追放した異世界転移者が「偽勇者」となって、無能な俺に富と名声を押し付けてきて困ってます

フーラー

文字の大きさ
上 下
9 / 64
第1章 依頼:森に潜むミノタウロスを退治してください

1-6 偽物と本物を見分ける系のネタは鉄板ですね

しおりを挟む
ヤマユリの根の場所まで俺は、ランタンを持って歩いていく。
もうすでに夕方に差し掛かっており、夜のとばりが降りようとしている。

(急いで帰らないと、トーニャが心配するよな……)

俺はそう考えながらランタンを揺らした。
確かこのあたりにヤマユリがあったはずだ。俺は近くに付けた目印を見つけ、そのもとに駆けていった。

「お、あったあった」

幸いなことに迷わずに群生地を見付けることが出来た。
見たところ周りに人が通った後はなく、村の住民は知らないところだと分かった。

「とりあえず、2株ほどもらっとくか……」

これだけあるなら、別の街で売りつければ結構な額になるだろう。
だが、食料が無くて困っている村の人たちのために、自分たちがヤマユリを独り占めするわけにもいかない。
俺は行きがけに村長から受け取った地図に目印をつけておいた。戻ってこの群生地の場所を伝えたら村長も喜ぶと感じたからだ。

(お、いいもの発見。ついでだ、こいつももらっていくか)

俺はヤマユリだけでなく、小さなナッツ状の木の実も近くに見つけた。
よく炒ればほのかな甘みが出るこの実は、トーニャが好んでいたものだからだ。

(ゼログやファイブスは嫌いだったから、料理に入れるのは久しぶりだな)

俺はそう多いながら木の実を道具袋に詰めた。


「よし、そろそろ戻るかな……」

戦利品を持って俺は踵を返すと、

「見つけた。ワンド、ここに居たんだね。探したよ」

後ろにはトーニャが息を切らせてやってきていた。
カンテラ代わりに自身の杖に光魔法を用いている。

「あれ、トーニャ? どうしてここに?」
「どうしてじゃないよ。キミが帰ってこないから心配してきたんだよ」
「ああ、悪かったな」

確かに、ここに来るまでに何度か道に迷ってふらふらしていた。
そのことを思い、俺は頭を下げる。

「全く。こんなことなら私を連れてけばいいのに。キミは方向音痴なんだから」
「けどさ。トーニャを連れて遭難なんてことになったら、もっと困るだろ?」
「ああ、確かにそうだね。キミの巻き添えはごめんだよ」

いつもの攻撃的な軽口を叩きながらも、トーニャは少し笑みを浮かべた。

「……ところでさ。ワンド」
「なんだ?」
「実はここの北にさ。怪しい小屋があったんだ」
「小屋? 村人が使ってる納屋じゃないのか?」

だが、トーニャは首を振った。

「ううん。見た感じ簡易的な掘っ立て小屋だった。この辺、村人が訪れている感じはないでしょ? だからさ」
「……魔物使いの根城の可能性があるってことか……」
「そうだと思う。案内するよ」

そう言うとトーニャは俺の右手をぐい、とつかんだ。
カンテラがふらり、と揺れ木々を照らす。

(ん?)

トーニャに触られて嬉しい、と思う以前に俺は大きな違和感を感じた。
トーニャの手は、基本的に冷たい。……だがその時には、とても暖かかったからだ。



「もう少しで着くと思う。そしたらどうする、ワンド?」
「勝てそうだったら戦うけど、まず無理だろうな。……とにかく相手の正体を突き止めないとな」
「うん」

トーニャの手に引かれて、俺達はやぶの中をこいでいく。
幸いオークは夜行性ではないため、遭遇することは無かった。
だが小さな獣たちはあちこちに居るのだろう、息をひそめてこちらをうかがっているのは気配で分かった。

「うわ!」
「わあ!」

だが、俺はそこで油断した。
薄暗がりの中でうっかり薄い岩を踏みつけてしまったようだ。

岩がぐらりと揺れ、俺は大きくバランスを崩した。
だがその際に、トーニャもバランスを崩し、俺に覆いかぶさるように倒れてきた。

「いてて……だ、大丈夫、トーニャ?」

押し倒されるような体制になった俺は、トーニャの肌のぬくもりに一瞬心を奪われそうになる。

「う、うん……けど、怪我したみたい……」

トーニャは少し甘えるような表情になりながら、上目遣いになった。
そのあまりの可愛さに思わず抱きしめたくなったが、その前にトーニャの心配をするべきだろう。
そう思い俺はトーニャに尋ねる。

「怪我? 大丈夫か?」
「うん。……ちょっと暗くて見づらいな。見てもらえる?」

そう言うとトーニャはローブを少しはだけ、太ももを見せた。
一瞬その言動に意識を飲まれそうになったが、

「…………」

その足を見て俺は確信した。



……こいつは、トーニャじゃない。



トーニャの太ももには大きな傷跡があるはずだ。
それは、俺がトーニャの村を魔物から守る依頼を受けた時に、つけてしまった傷だ。
もし俺がもっと強かったら……或いはゼログが居てくれたら、あんな痛ましいけがなどさせることはなかった。

トーニャはいつも、その傷跡を俺に見せながら俺のことを責め立てる。
そのたびに俺は自責の念に苛まれ、トーニャに従うことを誓っている。

「……ごめんな、トーニャ」

勿論この謝罪は目の前にいる『何か』に対するものじゃない。
自身の無力さによって、消えない傷を負わせ、更に両親の命も奪ってしまったことに対してだ。

だが、その目の前の『何か』は誤解したようだ。

「泣いてるの、ワンド?」

この『何か』の言動を見ればわかる。
恐らくこいつは、俺の「願望」を投影していて作った幻影だろう。

俺の「もし、トーニャを魔物から守ることが出来たなら」という思いが、こいつの体から傷を消したと判断できる。

そして、もしこいつが「あの言葉」を言ったら、それは確信に変わる。
……だが、絶対に口にはしてほしくない。

「ああ、いつも俺は……お前に迷惑をかけてるな」
「気にしないでよ。キミが足でまどいなのはいつものことじゃん」

そして『何か』は、少し顔を赤らめてつぶやく。
頼む、あの言葉を口にしないでくれ。



「それにさ。……君のそういうところも含めて、私は君のことが好き」



そこまで言ったところで、俺は吹き上がる怒りの感情を抑えられず、剣を抜き『何か』の心臓に突き立てた。
勿論この怒りは『何か』に対するものじゃない。『何か』に愛の言葉を言わせた、自分に対してのものだ。

「が……なぜ……」

やはりだ、肉を裂くような手ごたえをまるで感じなかった。
その『何か』の胸から血が出ることが無かった。

「俺は……トーニャを傷つけた……俺は……トーニャに憎まれてる……」

俺は涙を拭えず、そうつぶやいた。そして、

「だから、愛してもらいたいなんて、思っちゃいけないんだよ、俺は!」

そう叫び『何か』の脳天に剣を振り下ろした。
スカッと軽い手ごたえはあったが、『何か』は実体を保てなくなったのだろう、姿か崩れて黒い影に変わっていった。

「はあ……はあ……。消えろ、この野郎……」
「……フン……むなしい奴らだ……」

その影は最期にそう捨て台詞を吐いて消えていった。


「……くそ……トーニャも、ゼログも……俺のせいで……傷つけた……。全部俺のせいなんだ……俺の責任なんだ……」

改めて自身が傷つけた者たちのことを思い、自責の念に苛まれる。
だが、

(ん? 今あいつ、奴『ら』って言ったな……。まさか!)

そのことに気づき、俺は急いでキャンプしていた河原に戻った。



(……やっぱり、か……)

そこにトーニャは居なかった。
……まさか、トーニャも影に誘われたのか?

だとすると、トーニャの行先は先ほど言っていた「小屋」とやらのある方向だろう。

結果的にあの影……ほぼ間違いなく件の盗賊だろう……がおびき出そうとした小屋に向かわないといけない。

だが、そこに行く以外にトーニャを助けるすべはない。
俺はそこに向かうことを決め、一目散に走りだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

処理中です...