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* 死神生活ニ年目 *
第176話 死神ちゃんと鑑定士
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冒険者たちは空中で光の筋が文字を成すのをワクワクとした面持ちで見つめていた。対象的に、薄暗がりにキラキラと輝き踊る文字を眺めながら、死神ちゃんは平静を装いつつも心なしかハラハラとしていた。
**********
死神ちゃんは〈担当のパーティー〉求めて四階に降り立つと、アイテム掘りスポットへと急行した。そこにたむろする冒険者は少しでも長くアイテム堀りをしたいがために、危なげなことはせず丁寧に戦闘を行う。つまり、とても死にづらい。――諦めて帰るか、うっかり死んでくれたらいいなあ。そのように思いながら、死神ちゃんは現場へと向かった。
現場に到着し、冒険者たちを恐怖に陥れ、死神ちゃんはとり憑きを完了させた。冒険者たちはこれ以上の掘り作業を諦めて、一階へと帰ることを決めた。
死神ちゃんは自分の願望通りとなったことに、ホッと胸を撫で下ろした。しかし、帰り支度を整えたはずの彼らは三階へと続く階段に向かわずに、モンスターが比較的出現しない場所へと移動した。
移動先で休憩用キャンプを設営しながらごそごそと荷物整理を再び始めた冒険者たちの姿に、死神ちゃんは思わず眉根を寄せて首を傾げた。
「何だよ、休憩か? さっき、きっちりと身支度整えていたのに?」
「これから、手に入れたアイテムの選別作業をするんだよ。今、荷物がパンパンの状態だからね。帰り道にもしも戦闘することがあって、アイテムをゲットできても、今のままじゃあ持って帰れないから」
「そもそも、荷物がギチギチの状態なのに、掘り作業していたっていうのか?」
「うちには鑑定士がいるからね。その場でアイテムの鑑定ができるのさ」
「鑑定士?」
死神ちゃんが眉間のしわをさらに深めると、受け答えしてくれていた盗賊の横にいた男がしたり顔で小さく手を上げた。どうやら彼がその鑑定士らしい。
彼の冒険者としての職業は司教だそうだ。レベルの高い司教になるとアイテムが呪われているか否かを見極める魔法を覚えることができるのだそうなのだが、彼はその魔法を応用して〈どんなアイテムなのかを詳しく調べる〉ということもできるのだそうだ。
お宝発見というロマンを求めて冒険者になった彼は、長い冒険者生活の中で〈パッと見では普通なのに、実は呪われている品〉や、〈パッと見は粗悪品なのに、実は希少なお宝品〉というものに出会い、アイテムの奥深さを知った。そして、それをとてもおもしろいと思ったのだそうだ。
「要らないものを道具屋で売り払って金に替えるときに、レアとは知らずに売り払おうとして受け取り額を見て驚くってことがたまにあってな。しかも、さすがは〈ボッタクリ商店街〉、鑑定額は一律っていうわけでなくて、レア品にはかなりの額を要求してくるわけよ」
どうやら、品物を売る際に〈ただ買い取る〉というわけではなく、それがどのような品であるのかという詳細な鑑定を行ってから買い取りを行うらしい。その鑑定料というのが、これまたボッタクリ価格だそうで、せっかくアイテムを大量に売り払ってもその〈混じっていた、売るつもりのないレア品の鑑定料〉のせいで、差し引きがあまり美味しくなくなることがごくたまにあるそうなのだ。
「普段請求される鑑定料くらいなら、プラスのほうがデカいから実入りもよくて良い小遣い稼ぎになるし、それで生計だって立てられるんだがさ。ひとたびレア品が含まれてて、しかもそれを売り払わないと決めたときにはなあ。気にせず売っちまえば、もちろん莫大な金が転がり込んでくるんだが、売らないのであれば鑑定料だけ請求されるわけよ。こちとら鑑定してくれなんて頼んではいないのによ」
だから彼は、アイテムの奥深さをおもしろいと思ったのと、その〈何かにつけて金をむしり取られる理不尽さ〉に対抗したいがために、鑑定について学ぶことにしたのだそうだ。今では鑑定士としての免許も保持しているため、アイテムを売り払う際には自作した鑑定書を添え免許証を提示して買い取ってもらっているのだとか。そのおかげで、アイテム売買にかかる経費は紙とペン、そして自身の魔力だけで済み、とても節約となっているという。
死神ちゃんはお裾分け頂いたお菓子とお茶を頂きながら、へえと相槌を打った。そして、きょとんとした顔で目を瞬かせ、首を傾げた。
「で、その鑑定って、どうやってやるんだよ?」
「資格取るくらい学んだからな、ある程度のものは魔法を使わなくても鑑定できるんだが。――見て、驚くんじゃねえぞ」
ニヤリと笑うと、鑑定士は薬瓶をひとつ手に取って呪文もなく鑑定の魔法を発動させた。すると薬瓶が白い光に包まれ、その光が瓶の中へと吸い込まれていったかと思うと、一拍置いた次には光がまるで煙のように筋を描いて立ち上った。そしてその宙空に漂う光の筋は文字の形を成し始め、文章を作り出した。
@@@@@@@@@@
〈 回復薬 〉
ちょっとだけ、からだ元気
よかったね
@@@@@@@@@@
思わず、死神ちゃんは顔をしかめた。そして抑揚のない低い声で「雑だな」と吐き捨てた。鑑定士は眉を吊り上げると、憮然として言った。
「俺の鑑定の腕が低いわけじゃあないからな。モノに込められている情報っていうか、作り手からのメッセージっていうか、そういうのがこう、すごく、大雑把なんだよ! 俺はそれをモノから引き出して文字にしてるだけなんだからな!」
死神ちゃんは頬を引きつらせると、嗚呼と相槌を打った。
死神ちゃんはこちらの世界に来てすぐのころ、天狐と初めて会った時に〈アイテム開発・管理〉の仕事風景を見学させてもらったことがあった。その際にアイテムへ取扱説明書みたいなものを魔法で込めているところも見させてもらったのだが、その〈取扱説明書〉の内容が凄まじく雑で緩かったのだ。それを見て「本当にこれで良いものなのか」と疑問に思ったのだが、担当者も天狐も「この情報はそうそう閲覧されるものではないから」と言っていた。――まさか、こういう形で閲覧されているとは。
死神ちゃんは苦い顔でいるのもお構いなしに、鑑定士と仲間達はアイテムの選別作業を開始した。その様子を、死神ちゃんはお茶をすすりながらぼんやりと眺めた。
鑑定士はまず独自にまとめた資料を元に、魔法なしでも鑑定のできるものの選別を行った。高値で買い取ってもらえるものを優先して持ち帰るためだ。その作業が終わると、魔法を使わねばしっかりとした鑑定ができないものについての検証が行われた。どうやら彼らにとって〈初めてお目にかかるもの〉が幾つかあるらしく、彼らは期待と興奮に満ちた眼差しで宙空に書き出される文字を見入っていた。
やはりどのアイテムも説明文が雑で、その雑さに笑いながら彼らは作業を行っていた。死神ちゃんだけは、苦い顔を浮かべていた。すると突然、鑑定士が素っ頓狂な声を上げた。彼は死神ちゃんも見慣れない包みを手に乗せて目を丸くしていた。どうしたのかと死神ちゃんが尋ねると、彼は大きく見開いた目を瞬かせた。
「いやあ、こんなの初めてだ! 驚いたよ!」
「だから、何だよ」
「まさか、ダンジョン内で食べ物がドロップするだなんて! しかもこれ、できたてのほやほやだぜ!?」
思わず、死神ちゃんはぽかんとした顔を浮かべた。それを見て、鑑定士は嬉しそうにニヤニヤと笑った。
「ダンジョンの罠たる死神がぽかんとするような代物かよ、すげえなこりゃあ! きっとすごいアイテムに違いないぜ!」
喜々として頬を上気させる鑑定士の横で、彼の仲間たちが眉を顰めた。
「でも、モンスターから食べ物って、何か嫌じゃない? しかもできたてって……」
「なんだか、気味悪いよな。毒とか入ってるんじゃないか?」
否定的な態度をとる仲間達をいなすと、「鑑定してみれば分かることだから」と言って早速魔法を使った。
ゆらゆらと光の筋が上っていくのを、冒険者達は期待と猜疑心に満ちた目で一心に見つめていた。死神ちゃんは、心なしか気が気ではなかった。――まさか、とうとうアレが実装されただなんて。先月まで、定期的に死神ちゃんたちを苦しめてきたアレが。一体、どんな説明文が飛び出すのだろう。そして、彼らの手にしているソレは、どっちなのだろう。
光が文字を成し始めて、鑑定士が「お」と声を上げた。久々にしっかりとした文言が並ぶのを、彼らは静かに目で追った。そして、彼らは思わず声をひっくり返した。
「〈まずくない、おもう〉ってなんだよ! 雑を通り越して片言とか! 逆に不安だわ!」
「〈消費期限、三十分以内。早めにお召し上がりください〉って、お弁当販売か何かか!」
彼らの眼前には今もなお光の文字が浮かんでいた。
@@@@@@@@@@
〈 プロテインおにぎり 〉
筋肉神様のお墨付き! 食べると強くなるミラクルフード!
攻撃力が強くなるか防御力が強くなるかは、食べてみてからのお楽しみ。
あじは、まずくない、おもう。
消費期限、三十分以内。早めにお召し上がりください。
@@@@@@@@@@
「ていうか、筋肉神って誰!? そんなわけ分かんないものにお墨付きをもらっても!」
「いや、俺、別にお墨付きなんてあげてな――」
「何、死神ちゃん、何か言った!?」
「いや、別になんでもないです……」
彼らはああでもないこうでもないと文句を言った。死神ちゃんは肩身が狭そうに小さく小さく背中を丸めた。
ひとしきり思いの丈を吐き出してすっきりとした彼らのうち、前衛職の二人が消費期限が近づいているからということでその未知の食品を恐る恐る口に運んだ。同じものを二つドロップしていたので、一人ひとつずつということだ。
ギュッと固く目を瞑っておにぎりを頬張った戦士は、一転して目を見開くと「意外と美味しい……」と呟いた。その横では君主が青い顔に脂汗を浮かせて、盛大に米粒を吹き散らかしていた。食べ終わった途端、彼らの体に変化が起きた。戦士は理想の筋肉ボディーを手に入れ、君主は脇が閉まらないほどの行き過ぎ筋肉ボディーを手に入れた。
仲間たちは彼らの姿を見るなり、腹を抱えてゲラゲラと笑った。君主は何か言いたげに怒り顔でムッとしていたが、「盾役を担うことが多いから、これはこれでありなのか」と言葉を濁していた。
後日、おにぎりの噂が冒険者間で広まり、特に君主職の間で行き過ぎ筋肉ボディーが流行った。また、筋肉神信奉者たちがこぞっておにぎり収集に明け暮れたという。
――――アイテムの説明文があまりにもアレなことに対して、死神ちゃんはテコ入れを提案しました。ですが、今のままのほうがおもしろいということで却下されてしまったそうDEATH。
**********
死神ちゃんは〈担当のパーティー〉求めて四階に降り立つと、アイテム掘りスポットへと急行した。そこにたむろする冒険者は少しでも長くアイテム堀りをしたいがために、危なげなことはせず丁寧に戦闘を行う。つまり、とても死にづらい。――諦めて帰るか、うっかり死んでくれたらいいなあ。そのように思いながら、死神ちゃんは現場へと向かった。
現場に到着し、冒険者たちを恐怖に陥れ、死神ちゃんはとり憑きを完了させた。冒険者たちはこれ以上の掘り作業を諦めて、一階へと帰ることを決めた。
死神ちゃんは自分の願望通りとなったことに、ホッと胸を撫で下ろした。しかし、帰り支度を整えたはずの彼らは三階へと続く階段に向かわずに、モンスターが比較的出現しない場所へと移動した。
移動先で休憩用キャンプを設営しながらごそごそと荷物整理を再び始めた冒険者たちの姿に、死神ちゃんは思わず眉根を寄せて首を傾げた。
「何だよ、休憩か? さっき、きっちりと身支度整えていたのに?」
「これから、手に入れたアイテムの選別作業をするんだよ。今、荷物がパンパンの状態だからね。帰り道にもしも戦闘することがあって、アイテムをゲットできても、今のままじゃあ持って帰れないから」
「そもそも、荷物がギチギチの状態なのに、掘り作業していたっていうのか?」
「うちには鑑定士がいるからね。その場でアイテムの鑑定ができるのさ」
「鑑定士?」
死神ちゃんが眉間のしわをさらに深めると、受け答えしてくれていた盗賊の横にいた男がしたり顔で小さく手を上げた。どうやら彼がその鑑定士らしい。
彼の冒険者としての職業は司教だそうだ。レベルの高い司教になるとアイテムが呪われているか否かを見極める魔法を覚えることができるのだそうなのだが、彼はその魔法を応用して〈どんなアイテムなのかを詳しく調べる〉ということもできるのだそうだ。
お宝発見というロマンを求めて冒険者になった彼は、長い冒険者生活の中で〈パッと見では普通なのに、実は呪われている品〉や、〈パッと見は粗悪品なのに、実は希少なお宝品〉というものに出会い、アイテムの奥深さを知った。そして、それをとてもおもしろいと思ったのだそうだ。
「要らないものを道具屋で売り払って金に替えるときに、レアとは知らずに売り払おうとして受け取り額を見て驚くってことがたまにあってな。しかも、さすがは〈ボッタクリ商店街〉、鑑定額は一律っていうわけでなくて、レア品にはかなりの額を要求してくるわけよ」
どうやら、品物を売る際に〈ただ買い取る〉というわけではなく、それがどのような品であるのかという詳細な鑑定を行ってから買い取りを行うらしい。その鑑定料というのが、これまたボッタクリ価格だそうで、せっかくアイテムを大量に売り払ってもその〈混じっていた、売るつもりのないレア品の鑑定料〉のせいで、差し引きがあまり美味しくなくなることがごくたまにあるそうなのだ。
「普段請求される鑑定料くらいなら、プラスのほうがデカいから実入りもよくて良い小遣い稼ぎになるし、それで生計だって立てられるんだがさ。ひとたびレア品が含まれてて、しかもそれを売り払わないと決めたときにはなあ。気にせず売っちまえば、もちろん莫大な金が転がり込んでくるんだが、売らないのであれば鑑定料だけ請求されるわけよ。こちとら鑑定してくれなんて頼んではいないのによ」
だから彼は、アイテムの奥深さをおもしろいと思ったのと、その〈何かにつけて金をむしり取られる理不尽さ〉に対抗したいがために、鑑定について学ぶことにしたのだそうだ。今では鑑定士としての免許も保持しているため、アイテムを売り払う際には自作した鑑定書を添え免許証を提示して買い取ってもらっているのだとか。そのおかげで、アイテム売買にかかる経費は紙とペン、そして自身の魔力だけで済み、とても節約となっているという。
死神ちゃんはお裾分け頂いたお菓子とお茶を頂きながら、へえと相槌を打った。そして、きょとんとした顔で目を瞬かせ、首を傾げた。
「で、その鑑定って、どうやってやるんだよ?」
「資格取るくらい学んだからな、ある程度のものは魔法を使わなくても鑑定できるんだが。――見て、驚くんじゃねえぞ」
ニヤリと笑うと、鑑定士は薬瓶をひとつ手に取って呪文もなく鑑定の魔法を発動させた。すると薬瓶が白い光に包まれ、その光が瓶の中へと吸い込まれていったかと思うと、一拍置いた次には光がまるで煙のように筋を描いて立ち上った。そしてその宙空に漂う光の筋は文字の形を成し始め、文章を作り出した。
@@@@@@@@@@
〈 回復薬 〉
ちょっとだけ、からだ元気
よかったね
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思わず、死神ちゃんは顔をしかめた。そして抑揚のない低い声で「雑だな」と吐き捨てた。鑑定士は眉を吊り上げると、憮然として言った。
「俺の鑑定の腕が低いわけじゃあないからな。モノに込められている情報っていうか、作り手からのメッセージっていうか、そういうのがこう、すごく、大雑把なんだよ! 俺はそれをモノから引き出して文字にしてるだけなんだからな!」
死神ちゃんは頬を引きつらせると、嗚呼と相槌を打った。
死神ちゃんはこちらの世界に来てすぐのころ、天狐と初めて会った時に〈アイテム開発・管理〉の仕事風景を見学させてもらったことがあった。その際にアイテムへ取扱説明書みたいなものを魔法で込めているところも見させてもらったのだが、その〈取扱説明書〉の内容が凄まじく雑で緩かったのだ。それを見て「本当にこれで良いものなのか」と疑問に思ったのだが、担当者も天狐も「この情報はそうそう閲覧されるものではないから」と言っていた。――まさか、こういう形で閲覧されているとは。
死神ちゃんは苦い顔でいるのもお構いなしに、鑑定士と仲間達はアイテムの選別作業を開始した。その様子を、死神ちゃんはお茶をすすりながらぼんやりと眺めた。
鑑定士はまず独自にまとめた資料を元に、魔法なしでも鑑定のできるものの選別を行った。高値で買い取ってもらえるものを優先して持ち帰るためだ。その作業が終わると、魔法を使わねばしっかりとした鑑定ができないものについての検証が行われた。どうやら彼らにとって〈初めてお目にかかるもの〉が幾つかあるらしく、彼らは期待と興奮に満ちた眼差しで宙空に書き出される文字を見入っていた。
やはりどのアイテムも説明文が雑で、その雑さに笑いながら彼らは作業を行っていた。死神ちゃんだけは、苦い顔を浮かべていた。すると突然、鑑定士が素っ頓狂な声を上げた。彼は死神ちゃんも見慣れない包みを手に乗せて目を丸くしていた。どうしたのかと死神ちゃんが尋ねると、彼は大きく見開いた目を瞬かせた。
「いやあ、こんなの初めてだ! 驚いたよ!」
「だから、何だよ」
「まさか、ダンジョン内で食べ物がドロップするだなんて! しかもこれ、できたてのほやほやだぜ!?」
思わず、死神ちゃんはぽかんとした顔を浮かべた。それを見て、鑑定士は嬉しそうにニヤニヤと笑った。
「ダンジョンの罠たる死神がぽかんとするような代物かよ、すげえなこりゃあ! きっとすごいアイテムに違いないぜ!」
喜々として頬を上気させる鑑定士の横で、彼の仲間たちが眉を顰めた。
「でも、モンスターから食べ物って、何か嫌じゃない? しかもできたてって……」
「なんだか、気味悪いよな。毒とか入ってるんじゃないか?」
否定的な態度をとる仲間達をいなすと、「鑑定してみれば分かることだから」と言って早速魔法を使った。
ゆらゆらと光の筋が上っていくのを、冒険者達は期待と猜疑心に満ちた目で一心に見つめていた。死神ちゃんは、心なしか気が気ではなかった。――まさか、とうとうアレが実装されただなんて。先月まで、定期的に死神ちゃんたちを苦しめてきたアレが。一体、どんな説明文が飛び出すのだろう。そして、彼らの手にしているソレは、どっちなのだろう。
光が文字を成し始めて、鑑定士が「お」と声を上げた。久々にしっかりとした文言が並ぶのを、彼らは静かに目で追った。そして、彼らは思わず声をひっくり返した。
「〈まずくない、おもう〉ってなんだよ! 雑を通り越して片言とか! 逆に不安だわ!」
「〈消費期限、三十分以内。早めにお召し上がりください〉って、お弁当販売か何かか!」
彼らの眼前には今もなお光の文字が浮かんでいた。
@@@@@@@@@@
〈 プロテインおにぎり 〉
筋肉神様のお墨付き! 食べると強くなるミラクルフード!
攻撃力が強くなるか防御力が強くなるかは、食べてみてからのお楽しみ。
あじは、まずくない、おもう。
消費期限、三十分以内。早めにお召し上がりください。
@@@@@@@@@@
「ていうか、筋肉神って誰!? そんなわけ分かんないものにお墨付きをもらっても!」
「いや、俺、別にお墨付きなんてあげてな――」
「何、死神ちゃん、何か言った!?」
「いや、別になんでもないです……」
彼らはああでもないこうでもないと文句を言った。死神ちゃんは肩身が狭そうに小さく小さく背中を丸めた。
ひとしきり思いの丈を吐き出してすっきりとした彼らのうち、前衛職の二人が消費期限が近づいているからということでその未知の食品を恐る恐る口に運んだ。同じものを二つドロップしていたので、一人ひとつずつということだ。
ギュッと固く目を瞑っておにぎりを頬張った戦士は、一転して目を見開くと「意外と美味しい……」と呟いた。その横では君主が青い顔に脂汗を浮かせて、盛大に米粒を吹き散らかしていた。食べ終わった途端、彼らの体に変化が起きた。戦士は理想の筋肉ボディーを手に入れ、君主は脇が閉まらないほどの行き過ぎ筋肉ボディーを手に入れた。
仲間たちは彼らの姿を見るなり、腹を抱えてゲラゲラと笑った。君主は何か言いたげに怒り顔でムッとしていたが、「盾役を担うことが多いから、これはこれでありなのか」と言葉を濁していた。
後日、おにぎりの噂が冒険者間で広まり、特に君主職の間で行き過ぎ筋肉ボディーが流行った。また、筋肉神信奉者たちがこぞっておにぎり収集に明け暮れたという。
――――アイテムの説明文があまりにもアレなことに対して、死神ちゃんはテコ入れを提案しました。ですが、今のままのほうがおもしろいということで却下されてしまったそうDEATH。
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