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後編:フォブス王子の真の顔と「侵略者」
2-2 聖女は、無能王子の正体がようやくわかったようです
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「はっ……よっ……」
私は道化師ベラドンナがやっていたようなナイフ投げを練習していた。
見様見真似だったが、これ見よがしに見せつけながら『どうすればこんな風に投げられるか』を自慢していたこともあり、割と簡単にマスターできた。
「凄いですわね、ライア? 今度またお兄様にお見せするのですか?」
「うん、いつもダンスだけじゃ飽きられちゃうからね。だからこういうのもやってみようと思って」
私が練習しているところを見て、カリナはニコニコと笑いながら褒めてくれる。
勿論、こうやってナイフの練習をするのは単に芸としてだけではない。
(これでフォブス王子を狙うこともできるって寸法……我ながら完璧ね)
普段からナイフ使いであることを周囲に知られておけば刃物を芸で使用していても周囲が怪しむことはない。
それを利用してフォブス王子に近づいた後、このナイフを的ではなくフォブス王子ののど元に狙いを定めることもできる。
そう思いながら私は更にナイフを振りかぶった。
「フフフ、ライア様って、アイネス王子に喜んでもらうのが本当にお好きなんですね」
「はあ?」
その瞬間、ナイフは遠くにすっぽぬけ、明後日の方向にある木に突き刺さった。
「な、なんてこと言うのよ? 別にあんな頭の悪い王子なんて別に……」
「フフフ、その割にはずいぶん動揺していますわね?」
まったく、本当にカリナは恋愛脳だから困る。
そんな風に何でも恋愛に結び付けられたら、どうしても落ち着かない。
もっとも娯楽の少ないこの時代、数少ない楽しみの一つが、恋愛なのだろう。
「けど、ライアがもしお兄様と結婚出来たら素敵ですわね……」
「そ、そうですか?」
「ええ。毎日ライアとお兄様と3人でお茶を楽しめるなんて、夢のようじゃありませんこと?」
……正直、あの無能王子のことなんて本当にどうでもいいし、考えたくもない。
だけど、確かに私もカリナを義妹として一緒に毎日を過ごせるのはあまりに魅力的だった。
「私もそのような日がいつか来れば嬉しく思いますよ? ただ、私は所詮道化。アイネス王子のような高貴な方とは釣り合いませんよ?」
そういうと、カリナも少し残念そうな表情で答える。
「……そうなんですよね……身分の差が無ければよかったんですけど」
「それにあのおバカな王子の元で仕事していたら、私の身体が持ちませんよ!」
「……おバカ、ですか……本心で言っているようですわね……」
あ、まずい。
ちょっと言い過ぎたかな、と思いながらそっと顔を覗き込む。
するとカリナは、少し呆れたような表情を見せていた。
「まだ気づいていなかったんですか……」
「え、どういうこと?」
「いえ……。そうですね、ライアにはお伝えしてもお兄様は怒りませんよね……」
「だからなんなの?」
そういうとカリナは、一つのカギ……これは一種の魔道具だろう……を出して、そっと耳打ちしてきた。
「これは簡単なカギを開錠できる魔道具です。……今夜、こっそりアイネス王子の部屋に忍び込んでください」
「し、忍び込むって……」
「別に、変なことはしないでよろしいですわ? ……お部屋を覗くだけで良いですから」
そういえば私は、アイネス王子の自室に行ったことはない。
それとなくいつも入室するのを止められていたからだ。
そもそも普段ため口で話しているから立場を勘違いしがちだが、私はあくまでも道化師でしかなく、カリナの頼みを私が断っていいはずがない。
そう思った私はカギを受け取った。
「わかりました。……では、そうしますね」
「ええ。きっと驚きますわ、ライア様?」
ああ、またこの表情だ。
「この人の魅力は私だけが知っている」という。
カリナもこんな顔をするのか、と思いながらも私はナイフをしまった。
(さて、流石にここで周りにバレるのはまずいよね……)
私は抜き足差し足で廊下の中を歩いていた。
また、夜遅くに道化の格好で出歩くとは流石に目立つので、メイクを敢えて落としてメイドの服を着てごまかすことにした。
(なんか、今日はいつもより警備が少ないな……)
ひょっとしたら、カリナが兵士に何か命じていたのか?
そう思いながら、私は王子の部屋の前に立った。
こんこん、と一応ノックする。
万一アイネス王子が起きていたら大事になるからだ。
(ていうか私、まるで王子に会いに来たみたいじゃない! 誤解されたら最悪!)
そんな風に思いながらも返事を待つが、特に何も聞こえてこない。
どうやら王子は寝ているのだろう。
……そう思った私は、カリナから預かったカギを使ってドアを開けた。
その魔道具でもあるカギは一瞬光った後すぐに消滅し、そして開錠が行われた。
(これ、便利すぎるでしょ……)
そう思いながらも私はアイネス王子の部屋に忍び込んだ。
(これは……うそでしょ……?)
最初に私がアイネス王子の部屋に忍び込んで驚いたのは、その膨大な書籍と書類の量だった。
ベッド以外には足の踏み場もないほどの書籍が置いてある。
(アイネス王子、こんなに勉強していたのか……)
それを見て私は思わず心の中で驚いた。
そういえばアイネス王子は普段公務をサボってばかりいるのに、その公務自体はさほど滞っていなかった。
「…………」
アイネス王子は机の上で転寝をしていた。
もう夜も遅いが、恐らくつい先ほどまで公務をやっていたのだろう。
だが、それよりも驚いたのは書籍の山だった。
そこには、
『新しい治水工事について』
『河川の直線化による反乱被害の抑え方』
『肥料を使った新しい農作業』
などの書籍があった。
(え……まさか……)
私はその書籍に挟まれたメモや印などを頼りに本を少し調べてみる。
……やっぱりそうだ。
河川を直線にしたのも、キャンプ場を設置していたのも、実は王子は趣味のためじゃなかった。
例年村に打撃を与える洪水に合わせて、治水工事を行っていたのだ。
それだけじゃない。
農作業の本に書かれていたことも衝撃だった。
(そうか、硝石や硫黄の本当の使い道は……火薬だけじゃなかったんだ……)
そう、硝石は実は『肥料』として用いることができるとその書籍には書かれていた。
硫黄も同様だ。
……つまり、ここ最近の国の豊穣は聖女の力なんかじゃない。
ここにいるアイネス王子の手腕によるものだったのだ。
だがアイネス王子は、ことあるごとに自身の手による成功を『聖女メリアのおかげだ』と口にしていたことを思い出した。
「王子……」
思わず王子にそうつぶやき、そっとその場を離れようとした。
だが、
「キャッ!」
小さなランプだけが点いている状態で、足元がよく見えていなかった。
その為私は、思わず足元に転がっていた書籍に足を取られて転倒してしまった。
しかも運が悪かったことに、私が倒れた先には本棚があった。
そこに激突した私は、ドサドサと大量の書籍を落としてしまった。
「誰だ!」
それだけの音を立てれば、流石にアイネス王子でも気づく。
「うわ! メリア……メイド服を着ているのか? ……可愛いな……」
アイネス王子は、そうつぶやくと顔をそむけた。
流石に二回目だから気が付く。
……やっぱりアイネス王子、私の顔を可愛いって思ってくれてるのか。
そう思うと、私は少し嬉しく……なんてない、別にどうとも思わなかった。当然だ。そうにきまってる。
「それにしても驚いたな。深夜に族でも侵入したと思ったが、ライア殿か……」
「え、えへへ……すみません、ちょっと野暮用で来ちゃったんですけど……」
よくよく考えたら、王子の寝所に異性の使用人が勝手に忍び込むなんて、とんでもない犯罪だ。
最悪の場合処刑されても文句はない。
だがアイネス王子は少し悩んだ表情を見せた後、
「カギを開けられたということは……そうか、カリナの差し金か……」
少し呆れたようにそうつぶやいた。
私は道化師ベラドンナがやっていたようなナイフ投げを練習していた。
見様見真似だったが、これ見よがしに見せつけながら『どうすればこんな風に投げられるか』を自慢していたこともあり、割と簡単にマスターできた。
「凄いですわね、ライア? 今度またお兄様にお見せするのですか?」
「うん、いつもダンスだけじゃ飽きられちゃうからね。だからこういうのもやってみようと思って」
私が練習しているところを見て、カリナはニコニコと笑いながら褒めてくれる。
勿論、こうやってナイフの練習をするのは単に芸としてだけではない。
(これでフォブス王子を狙うこともできるって寸法……我ながら完璧ね)
普段からナイフ使いであることを周囲に知られておけば刃物を芸で使用していても周囲が怪しむことはない。
それを利用してフォブス王子に近づいた後、このナイフを的ではなくフォブス王子ののど元に狙いを定めることもできる。
そう思いながら私は更にナイフを振りかぶった。
「フフフ、ライア様って、アイネス王子に喜んでもらうのが本当にお好きなんですね」
「はあ?」
その瞬間、ナイフは遠くにすっぽぬけ、明後日の方向にある木に突き刺さった。
「な、なんてこと言うのよ? 別にあんな頭の悪い王子なんて別に……」
「フフフ、その割にはずいぶん動揺していますわね?」
まったく、本当にカリナは恋愛脳だから困る。
そんな風に何でも恋愛に結び付けられたら、どうしても落ち着かない。
もっとも娯楽の少ないこの時代、数少ない楽しみの一つが、恋愛なのだろう。
「けど、ライアがもしお兄様と結婚出来たら素敵ですわね……」
「そ、そうですか?」
「ええ。毎日ライアとお兄様と3人でお茶を楽しめるなんて、夢のようじゃありませんこと?」
……正直、あの無能王子のことなんて本当にどうでもいいし、考えたくもない。
だけど、確かに私もカリナを義妹として一緒に毎日を過ごせるのはあまりに魅力的だった。
「私もそのような日がいつか来れば嬉しく思いますよ? ただ、私は所詮道化。アイネス王子のような高貴な方とは釣り合いませんよ?」
そういうと、カリナも少し残念そうな表情で答える。
「……そうなんですよね……身分の差が無ければよかったんですけど」
「それにあのおバカな王子の元で仕事していたら、私の身体が持ちませんよ!」
「……おバカ、ですか……本心で言っているようですわね……」
あ、まずい。
ちょっと言い過ぎたかな、と思いながらそっと顔を覗き込む。
するとカリナは、少し呆れたような表情を見せていた。
「まだ気づいていなかったんですか……」
「え、どういうこと?」
「いえ……。そうですね、ライアにはお伝えしてもお兄様は怒りませんよね……」
「だからなんなの?」
そういうとカリナは、一つのカギ……これは一種の魔道具だろう……を出して、そっと耳打ちしてきた。
「これは簡単なカギを開錠できる魔道具です。……今夜、こっそりアイネス王子の部屋に忍び込んでください」
「し、忍び込むって……」
「別に、変なことはしないでよろしいですわ? ……お部屋を覗くだけで良いですから」
そういえば私は、アイネス王子の自室に行ったことはない。
それとなくいつも入室するのを止められていたからだ。
そもそも普段ため口で話しているから立場を勘違いしがちだが、私はあくまでも道化師でしかなく、カリナの頼みを私が断っていいはずがない。
そう思った私はカギを受け取った。
「わかりました。……では、そうしますね」
「ええ。きっと驚きますわ、ライア様?」
ああ、またこの表情だ。
「この人の魅力は私だけが知っている」という。
カリナもこんな顔をするのか、と思いながらも私はナイフをしまった。
(さて、流石にここで周りにバレるのはまずいよね……)
私は抜き足差し足で廊下の中を歩いていた。
また、夜遅くに道化の格好で出歩くとは流石に目立つので、メイクを敢えて落としてメイドの服を着てごまかすことにした。
(なんか、今日はいつもより警備が少ないな……)
ひょっとしたら、カリナが兵士に何か命じていたのか?
そう思いながら、私は王子の部屋の前に立った。
こんこん、と一応ノックする。
万一アイネス王子が起きていたら大事になるからだ。
(ていうか私、まるで王子に会いに来たみたいじゃない! 誤解されたら最悪!)
そんな風に思いながらも返事を待つが、特に何も聞こえてこない。
どうやら王子は寝ているのだろう。
……そう思った私は、カリナから預かったカギを使ってドアを開けた。
その魔道具でもあるカギは一瞬光った後すぐに消滅し、そして開錠が行われた。
(これ、便利すぎるでしょ……)
そう思いながらも私はアイネス王子の部屋に忍び込んだ。
(これは……うそでしょ……?)
最初に私がアイネス王子の部屋に忍び込んで驚いたのは、その膨大な書籍と書類の量だった。
ベッド以外には足の踏み場もないほどの書籍が置いてある。
(アイネス王子、こんなに勉強していたのか……)
それを見て私は思わず心の中で驚いた。
そういえばアイネス王子は普段公務をサボってばかりいるのに、その公務自体はさほど滞っていなかった。
「…………」
アイネス王子は机の上で転寝をしていた。
もう夜も遅いが、恐らくつい先ほどまで公務をやっていたのだろう。
だが、それよりも驚いたのは書籍の山だった。
そこには、
『新しい治水工事について』
『河川の直線化による反乱被害の抑え方』
『肥料を使った新しい農作業』
などの書籍があった。
(え……まさか……)
私はその書籍に挟まれたメモや印などを頼りに本を少し調べてみる。
……やっぱりそうだ。
河川を直線にしたのも、キャンプ場を設置していたのも、実は王子は趣味のためじゃなかった。
例年村に打撃を与える洪水に合わせて、治水工事を行っていたのだ。
それだけじゃない。
農作業の本に書かれていたことも衝撃だった。
(そうか、硝石や硫黄の本当の使い道は……火薬だけじゃなかったんだ……)
そう、硝石は実は『肥料』として用いることができるとその書籍には書かれていた。
硫黄も同様だ。
……つまり、ここ最近の国の豊穣は聖女の力なんかじゃない。
ここにいるアイネス王子の手腕によるものだったのだ。
だがアイネス王子は、ことあるごとに自身の手による成功を『聖女メリアのおかげだ』と口にしていたことを思い出した。
「王子……」
思わず王子にそうつぶやき、そっとその場を離れようとした。
だが、
「キャッ!」
小さなランプだけが点いている状態で、足元がよく見えていなかった。
その為私は、思わず足元に転がっていた書籍に足を取られて転倒してしまった。
しかも運が悪かったことに、私が倒れた先には本棚があった。
そこに激突した私は、ドサドサと大量の書籍を落としてしまった。
「誰だ!」
それだけの音を立てれば、流石にアイネス王子でも気づく。
「うわ! メリア……メイド服を着ているのか? ……可愛いな……」
アイネス王子は、そうつぶやくと顔をそむけた。
流石に二回目だから気が付く。
……やっぱりアイネス王子、私の顔を可愛いって思ってくれてるのか。
そう思うと、私は少し嬉しく……なんてない、別にどうとも思わなかった。当然だ。そうにきまってる。
「それにしても驚いたな。深夜に族でも侵入したと思ったが、ライア殿か……」
「え、えへへ……すみません、ちょっと野暮用で来ちゃったんですけど……」
よくよく考えたら、王子の寝所に異性の使用人が勝手に忍び込むなんて、とんでもない犯罪だ。
最悪の場合処刑されても文句はない。
だがアイネス王子は少し悩んだ表情を見せた後、
「カギを開けられたということは……そうか、カリナの差し金か……」
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