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* 死神生活ニ年目 *
第212話 死神ちゃんとモップお化け⑤
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死神ちゃんは〈担当のパーティー〉を探して、四階を彷徨っていた。地図を頼りに探してはいるのだが、それらしい人物や集団は見つからず、死神ちゃんは何度か同じ場所をうろうろと漂って回った。そしてふと、視界の端に黄色い丸いものが入りこんだことに顔をしかめると、死神ちゃんはそちらのほうを振り返ってじっと見つめた。
「……お前、ムークか?」
「よく分かりましたね」
ムークは勢い良く伸び上がると、ぎょっと目を見開いた。死神ちゃんはビクリと身を硬直させてムークを睨みつけると、不快感を露わにした。
「だから、それは止めろと、この前も言っただろうが」
「ケチ臭いですね。とり憑かせてあげるのですから、練習台にくらい、なってくれてもいいと思うのですが」
「何でそんな上から目線なんだよ。空気読む練習だけじゃあなくて、もう少し〈社会のシステム〉を理解しろよ。――俺の〈とり憑き〉は、ダンジョンの罠としてあるべきものなんです。そういうシステムであって、例外はないんです。だから、お前に拒否権はないんです」
分かりましたか? と言いながら、死神ちゃんはムークの体にポンと触れた。するとムークは身を捩らせながら「またそうやって、破廉恥なところを」と言った。死神ちゃんは不機嫌に顔を歪めると、心の中で「だから、お前の破廉恥ポイントは一体いくつ、どこにあるんだ」と呟いた。ムークは一瞬ぐわっと目を見開くと、左右に小さく身を捻りながら抗議した。
「触るだけでは飽き足らず、そういう破廉恥なことを聞こうとするのも、どうかと思いますね」
「だから! 勝手に人の心の中を読むんじゃあねえよ!」
死神ちゃんは声を荒げると、怒り顔で地団駄を踏んだ。気を取り直すと、死神ちゃんは見事に黄色く染まっていることについて話題を振った。赤茶の毛玉が鮮やかなみかん色に変化していることに死神ちゃんが驚くと、ムークは死神ちゃんを背中に乗せてふわふわと漂いながら答えた。
「義兄に頂いたみかんを食べたら、こうなったのです。義兄はもっといい色に染まっていますよ。たったひとつ食べただけですのに、まさかこんなことになるだなんて……」
「は!? たった一個でそうなったの!? お前ら、本当に、何者なんだよ!?」
「さあ。それは私が一番知りたいのですが」
死神ちゃんがため息をついてムークの毛に埋もれると、ムークはふよんふよんと〈小さな森〉に入っていった。どうやら彼は今もまだ読心術の訓練を続けているらしく、本日はそのためにダンジョンへとやって来たらしい。
「読心術の師匠となり得るモンスターの情報を入手致しまして。――たしか、この辺りに出没するらしいのです」
そう言って、ムークは木々の間をうねうねと彷徨った。すると、空間に潜む黒豹のような魔物がぬったりと姿を現した。魔物はムークに幻術をかけようと、瞳を赤々と光らせた。ムークはそれを観察するように眺め、首を傾げるかのごとく体をぐねりとひねった。そして突然真っ直ぐに伸び上がると、何か心得たかのように「こうですね!?」と叫んだ。
カッと目を見開いて見つめ返してくるムークに、魔物はたじろいで幻術をかけることを諦めた。しかし再び、魔物は目を光らせた。するとムークは「こうですか!?」と叫びながら、先ほどよりも大きく目を見開いた。
その後何度か〈見開き合戦〉は繰り広げられたが、とうとう魔物のほうが音を上げた。魔物はスッと何処かへと引っ込んでいくかのように姿を消すと、それ以降はもう顔を出さなかった。ムークはしょんぼりとしぼむと、がっかりとした口調でポツリと言った。
「おかしいですね。ちっとも勉強になりませんでした」
「すごいな、お前……。幻術が全く聞かないどころか、魔物が辟易として去っていくとか。すごいとしか、言いようがないよ」
「それは、褒めているんですか? けなしているんですか?」
ムークは不思議そうに体を折り曲げた。死神ちゃんは返答することなく、苦笑いでごまかした。
ムークはすっくと伸び上がると、「まあ、いいです」と言って何処かへと進んでいった。どこに行くのかと尋ねると、彼は「新たな師匠を捕獲します」と言い出した。思わず、死神ちゃんは素っ頓狂な声を上げた。
「はあ!? 捕獲!? 一体何をだよ」
「狩人という職に就く冒険者をです」
何でも、狩人の中には〈空気を読む術に長けた者〉がいるらしい。なので、それと思しき人物を見つけて、弟子入り志願しようという魂胆らしい。
果たしてそんなにすんなりと上手くいくのかと死神ちゃんが思った矢先、偶然にも狩人と遭遇した。狩人は〈幼女を乗せて浮遊する黄色い毛玉〉を見て、モンスターがいたいけな子供を攫っていると思ったらしく、弓を番えて臨戦態勢に入ろうとした。ムークはそんな狩人を相対すると、ぎゅっと身体の一部を引き絞った。すると、狩人から〈トゥンク……〉という音が聞こえてきて、死神ちゃんは思わず顔をしかめさせ、ムークの背中から降りた。
「お前、何でそんなボンキュッボンになってるんだよ」
「見て分かりませんか? 魅了魔法を使用したのです」
「いや、うん。魅了された時のあの音が鳴ったし、それは分かるんですけれどもね」
死神ちゃんは、まるでノームのようなあざといアイドル体型に形を変えたムークをじっとりと眺めた。ノームでいったら胸に当たる部分に、狩人がうっとりとした表情で顔を埋めていた。
ムークは熱烈なハグやセクハラを受けていることなど気にも留めずに「さあ、空気を読む術を教えるのです」と狩人に言った。すると、狩人は喜々とした表情で頷いた。
「分かりました、お嬢さん! ――いいですか? まず、人差し指をペロッと舐めます。そうしたら、頭上よりも高い位置に掲げるんです。……どうですか? 空気の流れが、これで分かりますでしょう?」
「物理的に読む方法かよ!」
思わず死神ちゃんはツッコミを入れたが、ムークは全く気にしていなかった。彼は興味深げに狩人を見下ろすと、小首を傾げるように身を折った。
「それで、どのくらい世渡りが上手になれますか?」
「雲の流れや色、形もよく見てくださいね。そうすれば、傘を忘れて外出しても、雨に濡らされることはありませんから」
「それは素晴らしい世渡り術ですね!」
「いや、その世渡りって精神的なものではなく、物理的なものだよな」
死神ちゃんは呆れて目を細めると、鼻を鳴らしながらぼんやりとそう言った。狩人はなおもうっとりとムークを見つめたまま、狩人の〈空気を読む術がいかに素晴らしいか〉を語っていた。何でも、狩人は天候に合わせて属性魔法を強化することができるらしい。ムークはそれに対していちいち「すごい」と相槌を打っていた。
しばらくして、狩人は「この宿に泊まっているんで、もし何かまた分からないことがあったら尋ねてきてください」と言ってメモ書きをムークに渡すと、笑顔のまま去っていった。ムークは彼の背中が見えなくなったころ、ふうとため息をつきながら言った。
「私が今回一番ためになったなと思ったことは、〈読心術よりも、魅了魔法のほうが使えるということに気がついた〉ということです。空気を読むことよりも、心の中を覗き見るよりも、よっぽど楽ですね!」
何やら恐ろしい開眼をしてしまったムークに対して、死神ちゃんは「ああ、そう……」と返すのが精一杯だった。
**********
死神ちゃんが待機室に戻ってくると、モニターの前でクリスが真剣な表情を浮かべて何やら思案していた。どうしたのかと死神ちゃんが尋ねると、彼は死神ちゃんに熱い視線を送りながらポツリと言った。
「どうしたら、薫を魅了できるかなと思って」
「申し訳ないんだがさ、いい加減、諦めようぜ。何度も言ってるだろうけれど、この姿は仮初だから。つまるところ、俺はお前の恋愛対象外なんだよ」
クリスは悲しそうに顔を歪めると「いや!」と叫んだ。横にいたケイティーはクリスの肩に手を置くと、にっこりと微笑んだ。
「小花を魅了するのは意外と簡単だよ。外見的なものでは落とせないけれど、胃袋掴めば結構コロッと行くからね」
クリスが首を傾げさ、死神ちゃんが怪訝な表情を浮かべると、ケイティーは爽やかに微笑んだまま「まあ、見てなって」と言って死神ちゃんを見下ろした。
「この前お願いした〈一日、お姉ちゃんと呼んでくれる〉っていうの、考えてくれた?」
「だから、やらないって言っただろうが」
「えー、いいだろ、減るもんじゃなし。――ビュッフェ奢るから。ね?」
死神ちゃんは嫌そうに顔を歪めたまま、ビクリと身を跳ねさせた。しかし、少し間を置いたあとで「嫌だ」と答えた。ケイティーがすかさず「ビュッフェ二回分」と言うと、死神ちゃんは再びビクッと跳ねた。ケイティーが三回分、四回分と畳み掛けるように続けると、死神ちゃんはぷるぷると震えだした。そしてケイティーが「じゃあ、一週間分」と言ったところで、死神ちゃんは魅力的な誘惑に屈した。
「そんなに、〈お姉ちゃん〉と呼ばれたいのかよ……」
「呼ばれたい! 私、お前のその〈対価さえきちんと支払えば、任務を遂行してくれる〉っていうビジネスライクなところ、大好き!」
クリスは〈死神ちゃんが胃袋を掴まれた瞬間〉を目の当たりにして愕然とした。そして彼は「私、マコ姉に料理教室を開いてもらう回数、増やす!」と宣言した。クリスが食事に誘っても、二人きりであると分かると死神ちゃんはいつも断るのだが、それならば〈マッコイと一緒に夕飯の準備をする回数を増やすことで、胃袋を掴みに行こう〉という魂胆らしい。死神ちゃんは〈疲れた〉と言わんばかりに頬を引きつらせると、盛大にため息をついたのだった。
――――本人が魅力的だったり、魅力的なモノを相手にチラつかせたりすることで、多少空気が読めなくても何とかなることって確かにある。でも、いつも誰でもそれに屈するというわけではない。だからやっぱり〈空気を読む〉などの〈世渡り術〉は、身につけておきたいものなのDEATH。
「……お前、ムークか?」
「よく分かりましたね」
ムークは勢い良く伸び上がると、ぎょっと目を見開いた。死神ちゃんはビクリと身を硬直させてムークを睨みつけると、不快感を露わにした。
「だから、それは止めろと、この前も言っただろうが」
「ケチ臭いですね。とり憑かせてあげるのですから、練習台にくらい、なってくれてもいいと思うのですが」
「何でそんな上から目線なんだよ。空気読む練習だけじゃあなくて、もう少し〈社会のシステム〉を理解しろよ。――俺の〈とり憑き〉は、ダンジョンの罠としてあるべきものなんです。そういうシステムであって、例外はないんです。だから、お前に拒否権はないんです」
分かりましたか? と言いながら、死神ちゃんはムークの体にポンと触れた。するとムークは身を捩らせながら「またそうやって、破廉恥なところを」と言った。死神ちゃんは不機嫌に顔を歪めると、心の中で「だから、お前の破廉恥ポイントは一体いくつ、どこにあるんだ」と呟いた。ムークは一瞬ぐわっと目を見開くと、左右に小さく身を捻りながら抗議した。
「触るだけでは飽き足らず、そういう破廉恥なことを聞こうとするのも、どうかと思いますね」
「だから! 勝手に人の心の中を読むんじゃあねえよ!」
死神ちゃんは声を荒げると、怒り顔で地団駄を踏んだ。気を取り直すと、死神ちゃんは見事に黄色く染まっていることについて話題を振った。赤茶の毛玉が鮮やかなみかん色に変化していることに死神ちゃんが驚くと、ムークは死神ちゃんを背中に乗せてふわふわと漂いながら答えた。
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「は!? たった一個でそうなったの!? お前ら、本当に、何者なんだよ!?」
「さあ。それは私が一番知りたいのですが」
死神ちゃんがため息をついてムークの毛に埋もれると、ムークはふよんふよんと〈小さな森〉に入っていった。どうやら彼は今もまだ読心術の訓練を続けているらしく、本日はそのためにダンジョンへとやって来たらしい。
「読心術の師匠となり得るモンスターの情報を入手致しまして。――たしか、この辺りに出没するらしいのです」
そう言って、ムークは木々の間をうねうねと彷徨った。すると、空間に潜む黒豹のような魔物がぬったりと姿を現した。魔物はムークに幻術をかけようと、瞳を赤々と光らせた。ムークはそれを観察するように眺め、首を傾げるかのごとく体をぐねりとひねった。そして突然真っ直ぐに伸び上がると、何か心得たかのように「こうですね!?」と叫んだ。
カッと目を見開いて見つめ返してくるムークに、魔物はたじろいで幻術をかけることを諦めた。しかし再び、魔物は目を光らせた。するとムークは「こうですか!?」と叫びながら、先ほどよりも大きく目を見開いた。
その後何度か〈見開き合戦〉は繰り広げられたが、とうとう魔物のほうが音を上げた。魔物はスッと何処かへと引っ込んでいくかのように姿を消すと、それ以降はもう顔を出さなかった。ムークはしょんぼりとしぼむと、がっかりとした口調でポツリと言った。
「おかしいですね。ちっとも勉強になりませんでした」
「すごいな、お前……。幻術が全く聞かないどころか、魔物が辟易として去っていくとか。すごいとしか、言いようがないよ」
「それは、褒めているんですか? けなしているんですか?」
ムークは不思議そうに体を折り曲げた。死神ちゃんは返答することなく、苦笑いでごまかした。
ムークはすっくと伸び上がると、「まあ、いいです」と言って何処かへと進んでいった。どこに行くのかと尋ねると、彼は「新たな師匠を捕獲します」と言い出した。思わず、死神ちゃんは素っ頓狂な声を上げた。
「はあ!? 捕獲!? 一体何をだよ」
「狩人という職に就く冒険者をです」
何でも、狩人の中には〈空気を読む術に長けた者〉がいるらしい。なので、それと思しき人物を見つけて、弟子入り志願しようという魂胆らしい。
果たしてそんなにすんなりと上手くいくのかと死神ちゃんが思った矢先、偶然にも狩人と遭遇した。狩人は〈幼女を乗せて浮遊する黄色い毛玉〉を見て、モンスターがいたいけな子供を攫っていると思ったらしく、弓を番えて臨戦態勢に入ろうとした。ムークはそんな狩人を相対すると、ぎゅっと身体の一部を引き絞った。すると、狩人から〈トゥンク……〉という音が聞こえてきて、死神ちゃんは思わず顔をしかめさせ、ムークの背中から降りた。
「お前、何でそんなボンキュッボンになってるんだよ」
「見て分かりませんか? 魅了魔法を使用したのです」
「いや、うん。魅了された時のあの音が鳴ったし、それは分かるんですけれどもね」
死神ちゃんは、まるでノームのようなあざといアイドル体型に形を変えたムークをじっとりと眺めた。ノームでいったら胸に当たる部分に、狩人がうっとりとした表情で顔を埋めていた。
ムークは熱烈なハグやセクハラを受けていることなど気にも留めずに「さあ、空気を読む術を教えるのです」と狩人に言った。すると、狩人は喜々とした表情で頷いた。
「分かりました、お嬢さん! ――いいですか? まず、人差し指をペロッと舐めます。そうしたら、頭上よりも高い位置に掲げるんです。……どうですか? 空気の流れが、これで分かりますでしょう?」
「物理的に読む方法かよ!」
思わず死神ちゃんはツッコミを入れたが、ムークは全く気にしていなかった。彼は興味深げに狩人を見下ろすと、小首を傾げるように身を折った。
「それで、どのくらい世渡りが上手になれますか?」
「雲の流れや色、形もよく見てくださいね。そうすれば、傘を忘れて外出しても、雨に濡らされることはありませんから」
「それは素晴らしい世渡り術ですね!」
「いや、その世渡りって精神的なものではなく、物理的なものだよな」
死神ちゃんは呆れて目を細めると、鼻を鳴らしながらぼんやりとそう言った。狩人はなおもうっとりとムークを見つめたまま、狩人の〈空気を読む術がいかに素晴らしいか〉を語っていた。何でも、狩人は天候に合わせて属性魔法を強化することができるらしい。ムークはそれに対していちいち「すごい」と相槌を打っていた。
しばらくして、狩人は「この宿に泊まっているんで、もし何かまた分からないことがあったら尋ねてきてください」と言ってメモ書きをムークに渡すと、笑顔のまま去っていった。ムークは彼の背中が見えなくなったころ、ふうとため息をつきながら言った。
「私が今回一番ためになったなと思ったことは、〈読心術よりも、魅了魔法のほうが使えるということに気がついた〉ということです。空気を読むことよりも、心の中を覗き見るよりも、よっぽど楽ですね!」
何やら恐ろしい開眼をしてしまったムークに対して、死神ちゃんは「ああ、そう……」と返すのが精一杯だった。
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死神ちゃんが待機室に戻ってくると、モニターの前でクリスが真剣な表情を浮かべて何やら思案していた。どうしたのかと死神ちゃんが尋ねると、彼は死神ちゃんに熱い視線を送りながらポツリと言った。
「どうしたら、薫を魅了できるかなと思って」
「申し訳ないんだがさ、いい加減、諦めようぜ。何度も言ってるだろうけれど、この姿は仮初だから。つまるところ、俺はお前の恋愛対象外なんだよ」
クリスは悲しそうに顔を歪めると「いや!」と叫んだ。横にいたケイティーはクリスの肩に手を置くと、にっこりと微笑んだ。
「小花を魅了するのは意外と簡単だよ。外見的なものでは落とせないけれど、胃袋掴めば結構コロッと行くからね」
クリスが首を傾げさ、死神ちゃんが怪訝な表情を浮かべると、ケイティーは爽やかに微笑んだまま「まあ、見てなって」と言って死神ちゃんを見下ろした。
「この前お願いした〈一日、お姉ちゃんと呼んでくれる〉っていうの、考えてくれた?」
「だから、やらないって言っただろうが」
「えー、いいだろ、減るもんじゃなし。――ビュッフェ奢るから。ね?」
死神ちゃんは嫌そうに顔を歪めたまま、ビクリと身を跳ねさせた。しかし、少し間を置いたあとで「嫌だ」と答えた。ケイティーがすかさず「ビュッフェ二回分」と言うと、死神ちゃんは再びビクッと跳ねた。ケイティーが三回分、四回分と畳み掛けるように続けると、死神ちゃんはぷるぷると震えだした。そしてケイティーが「じゃあ、一週間分」と言ったところで、死神ちゃんは魅力的な誘惑に屈した。
「そんなに、〈お姉ちゃん〉と呼ばれたいのかよ……」
「呼ばれたい! 私、お前のその〈対価さえきちんと支払えば、任務を遂行してくれる〉っていうビジネスライクなところ、大好き!」
クリスは〈死神ちゃんが胃袋を掴まれた瞬間〉を目の当たりにして愕然とした。そして彼は「私、マコ姉に料理教室を開いてもらう回数、増やす!」と宣言した。クリスが食事に誘っても、二人きりであると分かると死神ちゃんはいつも断るのだが、それならば〈マッコイと一緒に夕飯の準備をする回数を増やすことで、胃袋を掴みに行こう〉という魂胆らしい。死神ちゃんは〈疲れた〉と言わんばかりに頬を引きつらせると、盛大にため息をついたのだった。
――――本人が魅力的だったり、魅力的なモノを相手にチラつかせたりすることで、多少空気が読めなくても何とかなることって確かにある。でも、いつも誰でもそれに屈するというわけではない。だからやっぱり〈空気を読む〉などの〈世渡り術〉は、身につけておきたいものなのDEATH。
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