喫茶月影の幸せひと皿

小坂みかん

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第11話 ごく普通のかき氷

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【刻狼亭】別館の旅館内部にある『従業員休憩所』。

怒りに拳を震わせて喚いているのは年若い従業員達ばかりだった。

「貴族の奴等、引っ掻いてやりたい!」
「客だからって何でも許されると思うな!」
「俺はお前等の召使じゃねぇーんだっつーの」
「何がチップはずむから相手をしろなのよ!ふざけんなっていうのよ!」

金持ちの上客相手にやり返す事も出来ずにこうして、すごすごと休憩所で愚痴の言い合いをしてストレスを発散させる従業員に交じり、若女将の朱里も交じって休憩所の座布団の上でぺたーんと伸びている。

「若女将、大丈夫ですか?」

「・・・大丈夫、じゃないです!貴族の態度の悪さなんなのー!」

朱里が座布団を握りしめながら足をバタバタさせて喚いて、従業員が朱里に同情の目を向ける。

「あー、若女将も被害に遭いましたか」
「あの貴族連中早く帰ってほしいですよねー」
「若に媚売りに来てるのはいいけど、私等に横暴な態度を取れば若にも連絡入るのにバカじゃないのって思いますよね」
「他国の重鎮だか何だか知らないけど、うちを他の旅館と同じにみるなっつーの!」

ワッと同じ思いの従業員が喚いては愚痴を募らせる。
ベテランの古株従業員達は仕方がない奴等だと生暖かい視線を送るも、分からなくは無いと頷きもする。


「若女将はどんな目にあったんです?」

「貴族の子供達に、廊下とかで道塞がれたり、わざとぶつかられたりしてるの!スカートはめくられるし、三角巾は取られたりするし、とにかく嫌がらせが酷いの!」

朱里が顔を上げて従業員に話すと、従業員が同情の目を向ける。

小さい体の朱里は貴族の子供の恰好のオモチャなのだ。
一応、従業員の様な立場でうろちょろしている朱里がお客の子供相手に大きな態度をとるわけにもいかず、絡まれたら逃げたり隠れたりで、余計に子供達をヒートアップさせている。

ルーファスに相手にしなくても良いと言われたが、調理場から出ると廊下などで捕まったり、旅館の自分の部屋に戻ると部屋の前で待ち構えられたりしている。

貴族の子供達に目をつけられてからは【刻狼亭】の印字されていない三角巾したりしていても、追い回されてハガネや、何故か朱里を追い回していたはずのイルマール達に助けられたりしている。

「若女将、子供に目をつけられやすいですからね・・・」

「ううっ・・・子供は好きだけど、あの子達は嫌い」

旅館で暇を持て余している子供ほど性質の悪い物は無いのではないかと言うぐらいには朱里の中で貴族の子供は最悪なモノになっている。

ルーファスの叔父ギルよりも性質が悪いのでは?とすら思っている。
ギルは現在【刻狼亭】の料亭の方で癖のある上客相手にルーファスとやりこめている最中らしく、アルビーが「とても静かな屋敷我が家になってるよ」と言っている。


「今日は若女将はジュース作り終わったんですか?」

「終わりましたー。廊下の子供が居なくなったら帰ります」

朱里が貴族の子供に追い回されるようになって体力的にフラフラと危ない足取りの朱里に周りからストップがかかり、今現在は1日限定100本『復興祈願ジュース』として売り出して毎日売り切っている。
よって朱里の働く時間はとても短い。



「アカリ、そろそろ大丈夫そうだぞ」

ハガネが廊下を見回し、朱里が従業員に「お疲れ様です。お先に失礼します」と丁寧にお辞儀をしてからソロソロと廊下に出ていく。

「貴族のガキ共に見つからない様に部屋から出ないようにな?」

「今日は部屋に戻って編み物の続きでもするよ」

「まだやってたのか?」

「ハガネが色々編み方教えてくれたからバリエーション増えて楽しいよ」

何気に朱里の髪の結い紐を結ったり、小手先器用な事が得意なハガネは編み物も色々知っていて、ネルフィームに貰った毛糸で朱里に色々な編み方を教えてくれた。

「まぁアカリが楽しいなら良いけどな。俺は飽き性だから1時間で止めちまうな」

「編み方いっぱい覚えてるのにね」

「俺の前の主君が何も出来ない分、色々覚えたからな。アイツは本当に何やらせても酷かった」

「ハガネの前の主君はどんな人だったの?」

ハガネが片眼を開けて朱里を見ながらフッと笑うと、「じゃあ、茶菓子でも出してくれよ」そう言って朱里の借りている客室を開けて入っていく。

朱里が編み物の準備をし、茶菓子をテーブルに置いて座椅子に腰掛けると、ハガネが朱里にお茶を出して朱里の向かい側の座椅子に腰を掛ける。


「俺の初めての主君は、自信家で堂々として、不器用な変な女だった」
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