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第3章 依頼:リザードマンにさらわれた家族を助けてください

3-6 トーニャ編 彼女は昔から最弱勇者のことが好きでした

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「ごめんね……」

ワンドを抱きしめながら、思わず私はその言葉が口から出た。
……自己中な私が謝罪をするのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。


私は最低な女だ。
そう思うと、ワンドに謝罪の言葉をかけずにいられなかった。




私が最初にワンドと出会ったのは4年前、14歳の時だった。

彼と出会う前、私は小さな教会で両親と共に暮らしていた。
けど、私は友達が居なくて一人ぼっちでいることが多かった。


「あのさあ、そういう言い方って無いんじゃない?」
「なに泣かしてんのよ? トーニャって本当に冷たいよね?」

私は思ったことを誰に対しても、そのまま口にしてしまうタイプだ。
そのせいで、村で一番美人の子に目をつけられてしまい、周りが私を仲間外れにするようになっていた。


「ったくよ。ちょろいと思ったのに、面倒なだけかよ。ったく……」
「ゴメン、そういうことなら、もう僕も君とはいられないよ」

それでも私の容姿はそれなりに悪くはなかったのだろう。
たまに私に興味を持ってくれる男もいた。

……だが、私は戯曲に出てくるような「優しくしたらすぐ惚れて、やらせてくれる奴隷女」じゃない。

そのことが分かると、男たちもすぐに消えていった。



……そこで私はいつも両親と一緒に、魔法や格闘の練習ばかり過ごしていた。
そんな生活をしていたある日、村の近くに魔物が出たため、私たちは「勇者」を雇うことになった。


「はじめまして、ワンドです。よろしくお願いします!」


ワンドと呼ばれた男は、私より4つ上の当時駆け出しの勇者だった。
駆け出しにしても実力不足なのは誰の目にも明らかで、正直この男には誰も期待していなかった。

しかし、


「あはは、よし、じゃあ今日は俺とみんなで、木の実をジュースにしてみようか?」
「ここの柵をもっと高くすれば魔物は来ないはずだよな?」
「この森の裏は全部見回ったけど、魔物はいなかったよ」

その分け隔てない社交性と誠実な態度、そして「弱いなりに出来ることをしよう」という態度から、村の住民たちは徐々に彼を気に入るようになっていった。

……私もその一人だ。
ワンドと話していて一番うれしかったのは、私が何を言ったとしても、


「それ、本当にそうだよな。ありがとう、教えてくれて!」
「ああ。助かるよ。こう率直に物を言ってくれる人は嬉しいな」


と、私を否定することなく受け入れてくれたからだ。
また、正直な感想を言うと容姿も私の好みだった。

……この男が私の傍にずっといてくれたらな……
そう思うまで、そう時間はかからなかった。



それから一か月が経過し、ついに私の村に魔物が訪れた。
……今にして思うと、あの魔物はゼログを襲った『ウィンドクロウ・グリフォン』と見た目が似ていた。ひょっとしたら同一個体だったのかもしれない。

奴は私たちが必死で作った柵や障壁など何でもないかのように飛び越えてきた。


村に奴が来たときは誰もワンドに期待はしていなかったが、その時のワンドは違った。


「俺がここを食い止めるから、みんなは早く逃げるんだ!」


勝てるわけがない。……けど、私たちを守るために戦ってくれる人がいる。
その思いが私たちを勇気づけてくれた。

だが、この魔物は私たち村人が全員でかかっても勝てない怪物だ。
それこそ当時ゼログが居なければ、どうにもならなかっただろう。
実際ワンドは奴の一撃であっさり地に伏した。


……だがそれでもワンドはあきらめず、グリフォンの足にしがみつき、必死に剣を突き立てた。

「勇者はなあ! 人々のために戦って死ぬって決まってんだ! まだ俺は生きてるぞ! ほら、村人に構ってていいのか?」

そう言いながら不敵にグリフォンに笑みを浮かべていた。
本気で私がワンドを好きになったのは、この時だったかもしれない。



「いそいで、トーニャ!」
「ワンドさんの努力を無駄にしちゃ駄目だ!」

両親はそう言いながら私を村の北東にある避難小屋まで引っ張っていった。
その避難小屋にはつり橋がある。いざというとこにはここを落とすことでさらに安全性を高めるためだ。

……だが、その時私たちは忘れていた。『そもそも、このつり橋を最後に設置したのは、いつだったか』を。


「急いで?」
「ああ、ちょっと待ってろよ!」

私たちはグリフォンの襲撃に怯えながら橋を必死にわたっていた。


「トーニャ、お前も早く来るんだ!」
「あ、うん。……そうだね」

ただ私はワンドが気になっていたので最後まで橋を渡らなかった。
だが……最後になった私が橋に足を乗せた瞬間、悲劇は起きた。


橋のロープが村人たちの重さに耐えかねて、切れたのだ。

「うわああああ!」
「きゃああああ!」
「え……うそでしょ? お父さん、お母さん!」


私は、その時自分でこれほど大きな声が出ることを知らなかった。
両親を含む村人の何人かは、そのまま谷底に落ちていった。

……この世界は、おとぎ話の世界じゃない。
谷底に落ちて奇跡的に無事……というわけもなかった。のちに分かったことだが、両親を含む、その時の村人は全員命を落としたようだった。
すでに橋を渡り切っていた村人たちは、みな、唯一無事だった私のことを見ていた。


(……お前のせいだ……)

そんな顔で、橋の向こうにいた人たちは私を見ていたような気がして、私は目を合わせることが出来なかった。



それから10分ほどしただろうか。
ワンドはボロボロの身体になりながらも戻ってきた。


「助かったよ。何とかあいつ、逃げてくれたよ……」

私たち『大量の餌』を見失ったためだろう。
グリフォンは追跡を諦めて、どこかに飛び去ったようだ。
定住するタイプの種族ではないので、当面の危機は去ったと言える。


……そんなワンドを殴りつけ、私はこう言ってしまった。


「あんたのせいだ……」

これは単に、両親を失ったこと、そして私の居場所が村から完全になくなったことに対する八つ当たりだった。だが、私はその口を止められなかった。


「あんたが……グリフォンを倒していれば……私たちは避難しなくて済んだんだ! なにが勇者だ! あんたは……私の両親を殺したんだ!」


そう叫ぶ私の後ろからは、罵声と怒号が聞こえる。
……これは勿論ワンドに向けられたものじゃない、恩知らずの私に向けられたものだった。
だが、私はワンドの胸に飛び込みながら、何度も叫んでいた。


「あんたは……私の両親を殺したんだ……! 一生かけて、償え!」
「……ああ……」


ワンドはそのことに頷いた。



……それから私とワンドは行動を共にするようになった。
表向きは『ワンドに自身の両親を見殺しにした借りを返すように』と言うことで。

但し実際の理由は違った。

一つは、村で嫌われていた私が両親を失い、更に恩人のワンドを皆の前で罵倒した私に、もうあの村に住むことができなかったこと。

……そしてもう一つは、ワンドとずっと一緒に居たい。そして独占したいと思ったからだった。


「トーニャ? 今日のご飯はどうだ?」
「危ない、トーニャ! ……って、カエルか。びっくりしたな」

勇者としては未熟なワンドとの生活は貧しかったが、とても楽しいものだった。
最初は遠慮がちだったワンドも次第に、今までのように友好的に接してくれるようになっていっていた。


「言っとくけど。キミは私に借りがあるんだよ?」

だが、私はことあるごとにそう言って、ワンドのことを許していない「ふり」をした。

こうやって、ワンドの罪悪感を刺激していれば、自分から離れられないようになると思って。



それから3年が経過し、私は17歳になっていた。
……確か同郷のファイブスが仲間に加わったのは、その時だった。

やはり彼女も私のことを嫌っていたが、それでもワンドのことが気に入ったのだろう、ゼログが抜けるまでは同行してくれた。


「あはは! あんたもトーニャと一緒にいるなんて物好きだねえ?」
「そうか? トーニャといるとすっげー助かるんだよ。頼りになるし、一緒に旅するのって楽しいんだよ」

そう言って、時折ファイブスが皮肉を言った時にも、ワンドは平気で受け流してくれた。
そんなワンドのことが、私は好きだ。
ずっと一緒に居たいという気持ちは日増しに募っていった。


……だが、当時のワンドは、私のことを異性として見ていなかった。
そしてワンドは、なんだかんだで異性からも同性からも人気で、いつも誰かが傍にいる。
そんな彼がいつか、私の元から離れていく、そんな気がした。


そこで私は、ワンドを独り占めするために計画を立てた。

一つは、ワンドに私なしでは生きられないと思ってもらうこと。
もう一つは私を異性として意識してもらうこと。


……ワンドの食事の中に、媚薬を混ぜるようになったのも、このころからだ。
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