1 / 8
プロローグ
プロローグ
しおりを挟む
100年ほど前に突如として現れた奇病。
突然発狂して死に至る病、ザルシアス。
私は王立研究所に勤め、研究生活のほとんどをその奇病の原因を突き止めることに費やした。
昼間は王立大学院の学生の講義を担当しながら、夕方以降は身を削るように研究に没頭して20年。
ついに奇病の原因となる分子を特定した。
この分子の働きを抑える薬を創れたなら、奇病ザルシアスは治療可能な病となるだろう。
この研究成果を世間に発表すれば、後は誰かが薬を開発してくれるだろう。
一刻も早く、研究成果を国に報告しなくては。
私は急いで論文を執筆し、成果申請のために事務局に向かった。
その時、私の意識は突然混濁する。
視界が紫になって、周りの人間が全て鬼に見えるようになってきた。
ああ、これは私が長年研究してきた、奇病ザルシアスの予兆だ。
周りの人間が自分に攻撃を加えるように見えるように錯覚して、発狂してしまう病。
しばらく冷静を保っていられても、数時間後には脳細胞が死に始め、即日で死に至ってしまう。
この成果論文だけ提出したら、その足で研究所の裏山に向かおう。
最期に発狂して人に危害を加えて死ぬなんて、絶対避けたい。
恋愛そっちのけで、彼氏もつくらず、結婚もせずに、研究一筋で生きてきた。
研究成果を発表したら、しばらく休暇をもらって旅行しようと思っていたのにな。
仕方ない。未練といえばいろいろあるけど、時間がなさすぎる。
誰にも知らせず、一人で発狂して、一人で死のう。
そうして、私はひっそりとこの世を去った。
私がひっそりとこの世を去っている頃、王宮は奇病ザルシアスの原因特定の報告を受けて、急いで薬の開発の指示を出した。
と同時に、原因を特定した女性研究者を招集して、報酬を与えようとしていた。
しかしながら、どこを探してもその女性研究者は見つからず。
偉業を達成しながらも忽然と姿を消したその女性は、「実は神の化身だったのではないか?」と噂され、この世界で大いなる信仰を集めた。
数年後には、奇病ザルシアスの治療薬が開発され、薬の開発に関わった研究者らは皆、爵位を賜った。
姿を消した女性研究者には、正式に神の化身の称号が与えられ、街の至る所に彼女の像が立てられた。
人々の信仰は、神力となって彼女に届く。
その頃、この世を去った女性研究者は、輪廻の輪に入るために天界の審判の門の列に並んでいた。
その待ち時間は亡者にはほんの少し、現世では数年間の時間。
彼女が並んでいる時に、現世からものすごい量の神力が送られてきた。
白い亡者の衣装を身に纏っていた女性は、神力をその身に浴びてキラキラと輝き始めた。
それを見ていた審判の門の神様は、急いで天界で最も高位の神様に連絡した。
「亡者がいきなり神化した」と。
「あなたは人ではなくなってしまったので、この世界では輪廻の輪には入れません。」
目の前の天界最高神様が私に説明する。
通常、人や動物は、審判の門をくぐり、現世での行いによって、天国や地獄に行ったあと、しばらくすると魂をリセットされてから転生する。
審判の門は、「人や動物を」裁く場所であるために、人や動物以外は通ることはできない。
私は、なぜ神化してしまったのか、奇病の原因を突き止めたその後の現世の状況と合わせて説明してもらった。
皆を救うことに貢献できたことはとても嬉しい一方で、まさか神の化身だと認定されるとは。完全に計算外だった。
「では天界最高神様、私はどうすればよろしいのでしょう?」
神様会議の結果、私には2つの選択肢が与えられた。
1つめは、神様としてこの天界で働くこと。
2つめは、異世界に転生すること。この世界でなければ、神の特性を持っていても転生できるようだ。
私は逡巡した後、2つ目の異世界転生を選んだ。
研究一筋だった私の人生。神様として崇められるより、普通の人になって、次は恋愛も経験したいし、旅行も楽しみたい。
転生先やら新しい身体は、天界最高神様の補佐官の皆さんが嬉々として、準備してくださった。
待っている間に、彼女は天界の神様たちを補佐してしっかり働いた。
それは人間の感覚で1ヶ月ほど、現世の時間で100年ほどの期間であった。
そうしてようやく、彼女は異世界に送られて転生する。
多くの神様に見送られ、祝福されて、彼女は笑顔で旅立っていった。
突然発狂して死に至る病、ザルシアス。
私は王立研究所に勤め、研究生活のほとんどをその奇病の原因を突き止めることに費やした。
昼間は王立大学院の学生の講義を担当しながら、夕方以降は身を削るように研究に没頭して20年。
ついに奇病の原因となる分子を特定した。
この分子の働きを抑える薬を創れたなら、奇病ザルシアスは治療可能な病となるだろう。
この研究成果を世間に発表すれば、後は誰かが薬を開発してくれるだろう。
一刻も早く、研究成果を国に報告しなくては。
私は急いで論文を執筆し、成果申請のために事務局に向かった。
その時、私の意識は突然混濁する。
視界が紫になって、周りの人間が全て鬼に見えるようになってきた。
ああ、これは私が長年研究してきた、奇病ザルシアスの予兆だ。
周りの人間が自分に攻撃を加えるように見えるように錯覚して、発狂してしまう病。
しばらく冷静を保っていられても、数時間後には脳細胞が死に始め、即日で死に至ってしまう。
この成果論文だけ提出したら、その足で研究所の裏山に向かおう。
最期に発狂して人に危害を加えて死ぬなんて、絶対避けたい。
恋愛そっちのけで、彼氏もつくらず、結婚もせずに、研究一筋で生きてきた。
研究成果を発表したら、しばらく休暇をもらって旅行しようと思っていたのにな。
仕方ない。未練といえばいろいろあるけど、時間がなさすぎる。
誰にも知らせず、一人で発狂して、一人で死のう。
そうして、私はひっそりとこの世を去った。
私がひっそりとこの世を去っている頃、王宮は奇病ザルシアスの原因特定の報告を受けて、急いで薬の開発の指示を出した。
と同時に、原因を特定した女性研究者を招集して、報酬を与えようとしていた。
しかしながら、どこを探してもその女性研究者は見つからず。
偉業を達成しながらも忽然と姿を消したその女性は、「実は神の化身だったのではないか?」と噂され、この世界で大いなる信仰を集めた。
数年後には、奇病ザルシアスの治療薬が開発され、薬の開発に関わった研究者らは皆、爵位を賜った。
姿を消した女性研究者には、正式に神の化身の称号が与えられ、街の至る所に彼女の像が立てられた。
人々の信仰は、神力となって彼女に届く。
その頃、この世を去った女性研究者は、輪廻の輪に入るために天界の審判の門の列に並んでいた。
その待ち時間は亡者にはほんの少し、現世では数年間の時間。
彼女が並んでいる時に、現世からものすごい量の神力が送られてきた。
白い亡者の衣装を身に纏っていた女性は、神力をその身に浴びてキラキラと輝き始めた。
それを見ていた審判の門の神様は、急いで天界で最も高位の神様に連絡した。
「亡者がいきなり神化した」と。
「あなたは人ではなくなってしまったので、この世界では輪廻の輪には入れません。」
目の前の天界最高神様が私に説明する。
通常、人や動物は、審判の門をくぐり、現世での行いによって、天国や地獄に行ったあと、しばらくすると魂をリセットされてから転生する。
審判の門は、「人や動物を」裁く場所であるために、人や動物以外は通ることはできない。
私は、なぜ神化してしまったのか、奇病の原因を突き止めたその後の現世の状況と合わせて説明してもらった。
皆を救うことに貢献できたことはとても嬉しい一方で、まさか神の化身だと認定されるとは。完全に計算外だった。
「では天界最高神様、私はどうすればよろしいのでしょう?」
神様会議の結果、私には2つの選択肢が与えられた。
1つめは、神様としてこの天界で働くこと。
2つめは、異世界に転生すること。この世界でなければ、神の特性を持っていても転生できるようだ。
私は逡巡した後、2つ目の異世界転生を選んだ。
研究一筋だった私の人生。神様として崇められるより、普通の人になって、次は恋愛も経験したいし、旅行も楽しみたい。
転生先やら新しい身体は、天界最高神様の補佐官の皆さんが嬉々として、準備してくださった。
待っている間に、彼女は天界の神様たちを補佐してしっかり働いた。
それは人間の感覚で1ヶ月ほど、現世の時間で100年ほどの期間であった。
そうしてようやく、彼女は異世界に送られて転生する。
多くの神様に見送られ、祝福されて、彼女は笑顔で旅立っていった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄はまだですか?─豊穣をもたらす伝説の公爵令嬢に転生したけど、王太子がなかなか婚約破棄してこない
nanahi
恋愛
火事のあと、私は王太子の婚約者:シンシア・ウォーレンに転生した。王国に豊穣をもたらすという伝説の黒髪黒眼の公爵令嬢だ。王太子は婚約者の私がいながら、男爵令嬢ケリーを愛していた。「王太子から婚約破棄されるパターンね」…私はつらい前世から解放された喜びから、破棄を進んで受け入れようと自由に振る舞っていた。ところが王太子はなかなか破棄を告げてこなくて…?

あなたのことなんて、もうどうでもいいです
もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。
元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。
かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。
ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。
二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。
彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。
目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる