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第3章 依頼:リザードマンにさらわれた家族を助けてください
3-4 ついにヤンデレ娘の怒りが爆発したようです
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「その男は、今リズリーが探している男だ……」
そう言って俺は、リズリーと出会った経緯から、その兄シスクのことについてまでかいつまんで説明した。
「なるほど。……中々強かな男だね」
「そいつは一人でいたのか?」
「ううん……。その……」
少し口ごもるような感じになったあと、ファイブスは答える。
「実はね。ゼログそっくりな奴と一緒に居たね。そのときは夫が担当していたから、向こうは私に気づいてなかったけど」
「嘘だろ?」
ゼログがこのあたりに滞在していたというのは、ほぼ間違いないだろう。
そうでもなければ、あんな元四天王の一人をやすやすと倒すことなどできるはずはないからだ。
だが、ゼログがリズリーの兄シスクと居たことには疑問を禁じ得ない。
「ゼログがシスクと? ……騙されているんじゃないのか?」
ゼログは、頭脳そのものは明晰だが、なぜか人のウソを見抜くのが苦手だ。彼の世界には「単純な思考を持つもの」が多かったのかもしれない。
実際、彼が嫌いなニンジンを料理に入れた時にも、ちょっとごまかせば簡単に食べてくれていた。
「うーん。確かに『仲間』って感じじゃなかったね。けど、険悪な雰囲気でもなかったよ。利害関係が一致して一緒に居るとか、そんな感じだと思う」
「お兄様と利害関係が、ですか……。ところでお兄様たちの行先はご存じですか?」
「ああ。このあたりの魔物退治も終わったから、北にある『ソニック・ドラゴン』を使役しに行こうとしていたよ」
「マジかよ……」
『ソニック・ドラゴン』の恐ろしさは俺もよく知っている。
生活圏が人間と被っていないためちょっかいを出さなければ害はないが、まともに戦えばヴァンパイア・ロードとほぼ実力は変わらないほどの凶悪さを誇る。
その代わり、その名前の通り音速による飛行が可能であるため、彼を使役すればはるか遠くの町までひとっとびで移動が出来る。
「なるほど……ゼログの力なら、奴を打ち負かすことが出来るし……」
「お兄様は『ビーストテイマー』でもあります。ドラゴンを打ち負かした後であれば使役することは出来るでしょう」
そこまで考えて、俺たちは納得した。
恐らくその為に、ゼログとシスクは一時的に手を結んだのだろう。
「とはいえ、シスクの追跡は、これでいったん手詰まりだな」
「……そうですね、私たちには……」
俺達が100人いても、ソニック・ドラゴンを倒すことは不可能だ。
それどころか、奴らの住む谷に到達することすら厳しいため、今から彼らを追いかけるのは無謀だと判断した。
そう思った俺は、今度は『偽勇者』の足取りについて、ファイブスに聞いてみた。
「なあ、俺の名前がなんでこんなにこの街でも有名なんだ?」
「ああ。このあたりの街ってさ。盗賊や悪魔みたいなやばい奴らがいっぱいいたんだけどさ。それを『ワンド』って奴が倒してくれてたみたいだね。服装や背格好は、まさに今のあんたと同じ格好だったらしいよ」
「けど、それは……」
「分かってるよ。あんたがそんなことできる訳無いからね。……話し合いができない魔物や人間の捕縛はワンドが、人間との話し合いの余地がある魔物はゼログが倒したってことになってるみたいだよ」
「そうなのか……。偽勇者の目的ってなんなんだろうな」
「さあね。……ていうかさ、偽物があんたの代わりに活躍しているし、もう勇者業を辞めたらどうだい?」
また、この話が出たか。
ファイブスは、世話焼きな性格だがおせっかいなところもある。
俺は確かに勇者として実力不足なところもある。そのせいでゼログにも大けがを負わせてしまったほどだ。
だが、俺は勇者としてまだやるべきことはある。
「勿論すぐにとは言わないよ……けどさ、リズリーちゃんやフォーチュラちゃんの目的が達成したらでいいからさ。その後は私の店で働かないかい?」
「え?」
「うちに誘ったのは、その話をするためでもあったんだ。ようやく商売が軌道に乗ってきたからさ。ワンド、あんたも雇える余裕も出来たんだよ。で、どうだい? 前あんたを誘った時よりも条件は良いと思うよ?」
そういうことだったのか、と俺はようやくわかった。
ゼログが抜けた後、割とすぐにパーティを抜けたのは、俺が『勇者業を辞めた後の居場所』を作ってくれるためだったんだな。
……本当にファイブスは良い奴だ。俺は彼女の気遣いに胸が熱くなった。
「あんたも、いつまでも勇者なんてやっててもしょうがないだろ?」
「けど、俺は……」
「『困ってる人の力になりたい』だろ? けど、それなら勇者のためのアクセサリーを用意するとか、出来ることはあるだろ? そういうものの必要性は、あんたが一番分かっていると思うけど?」
確かに、と俺は一瞬考えた。
もしも俺が魔法防御を防ぐアクセサリーを身に付けていれば、この間のように瘴気にあてられて倒れることは無かった。
……そう考えると、アクセサリーを俺以外の勇者に売る仕事も魅力的には感じてきた。
するとファイブスはリズリーの方を向いて尋ねる。
「そうだね……。リズリーちゃんもさ、ワンドと一緒に仕事するのはどう?」
「え? わ、私ですか?」
「ああ! さっきから見てるとさ。あんたとワンドって、やっぱお似合いだと思うんだよ。見た感じ、二人が結婚したら幸せな家庭を築けるって思うからさ!」
「そんな、私は……」
リズリーは顔を真っ赤にしながらそう恐縮するように答えた。
ファイブスは他人の色恋関係にもずんずんと入って来て話をしてしまう悪癖がある。
そもそも、リズリーが俺と結婚したいなんて、思うわけがないだろう。
「ま、返事は今じゃなくてもいいけどさ。ワンドは良い奴だから、あたしが保証するよ。シスクって奴の件が済んだらまたおいで?」
「え? ……はい、ありがとうございます!」
そう言って俺たちはファイブスと別れた。
その夜。
俺達は宿の一室でこれからのことについて話し合っていた。
「さて……。これからどうする?」
「そうですね……。お兄様の件はもう、この場ではこれ以上の情報収集はあまり意味がなさそうですね」
「神父様を殺した奴の情報も、全然なかったよね。……まあ期待してなかったけど」
そう俺達が首をかしげていると、トーニャはぽつりとつぶやいた。
「とりあえず、このまま北を目指そう?」
「え?」
「リズリーの街とこの街の位置関係を考えると、多分南に行くんならわざわざこの砂漠の町まで行くより、海路を使う方が速いからね」
俺も同じように思って頷いた。
「ああ、俺もそう思う。明日、この街をでて北に向かおう……シスクに会えなくて残念だったな」
そう訊ねると、リズリーはとんでもないと首を振った。
「いえ! 兄と同じ方角に向かっていたことが分かっただけでも大きな前進ですから……。それに、ワンド様のお仲間に会えたのも楽しかったですし……」
「アハハ、ファイブスの奴、おせっかいだったろ?」
「そ、そうですけど……。けど私はああいう人、嫌いじゃないです」
そこでフォーチュラが思い出したように尋ねた。
「そういやさ、ファイブスが言っていた『兄の問題』が片付いたら、リズリーはこの街に戻るの?」
「え?」
「あたしはさ。ワンド様が結婚するならリズリーさんかトーニャお姉ちゃんって思ってたからさ! それも良いんじゃないかなって思うんだよね?」
「えっと、その……私は……」
だが、そこでトーニャが遮ってきた。
「とりあえず、その話をするのはシスクに会えた後で良いはずだよ。……全員が生きて戻ってこれるとも限らないからね」
「生きて戻ってって……そんな……」
「ワンドみたいな『勇者』と一緒にいるってそう言うことだから。……それじゃ、今日は解散しよう? ……後、ワンドはこれが終わったらちょっと外来て?」
そう言うと、トーニャは立ち上がった。
そして、その日の夜遅く。
「なんだ、話って?」
俺はトーニャに呼び出されて、宿の裏にある小さな森に来ていた。
「……ワンド……」
月明かりに照らされるトーニャは、まさに月光が見せる幻のように美しかった。
俺はそのままトーニャとここでずっと過ごしていたい気持ちにかられる。……けど、トーニャはそれを望んでいないだろう。
俺はトーニャに対して一歩歩き出すと、
「この!」
いきなり強烈な膝蹴りを俺に見舞った。
「がは……!」
格闘能力では、俺はトーニャには到底かなわない。
そのまま俺は膝から崩れ落ちる。
そう言って俺は、リズリーと出会った経緯から、その兄シスクのことについてまでかいつまんで説明した。
「なるほど。……中々強かな男だね」
「そいつは一人でいたのか?」
「ううん……。その……」
少し口ごもるような感じになったあと、ファイブスは答える。
「実はね。ゼログそっくりな奴と一緒に居たね。そのときは夫が担当していたから、向こうは私に気づいてなかったけど」
「嘘だろ?」
ゼログがこのあたりに滞在していたというのは、ほぼ間違いないだろう。
そうでもなければ、あんな元四天王の一人をやすやすと倒すことなどできるはずはないからだ。
だが、ゼログがリズリーの兄シスクと居たことには疑問を禁じ得ない。
「ゼログがシスクと? ……騙されているんじゃないのか?」
ゼログは、頭脳そのものは明晰だが、なぜか人のウソを見抜くのが苦手だ。彼の世界には「単純な思考を持つもの」が多かったのかもしれない。
実際、彼が嫌いなニンジンを料理に入れた時にも、ちょっとごまかせば簡単に食べてくれていた。
「うーん。確かに『仲間』って感じじゃなかったね。けど、険悪な雰囲気でもなかったよ。利害関係が一致して一緒に居るとか、そんな感じだと思う」
「お兄様と利害関係が、ですか……。ところでお兄様たちの行先はご存じですか?」
「ああ。このあたりの魔物退治も終わったから、北にある『ソニック・ドラゴン』を使役しに行こうとしていたよ」
「マジかよ……」
『ソニック・ドラゴン』の恐ろしさは俺もよく知っている。
生活圏が人間と被っていないためちょっかいを出さなければ害はないが、まともに戦えばヴァンパイア・ロードとほぼ実力は変わらないほどの凶悪さを誇る。
その代わり、その名前の通り音速による飛行が可能であるため、彼を使役すればはるか遠くの町までひとっとびで移動が出来る。
「なるほど……ゼログの力なら、奴を打ち負かすことが出来るし……」
「お兄様は『ビーストテイマー』でもあります。ドラゴンを打ち負かした後であれば使役することは出来るでしょう」
そこまで考えて、俺たちは納得した。
恐らくその為に、ゼログとシスクは一時的に手を結んだのだろう。
「とはいえ、シスクの追跡は、これでいったん手詰まりだな」
「……そうですね、私たちには……」
俺達が100人いても、ソニック・ドラゴンを倒すことは不可能だ。
それどころか、奴らの住む谷に到達することすら厳しいため、今から彼らを追いかけるのは無謀だと判断した。
そう思った俺は、今度は『偽勇者』の足取りについて、ファイブスに聞いてみた。
「なあ、俺の名前がなんでこんなにこの街でも有名なんだ?」
「ああ。このあたりの街ってさ。盗賊や悪魔みたいなやばい奴らがいっぱいいたんだけどさ。それを『ワンド』って奴が倒してくれてたみたいだね。服装や背格好は、まさに今のあんたと同じ格好だったらしいよ」
「けど、それは……」
「分かってるよ。あんたがそんなことできる訳無いからね。……話し合いができない魔物や人間の捕縛はワンドが、人間との話し合いの余地がある魔物はゼログが倒したってことになってるみたいだよ」
「そうなのか……。偽勇者の目的ってなんなんだろうな」
「さあね。……ていうかさ、偽物があんたの代わりに活躍しているし、もう勇者業を辞めたらどうだい?」
また、この話が出たか。
ファイブスは、世話焼きな性格だがおせっかいなところもある。
俺は確かに勇者として実力不足なところもある。そのせいでゼログにも大けがを負わせてしまったほどだ。
だが、俺は勇者としてまだやるべきことはある。
「勿論すぐにとは言わないよ……けどさ、リズリーちゃんやフォーチュラちゃんの目的が達成したらでいいからさ。その後は私の店で働かないかい?」
「え?」
「うちに誘ったのは、その話をするためでもあったんだ。ようやく商売が軌道に乗ってきたからさ。ワンド、あんたも雇える余裕も出来たんだよ。で、どうだい? 前あんたを誘った時よりも条件は良いと思うよ?」
そういうことだったのか、と俺はようやくわかった。
ゼログが抜けた後、割とすぐにパーティを抜けたのは、俺が『勇者業を辞めた後の居場所』を作ってくれるためだったんだな。
……本当にファイブスは良い奴だ。俺は彼女の気遣いに胸が熱くなった。
「あんたも、いつまでも勇者なんてやっててもしょうがないだろ?」
「けど、俺は……」
「『困ってる人の力になりたい』だろ? けど、それなら勇者のためのアクセサリーを用意するとか、出来ることはあるだろ? そういうものの必要性は、あんたが一番分かっていると思うけど?」
確かに、と俺は一瞬考えた。
もしも俺が魔法防御を防ぐアクセサリーを身に付けていれば、この間のように瘴気にあてられて倒れることは無かった。
……そう考えると、アクセサリーを俺以外の勇者に売る仕事も魅力的には感じてきた。
するとファイブスはリズリーの方を向いて尋ねる。
「そうだね……。リズリーちゃんもさ、ワンドと一緒に仕事するのはどう?」
「え? わ、私ですか?」
「ああ! さっきから見てるとさ。あんたとワンドって、やっぱお似合いだと思うんだよ。見た感じ、二人が結婚したら幸せな家庭を築けるって思うからさ!」
「そんな、私は……」
リズリーは顔を真っ赤にしながらそう恐縮するように答えた。
ファイブスは他人の色恋関係にもずんずんと入って来て話をしてしまう悪癖がある。
そもそも、リズリーが俺と結婚したいなんて、思うわけがないだろう。
「ま、返事は今じゃなくてもいいけどさ。ワンドは良い奴だから、あたしが保証するよ。シスクって奴の件が済んだらまたおいで?」
「え? ……はい、ありがとうございます!」
そう言って俺たちはファイブスと別れた。
その夜。
俺達は宿の一室でこれからのことについて話し合っていた。
「さて……。これからどうする?」
「そうですね……。お兄様の件はもう、この場ではこれ以上の情報収集はあまり意味がなさそうですね」
「神父様を殺した奴の情報も、全然なかったよね。……まあ期待してなかったけど」
そう俺達が首をかしげていると、トーニャはぽつりとつぶやいた。
「とりあえず、このまま北を目指そう?」
「え?」
「リズリーの街とこの街の位置関係を考えると、多分南に行くんならわざわざこの砂漠の町まで行くより、海路を使う方が速いからね」
俺も同じように思って頷いた。
「ああ、俺もそう思う。明日、この街をでて北に向かおう……シスクに会えなくて残念だったな」
そう訊ねると、リズリーはとんでもないと首を振った。
「いえ! 兄と同じ方角に向かっていたことが分かっただけでも大きな前進ですから……。それに、ワンド様のお仲間に会えたのも楽しかったですし……」
「アハハ、ファイブスの奴、おせっかいだったろ?」
「そ、そうですけど……。けど私はああいう人、嫌いじゃないです」
そこでフォーチュラが思い出したように尋ねた。
「そういやさ、ファイブスが言っていた『兄の問題』が片付いたら、リズリーはこの街に戻るの?」
「え?」
「あたしはさ。ワンド様が結婚するならリズリーさんかトーニャお姉ちゃんって思ってたからさ! それも良いんじゃないかなって思うんだよね?」
「えっと、その……私は……」
だが、そこでトーニャが遮ってきた。
「とりあえず、その話をするのはシスクに会えた後で良いはずだよ。……全員が生きて戻ってこれるとも限らないからね」
「生きて戻ってって……そんな……」
「ワンドみたいな『勇者』と一緒にいるってそう言うことだから。……それじゃ、今日は解散しよう? ……後、ワンドはこれが終わったらちょっと外来て?」
そう言うと、トーニャは立ち上がった。
そして、その日の夜遅く。
「なんだ、話って?」
俺はトーニャに呼び出されて、宿の裏にある小さな森に来ていた。
「……ワンド……」
月明かりに照らされるトーニャは、まさに月光が見せる幻のように美しかった。
俺はそのままトーニャとここでずっと過ごしていたい気持ちにかられる。……けど、トーニャはそれを望んでいないだろう。
俺はトーニャに対して一歩歩き出すと、
「この!」
いきなり強烈な膝蹴りを俺に見舞った。
「がは……!」
格闘能力では、俺はトーニャには到底かなわない。
そのまま俺は膝から崩れ落ちる。
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