233 / 362
* 死神生活ニ年目 *
第233話 死神ちゃんと弁護士④
しおりを挟む
死神ちゃんが〈担当のパーティー〉を探して彷徨っていると、前方から何やら呪言のようなものが聞こえてきた。それを聞いていたからと言って特に何も効果等はなさそうではあったものの、死神ちゃんは何となく嫌な気分になった。呪言が段々と近づいてきて、死神ちゃんは一層気が滅入った。呪言の主はどうやらターゲットのようで、「これは一体、何の呪文なんだ?」と思いながら死神ちゃんが待ち構えていると、呪言の近づいてくるスピードが突如加速した。
カツカツと音を立てながらピンヒールで全力疾走する悩ましげなスーツの女を、死神ちゃんはげっそりとした顔で見つめた。彼女はお得意の「異議あり!」と叫びながら、分厚い法律書を振りかぶって死神ちゃんに突っ込んできた。
法律書は死神ちゃんの体をただ透過しただけで、ダメージを与えることは敵わなかった。彼女は着地して乱れた髪を掻き上げると、死神ちゃんを指差して「異議あり!」と再び叫んだ。
「何で攻撃を受けても平気なのよ!?」
「だから、物理攻撃は効かないって、前にも言っただろうが」
「今回は神聖な呪言を唱えながら攻撃したわよ! 異議ありだわ!」
「神聖な呪言? たしかに何となく気が滅入って嫌な気分にはなったが、一体どんな呪言だったんだよ」
死神ちゃんが眉根を寄せて首を傾げると、彼女は不敵にニヤリと笑って「法律書の、刑法の章を諳んじたのよ」と言った。死神ちゃんは呆れて目を細めると、抑揚なく淡々と返した。
「ああ、道理で。そりゃあ気が滅入るわけだわ。何ていうか、精神的にじわじわと来るっていうか」
「この国の、とても大切な法律ですからね。そりゃあ、神聖なものに違いないでしょう? それなのに、何であなたは平然としていられるの!」
「この国で法を犯すようなことを、してはいないからじゃあないですかね」
死神ちゃんがハンと鼻を鳴らすと、彼女は地団駄を踏みながら「異議あり!」と繰り返した。
この国名門の法律家一家の出でありながら悪徳街道まっしぐらの彼女は、二ヶ月ほど前に〈離婚問題が舞い込む季節で、忙しくなるからアシスタントが欲しい〉という目的でダンジョンにやって来ていた。その際は人型モンスターである暗殺者に声をかけ、むしろ色目を使って買収を試み、失敗に終わって呆気なく首を跳ねられた。どうやらまだまだ忙しいようで、彼女は優秀なアシスタントを得るべくダンジョンを再訪したのだとか。
死神ちゃんはため息をつくと、諭すように言った。
「いい加減、諦めろよ。ダンジョン内でスカウトするっていうのは。普通に急募広告を出せばいいだろう」
「だから、それだとごく普通の一般人しか来ないでしょう? 私が求めているのは、ボディーガードにもなってくれて、さらには暗殺もお手の物な物騒な人なんだから」
「……面倒な相手方を内々に消すことが、とても後ろ暗くて物騒だっていう認識は、一応はあるんだな」
彼女は不機嫌にそっぽを向くと、アシスタント探しをし始めた。死神ちゃんはきょとんとした顔を浮かべると「こんな低階層で探すのか」と尋ねた。前回はそこそこ深い階層でスカウト活動を行っていたのだが、今回は二階なのだ。一応レアなモンスターも出ることは出るのだが、出没頻度は極めて低い。なにせ、大金をはたけば三階までの地図は手に入るのだから、大抵の冒険者は、二階で戦闘など行うことなく三階まで降りていく。そのため、レプリカが新規投入される率も他階層と比べて低く、だからレアモンスターの出現も極稀となっているのだ。
つまるところ、彼女がアシスタントに据えたいと思っているような相手はレアものであるため、二階で探すのは得策ではない。しかし、彼女はどうしても二階で探したいらしい。というのも、前回の敗因は深層の〈闇落ち者〉を説得しようとしたことに原因があると彼女は思っているようだった。
「下に行けば行くほど、モンスターも凶暴性が増すでしょう? 同じように、闇落ちしてモンスター化した人も残忍で凶悪になっているわけでしょう? 私はこれでも一応、法を武器に戦う正義の味方ですからね。凶悪犯が牙を向いてきても仕方がないに決まっているわ。だから、低階層にいるくらいの奴らなら、そこまで凶悪でもないだろうし、ちょろいかなと思って」
「はあ、そう……。でも、すぐさま遭遇できるとは限らないぜ? そこはどうするんだよ。闇雲に探して歩くのか?」
弁護士は得意気に笑うと「私にいい考えがある」と言った。そして彼女は少し拓けた場所へと移動して、厚手の紙を丸めてメガホンを作った。すると彼女は二、三度咳払いをしてから「本日は晴天なり」と発声練習を始めた。死神ちゃんは思わず、呆気にとられて口をあんぐりと開けた。
「いい考えって、何か? 演説でも始めようってか? そういうのは政治家にでも転職してから、街頭でやってくださいませんかね」
「うるさいわね。いい人材を得たいと思ったら、ときには派手なパフォーマンスが必要なのよ」
「いやでもさ、こんな人気もモンスターの気配もないような場所で演説を始めて、誰が来るっていうんだよ」
死神ちゃんは弁護士を嘲笑したが、演説が始まるなり会場は大賑わいとなった。〈そんな大勢、どこから現れたのか〉と首を傾げたくなるほどに、辺りはごった返した。彼女が何か一言発するたびに大喝采が起き、集まったモンスターたちが熱心に頷いたり拳を振り上げたりした。その様子を呆然と眺めていた死神ちゃんだったが、さらなるショッキングな出来事があり愕然とした。――最も熱心に演説を聞いていたのは、なんと十三様のレプリカであるガンマンだったのである。
弁護士が演説を終えると、ガンマンは熱い涙を流しながら彼女に近づいていった。そして彼女の両手をはっしと掴むと、くぐもった声でボソボソと言った。
「俺様、まるまる、お前気に入った! お前、親友! お前、親友!!」
「何でそんな頭の悪そうな喋りかたなんだよ! 俺はもっとスマートなはずだろう!?」
死神ちゃんは怒り顔で目を剥くと、思わず声を荒らげた。弁護士は怪訝な顔つきで死神ちゃんを一瞥したが、すぐさまガンマンへと視線を戻した。そして上から下まで舐めるように見ると、まんざらでもなさそうに笑みを浮かべた。
「ちょっとおつむが足りなさそうなところが不安ではあるけれど、でも、見た目は合格ね。私、あの暗殺者のような透明感のあるイケメンが好物だけど、彼のような渋ダンディーもイケるクチなのよ」
「いや、俺はお前のような腹黒い女は苦手だから! 俺はもっと奥ゆかしくて、家庭的で、優しいのが好みだから!」
「あなたの好みなんて聞いていないわよ。ていうか、幼女が何をいっちょ前のことを言っているの? まだ早いわよ? おませさんねえ」
弁護士は肩をすくめると、ダイヤモンドリングを嵌めた手を掲げてガンマンと契約を取り交わそうと試みた。すると、死神ちゃんの眼前に薄ぼんやりと発光する紙が一枚出現した。まるでペンを滑らすかのように契約内容が次々と浮かび上がり、それらの下に〈承諾する〉〈拒否する〉という文字が現れた。死神ちゃんはギョッとして顔を強張らせると、慌てて〈拒否する〉にタッチした。
「あら? おかしいわね。契約できないわ。――あなた、親友とか言うわりに、この契約内容じゃあ承服できないとでもいうの? 親友なんだったら、無給で私のために尽くしなさいよ。……まあ、仕方ないわね。渡る世間はギブアンドテイクですものね。分かったわ。必要なのは土地? それとも、お金?」
死神ちゃんは契約書が再び現れるや否や、すかさず〈拒否する〉をタッチした。弁護士は顔をしかめると、何度も契約申請を飛ばしてきた。そのたびに、死神ちゃんは必死で〈拒否する〉をした。弁護士は苛立たしげにガンマンを睨むと「肖像画でも駄目って、どういうことよ!?」と叫んだ。すると、彼女の豹変に驚いた他のモンスターたちが一斉に彼女に襲いかかった。
弁護士は二階のモンスターにやられるほどは弱くない。しかしながら多量の敵に圧倒され、彼女は悲鳴を上げた。
「私は警察官ではなくて、弁護士なのよ! だから、デモ隊との格闘は専門外なのよおおおおおお!」
デモ隊が解散し、その場に残された灰をつかの間ぼんやりと見つめると、死神ちゃんは背中を丸め、ため息混じりに壁の中へと消えていった。
**********
待機室に戻ってくるなり、死神ちゃんはグレゴリーにしがみついた。グレゴリーは死神ちゃんの頭をワシワシと撫でると、苦笑しながら言った。
「低階層だとどうしても、知能指数が低いからな。仕方ねえよ。俺のレプリカだって、二階じゃあただのトカゲ同然だぜ? 誇り高き狩人の軍団の、長を務めていたこの俺がよ」
「ていうか、裏の人間に契約申請が飛んでこないように、いい加減改善したほうがいいと思います」
「だな。この前マッコイのところに飛んできたときに、すぐさま対応依頼出したはずなんだがなあ。あとで即対応するよう、せっついとくわ」
死神ちゃんはグレゴリーを見上げると、薄っすらと笑みを浮かべて小さな声で礼を述べた。その横で、ピエロがデレデレとした笑みを浮かべてモニターを眺めていた。
「ああああん、やっぱり小花っちはあちしの〈若いツバメ〉なだけあるね! とっても渋ダンディー!」
「いや、お前の愛人になった覚えはないし。ていうか、そういう言い方するってことは、やっぱりお前、年上なのかよ。さすがは魔女だな」
「年齢のことを言い出すだなんて、それは野暮ってもんだよ!? ていうか、いいなー。あちしもレプリカ作ってくれないかな。できたら、全人類のハートをわし掴みにしちゃうくらいに美しい、本来の麗しい美魔女な姿で!」
グレゴリーは目を瞬かせると、あっけらかんとした声で言った。
「そういやあ、作る予定ができたらしくて、来年度の健康診断で詳細なデータ取らせて欲しいって言ってたわ」
「本当!? でも、あの拷問のような健康診断を受けるのは嫌だなあ」
「安心しろよ。本体のほうを採寸するだけだから」
「アイテムそのものとして実装するとか、そんなのないよー!」
ピエロは悲鳴のように抗議の言葉を上げると、そのままダンジョンへと走り去った。死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、気を取り直したかのようにグレゴリーを夕飯に誘ったのだった。
――――考えなしにホイホイと契約締結したら痛い目に遭う。だからこそ、交渉事は慎重に臨まねばならない。そもそも、なんだかんだ言って裏世界はクリーンな職場環境のホワイト企業なので、弁護士のところのようなブラックなところと雇用契約なんか結びたくないのDEATH。
カツカツと音を立てながらピンヒールで全力疾走する悩ましげなスーツの女を、死神ちゃんはげっそりとした顔で見つめた。彼女はお得意の「異議あり!」と叫びながら、分厚い法律書を振りかぶって死神ちゃんに突っ込んできた。
法律書は死神ちゃんの体をただ透過しただけで、ダメージを与えることは敵わなかった。彼女は着地して乱れた髪を掻き上げると、死神ちゃんを指差して「異議あり!」と再び叫んだ。
「何で攻撃を受けても平気なのよ!?」
「だから、物理攻撃は効かないって、前にも言っただろうが」
「今回は神聖な呪言を唱えながら攻撃したわよ! 異議ありだわ!」
「神聖な呪言? たしかに何となく気が滅入って嫌な気分にはなったが、一体どんな呪言だったんだよ」
死神ちゃんが眉根を寄せて首を傾げると、彼女は不敵にニヤリと笑って「法律書の、刑法の章を諳んじたのよ」と言った。死神ちゃんは呆れて目を細めると、抑揚なく淡々と返した。
「ああ、道理で。そりゃあ気が滅入るわけだわ。何ていうか、精神的にじわじわと来るっていうか」
「この国の、とても大切な法律ですからね。そりゃあ、神聖なものに違いないでしょう? それなのに、何であなたは平然としていられるの!」
「この国で法を犯すようなことを、してはいないからじゃあないですかね」
死神ちゃんがハンと鼻を鳴らすと、彼女は地団駄を踏みながら「異議あり!」と繰り返した。
この国名門の法律家一家の出でありながら悪徳街道まっしぐらの彼女は、二ヶ月ほど前に〈離婚問題が舞い込む季節で、忙しくなるからアシスタントが欲しい〉という目的でダンジョンにやって来ていた。その際は人型モンスターである暗殺者に声をかけ、むしろ色目を使って買収を試み、失敗に終わって呆気なく首を跳ねられた。どうやらまだまだ忙しいようで、彼女は優秀なアシスタントを得るべくダンジョンを再訪したのだとか。
死神ちゃんはため息をつくと、諭すように言った。
「いい加減、諦めろよ。ダンジョン内でスカウトするっていうのは。普通に急募広告を出せばいいだろう」
「だから、それだとごく普通の一般人しか来ないでしょう? 私が求めているのは、ボディーガードにもなってくれて、さらには暗殺もお手の物な物騒な人なんだから」
「……面倒な相手方を内々に消すことが、とても後ろ暗くて物騒だっていう認識は、一応はあるんだな」
彼女は不機嫌にそっぽを向くと、アシスタント探しをし始めた。死神ちゃんはきょとんとした顔を浮かべると「こんな低階層で探すのか」と尋ねた。前回はそこそこ深い階層でスカウト活動を行っていたのだが、今回は二階なのだ。一応レアなモンスターも出ることは出るのだが、出没頻度は極めて低い。なにせ、大金をはたけば三階までの地図は手に入るのだから、大抵の冒険者は、二階で戦闘など行うことなく三階まで降りていく。そのため、レプリカが新規投入される率も他階層と比べて低く、だからレアモンスターの出現も極稀となっているのだ。
つまるところ、彼女がアシスタントに据えたいと思っているような相手はレアものであるため、二階で探すのは得策ではない。しかし、彼女はどうしても二階で探したいらしい。というのも、前回の敗因は深層の〈闇落ち者〉を説得しようとしたことに原因があると彼女は思っているようだった。
「下に行けば行くほど、モンスターも凶暴性が増すでしょう? 同じように、闇落ちしてモンスター化した人も残忍で凶悪になっているわけでしょう? 私はこれでも一応、法を武器に戦う正義の味方ですからね。凶悪犯が牙を向いてきても仕方がないに決まっているわ。だから、低階層にいるくらいの奴らなら、そこまで凶悪でもないだろうし、ちょろいかなと思って」
「はあ、そう……。でも、すぐさま遭遇できるとは限らないぜ? そこはどうするんだよ。闇雲に探して歩くのか?」
弁護士は得意気に笑うと「私にいい考えがある」と言った。そして彼女は少し拓けた場所へと移動して、厚手の紙を丸めてメガホンを作った。すると彼女は二、三度咳払いをしてから「本日は晴天なり」と発声練習を始めた。死神ちゃんは思わず、呆気にとられて口をあんぐりと開けた。
「いい考えって、何か? 演説でも始めようってか? そういうのは政治家にでも転職してから、街頭でやってくださいませんかね」
「うるさいわね。いい人材を得たいと思ったら、ときには派手なパフォーマンスが必要なのよ」
「いやでもさ、こんな人気もモンスターの気配もないような場所で演説を始めて、誰が来るっていうんだよ」
死神ちゃんは弁護士を嘲笑したが、演説が始まるなり会場は大賑わいとなった。〈そんな大勢、どこから現れたのか〉と首を傾げたくなるほどに、辺りはごった返した。彼女が何か一言発するたびに大喝采が起き、集まったモンスターたちが熱心に頷いたり拳を振り上げたりした。その様子を呆然と眺めていた死神ちゃんだったが、さらなるショッキングな出来事があり愕然とした。――最も熱心に演説を聞いていたのは、なんと十三様のレプリカであるガンマンだったのである。
弁護士が演説を終えると、ガンマンは熱い涙を流しながら彼女に近づいていった。そして彼女の両手をはっしと掴むと、くぐもった声でボソボソと言った。
「俺様、まるまる、お前気に入った! お前、親友! お前、親友!!」
「何でそんな頭の悪そうな喋りかたなんだよ! 俺はもっとスマートなはずだろう!?」
死神ちゃんは怒り顔で目を剥くと、思わず声を荒らげた。弁護士は怪訝な顔つきで死神ちゃんを一瞥したが、すぐさまガンマンへと視線を戻した。そして上から下まで舐めるように見ると、まんざらでもなさそうに笑みを浮かべた。
「ちょっとおつむが足りなさそうなところが不安ではあるけれど、でも、見た目は合格ね。私、あの暗殺者のような透明感のあるイケメンが好物だけど、彼のような渋ダンディーもイケるクチなのよ」
「いや、俺はお前のような腹黒い女は苦手だから! 俺はもっと奥ゆかしくて、家庭的で、優しいのが好みだから!」
「あなたの好みなんて聞いていないわよ。ていうか、幼女が何をいっちょ前のことを言っているの? まだ早いわよ? おませさんねえ」
弁護士は肩をすくめると、ダイヤモンドリングを嵌めた手を掲げてガンマンと契約を取り交わそうと試みた。すると、死神ちゃんの眼前に薄ぼんやりと発光する紙が一枚出現した。まるでペンを滑らすかのように契約内容が次々と浮かび上がり、それらの下に〈承諾する〉〈拒否する〉という文字が現れた。死神ちゃんはギョッとして顔を強張らせると、慌てて〈拒否する〉にタッチした。
「あら? おかしいわね。契約できないわ。――あなた、親友とか言うわりに、この契約内容じゃあ承服できないとでもいうの? 親友なんだったら、無給で私のために尽くしなさいよ。……まあ、仕方ないわね。渡る世間はギブアンドテイクですものね。分かったわ。必要なのは土地? それとも、お金?」
死神ちゃんは契約書が再び現れるや否や、すかさず〈拒否する〉をタッチした。弁護士は顔をしかめると、何度も契約申請を飛ばしてきた。そのたびに、死神ちゃんは必死で〈拒否する〉をした。弁護士は苛立たしげにガンマンを睨むと「肖像画でも駄目って、どういうことよ!?」と叫んだ。すると、彼女の豹変に驚いた他のモンスターたちが一斉に彼女に襲いかかった。
弁護士は二階のモンスターにやられるほどは弱くない。しかしながら多量の敵に圧倒され、彼女は悲鳴を上げた。
「私は警察官ではなくて、弁護士なのよ! だから、デモ隊との格闘は専門外なのよおおおおおお!」
デモ隊が解散し、その場に残された灰をつかの間ぼんやりと見つめると、死神ちゃんは背中を丸め、ため息混じりに壁の中へと消えていった。
**********
待機室に戻ってくるなり、死神ちゃんはグレゴリーにしがみついた。グレゴリーは死神ちゃんの頭をワシワシと撫でると、苦笑しながら言った。
「低階層だとどうしても、知能指数が低いからな。仕方ねえよ。俺のレプリカだって、二階じゃあただのトカゲ同然だぜ? 誇り高き狩人の軍団の、長を務めていたこの俺がよ」
「ていうか、裏の人間に契約申請が飛んでこないように、いい加減改善したほうがいいと思います」
「だな。この前マッコイのところに飛んできたときに、すぐさま対応依頼出したはずなんだがなあ。あとで即対応するよう、せっついとくわ」
死神ちゃんはグレゴリーを見上げると、薄っすらと笑みを浮かべて小さな声で礼を述べた。その横で、ピエロがデレデレとした笑みを浮かべてモニターを眺めていた。
「ああああん、やっぱり小花っちはあちしの〈若いツバメ〉なだけあるね! とっても渋ダンディー!」
「いや、お前の愛人になった覚えはないし。ていうか、そういう言い方するってことは、やっぱりお前、年上なのかよ。さすがは魔女だな」
「年齢のことを言い出すだなんて、それは野暮ってもんだよ!? ていうか、いいなー。あちしもレプリカ作ってくれないかな。できたら、全人類のハートをわし掴みにしちゃうくらいに美しい、本来の麗しい美魔女な姿で!」
グレゴリーは目を瞬かせると、あっけらかんとした声で言った。
「そういやあ、作る予定ができたらしくて、来年度の健康診断で詳細なデータ取らせて欲しいって言ってたわ」
「本当!? でも、あの拷問のような健康診断を受けるのは嫌だなあ」
「安心しろよ。本体のほうを採寸するだけだから」
「アイテムそのものとして実装するとか、そんなのないよー!」
ピエロは悲鳴のように抗議の言葉を上げると、そのままダンジョンへと走り去った。死神ちゃんは苦笑いを浮かべると、気を取り直したかのようにグレゴリーを夕飯に誘ったのだった。
――――考えなしにホイホイと契約締結したら痛い目に遭う。だからこそ、交渉事は慎重に臨まねばならない。そもそも、なんだかんだ言って裏世界はクリーンな職場環境のホワイト企業なので、弁護士のところのようなブラックなところと雇用契約なんか結びたくないのDEATH。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる