追放した異世界転移者が「偽勇者」となって、無能な俺に富と名声を押し付けてきて困ってます

フーラー

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第2章 依頼:街で起きている行方不明事件を解決してください

2-3 最弱勇者は行方不明者を探す依頼を受けるようです

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「ここ最近、街で行方不明者が出ている?」

俺達は新しい街の酒場で、そんな依頼を聴いた。
宿の店主は困り果てたような表情で続ける。

「ああ、そうなんだ。ここ最近街で増えているらしくてな。領主様が心配されて出した依頼なんだ」
「行方不明者の特徴は?」
「うーん……。浮浪者や孤児とか……身寄りの少ないものばかりだな。この間は確か……」

なるほど、話を聴く限り、年齢層や性別はバラバラだ。
となれば怨恨や奴隷商人によるものではない、と言えるな。

寧ろ足が付かなければターゲットは誰でもいい、ということか。
俺は依頼書を持って席に戻ってトーニャとリズリーに話をした。



「犯人は、最悪……ヴァンパイア……かもね」

そうトーニャはつぶやいた。
俺も同意見だ。
リズリーは俺に尋ねてくる。

「ヴァンパイア……人間の生き血を吸って生きる魔族のことですか?」
「ああ。魔力も膂力も高いから、普通の勇者では太刀打ちできないほど強いんだ。何より怖いのは、部族ごとに強力な魔法を一つずつ持っていることだな」

そう、単に能力が高いだけでなく、ヴァンパイアの各部族は特別な魔法を一つ所持している。
どのような魔法を用いるか戦ってみないと分からないのが、一番のネックとなる。

「そんな強いヴァンパイアなのに、こそこそ隠れて血を吸ったりするのですか?」
「ああ。ヴァンパイア・ロードとかならともかく、通常の種なら、さすがに軍隊には勝てないからな。部族を追われたり孤立したりした個体は、足のつきにくい連中を襲って街の近くで隠遁生活をしている場合も多いんだ」
「へえ……。ワンド様って物知りなんですね」
「そ、そうかな……」

伝説の勇者ワンドとしてではなく、普通の人間として褒められるのは久しぶりだ。
俺はそう言われて嬉しそうな顔を見せると、トーニャは不機嫌そうな顔を見せた。

「それくらい常識だし、私だって知ってることだよ。そんなことで、あまりワンドをおだてないで。勘違いして増長するから」
「そうですの? けど、私がワンド様に何を言おうと勝手じゃないですか?」
「む……」


リズリーは丁寧な口調だが、結構言いたいことははっきり言うタイプだ。
一緒に旅をしている数週間の間に、それは分かった。
トーニャは言い返そうとせずに俺に尋ねる。

「結局この依頼は引き受けるの? もし本当にヴァンパイアなら、キミなんかが役に立てると思えない。……危険だしやめなよ」
「かもな……けど……」
「困ってる人がいるなら、力になるのが勇者の仕事、ですよね、ワンド様?」

にこりと笑ってリズリーはそう答える。
俺の言いたいこと、リズリーは分かってるんだな。

「そういうこと。そりゃ、ゼログみたいにはいかないけどさ。ちょっとでも力になれるなら、なりたいだろ?」
「ですよね! ワンド様が望むなら、この依頼、お付き合いします!」
「助かるよ! ありがとな、リズリー」

リズリーは誰かのために何かをすることを好む性格だ。
そんなリズリーとは、どこか馬が合う。だが、トーニャはリズリーのその発言を聞いて、ますます不機嫌そうになった。

「……お前は休んでなよ。ワンドなんかに構ってると、命がいくつあっても足りないから」
「あら、私は構いませんわ。ワンド様のお役に立てるなら」

なんだ、トーニャが不機嫌だったのは、リズリーのことを心配しているのか。
口ではあんなこと言ってるけど、リズリーのことは好きなんだな。


一瞬でも『やきもちを焼いてる』なんて都合の良いことを考えた俺が馬鹿だった。
……そう思った俺は、リズリーとトーニャの間に立ち、依頼書を見せる。

「依頼はさ。『行方不明事件の犯人』の居所を探ることまでしか書いてないだろ? 調査だけなら危険ってほどでもないからさ」

実際、領主様は居所が分かり次第自身の兵を派遣すると書いてある。
仮に本当に犯人がヴァンパイアであっても、この街の規模が持つ兵数であれば何とかなるだろう。

トーニャは呆れかえったようにため息をつく。

「……はあ。分かったよ。私も付き合う。神聖魔法を使えるのは私だけだからね」
「ああ、ありがとう、トーニャ」

「キミは本当に私に依存しているよね? 私が必要なんだよね? ねえ? そうだよね?」

「ああ、本当に頼りっぱなしだな。……ごめんな、トーニャ」
「フフフ、まったく、いい迷惑だよ」

勿論これは、俺を守ってくれるのは所詮リズリーの『ついで』であることは分かる。
だが、それでも俺はトーニャがこの依頼について来てくれることは嬉しかった。




俺達は宿の店主にその話をした後食事を楽しんでいると、宿のドアがギイ……と開いた。

「こんにちは! 誰か、お花は要らない?」

花売りの少女だ。
種族は獣人であり、外見からは少し幼い印象を受ける子どもだった。
彼女はそう言いながらお花を手に取り客に話しかけている。

そのニコニコとした態度を見て、俺は思わず笑みを浮かべた。
少女は俺たちのもとに来ると「あっ!」と大声をあげた。

「あ……ひょっとしてあんた、あの伝説の勇者、ワンド様じゃない?」

やっぱりここでも、そう言われるか。
そう思いながらも、俺はそうだと相槌を打った。
少女は驚いた表情で、更に隣にいたトーニャを見る。

「わあ、凄い凄い! じ、じゃあさ……隣にいるのって、あのワンド様の『永遠の伴侶』トーニャ様ってこと?」

それを聞いて、俺は飲んでいたエールをブハッと吐き出した。

「ワンド……汚い。床拭いてよ」
「ああ、悪い……」
「え? それくらい、私が拭きますよ……」

リズリーはそう言うと俺の代わりに布巾を宿の店主から貰い、テーブルを拭いてくれるのを見て、トーニャはあからさまに不愉快そうな表情で舌打ちした。

……まったく、トーニャが怒るのも当然だ。迷惑をかけてばかりだな、俺は。
トーニャは少女に尋ねる。

「少なくとも私はトーニャ。それは間違いないよ。どこで私たちの話を知ったの?」
「隣国に現れたヴァンパイア・ロードをやっつけたお話、吟遊詩人さんから聞いたんだ!」
「隣国で? ヴァンパイア・ロードをねえ……。どんな風に聞いたんだ?」
「うん! えっとね、ちょっと歌うね」

そう言うと、ややうろ覚えのようでところどころと散りながらも、少女は歌いだす。

「血を鉄のごとき槍に変化させて戦う修羅の化身、ヴァンパイア・ロード。悠久の時を貫く槍も伝説の勇者ワンド、永遠の伴侶トーニャの絆の前には太刀打ちできず、ついには折れる。二人を祝福するかの如く輝く朝日のその下で、廃城の上で二人は抱き合い、その姿まさに神話のごとし……こんな感じ!」


……うん、間違いない。そいつは偽勇者の一行だと俺は確信した。
ヴァンパイア・ロードなんて複数の国家が同盟を組んで討伐隊を組織し、優れた指揮官が相当数の死傷者を出すことを前提にした作戦を立てることによって、ようやく倒せるレベルだ。

……あいつ、そんなやばい依頼までクリアしたのかよ。
何人パーティで動いているのかはしらないが、全員でかかればゼログとも互角にやれるのかもな。

トーニャはそれを聞いて笑みを浮かべる。

「いい歌だね。……キミ、名前はなんて言うんだ?」
「あたし? あたしはフォーチュラっていうんだ。よろしくね?」
「うん、素敵な名前だ。せっかくだ、キミのお花を全部売ってもらおうか」
「え、良いの? ありがとう!」

なんだ、さっきまで不機嫌だったのに妙にご機嫌だな。
いわゆる「勘違い男」なら……『俺の恋人だと言われたことが嬉しいのか?』 なんて思うんだろうな。

まあ実際には、このフォーチュラの屈託ない笑顔を見て買う気になっただけだろう。
カラになったかごを見て、フォーチュラは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「やったあ、お花が全部売れた! これで目標額達成!」
「目標額?」
「私、普段は教会で神父様と暮らしてるんだ。……親代わりにあたしを育ててくれた神父様にさ。今度誕生日プレゼントを買う資金を貯めてたんだ!」
「へえ、偉いんだな」
「えへへ! 『伝説の勇者』ワンド様にそう言ってくれると、あたしも嬉しいな!」

そう笑みを浮かべるとフォーチュラは嬉しそうに笑う。
なるほど、偽勇者の奴が勝手に挙げてきた武功も、こんな風に誰かを喜ばせるために使えるなら悪いことばかりじゃないな。
するとフォーチュラは突然、はっと思いついたような表情をした。

「ごめん、今日は隣町の教会に用事があるんだった。もう行かないと」
「隣町か。気を付けてね」

トーニャが他者を気遣う発言をするのは珍しい。
よほどフォーチュラを気に入ったのだろう。

「うん! それじゃあね!」

フォーチュラはそう言うと酒場を後にした。




「教会か……」

教会と聴いて、トーニャは尋ねてくる。

「そういえば今日も教会に行くの、ワンドは?」
「ああ。ついでに神父様に会いに行ってみるよ」

俺は、新しい街に着くと必ず教会で祈りをささげるようにしている。
もっとも、教会の懺悔室に行くことが主な目的なのだが。

正直、俺がトーニャに持つ感情は罪以外の何物でもない。
せめて、それを誰かに伝えたいからだ。


……そういえば、そのことをゼログに言うと驚かれたな。
曰く「教会は、旅の記録を収めるための場所」だと言っていた。おそらく彼の世界での教会は、冒険者の集会場のようなものなのだろう。

「折角ですし私も、後で行ってみますね。事件の調査は明日からにしましょう?」
「そうだね。……私は教会って嫌い。宿で寝てるから早く帰ってきてね」

トーニャはそう言うと、上の階に上がっていった。
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