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* 死神生活三年目&more *
第242話 死神ちゃんと芸術家④
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死神ちゃんが〈担当のパーティー〉を探してダンジョン内を飛行していると、前方に小さな人形のようなものと連れ立って歩く男性を見つけた。死神ちゃんは目を輝かせると、男性ではなく人形に向かって飛んでいった。
「うおおおお! 五次郎ーッ!」
「キシャーッ!」
「おおおお! お前、鳴けるようになったのか! すごいな! 五次郎、偉いぞ~!」
「キッシャーッ!」
死神ちゃんは満面の笑みを浮かべると、どこぞの特撮ドラマに出てくる産業廃棄物の申し子にそっくりの怪獣を模した人形と戯れた。五次郎と一緒に、男性の周りをグルグルと回るように追いかけっこをして遊んだのだった。
とても楽しそうに笑い声を上げていた死神ちゃんだったが、一転して今にも泣きそうな顔でプルプルと震えだした。べしゃりという音を立ててうっかり躓いた五次郎が、そのまま粘土の塊に戻ってしまったのだ。男性は苦笑いを浮かべると、愕然とした表情を浮かべて震える死神ちゃんの頭を撫でた。
「すぐに作り直してあげますから。だから、ね? 泣かないでくださいよ」
休憩するのにちょうどよい拓けた場所へとやってくると、男性――芸術家は〈五次郎の成れの果て〉を四角い形に整えた。そして作業用のナイフを手に取ると、粘土を鮮やかに切り出し始めた。しばらくして、五次郎は華麗に復活を遂げた。死神ちゃんは優しく「五次郎、良かったな」と言うと、嬉しそうに頬を緩ませた。
死神ちゃんは五次郎を大切そうに抱き寄せると、芸術家に礼を述べた。そして〈本日の目的〉と尋ねると、彼はワクワクとした面持ちでもったいぶるかのように言った。
「知っていますか? 絵の具の茶色って、地域によってはミイラの粉末から作るんだそうですよ」
「何ていうか、描いた絵が呪われそうだな、それは」
「――はっ! ということは、ミイラの粉末で描けば、あの〈動く絵〉と同じようなものが作れるってことですか!?」
「いや、それは知らないが……」
死神ちゃんが苦い顔を浮かべると、彼は一層瞳を輝かせた。
彼は〈現在手がけている絵画を、より素晴らしいものにするにはどうしたらいいのか〉と悩んでいたそうだ。手持ちの絵の具を塗り重ねてみても、様々な技法を試してみても、どうもしっくりこないのだそうだ。それで新たな技法や道具についていろいろと調べてみたところ、ある文献でミイラのことについて知ったのだという。
「それでどうしても、ミイラ絵の具の茶色はどんな色合いなのだろうというのを知りたくなってですね。でも、この国は亡骸をミイラにする習慣はないですし。あったとしても、墓荒らしをするだなんてそんな罰当たりなことはしたくないですし。なので、五階に行くための探索活動を頑張りました。――ほら、五階には砂漠の区域がありますでしょう?」
「お前が五階に? 〈姿くらまし〉しか能がないお前が?」
「いやだなあ。戦闘を楽に進めるためにも、転職して、錬金術師になってきたんですよ」
死神ちゃんは驚愕して顔をしかめた。何故なら、彼は〈動く絵〉の中の武器や防具を得るために、盗賊の〈盗む〉という技を覚える予定だったはずだからだ。彼は苦笑いを浮かべると、情けない調子で「アレは諦めたんです」とこぼした。〈盗む〉は敵に気づかれることなく素早く行動に移すことが大切なのだが、どうやら彼はその〈素早く〉というところで躓いたらしい。
「何でだよ。お前、創作活動中は素早く手が動いているじゃないか」
「手はね、すごく早く動かせるんですよ。もう〈頭と手が直結しているんじゃないか〉っていうくらい、勝手に動いてくれるんです。でもね、それ以外が素早くできないんですよ。――何ていうんですか? 運動音痴って言えばいいんですか?」
死神ちゃんはしばし彼の顔をじっと見つめると、唸るように嗚呼と相槌を打った。彼はさすがに傷ついたのか、素っ頓狂な声で「ひどい!」と叫んだ。
芸術家は〈砂漠地区〉へとやってくると、ミイラを探して彷徨った。この砂漠には〈小さなピラミッド〉があり、その中はちょっとしたダンジョンのようになっている。その周辺によくミイラが出没するという情報を得ていた彼は、とりあえずピラミッドを探して歩いた。
彼の後ろをついて歩いていた死神ちゃんは、突如上空へと打ち上げられて思わずギャアと叫んだ。飛行靴でバランスをとる間もなく砂煙を巻き上げて墜落した死神ちゃんは、涙目でゲホゲホとむせ返りながら立ち上がった。すると、目の前では芸術家が〈死神ちゃんを打ち上げたモノ〉と相対してガタガタと震えていた。
それは、ファラオのミイラが収められているような石の棺だった。砂に埋もれていた棺は、まるで竹が生えるかのように勢い良く伸びい出たようだ。死神ちゃんはちょうどその真上にいたから、打ち上げられたようだった。
棺は時おり不自然にガタンガタンと派手に揺れ、揺れてできた隙間から不気味な呻き声のようなものを響かせた。死神ちゃんは引き気味に顔を歪めると、ボソボソと呟くように言った。
「これ、あれか? とっとと倒しちまわないと、中から生きたミイラが出てきて襲ってくる的なアレか?」
「生きたミイラってなんですか!? ミイラは死んでいるものでしょう!?」
「いや、そうなんだけどな。まあ、あれだ。B級映画的なアレだ」
「ビーキューエイガ? 何ですか、それは!」
芸術家が声をひっくり返すと、それに呼応するかのように再び棺が派手に揺れた、彼は目尻に涙を浮かべて悲鳴を上げると、五次郎に棺をやっつけるようにと指示を出した。五次郎は口から炎を吐いたが、石を溶かすほどの熱は与えられなかった。
熱を帯びて赤くなった石の中で、何かが苦しそうな声を上げながらのたうち回っていた。それを聞いているだけで、気分が滅入るし呪われそうだと死神ちゃんは思った。芸術家も同じようなことを思ったようで、彼は涙を浮かべて「早く粉末を手に入れて帰りたい」とこぼした。死神ちゃんもげっそりとした顔を浮かべると、肩をぐったりと落とした。
「なあ、もしかして、熱を与え続けたら中のミイラも干からびて普通のミイラになるのかな」
「えええっ!? ということは、やっぱり棺の中はピチピチのフレッシュさんなんですかね!?」
「いや、それは分からないけれどもさ! とにかく、これ、すごく嫌な気分になってくるから、早く倒して粉末を手に入れてくれよ!」
「分かっていますよ! ――さあ、五次郎! お願いします!」
五次郎は気合を入れてキシャーと鳴いたが、辺りの熱気に負けて一気に乾き、粉々に砕けた。死神ちゃんは絶叫すると、声の限り「五次郎!」と叫んで悲しんだ。芸術家は下唇を噛むと、ポーチに手を乱暴に突っ込んだ。彼が取り出したのは、爆弾を調合するための薬品などではなく、新しい粘土だった。
彼は手早く粘土を捏ねると、抽象的な何かを作り上げた。フウと息を吹きかけられて〈仮初の命〉を与えられたそれは「ヨウジョー!」と鳴きながら決めポーズをとると、石の棺へと突っ込んでいった。
「頑張れ、幼女! お前ならやれるだろ!? なにせ、俺がモデルなんだからな! 認めたくないが!」
「認めてくださいよ! 結構、お気に入りなんですよ!?」
「いやだから、抽象的過ぎるだろ、さすがにさ! どうして他のものは精巧なくせに、俺がモデルのときはいつだって適当なんだよ!」
「そんなことはないですよ! 凄まじく愛情込めているんですか―― ああああああ! 砕け散った! なんてことだ!」
「ほらあ! やっぱりお前のアレは愛情じゃなくて、俺のこと馬鹿にしてるだけなんだろう!?」
「違いますよ! チョッパヤで作ったから――」
死神ちゃんと芸術家が言い合いをしていると、棺の蓋が重々しい音を立ててゆっくりと開いた。中から何かがギョロリと目を光らせると、芸術家は本日一番の悲鳴を上げた。
彼は踵を返して逃げようとしたのだが、棺の中に飲み込まれて消えた。死神ちゃんは愕然とした表情を浮かべたまま、その場からスウと姿を消した。
**********
「ヤバい。意外と怖かった」
待機室に戻ってくるなり死神ちゃんがそう呟くと、ケイティーが苦笑いを浮かべて言った。
「小花は、ピラミッドの中にはまだ行ったことないんだっけ?」
「ああ、ないよ。勤務三年目に入ったっていうのに、いまだに」
「あそこ、過疎ってるからなあ。仕方ないよ。――ちなみにね、中はもっとエグいよ。でも、きっと既視感があると思うよ」
死神ちゃんは、表情もなく嗚呼と相槌を打った。〈どこぞのB級映画好きが、趣味全開で手がけた施設とモンスターたちなのだろうな〉というのが容易に想像できたからだ。
死神ちゃんは気を取り直して、クリスを見上げた。彼は以前、「転生前は素材収集のために追いかけ回したり、剥いだり、掘ったりした」と言っていたからだ。彼は死神ちゃんに見つめられると、バツが悪そうにそそくさと出動していった。ゲートをくぐって消えていく彼の背中を眺めながら、ケイティーがポツリと言った。
「モニター見ながら、懐かしいって言ってたよ」
「ああ、やっぱりな」
「ちなみに、ピエロも言ってたよ」
「は!? あいつも!?」
死神ちゃんは驚いてギョッと目を剥くと、勢い良くケイティーを見上げた。何でも、転生前のピエロは絵の具ではなく薬としてミイラを求めていたらしい。死神ちゃんは「何かを追い求めし者は、時としてエグい。いろいろな意味で」ということを改めて知り、乾いた声で短く笑った。
後日、死神ちゃんは〈薬としてのミイラ〉を求めてやってきたお薬屋さんと一緒にピラミッドの中で迷子になるのだが、それはまた別のお話。
――――あの金色ボディのマッドサイエンティストは、サメの他にゾンビ(ミイラ含む)と〈忘れ去られた遺跡〉的なものがお気に入りなのだそうDEATH。
「うおおおお! 五次郎ーッ!」
「キシャーッ!」
「おおおお! お前、鳴けるようになったのか! すごいな! 五次郎、偉いぞ~!」
「キッシャーッ!」
死神ちゃんは満面の笑みを浮かべると、どこぞの特撮ドラマに出てくる産業廃棄物の申し子にそっくりの怪獣を模した人形と戯れた。五次郎と一緒に、男性の周りをグルグルと回るように追いかけっこをして遊んだのだった。
とても楽しそうに笑い声を上げていた死神ちゃんだったが、一転して今にも泣きそうな顔でプルプルと震えだした。べしゃりという音を立ててうっかり躓いた五次郎が、そのまま粘土の塊に戻ってしまったのだ。男性は苦笑いを浮かべると、愕然とした表情を浮かべて震える死神ちゃんの頭を撫でた。
「すぐに作り直してあげますから。だから、ね? 泣かないでくださいよ」
休憩するのにちょうどよい拓けた場所へとやってくると、男性――芸術家は〈五次郎の成れの果て〉を四角い形に整えた。そして作業用のナイフを手に取ると、粘土を鮮やかに切り出し始めた。しばらくして、五次郎は華麗に復活を遂げた。死神ちゃんは優しく「五次郎、良かったな」と言うと、嬉しそうに頬を緩ませた。
死神ちゃんは五次郎を大切そうに抱き寄せると、芸術家に礼を述べた。そして〈本日の目的〉と尋ねると、彼はワクワクとした面持ちでもったいぶるかのように言った。
「知っていますか? 絵の具の茶色って、地域によってはミイラの粉末から作るんだそうですよ」
「何ていうか、描いた絵が呪われそうだな、それは」
「――はっ! ということは、ミイラの粉末で描けば、あの〈動く絵〉と同じようなものが作れるってことですか!?」
「いや、それは知らないが……」
死神ちゃんが苦い顔を浮かべると、彼は一層瞳を輝かせた。
彼は〈現在手がけている絵画を、より素晴らしいものにするにはどうしたらいいのか〉と悩んでいたそうだ。手持ちの絵の具を塗り重ねてみても、様々な技法を試してみても、どうもしっくりこないのだそうだ。それで新たな技法や道具についていろいろと調べてみたところ、ある文献でミイラのことについて知ったのだという。
「それでどうしても、ミイラ絵の具の茶色はどんな色合いなのだろうというのを知りたくなってですね。でも、この国は亡骸をミイラにする習慣はないですし。あったとしても、墓荒らしをするだなんてそんな罰当たりなことはしたくないですし。なので、五階に行くための探索活動を頑張りました。――ほら、五階には砂漠の区域がありますでしょう?」
「お前が五階に? 〈姿くらまし〉しか能がないお前が?」
「いやだなあ。戦闘を楽に進めるためにも、転職して、錬金術師になってきたんですよ」
死神ちゃんは驚愕して顔をしかめた。何故なら、彼は〈動く絵〉の中の武器や防具を得るために、盗賊の〈盗む〉という技を覚える予定だったはずだからだ。彼は苦笑いを浮かべると、情けない調子で「アレは諦めたんです」とこぼした。〈盗む〉は敵に気づかれることなく素早く行動に移すことが大切なのだが、どうやら彼はその〈素早く〉というところで躓いたらしい。
「何でだよ。お前、創作活動中は素早く手が動いているじゃないか」
「手はね、すごく早く動かせるんですよ。もう〈頭と手が直結しているんじゃないか〉っていうくらい、勝手に動いてくれるんです。でもね、それ以外が素早くできないんですよ。――何ていうんですか? 運動音痴って言えばいいんですか?」
死神ちゃんはしばし彼の顔をじっと見つめると、唸るように嗚呼と相槌を打った。彼はさすがに傷ついたのか、素っ頓狂な声で「ひどい!」と叫んだ。
芸術家は〈砂漠地区〉へとやってくると、ミイラを探して彷徨った。この砂漠には〈小さなピラミッド〉があり、その中はちょっとしたダンジョンのようになっている。その周辺によくミイラが出没するという情報を得ていた彼は、とりあえずピラミッドを探して歩いた。
彼の後ろをついて歩いていた死神ちゃんは、突如上空へと打ち上げられて思わずギャアと叫んだ。飛行靴でバランスをとる間もなく砂煙を巻き上げて墜落した死神ちゃんは、涙目でゲホゲホとむせ返りながら立ち上がった。すると、目の前では芸術家が〈死神ちゃんを打ち上げたモノ〉と相対してガタガタと震えていた。
それは、ファラオのミイラが収められているような石の棺だった。砂に埋もれていた棺は、まるで竹が生えるかのように勢い良く伸びい出たようだ。死神ちゃんはちょうどその真上にいたから、打ち上げられたようだった。
棺は時おり不自然にガタンガタンと派手に揺れ、揺れてできた隙間から不気味な呻き声のようなものを響かせた。死神ちゃんは引き気味に顔を歪めると、ボソボソと呟くように言った。
「これ、あれか? とっとと倒しちまわないと、中から生きたミイラが出てきて襲ってくる的なアレか?」
「生きたミイラってなんですか!? ミイラは死んでいるものでしょう!?」
「いや、そうなんだけどな。まあ、あれだ。B級映画的なアレだ」
「ビーキューエイガ? 何ですか、それは!」
芸術家が声をひっくり返すと、それに呼応するかのように再び棺が派手に揺れた、彼は目尻に涙を浮かべて悲鳴を上げると、五次郎に棺をやっつけるようにと指示を出した。五次郎は口から炎を吐いたが、石を溶かすほどの熱は与えられなかった。
熱を帯びて赤くなった石の中で、何かが苦しそうな声を上げながらのたうち回っていた。それを聞いているだけで、気分が滅入るし呪われそうだと死神ちゃんは思った。芸術家も同じようなことを思ったようで、彼は涙を浮かべて「早く粉末を手に入れて帰りたい」とこぼした。死神ちゃんもげっそりとした顔を浮かべると、肩をぐったりと落とした。
「なあ、もしかして、熱を与え続けたら中のミイラも干からびて普通のミイラになるのかな」
「えええっ!? ということは、やっぱり棺の中はピチピチのフレッシュさんなんですかね!?」
「いや、それは分からないけれどもさ! とにかく、これ、すごく嫌な気分になってくるから、早く倒して粉末を手に入れてくれよ!」
「分かっていますよ! ――さあ、五次郎! お願いします!」
五次郎は気合を入れてキシャーと鳴いたが、辺りの熱気に負けて一気に乾き、粉々に砕けた。死神ちゃんは絶叫すると、声の限り「五次郎!」と叫んで悲しんだ。芸術家は下唇を噛むと、ポーチに手を乱暴に突っ込んだ。彼が取り出したのは、爆弾を調合するための薬品などではなく、新しい粘土だった。
彼は手早く粘土を捏ねると、抽象的な何かを作り上げた。フウと息を吹きかけられて〈仮初の命〉を与えられたそれは「ヨウジョー!」と鳴きながら決めポーズをとると、石の棺へと突っ込んでいった。
「頑張れ、幼女! お前ならやれるだろ!? なにせ、俺がモデルなんだからな! 認めたくないが!」
「認めてくださいよ! 結構、お気に入りなんですよ!?」
「いやだから、抽象的過ぎるだろ、さすがにさ! どうして他のものは精巧なくせに、俺がモデルのときはいつだって適当なんだよ!」
「そんなことはないですよ! 凄まじく愛情込めているんですか―― ああああああ! 砕け散った! なんてことだ!」
「ほらあ! やっぱりお前のアレは愛情じゃなくて、俺のこと馬鹿にしてるだけなんだろう!?」
「違いますよ! チョッパヤで作ったから――」
死神ちゃんと芸術家が言い合いをしていると、棺の蓋が重々しい音を立ててゆっくりと開いた。中から何かがギョロリと目を光らせると、芸術家は本日一番の悲鳴を上げた。
彼は踵を返して逃げようとしたのだが、棺の中に飲み込まれて消えた。死神ちゃんは愕然とした表情を浮かべたまま、その場からスウと姿を消した。
**********
「ヤバい。意外と怖かった」
待機室に戻ってくるなり死神ちゃんがそう呟くと、ケイティーが苦笑いを浮かべて言った。
「小花は、ピラミッドの中にはまだ行ったことないんだっけ?」
「ああ、ないよ。勤務三年目に入ったっていうのに、いまだに」
「あそこ、過疎ってるからなあ。仕方ないよ。――ちなみにね、中はもっとエグいよ。でも、きっと既視感があると思うよ」
死神ちゃんは、表情もなく嗚呼と相槌を打った。〈どこぞのB級映画好きが、趣味全開で手がけた施設とモンスターたちなのだろうな〉というのが容易に想像できたからだ。
死神ちゃんは気を取り直して、クリスを見上げた。彼は以前、「転生前は素材収集のために追いかけ回したり、剥いだり、掘ったりした」と言っていたからだ。彼は死神ちゃんに見つめられると、バツが悪そうにそそくさと出動していった。ゲートをくぐって消えていく彼の背中を眺めながら、ケイティーがポツリと言った。
「モニター見ながら、懐かしいって言ってたよ」
「ああ、やっぱりな」
「ちなみに、ピエロも言ってたよ」
「は!? あいつも!?」
死神ちゃんは驚いてギョッと目を剥くと、勢い良くケイティーを見上げた。何でも、転生前のピエロは絵の具ではなく薬としてミイラを求めていたらしい。死神ちゃんは「何かを追い求めし者は、時としてエグい。いろいろな意味で」ということを改めて知り、乾いた声で短く笑った。
後日、死神ちゃんは〈薬としてのミイラ〉を求めてやってきたお薬屋さんと一緒にピラミッドの中で迷子になるのだが、それはまた別のお話。
――――あの金色ボディのマッドサイエンティストは、サメの他にゾンビ(ミイラ含む)と〈忘れ去られた遺跡〉的なものがお気に入りなのだそうDEATH。
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