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* 死神生活三年目&more *
第298話 死神ちゃんとたかし④
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ダンジョンに降り立ってすぐ、死神ちゃんは〈担当のパーティー〉と思しき冒険者がひとりで何やら探しものをしているのを見つけた。彼は四つん這いになり、瓦礫や壁の隙間へと必死に視線を這わせていた。
「おい、たか―― おおおおおおい! 大丈夫か、たかし!! 生きてるか? まだ、生きてるか!?」
死神ちゃんは背後から声をかけながら、腰辺りにポンと軽く触れた。すると彼は悲鳴を上げてびくりと身を跳ね、そのままの勢いで近くにあった泉へと落ちた。死神ちゃんは、一向に浮かび上がってこない彼に必死に呼びかけた。少しして、ザバアと音を立てて姿を現した彼は、もがき苦しみながら這い上がってきた。
ゼエゼエと荒く息をつきながら、彼は一生懸命絞り出すようにボソボソと言った。
「お嬢ちゃん、急に脅かさないでよ……。うっかり、お花畑で笑うばあちゃんが見えちゃったじゃんか……」
「えっ、もしかして、ばあちゃん、亡くなったのか!?」
「は? そんなわけないだろう?」
「いやだって、今、〈お花畑でばあちゃんが〉って……」
「走馬灯ってやつだよ! やだなあ、もう! お嬢ちゃんったら、不謹慎なんだから!」
「悪かったよ。だがな、紛らわしい言い方するお前にも非があるだろうが」
死神ちゃんが何とも微妙な表情を浮かべると、彼は苦笑いを浮かべて「ごめんねえ」と言いながらボリボリと頭を掻いた。
彼は、出稼ぎのために他国へと渡っている両親に代わって育ててくれた祖母に、楽な生活を送ってもらうべく冒険者になった。名をたかしと言う。しかし、要領が悪いせいか、いまだ彼は地下三階よりも下層に降りることができていなかった。死神ちゃんと初めて遭遇してから一年が経つというのに、だ。対して、彼の祖母は便りのない孫を心配し、あとを追うように冒険者になったのだが、あまりの強さと強運で孫よりも稼ぎまくっていた。故郷の村の持ち家はそのまま残し、この街にも家を借り、仲のいい〈最強にして最凶の一般人〉たちとともに五階のサロンや六階の社交場に足繁く通うほどの裕福っぷりだった。
死神ちゃんはたかしに「ばあちゃんとは会えたのか」と尋ねた。たかしはいまだに、祖母がこの街に来ていることを知らない。しかも、手紙のやり取りはしているようなのに互いに気づくこともなく、同じ街に滞在しているのにすれ違うことすらない。何やら不思議な力が働いてでもいるのか、何故か二人は一向に顔を合わせる気配がないのだ。
たかしが「いいや」と返事をするので、死神ちゃんは〈大人の階段を登った話〉を誇張して祖母に伝えただろうと窘めようとした。彼は〈お酒を初めて飲んだ〉ということを〈六階にあると噂の社交場で綺麗なお姉ちゃんと――〉と過大に話を膨らませて手紙に書いていたのだ。しかし、死神ちゃんがそのことをほんの少し口にした途端、彼は「あっ、ちょっと待って!」と言って話を遮った。
「うーん、今、ちょっとキラッて光ったように見えたんだけど、気のせいかなあ?」
「何だよ、探しものか?」
「うん。酒屋さんからまた〈おつかい〉を頼まれてね。先日、ダンジョンに用事があってやって来たときに、モンスターに襲われた拍子にうっかり結婚指輪を落としちゃったらしくて」
何でも、あの飲んだくれは〈最強にして最凶の一般人〉の一人でもある妻に黙ってまた仕事をサボッてダンジョンを彷徨いていたらしい。そして、モンスターに襲われた際、酒でおぼつかない足でフラフラになりながら逃げたため、大切なものを落としてきてしまったということに気がつかなかったのだという。悪魔の如き強さを誇る妻の鉄拳を受ける前に何とか見つけ出したいのだそうだが、何度も仕事をサボればこれまた妻の雷が落ちてしまう。というわけで、彼はたかしに「報酬ははずむから!」と言って〈おつかい〉を頼んだらしい。
死神ちゃんは相槌を打つと、再び話題を祖母のことに戻そうとした。
「……で、ばあちゃんのことなん――」
「あっ、今度こそ見つけたかも! ――あ~。また、違った」
「残念だったな。……で、ばあちゃん――」
「うわっ! モンスターがこっちに来た! 結構いっぱいいる! デコイ設置しなくちゃ!」
ことごとく、死神ちゃんは彼の祖母について話すタイミングを逃した。「やはり、何か呪いめいたものでもかかっているんじゃあないか」と思いながら頭を抱えていると、何とかモンスターを一掃し終えたたかしが不思議そうに首を傾げた。
「で、さっきから何を話そうとしているんだい?」
「だから、ばあちゃ――」
「あっ! またモンスターだよ! しつこいなあ、もう!」
死神ちゃんはがっくりとうなだれると、これ以上この話題に触れることを諦めた。
探しものの合間に戦闘を繰り返すこと、数回。彼の手元にはいくつかの指輪が集まった。まず、冒険者が不要なアイテムを捨てていったのか、岩陰などから二、三個ほど拾った。また、モンスターからのアイテムドロップでもニ、三個ほど指輪をゲットした。たかしはそれらを雑に管理していたため、どれが依頼の品と思しきものかというのがあっという間に分からなくなってしまった。
たかしは手のひらの上に指輪を並べると、しげしげと眺めて選別に取り掛かった。結婚指輪というからには、あまりゴテゴテしていないシンプルなものだろうと思ったからだ。見た目がうるさい感じの指輪をズボンの右ポケットに押し込むと、残った指輪を思案顔で眺めた。
「うーん、どっちだろう?」
「とりあえず、さっきポケットに押し込んだのも含めて、本人に見てもらえば良いんじゃないか?」
「そうだね。じゃあ、こっちの指輪たちはとりあえず左に―― うわあああああああ!」
たかしは横合いから飛び出してきたモンスターに驚くと、咄嗟に握り拳を作り、思い切り殴りかかった。モンスターはというと、彼の馬鹿力によって呆気なくアイテムへと姿を変えた。
「あー、危なかった! ――うあああああ! どうしよう、指輪を持ってた手で殴ったもんだから、指輪がひしゃげちゃってる!」
「お前、どんな力でどういう風に握ったら指輪が金属屑になるんだよ……」
死神ちゃんは、彼のあまりの馬鹿力っぷりに戦慄して小刻みに震えた。血の気の引いた顔を強張らせている死神ちゃんのことなど気にもとめず、彼はしょんぼりとうなだれてポツリとこぼした。
「どうしよう。知り合いの錬金術師さんに、こっそりと直してもらおうかな。それとも、見つけたときにはこうなってましたって嘘ついちゃおうかな。結構な報酬がもらえることになってたから、たまにはちょっと豪華なものでも食べようと思ってたのに……」
ため息をつきながら、彼は〈錬金術師とは行きつけの食堂で知り合った〉と言って、その知り合いの彼がいかに腕利きなのかを熱く語り始めた。パンクでロックなパネェ技術を持つ知り合いの話をひと通りしたあと、たかしは「食堂で出会った人といえば」と言ってデレデレとした笑みを浮かべた。
「〈芸者〉っていう、遠い国から来た吟遊詩人のお姉さんがいるんだけど。これがまた、すごい美人さんでさあ。お近づきになりた―― じゃなかった、とても興味深いから、お姉さんの国についての話を会うたびに聞かせてもらっているんだけど」
「はあ、そう。……ていうか、お前、指輪はいいのかよ? 直しに出すなら、ダラダラしゃべってないで、早く帰れよ。さっきみたいなことが起こっても困るだろうし」
「この国よりも科学が発展しているらしくて、からくり仕掛けのものが結構ここそこにあるんだって」
死神ちゃんは、ダンジョンに来た目的と起こってしまったアクシデントについてを忘れて話し続ける彼を窘めた。しかし彼は話すことを止めなかった。目を輝かせながら捲し立てるように話す彼に小さくため息をつくと、死神ちゃんは呆れ顔で相槌を適当に打って受け流し体勢に入った。たかしは死神ちゃんの素っ気ない態度など気にすることなく、なおも話し続けた。そして一層目を輝かせると、頬を上気させてフンと鼻息を荒くした。
「でね、どのくらいからくりが凄いかっていうとね、スシっていうソウルフードが回転しながらお客の前に到着するんだって! 僕、そんなの、想像もできないよ! ていうか、スシって庶民からセレブまでを虜にする凄い食べ物らしいんだ! せっかくだから、セレブ用の凄いのを食べてみたいよ! 今回の報酬で豪華なものを食べたいってさっき言ったけどさ、その報酬で食べれるくらいの値段かな!? もっと高いのかな!? ……って、どうしたの?」
たかしは、死神ちゃんが唖然とした顔を浮かべてどこかを見つめていることに気がついた。死神ちゃんは少し離れたところを指差すと「寿司」と一言呟いた。
「何? スシ? あれが?」
「なんで、巨大な寿司がダンジョン内で浮いてるんだよ。なんで……?」
「えっ、あれがスシなの? 本当に? ――うわあ、クルクル回転しながら浮いてるよー!」
「回転寿司とは、これまたチープだな。しかも、サーモンかよ」
「何? アレは庶民用な感じなの? 僕、高級なほうが良かったよ!」
「いや、うん……。いや、そうじゃあなくて……うん……」
死神ちゃんは顔を強張らせたまま、どう説明したらいいか分からずに押し黙った。たかしは羨望の眼差しで空飛ぶ回転寿司を見つめた。すると、凄まじい速さで寿司が近づいてきた。
「ぎゃあああああああああッ!!」
たかしは飛んできた寿司を受け止めた。絶叫したのは、たかしではなくサーモンだった。たかしは驚きのあまり腕を締め上げて、寿司を縊り殺した。すると、寿司から呪いの黒い靄が立ち上り、たかしを取り巻いた。
「次は、貴様の番だ……」
「えっ、ちょっ、それは僕の決めゼリ―― ふあああああああああああ!?」
たかしは回転寿司の呪いにより、勢い良く舞い上がって回転しながら何処かへと飛んでいった。しばらくして、死神ちゃんの腕輪に〈灰化達成〉の知らせが上がった。
死神ちゃんはあまりの出来事に、お決まりの「生きろよ、たかし」を言うこともできず、ただぼんやりとその場に立ち尽くしたのだった。
なお、後日聞いたところによると、あの寿司は見事食べることに成功すると食べた者に強化魔法がかかるという。しかしながら、あんな狂気じみた演出の施された未確認飛行物体など、誰も食べたくないんじゃあないかと死神ちゃんは思ったのだった。
――――用事が済んだら、とっとと帰る。そのほうが、理不尽で不条理なアクシデントに遭う率も減って何かと安全だと思うのDEATH。
「おい、たか―― おおおおおおい! 大丈夫か、たかし!! 生きてるか? まだ、生きてるか!?」
死神ちゃんは背後から声をかけながら、腰辺りにポンと軽く触れた。すると彼は悲鳴を上げてびくりと身を跳ね、そのままの勢いで近くにあった泉へと落ちた。死神ちゃんは、一向に浮かび上がってこない彼に必死に呼びかけた。少しして、ザバアと音を立てて姿を現した彼は、もがき苦しみながら這い上がってきた。
ゼエゼエと荒く息をつきながら、彼は一生懸命絞り出すようにボソボソと言った。
「お嬢ちゃん、急に脅かさないでよ……。うっかり、お花畑で笑うばあちゃんが見えちゃったじゃんか……」
「えっ、もしかして、ばあちゃん、亡くなったのか!?」
「は? そんなわけないだろう?」
「いやだって、今、〈お花畑でばあちゃんが〉って……」
「走馬灯ってやつだよ! やだなあ、もう! お嬢ちゃんったら、不謹慎なんだから!」
「悪かったよ。だがな、紛らわしい言い方するお前にも非があるだろうが」
死神ちゃんが何とも微妙な表情を浮かべると、彼は苦笑いを浮かべて「ごめんねえ」と言いながらボリボリと頭を掻いた。
彼は、出稼ぎのために他国へと渡っている両親に代わって育ててくれた祖母に、楽な生活を送ってもらうべく冒険者になった。名をたかしと言う。しかし、要領が悪いせいか、いまだ彼は地下三階よりも下層に降りることができていなかった。死神ちゃんと初めて遭遇してから一年が経つというのに、だ。対して、彼の祖母は便りのない孫を心配し、あとを追うように冒険者になったのだが、あまりの強さと強運で孫よりも稼ぎまくっていた。故郷の村の持ち家はそのまま残し、この街にも家を借り、仲のいい〈最強にして最凶の一般人〉たちとともに五階のサロンや六階の社交場に足繁く通うほどの裕福っぷりだった。
死神ちゃんはたかしに「ばあちゃんとは会えたのか」と尋ねた。たかしはいまだに、祖母がこの街に来ていることを知らない。しかも、手紙のやり取りはしているようなのに互いに気づくこともなく、同じ街に滞在しているのにすれ違うことすらない。何やら不思議な力が働いてでもいるのか、何故か二人は一向に顔を合わせる気配がないのだ。
たかしが「いいや」と返事をするので、死神ちゃんは〈大人の階段を登った話〉を誇張して祖母に伝えただろうと窘めようとした。彼は〈お酒を初めて飲んだ〉ということを〈六階にあると噂の社交場で綺麗なお姉ちゃんと――〉と過大に話を膨らませて手紙に書いていたのだ。しかし、死神ちゃんがそのことをほんの少し口にした途端、彼は「あっ、ちょっと待って!」と言って話を遮った。
「うーん、今、ちょっとキラッて光ったように見えたんだけど、気のせいかなあ?」
「何だよ、探しものか?」
「うん。酒屋さんからまた〈おつかい〉を頼まれてね。先日、ダンジョンに用事があってやって来たときに、モンスターに襲われた拍子にうっかり結婚指輪を落としちゃったらしくて」
何でも、あの飲んだくれは〈最強にして最凶の一般人〉の一人でもある妻に黙ってまた仕事をサボッてダンジョンを彷徨いていたらしい。そして、モンスターに襲われた際、酒でおぼつかない足でフラフラになりながら逃げたため、大切なものを落としてきてしまったということに気がつかなかったのだという。悪魔の如き強さを誇る妻の鉄拳を受ける前に何とか見つけ出したいのだそうだが、何度も仕事をサボればこれまた妻の雷が落ちてしまう。というわけで、彼はたかしに「報酬ははずむから!」と言って〈おつかい〉を頼んだらしい。
死神ちゃんは相槌を打つと、再び話題を祖母のことに戻そうとした。
「……で、ばあちゃんのことなん――」
「あっ、今度こそ見つけたかも! ――あ~。また、違った」
「残念だったな。……で、ばあちゃん――」
「うわっ! モンスターがこっちに来た! 結構いっぱいいる! デコイ設置しなくちゃ!」
ことごとく、死神ちゃんは彼の祖母について話すタイミングを逃した。「やはり、何か呪いめいたものでもかかっているんじゃあないか」と思いながら頭を抱えていると、何とかモンスターを一掃し終えたたかしが不思議そうに首を傾げた。
「で、さっきから何を話そうとしているんだい?」
「だから、ばあちゃ――」
「あっ! またモンスターだよ! しつこいなあ、もう!」
死神ちゃんはがっくりとうなだれると、これ以上この話題に触れることを諦めた。
探しものの合間に戦闘を繰り返すこと、数回。彼の手元にはいくつかの指輪が集まった。まず、冒険者が不要なアイテムを捨てていったのか、岩陰などから二、三個ほど拾った。また、モンスターからのアイテムドロップでもニ、三個ほど指輪をゲットした。たかしはそれらを雑に管理していたため、どれが依頼の品と思しきものかというのがあっという間に分からなくなってしまった。
たかしは手のひらの上に指輪を並べると、しげしげと眺めて選別に取り掛かった。結婚指輪というからには、あまりゴテゴテしていないシンプルなものだろうと思ったからだ。見た目がうるさい感じの指輪をズボンの右ポケットに押し込むと、残った指輪を思案顔で眺めた。
「うーん、どっちだろう?」
「とりあえず、さっきポケットに押し込んだのも含めて、本人に見てもらえば良いんじゃないか?」
「そうだね。じゃあ、こっちの指輪たちはとりあえず左に―― うわあああああああ!」
たかしは横合いから飛び出してきたモンスターに驚くと、咄嗟に握り拳を作り、思い切り殴りかかった。モンスターはというと、彼の馬鹿力によって呆気なくアイテムへと姿を変えた。
「あー、危なかった! ――うあああああ! どうしよう、指輪を持ってた手で殴ったもんだから、指輪がひしゃげちゃってる!」
「お前、どんな力でどういう風に握ったら指輪が金属屑になるんだよ……」
死神ちゃんは、彼のあまりの馬鹿力っぷりに戦慄して小刻みに震えた。血の気の引いた顔を強張らせている死神ちゃんのことなど気にもとめず、彼はしょんぼりとうなだれてポツリとこぼした。
「どうしよう。知り合いの錬金術師さんに、こっそりと直してもらおうかな。それとも、見つけたときにはこうなってましたって嘘ついちゃおうかな。結構な報酬がもらえることになってたから、たまにはちょっと豪華なものでも食べようと思ってたのに……」
ため息をつきながら、彼は〈錬金術師とは行きつけの食堂で知り合った〉と言って、その知り合いの彼がいかに腕利きなのかを熱く語り始めた。パンクでロックなパネェ技術を持つ知り合いの話をひと通りしたあと、たかしは「食堂で出会った人といえば」と言ってデレデレとした笑みを浮かべた。
「〈芸者〉っていう、遠い国から来た吟遊詩人のお姉さんがいるんだけど。これがまた、すごい美人さんでさあ。お近づきになりた―― じゃなかった、とても興味深いから、お姉さんの国についての話を会うたびに聞かせてもらっているんだけど」
「はあ、そう。……ていうか、お前、指輪はいいのかよ? 直しに出すなら、ダラダラしゃべってないで、早く帰れよ。さっきみたいなことが起こっても困るだろうし」
「この国よりも科学が発展しているらしくて、からくり仕掛けのものが結構ここそこにあるんだって」
死神ちゃんは、ダンジョンに来た目的と起こってしまったアクシデントについてを忘れて話し続ける彼を窘めた。しかし彼は話すことを止めなかった。目を輝かせながら捲し立てるように話す彼に小さくため息をつくと、死神ちゃんは呆れ顔で相槌を適当に打って受け流し体勢に入った。たかしは死神ちゃんの素っ気ない態度など気にすることなく、なおも話し続けた。そして一層目を輝かせると、頬を上気させてフンと鼻息を荒くした。
「でね、どのくらいからくりが凄いかっていうとね、スシっていうソウルフードが回転しながらお客の前に到着するんだって! 僕、そんなの、想像もできないよ! ていうか、スシって庶民からセレブまでを虜にする凄い食べ物らしいんだ! せっかくだから、セレブ用の凄いのを食べてみたいよ! 今回の報酬で豪華なものを食べたいってさっき言ったけどさ、その報酬で食べれるくらいの値段かな!? もっと高いのかな!? ……って、どうしたの?」
たかしは、死神ちゃんが唖然とした顔を浮かべてどこかを見つめていることに気がついた。死神ちゃんは少し離れたところを指差すと「寿司」と一言呟いた。
「何? スシ? あれが?」
「なんで、巨大な寿司がダンジョン内で浮いてるんだよ。なんで……?」
「えっ、あれがスシなの? 本当に? ――うわあ、クルクル回転しながら浮いてるよー!」
「回転寿司とは、これまたチープだな。しかも、サーモンかよ」
「何? アレは庶民用な感じなの? 僕、高級なほうが良かったよ!」
「いや、うん……。いや、そうじゃあなくて……うん……」
死神ちゃんは顔を強張らせたまま、どう説明したらいいか分からずに押し黙った。たかしは羨望の眼差しで空飛ぶ回転寿司を見つめた。すると、凄まじい速さで寿司が近づいてきた。
「ぎゃあああああああああッ!!」
たかしは飛んできた寿司を受け止めた。絶叫したのは、たかしではなくサーモンだった。たかしは驚きのあまり腕を締め上げて、寿司を縊り殺した。すると、寿司から呪いの黒い靄が立ち上り、たかしを取り巻いた。
「次は、貴様の番だ……」
「えっ、ちょっ、それは僕の決めゼリ―― ふあああああああああああ!?」
たかしは回転寿司の呪いにより、勢い良く舞い上がって回転しながら何処かへと飛んでいった。しばらくして、死神ちゃんの腕輪に〈灰化達成〉の知らせが上がった。
死神ちゃんはあまりの出来事に、お決まりの「生きろよ、たかし」を言うこともできず、ただぼんやりとその場に立ち尽くしたのだった。
なお、後日聞いたところによると、あの寿司は見事食べることに成功すると食べた者に強化魔法がかかるという。しかしながら、あんな狂気じみた演出の施された未確認飛行物体など、誰も食べたくないんじゃあないかと死神ちゃんは思ったのだった。
――――用事が済んだら、とっとと帰る。そのほうが、理不尽で不条理なアクシデントに遭う率も減って何かと安全だと思うのDEATH。
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