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前編:「愚かな君主」アイネス王子と可愛い妹カリナ
1-5 ヒロインはマッチョマンたちと仲良くなったようです
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それから数日の間、私はこの王子の奇行には、散々振り回された。
その中で、王子はあまり頭が良くないようだが、王子なりに国民のことを考え、無能なりに色々と頑張っているのを感じて、私は王子に好意を持ち始めていた。
(ちょっとは、頑張りを認めてあげても良いんだろうね。無能なんて言われてるけど、良い奴だし……)
……もし私が王子の妻だったら、彼を尻に敷いて戦争のない平和な国を作れるのかな。
そしてカリナとお茶会をしながら国の未来について二人で話し合っていく。
そんなありえない未来も考えた。
そしてある日の朝。
「おい、見ろよ、この手配書……」
「え? ……うわ……」
私は掲示板に貼ってあった新しい手配書を見て、顔色が変わるのを感じた。
『フォブス王子暗殺未遂の首謀者、聖女メリア』
という文言が書かれていたからだ。
「みろよ、この顔。恐ろしそうな顔しているよな」
「ああ。聖女の顔じゃないだろ、これ」
幸いだったのは、その手配書の肖像画が私とはかけ離れていることだった。
また、この世界の識字率では文字を読めるものは少ないので、手配書を見て『私が聖女だ』と気づくものも少ないことが分かる。
無論、だからといってすぐにメイクを落とすようなことはしないが、それでも私は少し安堵しながら城を出た。
「さあ、みんな! 頑張ろう!」
「おう!」
私はいつものようにアイネス王子と一緒にジョギングに出かけていた。
アイネス王子は毎朝ジョギングに行くのが日課だ。
……運動をするのは割と好きなので、それ自体は別にいい。
爽やかなアイネス王子と一緒に走るのも悪くない。……アイネス王子『だけ』なら。
「ふん、ふん、ふん!」
「そいや、そいや、そいや!」
アイネス王子の周りには『護衛』と称して、マッチョな男たちが10人近く護衛としてつけている。
……はっきりいってむさく、暑苦しい。
しかもご丁寧なことに彼らは腰に魔道具『精霊の残り火』をつけている。
これは一定時間ごとに発光する道具であり、ちかちかとマッチョな男たちの身体を輝かせている。
この魔道具は、確か趣味でカリナが作っていたと話を聞いている。今度私も何か作ってもらおう。
「それにしても王子! ……なんでこんなにたくさん護衛をつけるんですか?」
「護衛がいなければ危険だろう? そなたを怪我させるわけにはいかないからな!」
「……はあ……」
そう言ってくれるのは嬉しいが、正直こんな暑苦しい男たちと一緒に走るのは却って気持ちが落ち着かない。
そもそもこの南部地方は治安が良いのだから、こんなマッチョマンばかり連れて歩かないといけないなんてことは無いと思うのだが……。
「おりゃ、おりゃ、おりゃ!」
「せい、せい、せい!」
ああ、もう、うっさいな!
こいつらはその鋼のような肉体をポージングで誇示しつつ、大声を出しながら走っている。
もうちょっと静かに走ることは出来ないのか、この筋肉だるまどもは!
私はそう思って王子様に尋ねた。
「あの、なんでこんな大声を出しながら走らせるんですか! 恥ずかしいですよ!」
「決まっているだろう? 静かに走るのは寂しいからだよ!」
「はあ……」
「それに見たまえ、あの勇士たちの顔を! 『我々を見てくれ!』と言わんばかりに美しい顔で、大声をあげているではないか!」
「……そうっすね……」
私からすれば、単に筋肉を自慢したがる、うっとうしい連中がチカチカと光りを放ちながらバカ丸出しのアピールをしているようにしか見えない。
それに周りの人たちも私たちを見ながら『あ、無能王子だ!』『またバカやってる!』って指さして笑ってるじゃないか……。
(……こんなのと同類と思われたくないな……)
そう思ったのと、ほかに王子のために出来ることがあったことを思いつき、私は列から飛び出てスピードを上げた。
「せい、せい……む? あのライアとかいう道化、私たちを挑発してるのか?」
「ええ、筋肉自慢のお兄様がた、私についてこれますか?」
すると、マッチョたちは楽しそうにノッてきた。
「面白い! いくぞ、われらの筋肉を見せてやるのだ!」
「おう!」
後ろでそう、愉快なマッチョマンたちが私を追いかけてきた。
……だが、十数分後。
「はあ、はあ……」
「なんだ……あの小娘……我々が、追いつけん……」
だが、男たちはすぐにばててしまい、私に追いつくことは出来ない。
まったく、元新体操部の体力を舐めてもらっては困る。
それに、あんな大声を出して走っていたら、息切れするに決まってる。
「あれえ? 王子の護衛って言っても大したことありませんね~? 私一人で十分じゃないですか~?」
「なに?」
「それに王子もダサいですね? 女の子に負けて、恥ずかしくないですか~?」
「面白い……! では、ここからは本気で行くとしよう!」
「いいですよ! 負けたら飲み物を奢ってください!」
そういうと王子も、スピードを上げてくれた。
……こういうところは一緒にいて、楽しいんだけどな。
それから私たちはジョギングコースを走り続けた。
このコースは日によって変わるが、街道だけでなく、裏通り、路地、山道、峠道など、何故か見晴らしの悪い道や危険そうな道ばかり選んでいる。
(まったく、もっといいコースを走ればいいのに、どうしてこんな道ばかり……)
そういや、私がアイネス王子と出会った場所は、ジョギングコースからは外れていた。
……アイネス王子がたまたまあの時私と同じ村を訪れていたのは、実は相当ラッキーなことだったのだろうと、今にして思う。
「うおりゃあ、せいやあ!」
「はああ! そりゃあ!」
そんな道を王子や護衛の男たちは大声を出して走っていく。
この筋肉たちはうっとうしいが、気の良い連中だということが分かり、私は走り始めた時よりもいい気分で走り切った
「はあ、はあ……よ、よし、今日のコースはここまででいいだろう」
アイネス王子も感想すると、へとへとになりながらみんなに呼びかけた。
結局、私においつける男たちは一人もいなかった。彼らは体は大きいが、有酸素運動はあまり得意ではないのだろう。
「フフフ、王子様。それなりに頑張ったみたいですね?」
「ああ。まさかそなたがここまで早いとは思わなかったな」
因みに、私のメイクは汗をかいても落ちないものを用いている。
アイネス王子やマッチョマンたちは、はあはあと荒い息をしながら、へたり込んでいた。
「さあ王子。約束の飲み物、奢ってください! ……もちろん、私たち全員に!」
「なに?」
やはり、こういわれることは想定していなかったのだろう。
アイネス王子は驚いた表情を見せた。
「うお、流石王子、太っ腹!」
「ライアの姐御も素敵っす! ひゅーひゅー!」
ここのマッチョマンたちはバカだがノリの良い連中だ。
そう言って楽しそうにする彼らを見て、苦笑しながらもアイネス王子は了承した。
「まったく、仕方がないな。……じゃあ買ってくるよ」
近くではちみつ入りの牛乳が売っていたため、王子はそれを買って私たちに振舞ってくれた。
「ん……美味しいですねえ。ただで飲める飲み物は特に!」
「ハハハ、言うなあ、ライアは! ……だが、次は負けぬぞ!」
「ああ、嬢ちゃんに負けっぱなしじゃいけやせんからね!」
「無能王子も、ちっとは張り切ってくださいよ? あっしらに勝てねえんじゃ、流石に恥ずかしいっすからね!」
因みに今回の長距離走は、王子は8番目の到着だった。
「ああ、そうだな。せめて3位には入れるようにしたいものだ」
この王子は馬鹿にはされながらも、なんだかんだで領民には従われている。
下手に卓越した身体能力を持つものより、こういう凡庸なところが良いんだろうな、と私も思った。
「さあ、次も私たちの肉体美をさんぞ……」
「さんぞ?」
「……ゴホン、町の連中に見せつけてやらねば。な、ライア殿!」
いや、あなたのその姿は一度見たらもうお腹いっぱいです。
「まったく、気持ち悪いからやめてくださいよ。そこの泉で顔見てくださいよ?」
「どれどれ……? うお、すっごいかっこいい男がいる……って俺か! ガハハハハ!」
このジョギングは正直、時間の無駄だと思っていた。
だが、こうやってアイネス王子やほかの連中とバカをやるのも悪くない。……いかん、私まで王子のあほさがうつったらまずいから自嘲しないと。
「それじゃあアイネス王子! 公務に戻りましょう?」
「ああ、そうだな。……実は今日は、そなたに頼みたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「それは、帰る道すがら、説明しよう」
そう言って私たちは城に戻ることにした。
その中で、王子はあまり頭が良くないようだが、王子なりに国民のことを考え、無能なりに色々と頑張っているのを感じて、私は王子に好意を持ち始めていた。
(ちょっとは、頑張りを認めてあげても良いんだろうね。無能なんて言われてるけど、良い奴だし……)
……もし私が王子の妻だったら、彼を尻に敷いて戦争のない平和な国を作れるのかな。
そしてカリナとお茶会をしながら国の未来について二人で話し合っていく。
そんなありえない未来も考えた。
そしてある日の朝。
「おい、見ろよ、この手配書……」
「え? ……うわ……」
私は掲示板に貼ってあった新しい手配書を見て、顔色が変わるのを感じた。
『フォブス王子暗殺未遂の首謀者、聖女メリア』
という文言が書かれていたからだ。
「みろよ、この顔。恐ろしそうな顔しているよな」
「ああ。聖女の顔じゃないだろ、これ」
幸いだったのは、その手配書の肖像画が私とはかけ離れていることだった。
また、この世界の識字率では文字を読めるものは少ないので、手配書を見て『私が聖女だ』と気づくものも少ないことが分かる。
無論、だからといってすぐにメイクを落とすようなことはしないが、それでも私は少し安堵しながら城を出た。
「さあ、みんな! 頑張ろう!」
「おう!」
私はいつものようにアイネス王子と一緒にジョギングに出かけていた。
アイネス王子は毎朝ジョギングに行くのが日課だ。
……運動をするのは割と好きなので、それ自体は別にいい。
爽やかなアイネス王子と一緒に走るのも悪くない。……アイネス王子『だけ』なら。
「ふん、ふん、ふん!」
「そいや、そいや、そいや!」
アイネス王子の周りには『護衛』と称して、マッチョな男たちが10人近く護衛としてつけている。
……はっきりいってむさく、暑苦しい。
しかもご丁寧なことに彼らは腰に魔道具『精霊の残り火』をつけている。
これは一定時間ごとに発光する道具であり、ちかちかとマッチョな男たちの身体を輝かせている。
この魔道具は、確か趣味でカリナが作っていたと話を聞いている。今度私も何か作ってもらおう。
「それにしても王子! ……なんでこんなにたくさん護衛をつけるんですか?」
「護衛がいなければ危険だろう? そなたを怪我させるわけにはいかないからな!」
「……はあ……」
そう言ってくれるのは嬉しいが、正直こんな暑苦しい男たちと一緒に走るのは却って気持ちが落ち着かない。
そもそもこの南部地方は治安が良いのだから、こんなマッチョマンばかり連れて歩かないといけないなんてことは無いと思うのだが……。
「おりゃ、おりゃ、おりゃ!」
「せい、せい、せい!」
ああ、もう、うっさいな!
こいつらはその鋼のような肉体をポージングで誇示しつつ、大声を出しながら走っている。
もうちょっと静かに走ることは出来ないのか、この筋肉だるまどもは!
私はそう思って王子様に尋ねた。
「あの、なんでこんな大声を出しながら走らせるんですか! 恥ずかしいですよ!」
「決まっているだろう? 静かに走るのは寂しいからだよ!」
「はあ……」
「それに見たまえ、あの勇士たちの顔を! 『我々を見てくれ!』と言わんばかりに美しい顔で、大声をあげているではないか!」
「……そうっすね……」
私からすれば、単に筋肉を自慢したがる、うっとうしい連中がチカチカと光りを放ちながらバカ丸出しのアピールをしているようにしか見えない。
それに周りの人たちも私たちを見ながら『あ、無能王子だ!』『またバカやってる!』って指さして笑ってるじゃないか……。
(……こんなのと同類と思われたくないな……)
そう思ったのと、ほかに王子のために出来ることがあったことを思いつき、私は列から飛び出てスピードを上げた。
「せい、せい……む? あのライアとかいう道化、私たちを挑発してるのか?」
「ええ、筋肉自慢のお兄様がた、私についてこれますか?」
すると、マッチョたちは楽しそうにノッてきた。
「面白い! いくぞ、われらの筋肉を見せてやるのだ!」
「おう!」
後ろでそう、愉快なマッチョマンたちが私を追いかけてきた。
……だが、十数分後。
「はあ、はあ……」
「なんだ……あの小娘……我々が、追いつけん……」
だが、男たちはすぐにばててしまい、私に追いつくことは出来ない。
まったく、元新体操部の体力を舐めてもらっては困る。
それに、あんな大声を出して走っていたら、息切れするに決まってる。
「あれえ? 王子の護衛って言っても大したことありませんね~? 私一人で十分じゃないですか~?」
「なに?」
「それに王子もダサいですね? 女の子に負けて、恥ずかしくないですか~?」
「面白い……! では、ここからは本気で行くとしよう!」
「いいですよ! 負けたら飲み物を奢ってください!」
そういうと王子も、スピードを上げてくれた。
……こういうところは一緒にいて、楽しいんだけどな。
それから私たちはジョギングコースを走り続けた。
このコースは日によって変わるが、街道だけでなく、裏通り、路地、山道、峠道など、何故か見晴らしの悪い道や危険そうな道ばかり選んでいる。
(まったく、もっといいコースを走ればいいのに、どうしてこんな道ばかり……)
そういや、私がアイネス王子と出会った場所は、ジョギングコースからは外れていた。
……アイネス王子がたまたまあの時私と同じ村を訪れていたのは、実は相当ラッキーなことだったのだろうと、今にして思う。
「うおりゃあ、せいやあ!」
「はああ! そりゃあ!」
そんな道を王子や護衛の男たちは大声を出して走っていく。
この筋肉たちはうっとうしいが、気の良い連中だということが分かり、私は走り始めた時よりもいい気分で走り切った
「はあ、はあ……よ、よし、今日のコースはここまででいいだろう」
アイネス王子も感想すると、へとへとになりながらみんなに呼びかけた。
結局、私においつける男たちは一人もいなかった。彼らは体は大きいが、有酸素運動はあまり得意ではないのだろう。
「フフフ、王子様。それなりに頑張ったみたいですね?」
「ああ。まさかそなたがここまで早いとは思わなかったな」
因みに、私のメイクは汗をかいても落ちないものを用いている。
アイネス王子やマッチョマンたちは、はあはあと荒い息をしながら、へたり込んでいた。
「さあ王子。約束の飲み物、奢ってください! ……もちろん、私たち全員に!」
「なに?」
やはり、こういわれることは想定していなかったのだろう。
アイネス王子は驚いた表情を見せた。
「うお、流石王子、太っ腹!」
「ライアの姐御も素敵っす! ひゅーひゅー!」
ここのマッチョマンたちはバカだがノリの良い連中だ。
そう言って楽しそうにする彼らを見て、苦笑しながらもアイネス王子は了承した。
「まったく、仕方がないな。……じゃあ買ってくるよ」
近くではちみつ入りの牛乳が売っていたため、王子はそれを買って私たちに振舞ってくれた。
「ん……美味しいですねえ。ただで飲める飲み物は特に!」
「ハハハ、言うなあ、ライアは! ……だが、次は負けぬぞ!」
「ああ、嬢ちゃんに負けっぱなしじゃいけやせんからね!」
「無能王子も、ちっとは張り切ってくださいよ? あっしらに勝てねえんじゃ、流石に恥ずかしいっすからね!」
因みに今回の長距離走は、王子は8番目の到着だった。
「ああ、そうだな。せめて3位には入れるようにしたいものだ」
この王子は馬鹿にはされながらも、なんだかんだで領民には従われている。
下手に卓越した身体能力を持つものより、こういう凡庸なところが良いんだろうな、と私も思った。
「さあ、次も私たちの肉体美をさんぞ……」
「さんぞ?」
「……ゴホン、町の連中に見せつけてやらねば。な、ライア殿!」
いや、あなたのその姿は一度見たらもうお腹いっぱいです。
「まったく、気持ち悪いからやめてくださいよ。そこの泉で顔見てくださいよ?」
「どれどれ……? うお、すっごいかっこいい男がいる……って俺か! ガハハハハ!」
このジョギングは正直、時間の無駄だと思っていた。
だが、こうやってアイネス王子やほかの連中とバカをやるのも悪くない。……いかん、私まで王子のあほさがうつったらまずいから自嘲しないと。
「それじゃあアイネス王子! 公務に戻りましょう?」
「ああ、そうだな。……実は今日は、そなたに頼みたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「それは、帰る道すがら、説明しよう」
そう言って私たちは城に戻ることにした。
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