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* 死神生活ニ年目 *
第234話 死神ちゃんとお母ちゃんズ
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死神ちゃんはダンジョンに姿を現すなり、誰かの腕に抱かれている感覚を覚えた。思わず顔をしかめた死神ちゃんは、俯かせていた顔を上げて愕然として目を見開いた。
「あら、お嬢ちゃん。お久しぶりね」
「ま、まさこさん……?」
引きつる頬を懸命に持ち上げて挨拶をす返すと、さらに背後から馴染みのある声が聞こえてきた。
「あらあ、お嬢ちゃんじゃあないかい。さあ、ほら、ミートパイをあげようねえ」
「おやまあ、それじゃあ、ばあちゃんは干し芋をあげようかねえ。もちろん、これもこの前の干し柿と同じように、ばあちゃんの手作りだ。さ、お食べ」
酔っ払い酒屋を亭主に持つ〈悪魔と人間のハーフ〉のまさこの腕に抱かれたまま、死神ちゃんはすかさず声のした後方の左右に首を振った。そこには、マンマとばあちゃんが食べ物を手ににこやかな笑みを浮かべていた。死神ちゃんは顔を青ざめさせると、カタカタと震えだした。
「何で……。何で、みなさん、お揃いなんですか……」
「あら、あたしらが知り合い同士なのが不思議なのかい? うちはまさこちゃんのお店からお酒を買っているからね、古くからの馴染みなんだよ。このおばあちゃんは、うちのお店の常連さんさ」
「副業がかなりいい稼ぎとなっているからねえ、こっちにセカンドハウスを借りたんだよ。たかしはお友達と二人で住み込みでアルバイトをしているんだろう? せっかく家を借りられたんだから、お友達と揃って移ってくるように言いたいんだけれども。何故だかいまだに見つけられないんだ。そんなわけで、今はまだばあちゃん一人で住んでいるんだけれども、一人でごはんを食べるのも寂しいからね。マンマのお店にお邪魔させてもらっているんだよ」
「はあ……そう……。ていうか、何でステータス妖精さんが出てこない――」
最強にして最恐の〈お母ちゃん気質三人衆〉に恐れおののきつつも、死神ちゃんはまさこの腕輪から妖精さんが現れないことを不思議に思った。すると、死神ちゃんの言葉に被さるように、彼女たちは「妖精さん?」と首を傾げさせた。どうやら彼女たちは普段ソロで活動しているため、パーティーの組み方を知らないらしい。三人は「よく分からないけれど、パーティーを組んでいるといいことがあるのね」などと言いながら、パーティーを組むべく腕輪を弄りだした。しかし、上手く操作ができないようで、彼女たちはああでもないこうでもないと騒がしくしながら適当に腕輪をつついたり叩いたりしていた。
少しして、まさこが苛立たしげに腕輪を睨むと、死神ちゃんに視線を移し、苦笑いを浮かべて言った。
「ねえ、お嬢ちゃん。これの操作方法、分かる?」
死神ちゃんには〈冒険者の手助けをしてはならない〉という不文律がある。しかしながら、お母ちゃんたちが集結しているという事実にいまだ動揺していたせいか「知らない」と即答することができなかった。
死神ちゃんが言葉を濁していると、まさこは冷ややかな笑みを浮かべて「言いたいことは、きちんと喋る」と抑揚なく言った。死神ちゃんは彼女の威圧的な態度にビクリと身を跳ねさせると、心なしか震えながら「対応させて頂きますので、しばらくお待ちください」と小さな声で答えた。
まさこの腕の中から離れ、無言で三人分の腕輪を操作し始めた死神ちゃんを見て、マンマは不思議そうに首を傾げた。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい? いつもと比べて元気が無いねえ」
「ああ、もしかして、あたしに怯えてるのかも。この前、この子が粗相をするたびに〈お尻ペンペンの刑〉をしていたから」
「あら、あんた、よその子にも容赦がないんだねえ。曲がったことが大嫌いなのは良いことだけど、やり過ぎは駄目だよ」
マンマが眉根を寄せて窘めると、まさこは苦笑いを浮かべて「はあい」と返事した。死神ちゃんが腕輪の操作を終えて〈無事に三人がパーティーを組むことができた〉ということを伝えると、まさこが満面の笑みで死神ちゃんを褒め、マンマとばあちゃんもにこにこと笑いながら礼を述べた。
今回彼女たちがダンジョンにやって来た目的は、簡単に言うと〈女子会〉だそうだ。来月になれば新入生や新入社員、新米冒険者で街が溢れかえる。そうなるとマンマの食堂も忙しくなり、まさこの酒屋も至るところで企画される宴会に対応すべく、配達で大忙しとなる。そんな〈戦〉に挑む前に、リフレッシュしようということになったらしい。
「このダンジョンの中には、高級マッサージサロンがあるらしいじゃない。首都にある貴族御用達のサロンなんか足元にも及ばないという噂でさ、神の手を持つオーナーさんが率いるプロフェッショナルチームが、どんな頑固な疲れも癒やして、ピカピカのツヤツヤにしてくれるんですって」
「いやでも、まさこさん、今もかなりツヤツヤですよね。サロンは必要ないんじゃあないですか?」
死神ちゃんが眉根を寄せて首をひねると、まさこはデレデレとした笑みを浮かべて身をくねらせた。
「これはねえ、うちのダーリンがカカオ豆を集めてくれたからなのよ~! 毎日少しずつ食べててね、とても苦いんだけど、すごく効果があって!」
「ダーリン……? あの宿六とか、そんな散々な言い方していたくせに……」
「口の利き方!」
まさこは鬼の形相で死神ちゃんの頬を片方摘んで伸ばした。死神ちゃんは悲鳴を上げながらも必死に彼女に謝った。ばあちゃんは苦笑いを浮かべると、まさこの眉間をちょんちょんとつつきながら言った。
「ほら、まさこちゃん。ここ、しわが寄っている。あんまりしかめっ面ばかりしてたんじゃあ、〈女子力〉ってやつが下がっちまうよ」
「そうだよ、まさこちゃん。あんた、可愛いんだし、とても賢くて優しい子なんだから。そんなおっかない顔をしなくたって、子供に言うこと聞かせられるだろう」
「うちの〈大きな子供〉を相手にしている時の癖で、つい……」
ばあちゃんだけではなくマンマにも窘められて、まさこはしょんぼりと肩を落とした。そして死神ちゃんを見下ろすと、彼女は申し訳なさそうに謝罪した。
そんなわけで、彼女たちは来月の〈戦〉に備えるべくダンジョンへとやって来た。万全の体制で戦いに臨み、勝利を勝ち取るために。もちろん、女子としての輝きを失わずに保ったまま、大勝を収めるためにだ。
とは言っても、彼女たちは五階に足を踏み入れたことはなかった。そのため、彼女達はお目当てのサロンに行くために、まずは五階フロアの攻略をするところから始めねばならなかった。
死神ちゃんは「当分帰ることはできないだろうな」と憂慮した。未体験ゾーンに足を踏み入れたとはいえ、それで彼女たちが死亡するとは思えなかったからだ。死神ちゃんの予感は案の定的中し、彼女たちは強敵もなんのその、快進撃を続けながら奥へ奥へと進んでいった。途中、〈火炎の地区〉にて炎の巨人が千本ノックの洗礼を浴びせたのだが、彼女たちはそれもあっさりとクリアーしていた。
「昔は息子と、そしてついこの間まではたかしとよくキャッチボールをしていたからねえ。ばあちゃんには楽勝だったよ」
「あたしも。うちの息子は今がやんちゃ盛りだから、もう毎日のようにしていますよ」
「それにしても、さっきのキャッチボール男が記念にくれた剣、どうしようねえ。切れ味は良さそうだけれど、同時に切ったものが燃えちまうんだろう? 火の加減ができるならともかく、そうでなかったら使い勝手が悪いよねえ」
そうだよねえ、と眉根を寄せて思案顔を浮かべる彼女たちに、死神ちゃんは思わず「料理に使う前提かよ」とツッコミを入れた。すると、彼女たちはまるで〈当たり前でしょう〉とでも言いたげに、きょとんとした顔を浮かべた。
結局、手に入れた剣は地上に戻ったら売り払おうということになった。希少アイテムの価値が分からず、むしろこれが希少アイテムであるという認識もなく、そして〈調べてみる〉ということもせずに躊躇なく「使い物にならないようだから、売り払ってしまおう」と決断した彼女たちに、死神ちゃんは驚きを通り越して呆然とした。
その後も、彼女たちは奥に進むためのリドルの全ても難なくクリアし、とうとうサロンへと辿り着いた。疲れた様子を見せることもなく元気にサロンへと入っていく彼女達のたちろを、死神ちゃんは疲れきった体でついていった。
彼女たちはオーナーセラピストが男性であることに戸惑ったが、ひとたびアルデンタスが喋りだすと「なんだ、お兄さんかと思っていたら、オネエさんか」と言って笑みを浮かべ、同じノリでマシンガントークを繰り広げた。三人だけでも十分にかしましかったのが余計にうるさくなり、死神ちゃんはげっそりとうなだれた。
三つ並んだベッドに仲良く寝そべる彼女たちをお店の女の子たちと手分けして施術しながら、アルデンタスは苦笑交じりに言った。
「それにしても、すごいわね。初見一発でここまで辿り着くだなんて。お姉さんたちが本気でダンジョン探索したら、簡単に攻略できちゃうんじゃない?」
「そうかねえ? でも、あたし、攻略とか興味はないからね。伝説級の調理器具が手に入れば、それで満足だし。だから、ダンジョンが踏破されて、お宝探しができなくなったら、そっちのほうが困るよ」
「あたしも、ダンジョンに逃げ込んだ主人を探すくらいでしかここには来ないし。小さな子供がいると何かとお金がかかるから、小遣い稼ぎができるのはありがたいけれど。莫大な富とかそんな分不相応なものまでは要らないしなあ。だから攻略は、興味ないかな」
「ばあちゃんも、食べていけるほどのお金が稼げて、そしてたかしさえ見つかればそれでええ」
現役冒険者の中では職業冒険者も押しのけてきっと一番の猛者であるこの一般人たちは、莫大な富も、王国の呪いも、難攻不落のダンジョンを踏破したという名誉も興味が無いという。死神ちゃんは疲れ切って表情もなくなった顔でぼんやりと「何ていうか、平和だな」と思いながら、バクのユメちゃんを抱えて現実逃避することにしたのだった。
――――女子力という名の戦闘力が上がった彼女たちは、もちろん帰り道も無傷で楽々だったという。なお、サロンでの施術はもとよりアルデンタスのことが大層気に入った彼女たちは、次の来店予約をばっちり入れてから帰ったそうDEATH。
「あら、お嬢ちゃん。お久しぶりね」
「ま、まさこさん……?」
引きつる頬を懸命に持ち上げて挨拶をす返すと、さらに背後から馴染みのある声が聞こえてきた。
「あらあ、お嬢ちゃんじゃあないかい。さあ、ほら、ミートパイをあげようねえ」
「おやまあ、それじゃあ、ばあちゃんは干し芋をあげようかねえ。もちろん、これもこの前の干し柿と同じように、ばあちゃんの手作りだ。さ、お食べ」
酔っ払い酒屋を亭主に持つ〈悪魔と人間のハーフ〉のまさこの腕に抱かれたまま、死神ちゃんはすかさず声のした後方の左右に首を振った。そこには、マンマとばあちゃんが食べ物を手ににこやかな笑みを浮かべていた。死神ちゃんは顔を青ざめさせると、カタカタと震えだした。
「何で……。何で、みなさん、お揃いなんですか……」
「あら、あたしらが知り合い同士なのが不思議なのかい? うちはまさこちゃんのお店からお酒を買っているからね、古くからの馴染みなんだよ。このおばあちゃんは、うちのお店の常連さんさ」
「副業がかなりいい稼ぎとなっているからねえ、こっちにセカンドハウスを借りたんだよ。たかしはお友達と二人で住み込みでアルバイトをしているんだろう? せっかく家を借りられたんだから、お友達と揃って移ってくるように言いたいんだけれども。何故だかいまだに見つけられないんだ。そんなわけで、今はまだばあちゃん一人で住んでいるんだけれども、一人でごはんを食べるのも寂しいからね。マンマのお店にお邪魔させてもらっているんだよ」
「はあ……そう……。ていうか、何でステータス妖精さんが出てこない――」
最強にして最恐の〈お母ちゃん気質三人衆〉に恐れおののきつつも、死神ちゃんはまさこの腕輪から妖精さんが現れないことを不思議に思った。すると、死神ちゃんの言葉に被さるように、彼女たちは「妖精さん?」と首を傾げさせた。どうやら彼女たちは普段ソロで活動しているため、パーティーの組み方を知らないらしい。三人は「よく分からないけれど、パーティーを組んでいるといいことがあるのね」などと言いながら、パーティーを組むべく腕輪を弄りだした。しかし、上手く操作ができないようで、彼女たちはああでもないこうでもないと騒がしくしながら適当に腕輪をつついたり叩いたりしていた。
少しして、まさこが苛立たしげに腕輪を睨むと、死神ちゃんに視線を移し、苦笑いを浮かべて言った。
「ねえ、お嬢ちゃん。これの操作方法、分かる?」
死神ちゃんには〈冒険者の手助けをしてはならない〉という不文律がある。しかしながら、お母ちゃんたちが集結しているという事実にいまだ動揺していたせいか「知らない」と即答することができなかった。
死神ちゃんが言葉を濁していると、まさこは冷ややかな笑みを浮かべて「言いたいことは、きちんと喋る」と抑揚なく言った。死神ちゃんは彼女の威圧的な態度にビクリと身を跳ねさせると、心なしか震えながら「対応させて頂きますので、しばらくお待ちください」と小さな声で答えた。
まさこの腕の中から離れ、無言で三人分の腕輪を操作し始めた死神ちゃんを見て、マンマは不思議そうに首を傾げた。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい? いつもと比べて元気が無いねえ」
「ああ、もしかして、あたしに怯えてるのかも。この前、この子が粗相をするたびに〈お尻ペンペンの刑〉をしていたから」
「あら、あんた、よその子にも容赦がないんだねえ。曲がったことが大嫌いなのは良いことだけど、やり過ぎは駄目だよ」
マンマが眉根を寄せて窘めると、まさこは苦笑いを浮かべて「はあい」と返事した。死神ちゃんが腕輪の操作を終えて〈無事に三人がパーティーを組むことができた〉ということを伝えると、まさこが満面の笑みで死神ちゃんを褒め、マンマとばあちゃんもにこにこと笑いながら礼を述べた。
今回彼女たちがダンジョンにやって来た目的は、簡単に言うと〈女子会〉だそうだ。来月になれば新入生や新入社員、新米冒険者で街が溢れかえる。そうなるとマンマの食堂も忙しくなり、まさこの酒屋も至るところで企画される宴会に対応すべく、配達で大忙しとなる。そんな〈戦〉に挑む前に、リフレッシュしようということになったらしい。
「このダンジョンの中には、高級マッサージサロンがあるらしいじゃない。首都にある貴族御用達のサロンなんか足元にも及ばないという噂でさ、神の手を持つオーナーさんが率いるプロフェッショナルチームが、どんな頑固な疲れも癒やして、ピカピカのツヤツヤにしてくれるんですって」
「いやでも、まさこさん、今もかなりツヤツヤですよね。サロンは必要ないんじゃあないですか?」
死神ちゃんが眉根を寄せて首をひねると、まさこはデレデレとした笑みを浮かべて身をくねらせた。
「これはねえ、うちのダーリンがカカオ豆を集めてくれたからなのよ~! 毎日少しずつ食べててね、とても苦いんだけど、すごく効果があって!」
「ダーリン……? あの宿六とか、そんな散々な言い方していたくせに……」
「口の利き方!」
まさこは鬼の形相で死神ちゃんの頬を片方摘んで伸ばした。死神ちゃんは悲鳴を上げながらも必死に彼女に謝った。ばあちゃんは苦笑いを浮かべると、まさこの眉間をちょんちょんとつつきながら言った。
「ほら、まさこちゃん。ここ、しわが寄っている。あんまりしかめっ面ばかりしてたんじゃあ、〈女子力〉ってやつが下がっちまうよ」
「そうだよ、まさこちゃん。あんた、可愛いんだし、とても賢くて優しい子なんだから。そんなおっかない顔をしなくたって、子供に言うこと聞かせられるだろう」
「うちの〈大きな子供〉を相手にしている時の癖で、つい……」
ばあちゃんだけではなくマンマにも窘められて、まさこはしょんぼりと肩を落とした。そして死神ちゃんを見下ろすと、彼女は申し訳なさそうに謝罪した。
そんなわけで、彼女たちは来月の〈戦〉に備えるべくダンジョンへとやって来た。万全の体制で戦いに臨み、勝利を勝ち取るために。もちろん、女子としての輝きを失わずに保ったまま、大勝を収めるためにだ。
とは言っても、彼女たちは五階に足を踏み入れたことはなかった。そのため、彼女達はお目当てのサロンに行くために、まずは五階フロアの攻略をするところから始めねばならなかった。
死神ちゃんは「当分帰ることはできないだろうな」と憂慮した。未体験ゾーンに足を踏み入れたとはいえ、それで彼女たちが死亡するとは思えなかったからだ。死神ちゃんの予感は案の定的中し、彼女たちは強敵もなんのその、快進撃を続けながら奥へ奥へと進んでいった。途中、〈火炎の地区〉にて炎の巨人が千本ノックの洗礼を浴びせたのだが、彼女たちはそれもあっさりとクリアーしていた。
「昔は息子と、そしてついこの間まではたかしとよくキャッチボールをしていたからねえ。ばあちゃんには楽勝だったよ」
「あたしも。うちの息子は今がやんちゃ盛りだから、もう毎日のようにしていますよ」
「それにしても、さっきのキャッチボール男が記念にくれた剣、どうしようねえ。切れ味は良さそうだけれど、同時に切ったものが燃えちまうんだろう? 火の加減ができるならともかく、そうでなかったら使い勝手が悪いよねえ」
そうだよねえ、と眉根を寄せて思案顔を浮かべる彼女たちに、死神ちゃんは思わず「料理に使う前提かよ」とツッコミを入れた。すると、彼女たちはまるで〈当たり前でしょう〉とでも言いたげに、きょとんとした顔を浮かべた。
結局、手に入れた剣は地上に戻ったら売り払おうということになった。希少アイテムの価値が分からず、むしろこれが希少アイテムであるという認識もなく、そして〈調べてみる〉ということもせずに躊躇なく「使い物にならないようだから、売り払ってしまおう」と決断した彼女たちに、死神ちゃんは驚きを通り越して呆然とした。
その後も、彼女たちは奥に進むためのリドルの全ても難なくクリアし、とうとうサロンへと辿り着いた。疲れた様子を見せることもなく元気にサロンへと入っていく彼女達のたちろを、死神ちゃんは疲れきった体でついていった。
彼女たちはオーナーセラピストが男性であることに戸惑ったが、ひとたびアルデンタスが喋りだすと「なんだ、お兄さんかと思っていたら、オネエさんか」と言って笑みを浮かべ、同じノリでマシンガントークを繰り広げた。三人だけでも十分にかしましかったのが余計にうるさくなり、死神ちゃんはげっそりとうなだれた。
三つ並んだベッドに仲良く寝そべる彼女たちをお店の女の子たちと手分けして施術しながら、アルデンタスは苦笑交じりに言った。
「それにしても、すごいわね。初見一発でここまで辿り着くだなんて。お姉さんたちが本気でダンジョン探索したら、簡単に攻略できちゃうんじゃない?」
「そうかねえ? でも、あたし、攻略とか興味はないからね。伝説級の調理器具が手に入れば、それで満足だし。だから、ダンジョンが踏破されて、お宝探しができなくなったら、そっちのほうが困るよ」
「あたしも、ダンジョンに逃げ込んだ主人を探すくらいでしかここには来ないし。小さな子供がいると何かとお金がかかるから、小遣い稼ぎができるのはありがたいけれど。莫大な富とかそんな分不相応なものまでは要らないしなあ。だから攻略は、興味ないかな」
「ばあちゃんも、食べていけるほどのお金が稼げて、そしてたかしさえ見つかればそれでええ」
現役冒険者の中では職業冒険者も押しのけてきっと一番の猛者であるこの一般人たちは、莫大な富も、王国の呪いも、難攻不落のダンジョンを踏破したという名誉も興味が無いという。死神ちゃんは疲れ切って表情もなくなった顔でぼんやりと「何ていうか、平和だな」と思いながら、バクのユメちゃんを抱えて現実逃避することにしたのだった。
――――女子力という名の戦闘力が上がった彼女たちは、もちろん帰り道も無傷で楽々だったという。なお、サロンでの施術はもとよりアルデンタスのことが大層気に入った彼女たちは、次の来店予約をばっちり入れてから帰ったそうDEATH。
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