上 下
34 / 64
第3章 依頼:リザードマンにさらわれた家族を助けてください

3-5 ヤンデレ娘は『最低な告白』をしました

しおりを挟む
「トーニャ……何するんだ……」

だが、俺の発言を待とうともせず、トーニャは俺の腹に掌底を打ち込む。

「ぐあ……」

その痛みに俺は思わず崩れ落ちそうになりながらもなんとか踏みとどまる。
理由は分からないが、俺はトーニャを傷つけるようなことをしたのだろう。

トーニャは、いつもの無表情を崩して悲しそうな表情をした。

「なんで、トーニャ……泣きそうなんだよ……」
「……キミが……最低だからだよ」

何を言いたいのかわからない。
俺は次の言葉を待つ。


「リズリーに言われたんだよ。……最近、ワンドがやたらと私に構ってきてうっとうしいって。……キミ、何回人を傷つければ気が済むんだ?」
「リズリー……が……?」
「そうだよ。……それで私に相談してきたんだよ。何とかしてほしいってね」


その発言に俺は足元が崩れるような感覚に陥った。

……ここ最近、リズリーと一緒に居ることが多く、一緒に食事を作ったり、キャンプで踊ったりするのがとても楽しかった。
だが、それが俺の独りよがりだった、と言うことになるからだ。

「じゃあなんで今までは……」
「フォーチュラがキミに懐いていたからね。……関係を壊さないために私に相談したんだよ」
「そうか……」


その発言に俺は膝から崩れ落ち、がっくりとうなだれた。
俺はワンドにそんな風に思われていたのか、と。

そしてトーニャは俺の前に歩み寄り、そっと俺の頬に手を当てた。


「あのさ。……ワンド。キミの役割はなんだっけ?」
「俺は……勇者として、困ってる人のための礎になること……だ」
「だよね? それに、もう一つ。……キミは私に借りがある。だから、それを返すために一緒に居ないといけないってこと。覚えてるよね?」
「ああ……」
「じゃあ、リズリーに迷惑をかけてまで、一緒に居るのはダメって分かるよね? ねえ?」


念押しするように、トーニャはそう訊ねてきた。
俺は答えるまでもなく、大きくうなづいた。

……人のために戦って死ぬべき勇者が、弱いものから奪うのは、何があっても許されない。
それが大切な仲間である……と少なくとも俺は思っている。それがリズリーならなおさらだ。


そしてトーニャはどこか憐れみを込めた目で俺を見てきた。


「分かると思うけど……キミは本来リズリーと離れて、私のために旅を続けるべきなんだよ。そうだよね?」
「ああ……けど……」
「そう。フォーチュラのこともあるし、そういうわけにはいかないよね? だから……」


そう言うとトーニャは答える。



「ワンド。私がリズリーの代わりになってあげる」



「え?」
その言葉の意味が俺には分からなかった。
だが、トーニャの口から出た言葉は、龍の吐息よりも強い衝撃を与えるものであった。


「だからさ。私がキミと付き合ってあげる。そうすればキミもリズリーにちょっかいを出す気にならないでしょ?」


「は……?」

トーニャと付き合える。
もしそれが出来るなら、寿命の9割を差し出しても全然釣り合わない。
そう思ってた俺にとっては最高の申し出だ。……こんな形でなければだが。

「トーニャは……嫌じゃないのか?」
「正直嫌でたまらないよ。だってキミは、私の両親を見殺しにしたんだよ?」
「……ああ……」
「けどさ。リズリーを守るためなら私が犠牲になる方が良いから」

そんな形で付き合うのは、俺は認めたくない。
だが、トーニャはこうも続けた。


「それに、偽勇者は……私とキミを恋人同士だと思ってるでしょ? だから、形だけでも付き合ってた方が良いと思うんだよ」
「偽勇者、か……」

確かに、俺の名を騙って各地で武功を立てている偽勇者は、ことあるごとに『永遠の伴侶』とトーニャを呼んでいることが分かる。

であれば、トーニャと俺が交際している方が周囲に怪しまれることはない。……本物である俺達が偽物の言動に合わせるのは奇妙な感じもするが。

だが、俺はトーニャを幸せにする義務がある。
そんなトーニャを傷つけるような関係はごめんだ。
だがはっきりとトーニャは俺に告げた。


「言っとくけど、キミは断れないよ? 断ったら、あの女……リズリーにちょっかい出したいから断ったって判断するから」
「う……」

そしてトーニャは、極めつけにこうつぶやいた。



「……分かったよ。言い訳が欲しいんだね? じゃあ言ってあげる。……私はキミを愛してる。……これでいい?」



「……っつ……」

俺はその言葉に、膝をついてしまった。
目から涙が止まらない。

愛すべきトーニャに、ここまで言わせてしまった自分への無力感と罪悪感が、胸を締め付けてきた。


「ほら、キミも私に言ってよ?」
「ああ。……俺は……トーニャが好きなんだ……誰より愛してる……」
「うん。どうせキミが求めてるのは私の身体でしょ? いいよ、抱きしめて?」
「…………」

そして、この状況でもなお、トーニャを求めようとする俺自身の浅ましさに嫌気がさした。
だが、俺はその誘惑に負け、トーニャのその小さな体をその手で抱きしめた。

「…………」


トーニャのぬくもりが俺に伝わっていく。
その暖かさは、おそらく一生忘れることは出来ないだろう。
……こんな形でトーニャと抱き合うことになった現状に苦しくなりながらも、俺は思った。


「あとさ……」

トーニャはそっと俺のことを抱き返した。
……本当に優しいんだな、トーニャは。



「今日のこと、誰にも話さないで? あの女……リズリーには特にね……」



「え?」
「私はリズリーから相談に乗っただけ。キミを殴るようには言われてない。このことを知られたら、リズリーは自分を責めるから」
「そうだったのか……」

トーニャはあまり人に関心が無いと思っていた。
けど、リズリーのことを本当は大切に思っていたんだな。俺はそう思った。


「だからさ。リズリーたちには『私とキミが付き合ったこと』だけ伝えて?」
「ああ、分かった」
「それとリズリーにはもうあまり関わらないで? 私にだけ優しくするんだよ? キミと付き合ってあげるんだから当然だよね?」
「当然だ……」

元より、俺はトーニャに優しくする義務がある。
寧ろこちらからお願いしたいくらいだ。

「分かったなら、いいよ。……キスする? 押し倒したい? どっちでもいいけど」
「いや……」

トーニャが俺のことを好きじゃないことは分かった。
それでも俺と付き合ってくれるというなら、これ以上トーニャから奪うわけにはいかない。
俺はそう思い首を振る。

……だが、次の瞬間、俺の頬に暖かい唇が振れる感触があった。


「え……?」
「あのさ、ワンド。一度しか言えないけど……ごめんね……本当にごめんね……」


そうトーニャはつぶやくと、俺のことを強く抱きしめてきた。


「泣いてるのか、トーニャ?」
「…………」

トーニャはそれには答えなかった。
抱き合ってるこの状態ではトーニャの顔は見れない。
だが、これ以上尋ねる必要はないと思い、俺はもう一度トーニャを強く抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

処理中です...