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* 死神生活ニ年目 *
第235話 ドキドキ★お料理行進曲(デスマーチ)②
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「ねえ、折角だから、ホワイトデーもやりたいわね」
ときは少し遡り、バレンタイン前。生チョコを無事に作り終えてラッピング前の小休止中、コーヒーブレイクをしながらアリサが目を輝かせた。味見を兼ねて出来上がったばかりの生チョコをさっそく頂いていた死神ちゃんはひどく顔を歪めると、手にしていたフォークをうっかり落とした。
みんなでバレンタインに配るチョコレートを作ろうという約束のため、死神ちゃんたちはアリサの家の広いキッチンに集まっていた。〈温めた生クリームと刻んだチョコレートを混ぜ合わせてココアパウダーをかけるだけだから、そんな悲劇は起こらないだろう〉ということで生チョコがチョイスされたわけだが、チョコレートを刻むという作業でアリサは躓いた。おぼつかない手で硬いチョコレートを刻む彼女は危なっかしく、いつか怪我をするのではと思いながら誰もが見守る中、案の定彼女はやらかした。幸い大事には至らなかったものの、買い物担当だった死神ちゃんは、その光景を目にして「こんなことなら、刻まなくても使えるチップタイプにすればよかった」と、とても後悔したのだった。
結局彼女に割り当てられていた分のチョコレートは、マッコイとサーシャが手分けして刻むことになった。その後もアリサは生チョコを沸騰させすぎて鍋を駄目にしたり、風味付けのための洋酒をうっかり床にぶちまけたりした。作り終えたころにはマッコイとサーシャがぐったりとしており、天狐とピエロとクリスがとてつもなく心配していた。ケイティーはというと、ぶちまけられた酒がもったいないということばかり気にしていた。
〈そんな戦場をたった今潜り抜けたばかりだというのに、こいつは一体何を言っているんだ〉と言いたげな眼差しで、死神ちゃんはアリサを呆然と見つめながら落としたフォークを拾い上げた。すると、サーシャが「ホワイトデー?」と首を傾げた。アリサは生チョコを頬張ると、コーヒーを口に運んでから話しだした。
「バレンタインにお菓子をもらった人へ、お返しをする日なんですって。転生前私がいた国ではそういう習慣はなかったんですけれど、日本の取引先から〈ホワイトデーだから〉ってお菓子を頂いて知ったのよ。日本をはじめとするアジア圏の一部では、そういうイベントがあるらしいのよね」
「お返しの日かあ。去年チョコレートを配り終えたあと、渡してない人からももらって、個別でお返しを用意したんだよね。だから、まとめてお返しして回れる日があるのはありがたいなあ」
サーシャは先ほど悲惨な思いをしたというにも関わらず、ケロリとした顔でそう言うと「何を作る?」と首をひねった。――こうして迎えた、ホワイトデーのお返し作り会当日。死神ちゃんはすでにテンションが落ちきっていた。
バレンタインのチョコ作りを終えたあの後、レシピ本を見ながら作るものを決めたのだが、天狐とアリサの一存で〈コーヒーとチョコのマーブルケーキ〉に決まったのだ。ただでさえアリサが一緒に調理を行うのだ、少しでも手の込んだものは避けたかったのだが、アリサが「これがいい」と言い出してすぐレピシを覗き見た天狐が「〈こーひー〉を使うとは、大人じゃのう!」と言って大はしゃぎしたのだ。そんな天狐を見たら、誰も〈これは駄目だ〉とは言えなかった。
まずは材料の下準備から始まった。薄力粉と強力粉は混ぜ合わせた状態で二回ふるっておく。豪快にふるって粉を巻き上げてしまった天狐がくしゃみをする中、アリサはどうしたらそうなるのやら、粉を頭から被った。
バターは薄切りにして室内に置いて柔らかくするのだが、〈切れていれば良いんでしょ〉という雰囲気を醸していたアリサは案の定適当に切った。それでは柔らかくなる速度がまちまちとなるし、混ぜ合わせるときに溶けるのもまちまちとなると窘められた彼女は、大きさを整えるべく渋々切り直した。
卵は常温に戻した上で卵黄と卵白に分ける。しかも、全部まるまる使うわけではなく、卵黄は三つ分、卵白は二つ分だ。しかし、アリサは卵黄も卵白も全て一緒くたに器の中に入れた。サーシャが頬を引きつらせながら卵黄を救出し、卵白の適量は計量によって割り出すことにした。
一方そのころ、おみつ監督のもと作業を行っていた天狐とケイティーは、バターと卵の準備を難なく終え、インスタントコーヒーをラム酒で溶くという作業を行っていた。洋酒とコーヒーという大人の香りに上機嫌となった天狐を、ケイティーは幸せそうに眺めていた。
今回使用するチョコレートは生地に直接投入するため、どうしても細かく刻む必要があった。どの班よりも早く自分たちの分の準備を終えていた死神ちゃんとクリスとピエロは、マッコイを手伝って全員分のチョコレートを刻む作業を行った。
下準備が終わると、さっそく生地作りが始まった。ボールにバターを入れ泡立てていくのだが、アリサは何の考えもなしに全ての砂糖を投入してサーシャが悲鳴を上げた。砂糖はバターが空気を含んでクリーム状となったあと、馴染み具合を見ながら複数回に分けて投入するものである。そのため、もちろんバターは一向にクリーム状にならず、砂糖もざらざらとバター内に残った。
できる限り馴染ませようと必死に泡立て器を動かさねばならなくなり、アリサはすぐさま疲れ切ってしまった。代わりにサーシャが泡立て作業を行うことになったのだが、馴染もうとせず頑固に残り続ける砂糖に彼女の心は打ち砕かれた。作業はさらにマッコイへと引き継がれることになり、彼は呆れ顔を浮かべてひたすらに泡立て器を動かし続けた。
「サーシャさんとマコ姉という強力な布陣を敷いていながら、すでに暗雲立ち込めてるって、どういうことなの……」
すでにメレンゲを作り始めていたクリスは、手を止めるとアリサを呆然と見つめた。アナログな泡立て器を使うことに疲れたピエロが「ブレンダーを使いたい」と口を尖らせるのを宥めながら、死神ちゃんはアリサたちのほうを見ることもなく「いつものことだから」と頬を引きつらせた。
ピエロが「ブレンダーを使いたい」と言ったのが聞こえていたのか、天狐の班でも「使いたい」という声が上がった。全て手作業で行っているため、生地を作るだけで腕が疲れてしまったのだ。
ブレンダーは一応一台だけ用意してはあるものの、大惨事が起きては困るということでなるべく使わないようにということになっていた。しかし、お子様な体の天狐やピエロや死神ちゃんには〈全て手作業〉というのは体力的にも大変で、作業も中々に進めづらい。かといって、泡立て作業は監督者に任せるということを天狐はしたくなかった。全て自分で作りたかったのである。結局〈監督者の言いつけをきちんと守る〉という条件のもと、ハンドブレンダーは使われることとなった。
天狐たちが使い終えて一旦綺麗に洗ったあと、死神ちゃん達もブレンダーを使ってメレンゲを作った。その様子を見ていたアリサがとても羨ましそうに「私もブレンダーを使いたい」とこぼした。サーシャとマッコイは頑なに許可を出さなかったが、最終的に駄々をこねたアリサが勝利を収めた。
マッコイ監督のもと、アリサはハンドブレンダーを使い始めた。ボウルはしっかりと押さえているにも関わらず不自然にガタガタと揺れ、卵白は辺りに飛びまくっていた。こちらも砂糖を複数回に分けて入れるのだが、アリサは今回はきちんとそれを守った。しかし、砂糖を入れて混ぜていくごとに卵白が固まっていくため、少しは混ぜやすくなるのだが、アリサはなおも混ぜづらそうにしていた。不自然に大きく揺れていたボウルはとうとうひっくり返り、そしてブレンダーは宙を舞った。
ブレンダーが飛んだ瞬間、マッコイとケイティーがすかさず動いた。作業をしながらアリサをぼんやりと眺めていた死神ちゃんも、顔を青ざめさせて「サーシャ、避けろ」と叫んだ。ブレンダーは、洗い物をしていたサーシャめがけて飛んでいたのだ。
マッコイがケイティーはサーシャを突き飛ばすと、ブレンダーは死神二人の体を貫通した。首元をべったりとメレンゲで汚したマッコイは尻もちをついたサーシャの両肩を掴むと、とても心配そうな表情を浮かべて「大丈夫だった?」と声をかけた。ケイティーは自身の腰辺りから射出されたブレンダーに手をかけてスイッチを切ると、頬を引きつらせてポツリと言った。
「ブレンダーが空を飛ぶっていう話、本当だったんだ……。てっきり小花が〈過去の女の失敗談〉として、面白おかしく誇張してるだけなんだと思ってた……」
「そんなひどいこと、するわけないだろう。俺は事実しか言わないよ」
「でも、相当ひどいよね。……〈これが事実である〉という意味で」
アリサは死神ちゃんとケイティーの会話を聞いて「ひどい!」と憤慨したが、そんな彼女に対してサーシャが目に涙を浮かべながら「どっちがなの!」と叫んだ。
「もう絶対に、アリサちゃんにはアナログな調理器具しか使わせないんだから!」
「そんな! 私だって、もっとお料理が上手にできるようになったら、ゆくゆくは使えるようになりたいわ!」
「絶対に嫌よ! 私、まだ死にたくないもの!」
「いいわよ、サーシャ。使わなきゃあ慣れないだろうし、アタシが体張るわよ。死神だったら、何があっても死なないから。たとえ、キッチン全体が爆発して吹き飛んだとしてもね……」
スンスンと泣き出すサーシャを宥めながら、マッコイが深いため息をついた。死神ちゃんとクリスとピエロの三人は、この惨劇を見なかったことにすることに決めた。三人が和やかな笑みを浮かべて作業を再開させたころ、天狐がいきなり素っ頓狂な声を上げた。
「はっ! 小麦粉が全部生地の中に落ちてしまったのじゃ! おみつ、どうしたらよいかのう!? 大丈夫かのう!?」
どうやら天狐は、突然起きた凶悪な出来事により思考が停止して、三回に分けて入れる小麦粉を一度に全部入れてしまったらしい。死神ちゃんは作業を中断させると、ぷるぷると震えだした天狐を励ましに行ったのだった。
――――みんながケーキを焼き始めたころ、シャワーを借りて戻ってきたマッコイは再びシャワーを浴びねばならない事態に遭遇した。そんなマッコイを不憫そうに眺めながらクリスと天狐が「料理って、こういうものだっけ?」と首を傾げたのを、死神ちゃんとサーシャは全力で否定したそうDEATH。
ときは少し遡り、バレンタイン前。生チョコを無事に作り終えてラッピング前の小休止中、コーヒーブレイクをしながらアリサが目を輝かせた。味見を兼ねて出来上がったばかりの生チョコをさっそく頂いていた死神ちゃんはひどく顔を歪めると、手にしていたフォークをうっかり落とした。
みんなでバレンタインに配るチョコレートを作ろうという約束のため、死神ちゃんたちはアリサの家の広いキッチンに集まっていた。〈温めた生クリームと刻んだチョコレートを混ぜ合わせてココアパウダーをかけるだけだから、そんな悲劇は起こらないだろう〉ということで生チョコがチョイスされたわけだが、チョコレートを刻むという作業でアリサは躓いた。おぼつかない手で硬いチョコレートを刻む彼女は危なっかしく、いつか怪我をするのではと思いながら誰もが見守る中、案の定彼女はやらかした。幸い大事には至らなかったものの、買い物担当だった死神ちゃんは、その光景を目にして「こんなことなら、刻まなくても使えるチップタイプにすればよかった」と、とても後悔したのだった。
結局彼女に割り当てられていた分のチョコレートは、マッコイとサーシャが手分けして刻むことになった。その後もアリサは生チョコを沸騰させすぎて鍋を駄目にしたり、風味付けのための洋酒をうっかり床にぶちまけたりした。作り終えたころにはマッコイとサーシャがぐったりとしており、天狐とピエロとクリスがとてつもなく心配していた。ケイティーはというと、ぶちまけられた酒がもったいないということばかり気にしていた。
〈そんな戦場をたった今潜り抜けたばかりだというのに、こいつは一体何を言っているんだ〉と言いたげな眼差しで、死神ちゃんはアリサを呆然と見つめながら落としたフォークを拾い上げた。すると、サーシャが「ホワイトデー?」と首を傾げた。アリサは生チョコを頬張ると、コーヒーを口に運んでから話しだした。
「バレンタインにお菓子をもらった人へ、お返しをする日なんですって。転生前私がいた国ではそういう習慣はなかったんですけれど、日本の取引先から〈ホワイトデーだから〉ってお菓子を頂いて知ったのよ。日本をはじめとするアジア圏の一部では、そういうイベントがあるらしいのよね」
「お返しの日かあ。去年チョコレートを配り終えたあと、渡してない人からももらって、個別でお返しを用意したんだよね。だから、まとめてお返しして回れる日があるのはありがたいなあ」
サーシャは先ほど悲惨な思いをしたというにも関わらず、ケロリとした顔でそう言うと「何を作る?」と首をひねった。――こうして迎えた、ホワイトデーのお返し作り会当日。死神ちゃんはすでにテンションが落ちきっていた。
バレンタインのチョコ作りを終えたあの後、レシピ本を見ながら作るものを決めたのだが、天狐とアリサの一存で〈コーヒーとチョコのマーブルケーキ〉に決まったのだ。ただでさえアリサが一緒に調理を行うのだ、少しでも手の込んだものは避けたかったのだが、アリサが「これがいい」と言い出してすぐレピシを覗き見た天狐が「〈こーひー〉を使うとは、大人じゃのう!」と言って大はしゃぎしたのだ。そんな天狐を見たら、誰も〈これは駄目だ〉とは言えなかった。
まずは材料の下準備から始まった。薄力粉と強力粉は混ぜ合わせた状態で二回ふるっておく。豪快にふるって粉を巻き上げてしまった天狐がくしゃみをする中、アリサはどうしたらそうなるのやら、粉を頭から被った。
バターは薄切りにして室内に置いて柔らかくするのだが、〈切れていれば良いんでしょ〉という雰囲気を醸していたアリサは案の定適当に切った。それでは柔らかくなる速度がまちまちとなるし、混ぜ合わせるときに溶けるのもまちまちとなると窘められた彼女は、大きさを整えるべく渋々切り直した。
卵は常温に戻した上で卵黄と卵白に分ける。しかも、全部まるまる使うわけではなく、卵黄は三つ分、卵白は二つ分だ。しかし、アリサは卵黄も卵白も全て一緒くたに器の中に入れた。サーシャが頬を引きつらせながら卵黄を救出し、卵白の適量は計量によって割り出すことにした。
一方そのころ、おみつ監督のもと作業を行っていた天狐とケイティーは、バターと卵の準備を難なく終え、インスタントコーヒーをラム酒で溶くという作業を行っていた。洋酒とコーヒーという大人の香りに上機嫌となった天狐を、ケイティーは幸せそうに眺めていた。
今回使用するチョコレートは生地に直接投入するため、どうしても細かく刻む必要があった。どの班よりも早く自分たちの分の準備を終えていた死神ちゃんとクリスとピエロは、マッコイを手伝って全員分のチョコレートを刻む作業を行った。
下準備が終わると、さっそく生地作りが始まった。ボールにバターを入れ泡立てていくのだが、アリサは何の考えもなしに全ての砂糖を投入してサーシャが悲鳴を上げた。砂糖はバターが空気を含んでクリーム状となったあと、馴染み具合を見ながら複数回に分けて投入するものである。そのため、もちろんバターは一向にクリーム状にならず、砂糖もざらざらとバター内に残った。
できる限り馴染ませようと必死に泡立て器を動かさねばならなくなり、アリサはすぐさま疲れ切ってしまった。代わりにサーシャが泡立て作業を行うことになったのだが、馴染もうとせず頑固に残り続ける砂糖に彼女の心は打ち砕かれた。作業はさらにマッコイへと引き継がれることになり、彼は呆れ顔を浮かべてひたすらに泡立て器を動かし続けた。
「サーシャさんとマコ姉という強力な布陣を敷いていながら、すでに暗雲立ち込めてるって、どういうことなの……」
すでにメレンゲを作り始めていたクリスは、手を止めるとアリサを呆然と見つめた。アナログな泡立て器を使うことに疲れたピエロが「ブレンダーを使いたい」と口を尖らせるのを宥めながら、死神ちゃんはアリサたちのほうを見ることもなく「いつものことだから」と頬を引きつらせた。
ピエロが「ブレンダーを使いたい」と言ったのが聞こえていたのか、天狐の班でも「使いたい」という声が上がった。全て手作業で行っているため、生地を作るだけで腕が疲れてしまったのだ。
ブレンダーは一応一台だけ用意してはあるものの、大惨事が起きては困るということでなるべく使わないようにということになっていた。しかし、お子様な体の天狐やピエロや死神ちゃんには〈全て手作業〉というのは体力的にも大変で、作業も中々に進めづらい。かといって、泡立て作業は監督者に任せるということを天狐はしたくなかった。全て自分で作りたかったのである。結局〈監督者の言いつけをきちんと守る〉という条件のもと、ハンドブレンダーは使われることとなった。
天狐たちが使い終えて一旦綺麗に洗ったあと、死神ちゃん達もブレンダーを使ってメレンゲを作った。その様子を見ていたアリサがとても羨ましそうに「私もブレンダーを使いたい」とこぼした。サーシャとマッコイは頑なに許可を出さなかったが、最終的に駄々をこねたアリサが勝利を収めた。
マッコイ監督のもと、アリサはハンドブレンダーを使い始めた。ボウルはしっかりと押さえているにも関わらず不自然にガタガタと揺れ、卵白は辺りに飛びまくっていた。こちらも砂糖を複数回に分けて入れるのだが、アリサは今回はきちんとそれを守った。しかし、砂糖を入れて混ぜていくごとに卵白が固まっていくため、少しは混ぜやすくなるのだが、アリサはなおも混ぜづらそうにしていた。不自然に大きく揺れていたボウルはとうとうひっくり返り、そしてブレンダーは宙を舞った。
ブレンダーが飛んだ瞬間、マッコイとケイティーがすかさず動いた。作業をしながらアリサをぼんやりと眺めていた死神ちゃんも、顔を青ざめさせて「サーシャ、避けろ」と叫んだ。ブレンダーは、洗い物をしていたサーシャめがけて飛んでいたのだ。
マッコイがケイティーはサーシャを突き飛ばすと、ブレンダーは死神二人の体を貫通した。首元をべったりとメレンゲで汚したマッコイは尻もちをついたサーシャの両肩を掴むと、とても心配そうな表情を浮かべて「大丈夫だった?」と声をかけた。ケイティーは自身の腰辺りから射出されたブレンダーに手をかけてスイッチを切ると、頬を引きつらせてポツリと言った。
「ブレンダーが空を飛ぶっていう話、本当だったんだ……。てっきり小花が〈過去の女の失敗談〉として、面白おかしく誇張してるだけなんだと思ってた……」
「そんなひどいこと、するわけないだろう。俺は事実しか言わないよ」
「でも、相当ひどいよね。……〈これが事実である〉という意味で」
アリサは死神ちゃんとケイティーの会話を聞いて「ひどい!」と憤慨したが、そんな彼女に対してサーシャが目に涙を浮かべながら「どっちがなの!」と叫んだ。
「もう絶対に、アリサちゃんにはアナログな調理器具しか使わせないんだから!」
「そんな! 私だって、もっとお料理が上手にできるようになったら、ゆくゆくは使えるようになりたいわ!」
「絶対に嫌よ! 私、まだ死にたくないもの!」
「いいわよ、サーシャ。使わなきゃあ慣れないだろうし、アタシが体張るわよ。死神だったら、何があっても死なないから。たとえ、キッチン全体が爆発して吹き飛んだとしてもね……」
スンスンと泣き出すサーシャを宥めながら、マッコイが深いため息をついた。死神ちゃんとクリスとピエロの三人は、この惨劇を見なかったことにすることに決めた。三人が和やかな笑みを浮かべて作業を再開させたころ、天狐がいきなり素っ頓狂な声を上げた。
「はっ! 小麦粉が全部生地の中に落ちてしまったのじゃ! おみつ、どうしたらよいかのう!? 大丈夫かのう!?」
どうやら天狐は、突然起きた凶悪な出来事により思考が停止して、三回に分けて入れる小麦粉を一度に全部入れてしまったらしい。死神ちゃんは作業を中断させると、ぷるぷると震えだした天狐を励ましに行ったのだった。
――――みんながケーキを焼き始めたころ、シャワーを借りて戻ってきたマッコイは再びシャワーを浴びねばならない事態に遭遇した。そんなマッコイを不憫そうに眺めながらクリスと天狐が「料理って、こういうものだっけ?」と首を傾げたのを、死神ちゃんとサーシャは全力で否定したそうDEATH。
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