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第3章 依頼:リザードマンにさらわれた家族を助けてください
3-2 最弱勇者とリズリーの関係にヤンデレ娘は嫉妬しています
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ヴァンパイアとの死闘からしばらくの後、俺たちは広がる草原の中央で、夕食を食べながらキャンプをしていた。
「ワンド様? もう怪我の方は問題ない?」
「ああ、もう大丈夫だ。ありがとうな、フォーチュラ」
そう言いながら俺は笑みを浮かべた。
先のヴァンパイアとの戦いの後、俺はしばらく動けなかった。
連戦の中でろくに傷も治せずに体力を消耗しきったためだ。
だが、俺が倒れ伏している間も、リズリーの美味しい料理と献身的な介護のおかげで俺は何とか動けるようになった。
「ワンド様? 私の料理、少しは役に立ちましたか?」
「勿論だ。本当に助かったよ、リズリー。……リズリーが仲間になってくれて本当に良かった」
「フフ、そう言ってくれると私も嬉しいです! ワンド様?」
そう言ってリズリーは俺の腕に抱き着いてきた。
……だが、そうやってリズリーが俺にボディタッチをするたびに、懺悔室で受けた言葉を思い出す。
※俺は人を好きになってはいけない人だ、と。
(※ワンドが懺悔室で出会った女性セプティナはカース・デーモンという種族であり、その言葉そのものが呪いとなる。特に、魔法防御力がろくにないワンドの場合、それが文字通りの「呪い」として心に残り続けている)
そう考えると、リズリーのその人懐っこい態度も「勘違いしてはいけない」と自戒する必要がある。
「ほんっとうにリズリーさんの料理って美味しいよね! あれなら元気も出るって!」
フォーチュラは屈託のない笑顔でリズリーの作った料理を食べていた。
「それは嬉しいですね? 因みに、どれが一番美味しかったですか?」
「このきのこのマリネが一番美味しかった! また食べさせてね?」
「え? ああ、それはワンド様が作ってくださったんですよ。ね、ワンド様?」
「ああ」
俺はここ最近リズリーと二人で料理を作っている。
絶望的に家事全般が出来ないトーニャは当然だが、フォーチュラもあまり料理が得意じゃないからだ。
リズリーの料理の腕は大したもので、本当に教わることばかりだ。
「へえ~? じゃあワンド様、また作ってね?」
「勿論だ。今度は違うキノコをマリネにしてみるよ」
「やったあ、楽しみ! それにしても、ワンド様とリズリーさんの関係も素敵な感じだよね?」
「あら、そうですか? それなら嬉しいです」
「…………」
それを聞いて、トーニャは不愉快そうな表情を見せた。
まあ、それはそうだろう。
トーニャにとっては、大量の借りがある存在の俺が幸せになることなど、許さないのだろうから。
そしてトーニャはぶっきらぼうな表情で答えた。
「ところでさ、ワンド。本当に北にある、砂漠の街に行くの?」
「ああ。ファイブスが久しぶりに会いたいって言ってたからな」
俺達は今、ここから数日ほど北に行ったところにある、砂漠の街に向かっている。
その理由は、かつて一緒に旅をした仲間である「ファイブス」が久しぶりに会いたいと連絡をくれたからだ。
リズリーが不思議そうに俺に尋ねる。
「ファイブスさんってどんな方なんですか?」
「ああ、確かトーニャと同郷だったよな」
「……まあね。けど、小さい時にお互いに疎遠になって再開したのは最近だから、あまり覚えてないんだ」
そう不機嫌につぶやくトーニャの代わりに俺は答える。
「攻撃魔法が得意なタイプでさ。その力で本当に助けてもらってたんだ」
「へえ、じゃあ私と同じタイプなんですね。どうして別れたんですか?」
「ああ。……ゼログをパーティを追放したときにさ。『ゼログのいないこのパーティにはもう、未来はないから』って言って抜けちまったんだ」
「そうだったんですか……」
こういうと、まるでファイブスを責めているみたいだな、そう思った俺はフォローの言葉を追加した。
「ああい、言い忘れていたけど、あいつとは別に喧嘩別れしたわけじゃないぜ? 実際別れる時も、一緒に道具屋をやってみないかって誘われてたんだ。な、トーニャ?」
「……ううん、私は誘われてないよ」
そう、ぽつりとつぶやくトーニャ。
それは俺も初耳だった。てっきり、俺は「トーニャのついで」に誘ってくれていると思っていたからだ。
「ま……まあ、そういうことだからさ。今はあいつは道具屋をやってる。会いたいってことは何か気になることがあったのかなって思ってさ」
「そうだったんですね」
「……リズリーの兄さんや、フォーチュラの仇に関する情報が少しでも拾えればいいんだけどな」
俺はそう付け加えた。
しばらくそんな感じで談笑をしながら一時間ほど経過した。
リズリーがぽつりとつぶやいた。
「そう言えばワンド様。私がワンド様を介抱しているときに歌っていた歌、覚えていますか?」
「え? ああ、確かリズリーが兄さんから教わったって歌だろ? 辛い時に歌ってくれてたんだってな」
リズリーの兄、シスクは村人として生活しながら裏で山賊業を行っていた。
その理由を知るためにリズリーは旅を始めた。だが、それでもリズリーにとって、シスクは素敵な兄なのだろう。
「ええ。実はあれって振付があるんですよ? ちょっと見てくれません?」
「お、そりゃ見てみたいな」
「あたしも見たい! リズリーさんの踊り!」
「…………」
トーニャは何も言わずに黙ってお茶を飲んでいた。
最近、以前にもまして不機嫌な気がするな。
「じゃあ、始めますね」
そう言うと、リズリーは足をそろえたと思うと、ひらりと腕を広げて軽やかに踊りはじめた。
「へえ……」
「うわ、素敵……」
その動きはまさに月下に踊る精霊のごとく美しさであった。
フォーチュラは顔を少し染めており、憧憬のまなざしでそれを見つめる。
それからしばらくして、リズリーは踊りをやめた。
「どうですか、ワンド様、フォーチュラちゃん?」
「凄いよ、リズリーの踊り!」
「本当! ねえ、あたしにも教えてよ!」
俺達はそう、少し興奮したように叫ぶ。
「この踊り、ゼログの奴にも見せたかったよ」
「あら、ゼログさんも踊りはお好きなんですか?」
「え? ……うーん、踊り自体はそんなに好きじゃないけど、仲間が踊っているのを見たり、一緒に歌ったりするのはすごい好きだったな」
ゼログは、街の酒場で踊り子が踊る姿には関心を示さなかった。その相手がどんなに美人であっても、だ。
また、歌や踊りに関しては、どこかカクカクと機械的なぎこちない動きを見せており、本人はあまり得意でもなかった。だが、俺達と一緒に歌ったり踊ったりすることはとても好んでいた。
誰かと一緒にそういう歌や踊りをたしなむ行為そのものが、好きだったのだろう。
「そうなんですか? じゃあいつか、ゼログさんと再会したときのためにワンド様も踊りを覚えません?」
「え? 俺も?」
「ええ。これ、本当は男性と……それも恋人と一緒に踊るものなんですよ。ワンド様もぜひ!」
確かに、この踊りを見せたらゼログも喜ぶかもしれないな。
あいつは、俺とトーニャが一緒に踊ってるのを見ている時が一番楽しそうだった。多分男女がペアで踊るのを見るのが好きだったんだろう。
「じゃあ、教えてもらっていいか?」
「ええ、もちろんです!」
そう話していると、トーニャがお茶の入ったグラスをガン! と叩きつけた。
「お、おい、どうしたんだよ、トーニャ?」
「あら、トーニャ? ついでに、あなたにも教えてあげても良いですよ?」
少し勝ち誇ったようにリズリーが笑みを浮かべる。
トーニャははっきり言って歌も踊りもあまり得意ではない。だから恐らく嫉妬の感情もあるのだろう。
「私はいいよ。貸して、みんなのグラス。私洗っとくから」
「……そうだな、やっぱり俺も教わるのはやめとくよ。フォーチュラと二人でやってくれるか?」
「そうですか? それは残念です……」
「なにさ、あたしだけじゃ不満? ワンド様と踊りたかったのは分かるけどさ。そんないい方しなくても良いじゃん!」
フォーチュラがそうむくれると、リズリーが慌てたようにフォローに入る。
「あ、いえ。そう言うわけじゃないんですよ。じゃあフォーチュラちゃん、一緒に踊りましょ?」
「うん!」
そう言って二人は踊りの練習を始めた。
「あ、あのさ、トーニャ。俺もグラス洗うからさ」
「うるさいな、私が一人でやるからいいよ。キミはあっちでリズリーと踊ってなよ」
「えっと……」
他者の気持ちを察するのが苦手なトーニャと、周りを常に気にするリズリーは、その性格の違いもあってか不仲だ。
そんなリズリーが、自分の気に入っているフォーチュラの関心を独り占めしていることに不満があるのだろう、と俺は判断した。
「いいよ、俺は。トーニャと一緒にここに居るのはダメか?」
思わず本音が出てしまった。
やっぱりどう頑張っても、俺はトーニャのことが好きだ。どんなにつらく当たられても、どんなにリズリーに優しくされても、彼女が一番なのは微塵も揺るがない。
……ここまでくるともう呪いなのかなとすら思えるほどに。
だが、意外なことにトーニャはあまり不快そうな表情を見せなかった。
「……ま、まあ、それなら、別にいいよ。……あのさ、ワンド?」
「なんだ?」
「キミはモテるような男じゃない。あまりリズリーに構うと、きっと嫌われる。……あの女も、フォーチュラの手前黙ってるけど、本当は嫌がってると思う」
「ああ、分かってる」
「そもそも、リズリーもシスクの件が終わったら、どうせキミを捨てるんだ。フォーチュラもそう。けど、私はキミに貸しが沢山あるから、それを返してもらうまでは傍にいる。それは分かる?」
「勿論だ。借りは一生かけても返すよ」
「……だから、キミは私に優しくするべきなんだよ」
言われるまでもなく、そのつもりだ。
だけど「嫌いな人間からの好意は却って迷惑である」という言葉をいまだに俺は覚えている。
トーニャに迷惑にならないように、寧ろ距離を置こうと思っているが、それだけでは不満なのか。
……やっぱり、人間関係は難しい。
「ワンド様? もう怪我の方は問題ない?」
「ああ、もう大丈夫だ。ありがとうな、フォーチュラ」
そう言いながら俺は笑みを浮かべた。
先のヴァンパイアとの戦いの後、俺はしばらく動けなかった。
連戦の中でろくに傷も治せずに体力を消耗しきったためだ。
だが、俺が倒れ伏している間も、リズリーの美味しい料理と献身的な介護のおかげで俺は何とか動けるようになった。
「ワンド様? 私の料理、少しは役に立ちましたか?」
「勿論だ。本当に助かったよ、リズリー。……リズリーが仲間になってくれて本当に良かった」
「フフ、そう言ってくれると私も嬉しいです! ワンド様?」
そう言ってリズリーは俺の腕に抱き着いてきた。
……だが、そうやってリズリーが俺にボディタッチをするたびに、懺悔室で受けた言葉を思い出す。
※俺は人を好きになってはいけない人だ、と。
(※ワンドが懺悔室で出会った女性セプティナはカース・デーモンという種族であり、その言葉そのものが呪いとなる。特に、魔法防御力がろくにないワンドの場合、それが文字通りの「呪い」として心に残り続けている)
そう考えると、リズリーのその人懐っこい態度も「勘違いしてはいけない」と自戒する必要がある。
「ほんっとうにリズリーさんの料理って美味しいよね! あれなら元気も出るって!」
フォーチュラは屈託のない笑顔でリズリーの作った料理を食べていた。
「それは嬉しいですね? 因みに、どれが一番美味しかったですか?」
「このきのこのマリネが一番美味しかった! また食べさせてね?」
「え? ああ、それはワンド様が作ってくださったんですよ。ね、ワンド様?」
「ああ」
俺はここ最近リズリーと二人で料理を作っている。
絶望的に家事全般が出来ないトーニャは当然だが、フォーチュラもあまり料理が得意じゃないからだ。
リズリーの料理の腕は大したもので、本当に教わることばかりだ。
「へえ~? じゃあワンド様、また作ってね?」
「勿論だ。今度は違うキノコをマリネにしてみるよ」
「やったあ、楽しみ! それにしても、ワンド様とリズリーさんの関係も素敵な感じだよね?」
「あら、そうですか? それなら嬉しいです」
「…………」
それを聞いて、トーニャは不愉快そうな表情を見せた。
まあ、それはそうだろう。
トーニャにとっては、大量の借りがある存在の俺が幸せになることなど、許さないのだろうから。
そしてトーニャはぶっきらぼうな表情で答えた。
「ところでさ、ワンド。本当に北にある、砂漠の街に行くの?」
「ああ。ファイブスが久しぶりに会いたいって言ってたからな」
俺達は今、ここから数日ほど北に行ったところにある、砂漠の街に向かっている。
その理由は、かつて一緒に旅をした仲間である「ファイブス」が久しぶりに会いたいと連絡をくれたからだ。
リズリーが不思議そうに俺に尋ねる。
「ファイブスさんってどんな方なんですか?」
「ああ、確かトーニャと同郷だったよな」
「……まあね。けど、小さい時にお互いに疎遠になって再開したのは最近だから、あまり覚えてないんだ」
そう不機嫌につぶやくトーニャの代わりに俺は答える。
「攻撃魔法が得意なタイプでさ。その力で本当に助けてもらってたんだ」
「へえ、じゃあ私と同じタイプなんですね。どうして別れたんですか?」
「ああ。……ゼログをパーティを追放したときにさ。『ゼログのいないこのパーティにはもう、未来はないから』って言って抜けちまったんだ」
「そうだったんですか……」
こういうと、まるでファイブスを責めているみたいだな、そう思った俺はフォローの言葉を追加した。
「ああい、言い忘れていたけど、あいつとは別に喧嘩別れしたわけじゃないぜ? 実際別れる時も、一緒に道具屋をやってみないかって誘われてたんだ。な、トーニャ?」
「……ううん、私は誘われてないよ」
そう、ぽつりとつぶやくトーニャ。
それは俺も初耳だった。てっきり、俺は「トーニャのついで」に誘ってくれていると思っていたからだ。
「ま……まあ、そういうことだからさ。今はあいつは道具屋をやってる。会いたいってことは何か気になることがあったのかなって思ってさ」
「そうだったんですね」
「……リズリーの兄さんや、フォーチュラの仇に関する情報が少しでも拾えればいいんだけどな」
俺はそう付け加えた。
しばらくそんな感じで談笑をしながら一時間ほど経過した。
リズリーがぽつりとつぶやいた。
「そう言えばワンド様。私がワンド様を介抱しているときに歌っていた歌、覚えていますか?」
「え? ああ、確かリズリーが兄さんから教わったって歌だろ? 辛い時に歌ってくれてたんだってな」
リズリーの兄、シスクは村人として生活しながら裏で山賊業を行っていた。
その理由を知るためにリズリーは旅を始めた。だが、それでもリズリーにとって、シスクは素敵な兄なのだろう。
「ええ。実はあれって振付があるんですよ? ちょっと見てくれません?」
「お、そりゃ見てみたいな」
「あたしも見たい! リズリーさんの踊り!」
「…………」
トーニャは何も言わずに黙ってお茶を飲んでいた。
最近、以前にもまして不機嫌な気がするな。
「じゃあ、始めますね」
そう言うと、リズリーは足をそろえたと思うと、ひらりと腕を広げて軽やかに踊りはじめた。
「へえ……」
「うわ、素敵……」
その動きはまさに月下に踊る精霊のごとく美しさであった。
フォーチュラは顔を少し染めており、憧憬のまなざしでそれを見つめる。
それからしばらくして、リズリーは踊りをやめた。
「どうですか、ワンド様、フォーチュラちゃん?」
「凄いよ、リズリーの踊り!」
「本当! ねえ、あたしにも教えてよ!」
俺達はそう、少し興奮したように叫ぶ。
「この踊り、ゼログの奴にも見せたかったよ」
「あら、ゼログさんも踊りはお好きなんですか?」
「え? ……うーん、踊り自体はそんなに好きじゃないけど、仲間が踊っているのを見たり、一緒に歌ったりするのはすごい好きだったな」
ゼログは、街の酒場で踊り子が踊る姿には関心を示さなかった。その相手がどんなに美人であっても、だ。
また、歌や踊りに関しては、どこかカクカクと機械的なぎこちない動きを見せており、本人はあまり得意でもなかった。だが、俺達と一緒に歌ったり踊ったりすることはとても好んでいた。
誰かと一緒にそういう歌や踊りをたしなむ行為そのものが、好きだったのだろう。
「そうなんですか? じゃあいつか、ゼログさんと再会したときのためにワンド様も踊りを覚えません?」
「え? 俺も?」
「ええ。これ、本当は男性と……それも恋人と一緒に踊るものなんですよ。ワンド様もぜひ!」
確かに、この踊りを見せたらゼログも喜ぶかもしれないな。
あいつは、俺とトーニャが一緒に踊ってるのを見ている時が一番楽しそうだった。多分男女がペアで踊るのを見るのが好きだったんだろう。
「じゃあ、教えてもらっていいか?」
「ええ、もちろんです!」
そう話していると、トーニャがお茶の入ったグラスをガン! と叩きつけた。
「お、おい、どうしたんだよ、トーニャ?」
「あら、トーニャ? ついでに、あなたにも教えてあげても良いですよ?」
少し勝ち誇ったようにリズリーが笑みを浮かべる。
トーニャははっきり言って歌も踊りもあまり得意ではない。だから恐らく嫉妬の感情もあるのだろう。
「私はいいよ。貸して、みんなのグラス。私洗っとくから」
「……そうだな、やっぱり俺も教わるのはやめとくよ。フォーチュラと二人でやってくれるか?」
「そうですか? それは残念です……」
「なにさ、あたしだけじゃ不満? ワンド様と踊りたかったのは分かるけどさ。そんないい方しなくても良いじゃん!」
フォーチュラがそうむくれると、リズリーが慌てたようにフォローに入る。
「あ、いえ。そう言うわけじゃないんですよ。じゃあフォーチュラちゃん、一緒に踊りましょ?」
「うん!」
そう言って二人は踊りの練習を始めた。
「あ、あのさ、トーニャ。俺もグラス洗うからさ」
「うるさいな、私が一人でやるからいいよ。キミはあっちでリズリーと踊ってなよ」
「えっと……」
他者の気持ちを察するのが苦手なトーニャと、周りを常に気にするリズリーは、その性格の違いもあってか不仲だ。
そんなリズリーが、自分の気に入っているフォーチュラの関心を独り占めしていることに不満があるのだろう、と俺は判断した。
「いいよ、俺は。トーニャと一緒にここに居るのはダメか?」
思わず本音が出てしまった。
やっぱりどう頑張っても、俺はトーニャのことが好きだ。どんなにつらく当たられても、どんなにリズリーに優しくされても、彼女が一番なのは微塵も揺るがない。
……ここまでくるともう呪いなのかなとすら思えるほどに。
だが、意外なことにトーニャはあまり不快そうな表情を見せなかった。
「……ま、まあ、それなら、別にいいよ。……あのさ、ワンド?」
「なんだ?」
「キミはモテるような男じゃない。あまりリズリーに構うと、きっと嫌われる。……あの女も、フォーチュラの手前黙ってるけど、本当は嫌がってると思う」
「ああ、分かってる」
「そもそも、リズリーもシスクの件が終わったら、どうせキミを捨てるんだ。フォーチュラもそう。けど、私はキミに貸しが沢山あるから、それを返してもらうまでは傍にいる。それは分かる?」
「勿論だ。借りは一生かけても返すよ」
「……だから、キミは私に優しくするべきなんだよ」
言われるまでもなく、そのつもりだ。
だけど「嫌いな人間からの好意は却って迷惑である」という言葉をいまだに俺は覚えている。
トーニャに迷惑にならないように、寧ろ距離を置こうと思っているが、それだけでは不満なのか。
……やっぱり、人間関係は難しい。
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