
「大丈夫よ。私とフォーチュラと、ワンド様に任せてね?」
リズリーはそうにっこり笑って答える。
フォーチュラも同様に、笑みを浮かべた。
「うん! ……闘技場まではどれくらいあるの?」
「ここから半日くらいです。……ただ……闘技場の中は迷路になっているので、気を付けてください!」
「ああ、分かった」
そこまで言って、俺は少し違和感を感じた。
俺は基本的に、その街を訪れた際に、住民たちの顔を出来る限りしっかりと覚えるように細心の注意を払っている。
弱者である俺にとって、その注意を払うことが、どれほど助けになったか分からないからだ。
だが、その時の住民に彼女の姿はなかった。
話を聴く限り、彼女はこの街にいたことは確実だったはずだ。
(まあ、俺が見落とすこともあるか)
その時の俺は、このことにあまり頓着しなかった。
「おはよう、ワンド?」
「ああ、おはよう」
俺は昨日のこともあり、ほとんど※寝ることが出来なかった。
(※本人はそう思っていますが、実際にはトーニャに盛られた媚薬の興奮作用の方が眠れなかった理由としては大きいです)
そこで、宿のキッチンを借りてパーティの分の朝食を一足先に作っていた(この店は、食事を自分たちで賄うタイプの宿である)。
トーニャは起きるなり、俺の隣に座ってきた。
トーニャの長い髪が俺の顔にふわり、とかかり俺はドキリとした。
「……一応さ。キミと私は付き合ってるわけでしょ? だから傍にいてあげる」
「あ、ああ……」
トーニャがそう言いながら目を伏せる姿に俺はドキリ、としてお玉を持つ手が震えた。
彼女のその可愛い仕草は、彼女が「仕方なく」やってくれているものだというのは分かる。だが、それでも俺は嬉しかった。
今すぐ彼女を抱きしめたいが、それはトーニャも嫌がるだろうからやめておいた。
「……なあ、トーニャ」
「なに?」
「ありがとな。……傍にいてくれて」
「ううん……私は……リズリーのためだから……」
やっぱりそうなのか。
そう話していると、上の階からリズリーとフォーチュラも来た。
「おはようござ……って、ななな、なにくっついてるんですか! トーニャ!」
「うわあ! 今日は二人とも早いんだね! なになに、二人とももしかして……」
そこでフォーチュラの言葉を待つまでもなく、俺はつぶやいた。
「ああ。俺は……トーニャと付き合うことにしたよ」
その発言を聞いて、リズリーは驚いた表情を見せた。
「な、ど、どうして、ですか? だって今まで……」
「それは……」
それを口にしようとして、俺は一瞬悩んだ。
トーニャは『俺に言い寄られて迷惑しているリズリーの代わりに自分が付き合うことにした』と言っていたが、それは絶対本人には伝えるなと口止めされている。
だが、トーニャは横からフォローするように口を開く。
「ワンドにしつこく言い寄られてさ。それでまあ、試しってことで付き合うことにしたんだよ」
それでいい。
その言い方なら真実を告げなくていいし、トーニャが悪者にならないで済む。
何より「仕方なく付き合っている」という今の状況との矛盾も小さいからだ。
「ふうん……そうですか……」
リズリーはそう言いながらトーニャのことを見つめた。
……彼女を睨んでいるように見えるが、多分気のせいだ。
きっと「俺のことを引き取ってくれてありがとう」という感謝のまなざしなのだろう。
「まあ、そういうことだからさ。……とりあえずご飯にしようか?」
今日の朝食は、乾物の出汁を用いた簡単なお粥だ。
「やったあ! 早く食べよ、みんな!」
「え、ええ……そうですね。ワンド様、ありがとうございます」
そう言ってパーティは食卓についた。
まったく、こういう時にはフォーチュラの明るさに救われる。
「トーニャ、その……」
「……くっついてちゃダメ?」
トーニャは街を歩くときもべったりと俺の腕に抱き着いてくる。
……正直、恥ずかしいというのもあるが、トーニャの柔らかい肌が触れていると頭がぼうっとしてしまうような感覚に襲われる。
ずっとこのまま歩いていたいような気持ちにもなるが、俺はトーニャにつぶやく。
「別に、付き合ってるって言っても、形だけだろ? なら……」
「しょうがないでしょ。リズリーに君との関係を見せつけ……じゃない、見せておいた方がいいと思う。その方がリズリーも安心するから」
なるほど、言われてみればその通りだ。
リズリーにとっては「俺とトーニャが付き合っている」とはっきり示しておいた方が、彼女のためには良い。
そう考えていると、リズリーが尋ねてくる。
「あ、あの……ワンド様?」
「なんだ?」
「その……トーニャに何か……言われてませんか?」
「え? 別に何も? な、トーニャ。その……」
一瞬俺が何かトーニャについて語るのをためらったが、トーニャは隣で頷いていたので、答える。
「ああ、トーニャのことがずっと好きだったんだよ、俺は」
「……そう……ですか……」
リズリーはそう静かに答えた。
フォーチュラは俺たちの関係をほほえましそうに見ながら屈託なく笑う。
「やっぱりさ、ワンド様とトーニャお姉ちゃんってお似合いだよね! ……そうだ、おそろいの指輪でも買ったら?」
一方のリズリーはどこか能天気に、そう露店の方に足を向けた。
「なんかさ、この街って、魔法の力がかかってるアクセサリーも多いんだってさ!」
「へえ。じゃあちょっと見ていこうか?」
「うん。良いのがあると良いけど」
本当は、ファイブスの店の方が品揃えが良いような気がした。
だが、なぜかトーニャは、ファイブスに会うのを異常なほど嫌がったため、近くの露店で済ませることにした。
「……凄いな、この街は宝石が名産なんだな」
恐らく近くに鉱山があるのだろう、どのアクセサリーもとてもきれいに見えた。
トーニャに付けたらどれも似合うだろうな、と思いながら俺は商品を探していた。
「ワンド。……これなんかどう?」
そう言ったトーニャは、ペアのペンダントを指さした。
値段はかなり高価だが、以前ヴァンパイアを倒した時にもらった報奨金を全て払えば、2つとも買えないことは無い(当然だが、その報奨金は4人で割っている)。
「どうしてこれが良いんだ?」
「前、ワンドは瘴気にあてられて、ひどい目に遭ったでしょ? ……これ、魔族の瘴気を防ぐ力があるんだって」
確かにあの時はひどかった。
今後、リズリーの仇である『カース・デーモン』に出会うかもしれないから、今のうちに備えておくべきだな。
「ああ、これにしよう。……よし、じゃあこれを2つ分……」
だが、そこで俺が財布を出した時、トーニャは自分の財布も出した。
「ワンドの分は私が出す。私の分をワンドが出して?」
「……いいのか? かなり高いぞ、これ?」
「それが恋人ってものでしょ? ワンド一人だけに負担はさせないよ」
そういうトーニャの目はリズリーを向き、どこか笑っているように見えた。
なるほど、リズリーに「心配するな」と合図を送ってるんだな。
俺とトーニャは互いに相手のペンダントを買って、
「ほら、トーニャ」
「はい、ワンド」
そう交換した。
……本心は分からないけど、トーニャから貰ったプレゼントだ。一生大事にしようと俺は決めた。
「……むう……」
「どうした、リズリー?」
リズリーはなぜか朝から不機嫌だった。
俺は少し心配して尋ねるが、リズリーはフン、と顔をそむけてしまった。
「ワンド様、おかしいです。どうして急にトーニャと付き合うんですか?」
「え? トーニャとは元々付き合いが長いからさ……」
「そう。だから付き合ってあげたんだよ。……このペンダント似合うでしょ、リズリー?」
「知りませんよ!」
そういうとリズリーは一層むくれた様子で、ぷい、と顔をそむけた。
それからしばらく街を歩くと、
「あの……ワンド様……ですよね?」
そう言ってかわいらしい少女が声をかけてきた
「ん? ああ、そうだけど……」
「一緒に居るのはリズリー様?」
「ええ、そうですけど……何か用ですか?」
すると少女は泣きそうな顔で答えた。
「お願いします! 私の……母を助けてください!」
……これはただ事じゃない。
そう思った俺は、少し驚きながらも尋ねる。
「母を? ……一体、どうしたんだ?」
「それが……母が、リザードマンの群れにさらわれてしまったんです!」
「なんだって!?」
このあたりの砂漠にはリザードマンがよく出没する。
彼らが人を攫うという話はあまり聞かないが、そのような個体もいるのだろう、俺は少女を心配させないように、落ち着いた声色で訊ねる。
「今朝、街を出ていったら……急にリザードマンが集団で私たちを取り囲んで……私だけ、お母さんが逃がしてくれたんです……」
「その、母親はどこにさらわれたか分かるか?」
「は、はい……この街の北西には、古い闘技場があるんです。……きっとそこにさらわれていったと思います……」
「……そうか……」
それを聞いて、俺はリズリーたちの方を向いた。
全員、先ほどまでの表情とは違い、決意を込めた目をしている。
「大丈夫よ。私とフォーチュラと、ワンド様に任せてね?」
リズリーはそうにっこり笑って答える。
フォーチュラも同様に、笑みを浮かべた。
「うん! ……闘技場まではどれくらいあるの?」
「ここから半日くらいです。……ただ……闘技場の中は迷路になっているので、気を付けてください!」
「ああ、分かった」
そこまで言って、俺は少し違和感を感じた。
俺は基本的に、その街を訪れた際に、住民たちの顔を出来る限りしっかりと覚えるように細心の注意を払っている。
弱者である俺にとって、その注意を払うことが、どれほど助けになったか分からないからだ。
だが、その時の住民に彼女の姿はなかった。
話を聴く限り、彼女はこの街にいたことは確実だったはずだ。
(まあ、俺が見落とすこともあるか)
その時の俺は、このことにあまり頓着しなかった。
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