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* 死神生活三年目&more *
第268話 死神ちゃんと死にたがり⑤
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死神ちゃんがダンジョンに降り立つと、ちょうど目の前で女性騎士が空飛ぶ金貨と戦っていた。彼女はキラキラと煌く金貨を、どんよりとした暗い瞳で黙々と切り刻んでいた。
「死ねッ! 死ねッ!! 死にさらせ~ッ!」
「もうそれ、聖騎士には見えないよ! それじゃあ〈狂気にとり憑かれた黒騎士〉だろ! 一体、どうしたんだよ!」
思わず、死神ちゃんは唖然として目を見開くと目の前の彼女に向かって声をかけた。すると、彼女は今にも泣きそうな顔を浮かべて、死神ちゃんに抱きついた。
「うわーん、死神ちゃん、お久しぶりー!」
「なんだ、またピカリンに嫌がらせでもされたのか?」
死神ちゃんは困ったように苦笑いを浮かべると、彼女の頭を撫でてやった。
彼女は、ダンジョンのある街から少し離れたところにある街でオフィスワーカーをしている週末冒険者だ。会社で募ったストレスをダンジョンで発散していたら、筋が良いのか戦士から聖騎士へとジョブチェンジできてしまったという強者である。せっかくだから探索中は王族などに仕える本物の聖騎士のように振る舞おうとした結果、何故か「くっ、殺せ!」が口癖となったため、死神ちゃんは彼女のことを〈くっころ〉と呼んでいた。
くっころが勤める会社の社長の息子も、冒険者として度々ダンジョンを訪れる。彼は〈可能な限り楽をして、できることなら自分は何もしないで金稼ぎをしたい〉という金の亡者だ。彼は先日ダンジョンにやって来た際に「初めて後輩ができたが、五月病を患った途端に辞めてしまった」とぼやいていた。もしやそれが原因でくっころにしわ寄せが起きているのかと、死神ちゃんは尋ねた。すると、彼女は苦笑いを浮かべて「あ、知っているんだ」と言った。
「あいつ、後輩のくせに、〈社長の息子〉だからってだけで入社直後から上司ポジに収まってさ。でも、あいつ、本当に使い物にならなかったから。だから、あいつには〈新人を直接指導させる〉ってことはさせてなかったの。だけど社長がさあ、今年はあいつにやらせろって言ってさあ。案の定、育つどころか潰されて辞めていっちゃったよね」
くっころはそこで一旦言葉を切ってため息をつくと、本日のダンジョン来訪目的はそれではないと言った。たしかにピカリンのせいでストレスは溜まっているらしいのだが、それよりも重大なことがあるらしい。それは何かと死神ちゃんが尋ねると、彼女は笑顔を張り付かせて抑揚無く言った。
「世間では、ジューンブライドの季節だそうですよ」
「はあ。この世界にもジューンブライドという概念があるんだな」
「〈この世界にも〉?」
「いや、何でもない。――で、ジューンブライドがどうしたんだよ」
くっころが不思議そうに首を傾げると、死神ちゃんは口早にごまかした。くっころは二、三度目を瞬かせると、気を取り直して話の続きをし始めた。
「ジューンブライドのおかげでですね、私の懐も、そして心も〈くっ、殺せ!〉を通り越してもはや〈埋葬されました〉なんですよね」
「そんなに立て続けにお呼ばれしたのか」
「ええ、そりゃあもう。なにせ、私、適齢期女子ですからね。周りも適齢期ばかりでございますよ。――介錯人はどこにおるのだ! くっ、殺せ! 早く私を殺してこの苦しみから解放してくれーッ!」
「今度は侍かよ。しかも、間違ったイメージの。まあ、落ち着けって。な?」
死神ちゃんが彼女の肩を優しくポンと叩くと、彼女は呪詛のように「つまらない男どもに引っかかっていなければ、私だって今ごろは」と繰り返した。死神ちゃんは乾いた声で短く笑うと、深く深く息を吐いた。
彼女は軽くお茶をして気持ちを入れ替えると、再び空飛ぶ金貨を狩り始めた。〈お金が欲しいなら、お金を狩ればいいだろう〉と思い、少しでも乾いた懐を潤したい一心で剣を振るった。しかし、あまり実入りが良いとは言えず、くっころは少しずつ腐っていった。
気分転換に他のものを狩ろうと思い立った彼女は、近くを通り過ぎていくモンスターを手当たり次第に薙いだ。すると、植物系のモンスターからブーケを入手して、彼女の心はやさぐれた。
「友達の式のトスのときだってキャッチできなかったってのに、何で今さら……」
「ていうか、何で花束なんかがアイテムに?」
「あ、これ、どうやら武器らしいよ。ほら」
くっころはブーケをモンスターに向けると、引き金を引いて発砲した。どうやら中に銃が仕込まれているらしい。くっころはニヤニヤとした笑みを浮かべると、楽しそうに笑いながらブーケを舐めるように眺めた。
「やだ、これ、おもしろい。えっ、なに? リア充暗殺道具なわけ? 『結婚おめでとう!』と言いながら差し出して、血染めの祝福をしろってこと!?」
「サラッと怖いこと言うなよ。曲がりなりにも聖騎士なんだろう? ――まあ、暗殺道具にありそうではあるが、だからと言ってリア充限定の道具ではないだろう」
死神ちゃんが呆れて目を細めると、くっころは「分かってるってば」と言ってケラケラと笑った。その後も彼女は結婚を連想したくなるようなアイテムをいくつか拾い心の闇を深くしていったのだが、強敵を倒して出現した宝箱を開けたことで完全にブロークンした。死神ちゃんは頬を引きつらせながら、必死にフォローを入れた。
「ほら、これ、すごい希少なアイテムだから。売れば凄まじく懐が温まるし、売らずに自分使いにするなら、召喚契約で戦力補強もできるし」
「……どこまでもどこまでも。ダンジョンは私に喧嘩を売ろうっていうの?」
「いやいや、そんな訳無いだろう? 懐を温めたいというお前の気持ちに答えてくれたんだろ、よかったな」
「だからって、何でダイヤモンドリングなのよ! 真綿で首を絞めるかのような精神攻撃してないで、いっそ人思いに殺せッ!」
くっころは血のような涙を流しながら叫んだが、ふと真顔になり指輪を熱心に見つめた。死神ちゃんが困惑していると、彼女はポツリと呟いた。
「これで、召喚契約できるって言ったよね?」
「おう、言った言った」
「閃いた! 召喚契約で、彼氏レンタルする!」
「はあ!?」
「もちろん、住む世界が違うわけだし、召喚相手に本物の彼氏になってくれとは言わないよ? 恋のスペシャリストと契約して、恋愛指導してもらうの。そして今度こそ、この手で春を掴むッ! 私はクールでスマートでスタイリッシュな社会人! 仕事だって冒険だって、恋愛だって! 格好良く決めるんだから! くっころ聖騎士を卒業して、恋の狩人になるぞー! あなたのハートにロックオーン!」
くっころは、あざとくウインクをし、調子づいて花束の引き金を引いた。すると屈強なモンスターをうっかりロックオンしていたようで、彼女は怒り狂ったモンスターにそのまますり潰された。しかしながら霊界に降り立った彼女は俄然燃え上がっており、鬨の声を上げながら祝福の像に向かって走っていった。死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、そのまま壁の中へと消えていった。
**********
死神ちゃんが待機室に戻ってくると、以前マッコイの手料理を食べながら彼にラブ目線を送っていた同僚が露骨にアタックをしていた。
「なあ、寮長っていつかはウエディングドレスを着るのが夢なんだろう? その夢、俺と叶えようぜ」
「何言ってるの。今、仕事中だし、ここは職場でしょう? そういう冗談を言うような場所ではないでしょう」
「いやだなあ、俺、本気で言ってるんだけど」
「馬鹿も休み休みにしなさいよ。アンタ、アタシのこと、おもしろ生命体扱いしていたじゃない。急に女性扱いされたって、信じられませんから。ていうか、さっきも言ったけど、今、仕事中!」
マッコイが素気無くあしらっても、同僚は諦めずに食い下がった。いよいよマッコイが顔をしかめると、ケイティーがマッコイに抱きつきながら同僚を見上げて言った。
「お姉ちゃんの目の黒いうちは、誰が相手だろうが、嫁になんて嫁がせられませんなあ」
同僚が「げっ」と呻いて顔を歪めると、さらにピエロとにゃんこがマッコイに抱きついた。
「あちしからマコちんを取り上げようったって、そうはいかないからね!」
「マッコはあたいの! あたいのなのね!」
同僚が彼女たちと言い合いを始めたところで、死神ちゃんは会話に割って入った。
「おい、マコ。今日の夕飯、何が食べたい? たまには俺が作るよ」
マッコイがきょとんとした顔を浮かべて目を瞬かせていると、ケイティーがとてつもなく悲しそうな表情を浮かべて声をひっくり返した。
「ちょっと、小花! なんで私が中番のときにそういう提案するかな! ――明けたら食べに行くから、多めに作っておいて!」
「小花っち、あちしも食べたい! 食べに行っていい? 行っていい!?」
「あたいも! あたいも!! 次の日お休みだし、そのままお泊りしてもいい? 美味しいご飯を食べて、お花とマッコと一緒にお風呂に入って、マッコにグルーミングしてもらって、お花抱えて寝るとか、すっごく幸せなのねー!」
「ああああん、にゃんこずるいよそれー! あちしもそのウェーブに乗る~!」
「ひどい! お前らばかり楽園を享受しようだなんて! ――ご飯食べに行くだけじゃなくて、私もそのまま泊まる!」
「軍曹、今日は外泊無理な日じゃん」
「ああああああ、そうだった! 魚屋、夜勤だから、私、寮開けらんないじゃん!」
マッコイに抱きついていた面々は、今度は死神ちゃんにギュウギュウと抱きつきながらギャアギャアとかしましく騒ぎ立てた。その様子に苦笑いを浮かべながら、マッコイは「何を作ってくれるの?」と死神ちゃんに尋ねた。死神ちゃんは抱きついてる面々のことなど気にすることなく「何でもいいぜ」と言い、マッコイを見上げて笑った。
同僚は不機嫌に口を尖らせると、死神ちゃんに抗議した。
「薫ちゃん、デバッグ中の職業が狩人だからって、今ここで狩りの本領発揮しなくたっていいんだよ」
「凄いよな。たった一言で全員掻っ攫っていってさ。たまには俺らにも、一人くらい分けてくれたっていいのに」
他の同僚も、苦笑いを浮かべながら賛同の声を上げた。死神ちゃんは彼らに仏頂面を向けると、「前に俺が教えた口説きのテクニックをマスターしてから出直すんだな」と言ってヘッと皮肉っぽく鼻を鳴らしたのだった。
――――なお、くっころは恋の狩人と召喚契約しようとして、何故かガチ狩人と契約したらしい。そのため、〈狩猟女子として山に篭もる〉という新たな趣味を手に入れたみたいDEATH。
「死ねッ! 死ねッ!! 死にさらせ~ッ!」
「もうそれ、聖騎士には見えないよ! それじゃあ〈狂気にとり憑かれた黒騎士〉だろ! 一体、どうしたんだよ!」
思わず、死神ちゃんは唖然として目を見開くと目の前の彼女に向かって声をかけた。すると、彼女は今にも泣きそうな顔を浮かべて、死神ちゃんに抱きついた。
「うわーん、死神ちゃん、お久しぶりー!」
「なんだ、またピカリンに嫌がらせでもされたのか?」
死神ちゃんは困ったように苦笑いを浮かべると、彼女の頭を撫でてやった。
彼女は、ダンジョンのある街から少し離れたところにある街でオフィスワーカーをしている週末冒険者だ。会社で募ったストレスをダンジョンで発散していたら、筋が良いのか戦士から聖騎士へとジョブチェンジできてしまったという強者である。せっかくだから探索中は王族などに仕える本物の聖騎士のように振る舞おうとした結果、何故か「くっ、殺せ!」が口癖となったため、死神ちゃんは彼女のことを〈くっころ〉と呼んでいた。
くっころが勤める会社の社長の息子も、冒険者として度々ダンジョンを訪れる。彼は〈可能な限り楽をして、できることなら自分は何もしないで金稼ぎをしたい〉という金の亡者だ。彼は先日ダンジョンにやって来た際に「初めて後輩ができたが、五月病を患った途端に辞めてしまった」とぼやいていた。もしやそれが原因でくっころにしわ寄せが起きているのかと、死神ちゃんは尋ねた。すると、彼女は苦笑いを浮かべて「あ、知っているんだ」と言った。
「あいつ、後輩のくせに、〈社長の息子〉だからってだけで入社直後から上司ポジに収まってさ。でも、あいつ、本当に使い物にならなかったから。だから、あいつには〈新人を直接指導させる〉ってことはさせてなかったの。だけど社長がさあ、今年はあいつにやらせろって言ってさあ。案の定、育つどころか潰されて辞めていっちゃったよね」
くっころはそこで一旦言葉を切ってため息をつくと、本日のダンジョン来訪目的はそれではないと言った。たしかにピカリンのせいでストレスは溜まっているらしいのだが、それよりも重大なことがあるらしい。それは何かと死神ちゃんが尋ねると、彼女は笑顔を張り付かせて抑揚無く言った。
「世間では、ジューンブライドの季節だそうですよ」
「はあ。この世界にもジューンブライドという概念があるんだな」
「〈この世界にも〉?」
「いや、何でもない。――で、ジューンブライドがどうしたんだよ」
くっころが不思議そうに首を傾げると、死神ちゃんは口早にごまかした。くっころは二、三度目を瞬かせると、気を取り直して話の続きをし始めた。
「ジューンブライドのおかげでですね、私の懐も、そして心も〈くっ、殺せ!〉を通り越してもはや〈埋葬されました〉なんですよね」
「そんなに立て続けにお呼ばれしたのか」
「ええ、そりゃあもう。なにせ、私、適齢期女子ですからね。周りも適齢期ばかりでございますよ。――介錯人はどこにおるのだ! くっ、殺せ! 早く私を殺してこの苦しみから解放してくれーッ!」
「今度は侍かよ。しかも、間違ったイメージの。まあ、落ち着けって。な?」
死神ちゃんが彼女の肩を優しくポンと叩くと、彼女は呪詛のように「つまらない男どもに引っかかっていなければ、私だって今ごろは」と繰り返した。死神ちゃんは乾いた声で短く笑うと、深く深く息を吐いた。
彼女は軽くお茶をして気持ちを入れ替えると、再び空飛ぶ金貨を狩り始めた。〈お金が欲しいなら、お金を狩ればいいだろう〉と思い、少しでも乾いた懐を潤したい一心で剣を振るった。しかし、あまり実入りが良いとは言えず、くっころは少しずつ腐っていった。
気分転換に他のものを狩ろうと思い立った彼女は、近くを通り過ぎていくモンスターを手当たり次第に薙いだ。すると、植物系のモンスターからブーケを入手して、彼女の心はやさぐれた。
「友達の式のトスのときだってキャッチできなかったってのに、何で今さら……」
「ていうか、何で花束なんかがアイテムに?」
「あ、これ、どうやら武器らしいよ。ほら」
くっころはブーケをモンスターに向けると、引き金を引いて発砲した。どうやら中に銃が仕込まれているらしい。くっころはニヤニヤとした笑みを浮かべると、楽しそうに笑いながらブーケを舐めるように眺めた。
「やだ、これ、おもしろい。えっ、なに? リア充暗殺道具なわけ? 『結婚おめでとう!』と言いながら差し出して、血染めの祝福をしろってこと!?」
「サラッと怖いこと言うなよ。曲がりなりにも聖騎士なんだろう? ――まあ、暗殺道具にありそうではあるが、だからと言ってリア充限定の道具ではないだろう」
死神ちゃんが呆れて目を細めると、くっころは「分かってるってば」と言ってケラケラと笑った。その後も彼女は結婚を連想したくなるようなアイテムをいくつか拾い心の闇を深くしていったのだが、強敵を倒して出現した宝箱を開けたことで完全にブロークンした。死神ちゃんは頬を引きつらせながら、必死にフォローを入れた。
「ほら、これ、すごい希少なアイテムだから。売れば凄まじく懐が温まるし、売らずに自分使いにするなら、召喚契約で戦力補強もできるし」
「……どこまでもどこまでも。ダンジョンは私に喧嘩を売ろうっていうの?」
「いやいや、そんな訳無いだろう? 懐を温めたいというお前の気持ちに答えてくれたんだろ、よかったな」
「だからって、何でダイヤモンドリングなのよ! 真綿で首を絞めるかのような精神攻撃してないで、いっそ人思いに殺せッ!」
くっころは血のような涙を流しながら叫んだが、ふと真顔になり指輪を熱心に見つめた。死神ちゃんが困惑していると、彼女はポツリと呟いた。
「これで、召喚契約できるって言ったよね?」
「おう、言った言った」
「閃いた! 召喚契約で、彼氏レンタルする!」
「はあ!?」
「もちろん、住む世界が違うわけだし、召喚相手に本物の彼氏になってくれとは言わないよ? 恋のスペシャリストと契約して、恋愛指導してもらうの。そして今度こそ、この手で春を掴むッ! 私はクールでスマートでスタイリッシュな社会人! 仕事だって冒険だって、恋愛だって! 格好良く決めるんだから! くっころ聖騎士を卒業して、恋の狩人になるぞー! あなたのハートにロックオーン!」
くっころは、あざとくウインクをし、調子づいて花束の引き金を引いた。すると屈強なモンスターをうっかりロックオンしていたようで、彼女は怒り狂ったモンスターにそのまますり潰された。しかしながら霊界に降り立った彼女は俄然燃え上がっており、鬨の声を上げながら祝福の像に向かって走っていった。死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、そのまま壁の中へと消えていった。
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死神ちゃんが待機室に戻ってくると、以前マッコイの手料理を食べながら彼にラブ目線を送っていた同僚が露骨にアタックをしていた。
「なあ、寮長っていつかはウエディングドレスを着るのが夢なんだろう? その夢、俺と叶えようぜ」
「何言ってるの。今、仕事中だし、ここは職場でしょう? そういう冗談を言うような場所ではないでしょう」
「いやだなあ、俺、本気で言ってるんだけど」
「馬鹿も休み休みにしなさいよ。アンタ、アタシのこと、おもしろ生命体扱いしていたじゃない。急に女性扱いされたって、信じられませんから。ていうか、さっきも言ったけど、今、仕事中!」
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「お姉ちゃんの目の黒いうちは、誰が相手だろうが、嫁になんて嫁がせられませんなあ」
同僚が「げっ」と呻いて顔を歪めると、さらにピエロとにゃんこがマッコイに抱きついた。
「あちしからマコちんを取り上げようったって、そうはいかないからね!」
「マッコはあたいの! あたいのなのね!」
同僚が彼女たちと言い合いを始めたところで、死神ちゃんは会話に割って入った。
「おい、マコ。今日の夕飯、何が食べたい? たまには俺が作るよ」
マッコイがきょとんとした顔を浮かべて目を瞬かせていると、ケイティーがとてつもなく悲しそうな表情を浮かべて声をひっくり返した。
「ちょっと、小花! なんで私が中番のときにそういう提案するかな! ――明けたら食べに行くから、多めに作っておいて!」
「小花っち、あちしも食べたい! 食べに行っていい? 行っていい!?」
「あたいも! あたいも!! 次の日お休みだし、そのままお泊りしてもいい? 美味しいご飯を食べて、お花とマッコと一緒にお風呂に入って、マッコにグルーミングしてもらって、お花抱えて寝るとか、すっごく幸せなのねー!」
「ああああん、にゃんこずるいよそれー! あちしもそのウェーブに乗る~!」
「ひどい! お前らばかり楽園を享受しようだなんて! ――ご飯食べに行くだけじゃなくて、私もそのまま泊まる!」
「軍曹、今日は外泊無理な日じゃん」
「ああああああ、そうだった! 魚屋、夜勤だから、私、寮開けらんないじゃん!」
マッコイに抱きついていた面々は、今度は死神ちゃんにギュウギュウと抱きつきながらギャアギャアとかしましく騒ぎ立てた。その様子に苦笑いを浮かべながら、マッコイは「何を作ってくれるの?」と死神ちゃんに尋ねた。死神ちゃんは抱きついてる面々のことなど気にすることなく「何でもいいぜ」と言い、マッコイを見上げて笑った。
同僚は不機嫌に口を尖らせると、死神ちゃんに抗議した。
「薫ちゃん、デバッグ中の職業が狩人だからって、今ここで狩りの本領発揮しなくたっていいんだよ」
「凄いよな。たった一言で全員掻っ攫っていってさ。たまには俺らにも、一人くらい分けてくれたっていいのに」
他の同僚も、苦笑いを浮かべながら賛同の声を上げた。死神ちゃんは彼らに仏頂面を向けると、「前に俺が教えた口説きのテクニックをマスターしてから出直すんだな」と言ってヘッと皮肉っぽく鼻を鳴らしたのだった。
――――なお、くっころは恋の狩人と召喚契約しようとして、何故かガチ狩人と契約したらしい。そのため、〈狩猟女子として山に篭もる〉という新たな趣味を手に入れたみたいDEATH。
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